「待ってください」
最高評議会室にて、信じがたいものを見る顔で思わず説明を遮ったのは、デパ・ビラバだった。
「少し待ってください、マスター・クワイ=ガン」
「はい」
「確認したいことがあります。あなたはあの時、ヴァレック氏から複数の元老院議員との不正取引を聞き出し、その情報だけを評議会へ送った。間違いありませんね?」
「間違いありません。至急対処すべき情報でしたので」
「そして私たちは、その情報を受けて直ちに調査を開始しました。マスター・ウィンドゥを先頭に」
デパが助けを求めるように師であるメイスを見るが。何か重いものを背負い込んだような眼差しで微動だにしないメイス・ウィンドゥの威圧ある姿を見て、すぐに視線をクワイ=ガンへ戻した……ジェダイは恐れてはいけないと念じながら。
「その結果、七人もの議員が逮捕された。捜査対象は今なお増えています。ですから、あの時点で何としてもヴァレック氏本人を確保しておく必要があると判断したことは……まあ、理解できます」
「ありがとうございます」
「褒めてはいません」
即座に返したデパは、こめかみを押さえた。
「問題は、その方法です」
ヨーダを除いた評議員たちの視線が、「そう、それだ」と言わんばかりに一斉にクワイ=ガンへ向く。
「あなたはヴァレック氏を連れて脱出した」
「はい。事情聴取と安全確保のためです」
「本人は拒否していた。それでも強制的に連れ出した」
「はい。元老院議員との黒い繋がりを漏らしたことで、混乱していたのでしょうから」
「ライトセーバーを抜いたあなたの傍から離れることも認めなかった」
「繋がりのあった元老院議員の手の者が施設内にいた可能性もあります。危険でしたので」
「ですが、彼がライトセーバーを抜いたあなたの傍にいたため、警備部隊は発砲できなかったのでしょう? 結局、そのような手の者もいなかった」
「結果としてです。可能性を排除するには、彼はあまりにも重要な参考人でした」
一度視線をそらして、司法省からきた大量の感謝状と『法的に問題無し』との太鼓判を押された公文書を見つめながら、デパはしばらく黙った。そして、何とかクワイ=ガンに目を戻して縋るように言った。認めてくれと縋るように。
「それを、人質と言うのではありませんか?」
「人質にはしていません」
あまりにも迷いのない返答だった。揺るがぬ声だった。クワイ=ガン・ジンだった。
デパより遥かに長く銀河を巡り、数え切れないほどの修羅場を潜り抜けてきたジェダイ・マスターが、まるで自明の理を説くように断言したのである。
はっきり言って、見識・経験・人望その他諸々において師のメイス・ウィンドゥと同等、「私相手に敬語を使わないでください」と言いたくなるほどに自身が及びもしないジェダイに断言されデパは気圧された。
(もしかして、私の認識の方が間違っているのだろうか)
そんな考えが一瞬だけ脳裏をよぎった。
これまで一度として受け取ったことのなかった、名も知らぬ子供からの『ありがとう、ジェダイ』という手紙。共和国政府も司法省も、各省庁も、救われた人々も、クワイ=ガンたちを責めるどころか熱狂的に感謝している。その現実を前にすると、自分が正しいと信じてきたものの方を疑わずにはいられなかった。
もはや、デパの声は年長の経験豊富なマスターに教えを乞うものに変わっていた。
「……では、何なのです?」
「重要参考人の保護です」
「本人が『撃つんじゃない! 私に当たる! ジェダイに逆らうな! 私を離してくれ!』と要塞中へ叫んでいたのですよ! 記録にも残っています! 司法省が『当時の状況に鑑みれば緊急避難に該当する』と、あなた方が違法行為をしていないとするために我々に提出してきた記録に、悲鳴が入っているのです!」
「ヴァレック氏は極度に混乱していたのです。あの状況では悲鳴を上げても無理はありません」
「だから、そもそも、それが、人質として機能していると言っているのです!」
混乱するデパを見るクワイ=ガンは直ぐには声を返さなかった。直ぐに返してしまえば、さらにデパを混乱させてしまうと分かったから。彼女はまだ若い。これまで正しいと教えられてきたものと、目の前で起きた現実が噛み合わず、何を正しいとすべきなのか迷っているのだ。
だから、クワイ=ガンは彼女を落ち着かせることにした。
クワイ=ガンは、ジェダイの教えや評議会を否定したいわけではない。自分の考えを他者へ押しつけるつもりもなかった。彼は、ただ目の前の現実を見て、リビングフォースに耳を傾けて人々を手助けして繋がる中で、自分が正しいと信じた道を選んできただけである。
──その生き様こそが本来のジェダイの姿であることを、千年にも及ぶ平和と教条主義の中で、クワイ=ガン自身を含めたジェダイが何時しか知らなくなってしまったことが、今の混乱を招いているのは皮肉だろう──
クワイ=ガンは、弟子を導く時と同じように穏やかに言葉を続けた。デパを落ち着かせ、フォースの中に答えを求める時間を与えるために。弟子たちにはしない、出来る限りショックを与えない言葉を選んで。
「結果的に、そのような副次的効果があったことは否定しません」
「副次的効果……」
悲しいことに、クワイ=ガンがショックを与えないよう遠回しに選んだその言葉ですら、弟子たちのように世間擦れしたジェダイではない、ごく一般的なジェダイであるデパには耐えきれなかった。
デパが呆然と呟いて、崩れるように背もたれに身を預け大混乱に陥った。
「私たちはジェダイですよ。人質が……副次的効果……人質は卑劣で、間違っていて……それなのに、どうして誰もが……いまやヴァレック氏ですら、保護だったと……なによりも、敵味方、誰も一発も撃たず、怪我人すら出さずに……ジェダイ・マスターが企業の後見人になって……ジェダイは中立でなければならないはずなのに……でも、皆が喜んでいる……」
共和国政府も、司法省も、各省庁も、現地政府も、救われた人々も、そしてホロネットを通じて事件を知った人々も、『ジェダイとして問題がある』とジェダイからは見えるクワイ=ガンたちの行動こそが『ジェダイとはそうあるべき』と感謝している現実に彼女は耐えられなかった。
その中には、デパなら決して選ばない『人質という卑劣な手段』まで含まれているのに!
しかも、当のヴァレックさえ、今では共和国司法省及びクワイ=ガンの保護下に置かれたことを認めて、自ら捜査への全面協力を申し出ている。
その上で、結果的には六百万人の奴隷は勿論のこと、企業にすら怪我人も出していない。
何が正しかったのか。
何が間違っていたのか。
そして、ジェダイは本当に今のままでよいのか。
その答えが分からなくなったからこそ、デパは混乱していた。何よりも恐ろしいのは、クワイ=ガンのやり方を「間違っている」と断言できなくなりつつある自分自身だった。
こうなってしまえば、デパに出来るのは一つだけだった。
「……マスター・ヨーダ」
縋るように呼ばれ、ヨーダはゆっくりと目を開いた。
「ジェダイが人質を取ること、正しいとは言わぬ」
グランドマスターの発言に、デパが僅かに安堵する。
「されど、考えるべきことはある」
「……何を、ですか?」
「何故、ここまでせねば彼らを救えなかったのか。何故、共和国の者たちは責めるどころか感謝したのか。そして何故、我らにもっと柔軟にと言うのか」
その言葉に、この場の本当の中核を突き付けられた評議会室が静まり返った。
ジェダイが何より重く受け止めていたのは、クワイ=ガンたちが支持されたことではない。人々があれほどまでに熱狂したことだった。
ジェダイの規律違反ギリギリで──かなりオーバーしてると殆どのジェダイが考えているが、とりあえずは目を逸らしている──クワイ=ガンたちが行ったことこそ、人々がジェダイに求めていたものではないのか? その疑問を突きつけられたのだ。
「千年あれば、共和国も、人々も変わる。ジェダイだけが変わっておらぬ。変わらぬこと、それ自体が正しいとは限らぬ」
「では、私たちも変わるべきだと?」
「それを考えるために、今こうして聞いておる──これは査問会では無いのだからな。そして、クワイ=ガンよ」
ヨーダはクワイ=ガンを穏やかに見据え、諭すように言葉を出した。
「お主の行い、すべて正しいとは思わぬ。危ういことが多すぎるわ」
「同感です」
静かに頷くクワイ=ガンが言葉を返すよりも早く、弟子のデパと同じく揺れている、というより既に評議会に黙って動いているメイスが救われたように即座に口を挟んだ。
その姿を見て、ヨーダはほんの僅かに寂しさを覚えた。
今回の件で知り合った共和国実務層と独断で情報交換を始めていることではなく、メイスほどのジェダイでさえこうして老体である自分の言葉を必要としていることに。
自分とてすべての答えを知っているわけではないのに。ただ、彼らより少し長く生き、少し多くの失敗を見てきただけなのに。何時も皆、自分の言葉に重きを置きすぎる。
だが、それを嘆いている場合でもない。その経験を使うしかないのだ。次なる世代と、これからのジェダイのために。
だから、とりあえずヨーダはシレッとこの場の議題そのものをクワイ=ガンたちの行動の是非査問から、これからのジェダイの在り方へと完全にすり替えていた──ヴァレックたちが見たら「やっぱりジェダイは悪党じゃないか! トップからしてこれだぞ!」と咆哮するド畜生さで。
「じゃが、一つの道ではある──続けてくれ。ヴァレックを保護し、十八隻の大型輸送船と四十八機のスターファイターその他大量の物資を一時的に保全したお主たちは、その後、解放した数百万人の生活基盤を作るために、資金などが必要じゃったな」
「はい、その通りですマスター・ヨーダ」
「ふむ、それは理解できる。だからこそ…………なぜ、ここから、十三歳のパダワンを偽名で非合法賭けレースに出場させるなどの話になったのか。ヴァレックの件で応援が必要だと判断した我らが送ったオビ=ワンと合流してどうしたのかを、しっかりと話してくれ」
そしてヨーダは、さらにシレッと『保護』と『一時的保全』という、今回の件の関係各所が主張するのと同じ言葉を選んだ。
ヴァレックは人質ではない。重要参考人として保護した。
十八隻の大型輸送船と四十八機のスターファイター、その他大量の物資も略取したのではない。六百万人の緊急避難と、その後の生活基盤を確保するため一時的に保全した物である。
つまり、今現在となっては、関係各所が「アウター・リムにようやくマトモな流通が出来ようとしてるんだ! ジェダイ・マスターが後見人となった企業は一切! 何一つも! 問題を起こしていない! 全て合法的行為である! (意訳)」と主張している通りに、元奴隷が設立した企業の所有物である──そう認めてのけたのである。
それを聞いた評議員たちは、最長老の公認に安堵して頷いて賛同した。
確かに、クワイ=ガンたちの手段は危うい手段だったし、ジェダイとして素直に肯定してよい手段ではなかった。加えて評議会への詳細な報告が遅れたことについても、問題ではある。
だが、だからといって報告を優先して六百万人の救出を止め、船を手放させ、その後の生活まで危険に晒すべきだったと考える者も、この場には一人としていなかった。
だから評議員たちは、ヨーダが示した落とし所に安堵して賛同したのだ。
その様子を見て、アナキンも安心した。やっぱり評議会は頭が固いけれど、人を助けたことはちゃんと認めてくれるし、トップのマスター・ヨーダは公正な賢者だ、と。そんな人たちの一員であることを、アナキンは誇らしく思った。
……十三歳のパダワンに見透かされている通り、平等や対等を掲げていても結局のところジェダイのトップはヨーダなのである。
そして、まだ口にはしないが、ダークサイドが強まりつつある昨今、ヨーダ自身はジェダイが変わる必要性を感じ始めていた。
そんなジェダイの最長老によって、奴隷解放に始まり、六百万人を脱出させ、その生活基盤を守るところまでは、ジェダイにおいても認められた。
もちろん、すべての手段が正しかったと認められたわけではない。ヨーダ自身が言った通り、危ういことはあまりにも多い。
だが少なくとも、それらを理由にクワイ=ガンたちを裁くことはなくなり、六百万人の生活を支えるため、クワイ=ガンがその企業の後見人となったことも認められた。
その裁定に、メイス・ウィンドゥやプロ・クーンたち数人の評議員は安堵の息を吐いた。 アウター・リムにおける流通の崩壊こそが、地域の貧富の格差を広げ、治安を悪化させ、さらなる貧困と無法を生み出している現実を理解していたからだ。
もしヨーダが認めなければ、この一件だけは評議員の地位を賭してでも訴えるつもりだったのである。
──ただし。認められたのは、あくまでそこまでである。
その後、彼らが何故か十三歳のパダワンを偽名で非合法賭けレースへ出場させ、マンダロリアンへ武器を渡し、武装ドロイド組織と戦い、ナブーの救援などなどにまで首を突っ込むことになったのか。
それらについては、まだ何一つ認められていないのだ。
そもそも、この脱出後についてはこの直後の襲撃を除いて(※これだけでも超重大事案である)情報が錯綜しすぎており、何が起きたのかさえ評議会自身まだ把握できていない案件が多すぎるのである。
認めるも何も、討論会になったことでようやく席を与えられた三人に、まず説明してもらわなければ話にならなかった。