「──よし!」
したりと笑顔を浮かべていたアナキンが端末を叩くと、数百万もの識別番号を覆っていた赤い表示が、端から次々と消えていく。
「起爆コードの書き換え完了! もう誰にも爆発させられない! マスターに伝える!」
「本当にやりやがった……」
ヴァンの呟きを聞きながら、アナキンは目を閉じた。フォースを通じて、遠くにいる師へ短く告げる。
──終わりました、マスター。
すぐに、温かな返事が返ってきた。
──よくやった、アナキン。ではみんなの無事を確保する。アナキンは、エージェントたちと、アルトたちと協力して手筈通りに皆を誘導しなさい。
次の瞬間、施設全体に警報が鳴り響いた。
『全警備部隊はCEOのもとへ! ジェダイに襲われたぁ!? ジェダイがCEOを襲いやがったぁ!!!???』
「「「…………」」」
あまりの想定外の状況に、三人が映像を確認すると、つい先ほどまでヴァレックと穏やかに話していたはずのクワイ=ガンは、室内にいた護衛を全員気絶させ、起動したライトセーバーを片手にヴァレックの肩へ手を置いていた──つまりは人質にしていた。
「流石はマスター!」
迅速かつ的確に行動した師の偉大さに感動するアナキンが歓声を上げた。
「そこ、感動するところなの!? あなたたちジェダイでしょう!? ジェダイが企業の最高責任者を人質に取るなんて、ありえないでしょうがぁ!!??」
「でも、これなら警備は全員マスターの方に集中するよ。その間に僕たちとアルトさんたちは、輸送船へみんなを乗せられる。船も物資庫もロックは外したし逃げられる」
「…………合理的ね」
「ああ。恐ろしいほど合理的だな、ジェダイ」
爆弾を解除しただけでは終わらない。六百万人を自由にしても、この要塞に置き去りにすれば企業と癒着した治安部隊に再び捕らえられるだけだ。かといって共和国へ救援を求めても、六百万人を即座に移送できる船も、その間を生き延びる物資も、守る戦力もすぐには来ない。
──「だから、企業が持っている船と物資と戦闘機を奪い、そのまま全員で逃げる」──
それが、この状況で唯一と言っていい現実的な方法だった。そして、それを提示したのが、よりにもよってジェダイ・マスター、クワイ=ガン・ジンだった時にはエージェントも奴隷代表も目が点となった。
企業の船を奪い、必要な物資を持ち出し、戦闘機まで護衛につけて六百万人を脱出させる。計画を聞いた時、セラとヴァンが疑ったのは成功するかどうかではなかった。
本当にジェダイが、そんな合理的で真っ黒な方法を実行するのか、という一点だった。
『ジェダイだ! ジェダイが! 人質に取りやがった! CEOを人質に取りやがった!』『狙撃部隊はまだか!』『くそ! ブラスターを弾かれた!』『撃つな! CEOにあたる!』
警備の通信を盗聴する現在、その疑いは完全に消えていた。あのジェダイ・マスターは現実的な方法を実現するために、CEOを人質にとって囮となってくれたのだ! ──二人の中で、ジェダイという存在について何かがまた一つ良い方に崩れた。
「行こう! マスターが指示したように今のうちにみんなを逃がすんだ!」
ライトセーバーを手に駆け出したアナキンを先頭に、共和国のエージェントたちが収容区画へ到着すると、既に異変を感じ取った奴隷たちと、彼らの中へ潜り込んでいたエージェントたちが動き始めていた。
「子供と負傷者を中央へ! 動ける者は周囲を守れ! ジェダイたちがやってくれたかもしれない!」
彼らをまとめていたのは、アルト・ストラタスというジャビーム人だった。
奴隷となる以前は、ジャビーム軍特殊部隊ブロンズ・ニンバスの指揮官を務めていた男である。鉱石を狙う海賊や奴隷商人との戦いを幾度となく経験し、故郷を襲ったリシアン海賊によって両親を失い、共和国へ救援を求めても顧みられなかった過去を持つ。
その後、自身までもが奴隷商人に捕らえられたが、長い奴隷生活の中でも種族を問わず仲間を守り続け、いつしか数百万人の事実上の代表となっていた。今回、アナキンが最初に助け出した人物でもある。
「アルトさん! 爆弾は全部止めました! マスターが警備員を引きつけてます! もう手筈通りに逃げても大丈夫です!」
その言葉を聞いたアルトは一瞬だけ立ち尽くし、確かめるように自分の胸へ手を当てた。ああ、そうだ。何度も訴えた挙句に奴隷にされ諦め憎みかけていたが、共和国はジェダイは俺たちを見捨てたりなんてしなかった。
「……そうか」
それだけ呟いて大きく頷き、目元を拭う。だが感傷に浸っている時間はなかった。すぐに仲間たちへ向き直ると、軍人だった頃と変わらぬ声を張り上げる。
「聞いたな! 船を扱える者は港へ! 負傷者と子供を優先しろ! 動ける者は武器庫、食料庫、医療区画へ向かえ!」
アルトの号令に応じ、数百万人の奴隷たちが一斉に動き始めた。長い年月をかけて密かに作り上げてきた連絡網と、事前に決めていた脱出計画に従い、それぞれが自分の役割へ散っていく。
それを確認したセラも、すぐにヴァンへ声を飛ばした。
「武器庫は私たちが行くわ。ヴァン!」
「ああ! 食料と医薬品も押さえる! どうせ逃げるなら根こそぎ持っていくぞ!」
「必要な分だけよ! 必要な分だけ! 私たちは法務官なのよ! 緊急避難時の法を無視するんじゃないわよぉ!」
「なるほど。では法務官殿、六百万人分の『必要な分』とは、具体的にどのくらいで? 計算して仕分けして載せる時間はあるのでしょうかね」
「…………(ガンギマった目で)今それをする時間はないわ。非常事態よ。食料、水、医薬品、燃料は可能な限り確保する。ただし金品とスパイス、それから明らかな違法品には絶対に手を出させないで。そこまで持っていかれたら、さすがに私でも庇えなくなる」
「ああ、勿論当然だ──いいな! そうしてくれないとみんなが困るんだ」
「分かった。そこは必ず守る。安心してくれ、法務官」
法と現実の狭間でどうにか折り合いをつけた二人が了承したアルトたちと別れて走り出す中、アナキンも予定通り格納庫へ向かった。輸送船を逃がすだけでは足りない。追撃に使われる戦闘機を可能な限りこちらで確保し、発進前に港湾砲台を潰しておかなければ、六百万人を乗せた輸送船など格好の的になる。
「僕は港へ行くよ。戦闘機は全部こっちで使えるようにして、輸送船が出る前に砲台も潰しておく。撃たれてからじゃ遅いし、みんなを無事に逃がすための護衛ならジェダイとしても問題ないからね」
あまりにも自然に先制攻撃を護衛へ分類したパダワンに、ヴァンとセラは一瞬だけ顔を見合わせたものの、反対する理由はなかった。
師弟にそまったともいう。
「今さらそこを気にして六百万人を危険に晒す方が問題だ。好きにやれ。ただし、撃つなら砲台だけにしておけよ」
「ええ、それなら私も異論はないわ。避難船団への明白な脅威を事前に排除した──後で聞かれたら、そう説明するから」
二人から同意を得たアナキンは頷き、そのまま格納庫へ駆けていった。
格納庫へ辿り着いたアナキンの前に広がっていたのは、予想していた以上の光景だった。
広大な格納庫には、スターファイターが何十機も並んでいる。共和国圏で一般に流通している機体や見たこともない機体たちが、驚くべきことにそれらのほとんどが製造されたばかりとしか思えない新品同然の機体だった。
「うわ……いっぱいある!」
思わず声が弾んだ。船好き、機械好きの十三歳としては、これだけのスターファイターを前にして目を輝かせるなという方が無理だった。
もっとも、見惚れている暇はない。アナキンは端末へ飛びつくと、格納庫の管理システムへ接続して使用可能な機体を片っ端から確認していった。
「登録番号なし……これもなし。こっちも製造番号しかない。なんで工場から出たばっかりの機体がこんなにあるんだろ」
疑問を口にしながらも手は止めない。正式な所有者すら登録されていないのなら、少なくともカラザクが正当に所有している機体ではない。いや、現時点では誰の物でもない。
ならば避難船団の護衛に使うことに、アナキンとしては何の問題もなかった。ジェダイオーダーの者達が頭を抱えるほどに合理的だった。
「これなら全部使えるな。操縦できる人を集めてもらわないと、さて、僕はどれに乗ろうか」
いそいそと格納庫を見渡しながら、アナキンはその中の一機に目を留めた。アストロメク・ドロイドを搭載できる機体で、整備状態も悪くない。
「これがいいかな」
乗り込もうとして、傍に待機していたアストロメク・ドロイドを見る。
「……いや、駄目か。君じゃ僕について来られないもんな」
こんな時にR2-D2がいてくれれば話は早かった。多少無茶な飛び方をしても喜んで最後までついてきてくれたし、機体に何かあれば勝手に直してくれるし、ナビゲートも完璧だった。四年前のナブーの一戦でしかコンビを組んでいないが、その経験はアナキンを虜にさせるものだった。
宇宙を自分の手足のように飛び回れたあの感覚は忘れがたい。
「R2、今頃どうしてるかな」
パドメやジャー・ジャーとの連絡で元気にしていることは知っているが、やはり寂しい。別れた親友を思う声で少しだけ残念そうに呟き、アナキンはアストロメク搭載機を諦めた。代わりに一人で扱いやすい機体を見つけると、キャノピーを開いて操縦席へ滑り込む。
電源を入れ、エンジンを始動。火器管制を立ち上げながら、港湾砲台の位置を戦術画面へ表示させる。
「よし。フォースの感じだと砲台は全部無人だ。マスターが警備を引き付けてくれてるうちに潰そう。撃たれてから反撃するより、撃たれる前に壊した方がみんな安全だ。正式な護衛だから問題なし。評議会も何時も通り理解してくれる」
極めてジェダイらしい理由をつけながら、アナキンは極めてジェダイらしからぬ先制攻撃の準備を整えた。
少なくとも本人は、何一つ矛盾しているとは思っていなかった。今までクワイ=ガンと共にした任務でそうだったのだから、全く問題なかった。『理解』はしてくれる評議会は『納得』はあまりしていない事など問題になるはずなかった。