十八隻の大型輸送船。その周囲に並ぶ四十八機のスターファイター。そして、そこへ次々と乗り込んでいく数百万人の解放奴隷たち。共和国エージェントに連行されていくヴァレック。
それを横目で見ながらアナキンは疑問に思ったことをクワイ=ガンに聞くために戦闘機から降りて近づいた。
「マスター? どうして船のことは評議会に言わなかったんですか?」
「ふむ、アナキン、もし今伝えれば、どうなると思う?」
「えっと……」
師の何時も通りの自分で考えさせる教えに、アナキンは真剣かつ少し考えた。
「共和国が調べに来ると思います」
「それだけか?」
「そうですね。まず船舶は証拠品として保全されると思います。これらはそもそも登録されていないものである以上、司法手続きが終わるまで自由には使えないし、そもそも皆の物になると決まったわけじゃ──あっ、なら皆が」
「よく気付いたなパダワンよ。そうだ。彼らの先行きが暗くなる。共和国から最低限の保護は受けられるだろうが6百万人だ。十分な住居、食料、仕事、護衛をすぐ用意できるとは思えない。いや、そもそもアウター・リムへの補償は薄いのだ常に、な」
タトゥーインの奴隷だったアナキンの表情が曇った。タトゥイーンの時は、そこまで奴隷が居なかったし、義父と再婚した母さんのように生活基盤がある人ばかりだったり、オビ=ワンが上手く交渉してくれたから共和国の薄い支援でもやっていけたが、この人達では無理だ。
自由になった。それで終わりだと思っていた。だが、違う。これからが本番なのだ。
「船を取り上げられたら、ここから逃げた後も何もできないんですか?」
「そうなる可能性が高い」
「食べ物もなくなりますか?」
「今持ち出した分が尽きればな」
「仕事もないですよね?」
「彼らは故郷も財産も失っている。故郷そのものが今も企業や武装勢力に荒らされ、帰る場所すらない者たちだ」
アナキンは、船へ向かって歩いていく人々を見た。子供を抱いた母親。負傷者を支える男。何年ぶりかに操縦席へ戻れると笑っている元船乗り。彼らは自由になった。けれど、自由だけでは腹は膨れない。それを見たアナキンはごく自然と口が動いた。
「……じゃあ、助けないと」
「ああ」
弟子の優しさに目を細めながらクワイ=ガンは穏やかに頷いた。
「最後までな」
その一言に、アナキンは顔を上げた。マスターが評議会に船のことなどを言わなかった意味が分かったのだ。
「この船があれば運輸の仕事ができます」
「できるだろう」
「スターファイターがあれば海賊から船を守れる」
「ああ、そうだ」
「アルトさんたちは船を動かせるし、奴隷の中には整備士もいる。荷物を運ぶ仕事を取れれば、自分たちで食べていけるようになる」
「その通りだ」
アナキンの顔がパッと明るくなった。
「じゃあ、何処かの星で会社を作ればいいんだ! それでアウター・リムでちゃんと荷物を運べる実績を作ればいい! 今だって輸送船が足りなくて困ってるんだから、役に立ってる会社を共和国だって簡単には止められない!」
自分と同じ考えだが、そこに自力で辿り着いた弟子の成長にクワイ=ガンが微笑んだ。
アウター・リムでは、昔も今も、安全な航路も、それを定期的に行き来する輸送船も足りていない。 十八隻もの大型輸送船を運用し、海賊から自衛できるだけの護衛戦力を持つ運輸組織が成立すれば、それは彼ら自身を養うだけではない。共和国が長年埋められずにいる物流の穴を一つ塞ぐことになる。
そこまで実績を積めば、共和国が六百万人から仕事と船を取り上げる理由は、限りなく少なくなる。いや、無くなる──ジェダイ・マスターが後見人になれば確実に。
「すばらしい考えだ、アナキン」
「それなら違法品の船も無駄にならないし、みんな仕事ができる! 自分たちで稼いで生きていけるようになれば、彼らは本当の意味で自由になる! 家だって手に入る! だから、今すぐ評議会に全部話しては駄目なんだ! 評議会は共和国政府にも知らせなきゃいけないから! その前にみんなが自分たちで生きていけるようにしないと!」
「その通りだ」
「よし! わかりました! 僕! みんなと話してきます!」
すっかりその気になって駆けだしたアナキンを見て、クワイ=ガンは満足そうに頷いた。
奴隷を解放するだけなら、ここまでで終わりだった。だが自由とは、鎖を外すことだけではない。明日も食べられること。自分の仕事を選べること。得た賃金を自分のために使えること。誰かの機嫌一つで命を奪われず、自分の人生を自分で決められること。そこまで辿り着いて初めて、彼らは本当に自由になれるのだ。
アナキンは今回のこの件で本当の意味で自由とは何かを知り、また一つ成長するだろう。いや、既に成長している。彼は今回新たな友を得て、新たに他者を救う術を知っていくのだ。
(老いたこの身が何時まで導けるか分からないが、選ばれし者である彼を可能な限り導こう。フォースの導きに従い人々を助けながら。それが私の最後の仕事だ)
それに比べれば、船舶や物資について評議会への詳細な報告が多少遅れコルサントへの帰還がおそらくは一ヶ月ほど遅れることなど、些細な問題だった。
そんな風に弟子の成長に満足しているクワイ=ガンの横を、幾つもの荷物を抱えた作業ドロイドが通り過ぎていった。
「……これは?」
見覚えのない高級そうなケースが次々と輸送船へ積み込まれていく。
「私の私物だ」
連行されていたはずの、ヴァレックが当然のような顔で答えた。
「私名義の預金証書、個人所有の美術品、宝飾品、それから着替えだ。安心しろ。会社の資産には一切手を付けていない。全部、正真正銘、私個人の財産だ」
「……随分と用意が早いですね」
「当たり前だ! もう二度とここへ戻るつもりはない!」
先ほどまで会社の財産を一つでも多く守ろうとしていた男とは思えない切り替えの早さだった。
だが考えてみれば当然でもある。元老院議員や共和国高官との裏取引を施設中へ知られ、共和国司法省への全面協力まで約束した以上、ヴァレックにとってカラザクとその上層部は既に勤め先ではない。
自分を消そうとするかもしれない犯罪組織である。
「それと、あの輸送船の一室を私に寄越せ。鍵の掛かる部屋だ。できれば窓のないところがいい」
「構いませんが」
「護衛も付けろ。司法省の人間をな。奴隷──いや、解放された連中は絶対に近づけるな! 絶対にだ!」
「ふむ、随分と慎重ですな」
「誰のせいだと思っている!」
怒鳴ってから、ヴァレックは港を見回した。十八隻の大型輸送船。大量の物資。そして、スターファイターの群れ。つい先ほどまで自社の財産であり命よりも大切なものだった──だって何かあると殺されるから──。過去形のモノ達。
「……それから、燃料庫の第三ブロックにいけ、あそこはデータでは空だが本当は燃料がある」
「いいんですか?」
ヴァンとアルトと共に話しながら戻ってきたアナキンが目を丸くすると、ヴァレックは忌々しそうに鼻を鳴らした。
「ここへ残して誰が使うと思っている。お前たちを追撃する連中だぞ。予備部品も第二倉庫にある。戦闘機を持っていくなら一緒に積め。あと長距離航行用のハイパードライブ部品は第五倉庫だ。データでは空だが、実際にはあるのだ」
「ヴァレック殿」
クワイ=ガンが感心してヴァレックを見た。
「随分と協力的になられましたね」
「黙れ! 私は共和国の一員として、共和国の捜査に全面協力すると約束したんだ!」
そこで一度言葉を切り、ヴァレックは積み込まれていく自分の財産を確認しながら呻いた。
「──それに、私を殺そうとするやもしれん連中へ、わざわざ船も戦闘機も燃料も残してやるほど私は善人ではないっ」
なるほど、とクワイ=ガンは頷いた。どうやら自分たちは、思っていた以上に頼もしい協力者を得たらしい。
これもフォースの導きだろう。
数カ月後、共和国側の記録には、この脱出はこう記されることになる。
──多数の被害者の緊急避難に伴う、船舶及び物資の一時的保全。と
一方、当時すでにドゥークー伯爵が水面下で築きつつあった勢力(※後の分離主義勢力)へ協力していたツェルカ社が元老院へ提出し訴えた記録では、もっと露骨だった。
──ジェダイによる現地法人への武力侵入、CEOの拉致及び脅迫、従業員の扇動、船舶・戦闘機・物資の大規模略奪。と