オビ=ワン・ケノービは、自分がまだパダワンを取っていないことを、この時ばかりは心の底から幸運だと感謝した。
評議会から命じられたのは、アウター・リムで大規模な企業と元老院議員の汚職を発見したクワイ=ガンとアナキンへの増援であり、単独行動が可能なジェダイ・ナイトであるオビ=ワンは直ぐに愛機で現地へ飛んだ。
そして、ハイパースペースを抜けた瞬間、自分一人で来られた幸運に心の底から感謝した。
ハイパースペースを抜けた瞬間に目の前に広がった光景を見て、パダワンを連れていたら護り切れなかったと確信したからだ。
「……何だ。これは?」
オビ=ワンの目の前には必死に逃げる十八隻もの大型輸送船と、それを護衛する数十機のスターファイターがいた。
それを見たら「単船で済むヴァレックCEO連行のはずなのに、何故か輸送船団が目前にあったなら、それは想定外だと驚くし、パダワンを連れていなかった幸運に感謝するな」と大半のジェダイが頷いただろう。
だが、オビ=ワンは大半ではない、悲しいほどに修羅場慣れしたジェダイである。だから、此処までならば驚きもせず幸運に感謝しなかっただろう。
魔法の壺から湧いたような輸送船団など、驚くには値しない。このくらいなら起きているだろうと予想していたからだ。
弟弟子と出会ってから早数年、イニシエイト期間無しでパダワンになった少年は色々やらかした。
──選ばれし者とは、トラブルに選ばれし者なのではないかと疑うレベルで。
クワイ=ガンと自分が二人がかりでシスを何とか退けて共にナブーから戻り、不足していた授業や訓練をイニシエイトたちと共に熟していたのは良かった。
ナブー任務中にタトゥイーンの奴隷を目の当たりにしたクワイ=ガンが、速やかに評議会へ訴えてタトゥイーン奴隷実態調査の権限と任務を分捕り、ナイトになったばかりの自分が同行することになったのは……まあ当然だろう。クワイ=ガンなのだから。奴隷は違法なのだから。
そこへ「僕はタトゥイーンに詳しいから」と主張したパダワンになったばかりのアナキンの同行を「不足する訓練が云々」と理由付けてクワイ=ガンが許可した辺りから、話がおかしくなった。
実態調査ではなく奴隷解放になった。
タトゥイーンに着いたと同時に、アナキンの母を所有していたワトーというトイダリアンを皮切りに、「共和国が本腰を入れてきた! 損切りだ!」と判断した現地の奴隷所有者たちへ、クワイ=ガンが持ち込んだ許可限界いっぱいの金品を叩きつけ、彼らが所有する奴隷を解放したまでは……まあ普通だった。調査から初手でズレた事など気にしては仕方ない。──アナキンとシミ母子が涙しながら抱き合う姿には、オビ=ワンも感じ入ったし。
解放した奴隷たちの体内に埋め込まれた爆弾を解除している最中に、金品を嗅ぎつけて襲ってきた奴隷商人やハットの手勢を叩き潰したのも……やむを得ないだろう。自衛の範疇だ。
叩き潰した連中から押収した財産と物資と武器を、解放奴隷やラーズ氏をはじめとする水農業主たちで構成された自警団へ回し──最終的には、タトゥイーン各地の奴隷を根こそぎ解放したのは……やりすぎだった。どう見ても。
当然色々あった。ありすぎた。
フィナーレが、ハット所有の巡洋艦をアナキンが乗った現地で組立てたスターファイターが撃沈。なのだから色々ない方がおかしい。
当然ながらオビ=ワンも巻き込まれた。 ジャバ・ザ・ハットたちとの『交渉』やら、自警団設立のための武器商人との折衝やら、その他諸々。 苦労を重ねた。
結果だけを見れば、多くの者が自由を得て生活を立て直したため、共和国とハット双方を巻き込む大騒動になっても、評議会は勿論、共和国政府からさえ強く咎められなかったから良かったのだ。間違いなく──シミとラーズの慎ましやかな結婚式は良かったし。
(ハットたちと交渉してタトゥイーンが割に合わないと判断させ、武器商人と話を付け、教官となる傭兵を雇ってタトゥイーンに自警団及び自治政府を作る手伝いをしただけの自分が『問題児』カテゴリーに叩き込まれたことには遺憾だが。まあ、悪い事ではなかったな)
当時まだ幼かったアナキンが、その一件から「困っている人がいたら、まず助ければ何とかなる」と学んでしまい「口五月蝿いけどオビ=ワンは困った人を絶対に見捨てない頼りになる大人」と確信してしまい色々やらかした事も、今となれば笑い話だ。いや、今も微笑ましい話だ。普通のジェダイが10回産まれ直しても巡り合わない修羅場の数々など微笑ましいことでしかない。
弟弟子は良くも悪くも裏表がなく弟同然に思っている。
それ以降も色々ありすぎたが、今となっては大半が笑い話だ。評議会へ報告する際に多少、そう多少の『省略』をすることになったくらいの、『そこまで修羅場では無かったと省略する』必要が常にある程度の笑い話の数々でしかなかった。
だから、今回もいかにして評議会に耳障りの良い報告をするかが最難関だ。とオビ=ワンは思っていた。
そんな修羅場慣れしたオビ=ワンが驚愕し幸運に感謝したのは──ただ一つ。
輸送船団を攻撃する八隻もの巡洋艦と百機近いスターファイターの存在だった。
「軍隊、じゃないか」
クワイ=ガンたちが乗る輸送船団を追いかけ回す連中。その存在そのものに驚愕して幸運に感謝した。
同一規格の戦闘ドロイド・スターファイターが編隊を組み、統一された指揮信号に従って動いている。後方には巡洋艦が展開し、それぞれが勝手に獲物を追い回す海賊とは明らかに違う連携で輸送船団を包囲しようとしている連中。
それらは、施設警備に置かれた警備ドロイドではない。武装した商船の寄せ集めでもない。
指揮系統があり、編制があり、それを前提として武装を施され、訓練された戦力──軍隊だった。
「大問題だ」
思わず口から零れた。
共和国には、銀河全域を管轄する常備軍など存在しない。
加盟する惑星や星系や企業が、それぞれ必要に応じて防衛隊を維持しているだけだ。
だからこそ分かる。
目の前の戦力は、企業が自社施設を守るために保有している警備部隊という範疇を明らかに逸脱していた。下手な加盟惑星の防衛隊より、よほど整っている。いや、これほどの戦力を持つ防衛隊など聞いたことがない。
しかも、ツェルカ社はこのような戦力を保有しているなど、共和国にもジェダイ評議会にも報告していない──もっとも、企業が武装戦力を持つこと自体は違法ではない。つい数年前、ナブーを封鎖した通商連合でさえ、建前の上では海賊などから自社の船舶や貨物を守るための『自衛戦力』としてドロイド軍を保有していたのだから。
問題は、通商連合の連中と同じく限度というものがあることだった。
「……これの何処が自衛戦力なんだ」
オビ=ワンは低く呟いた。輸送船を護衛しているわけではない。拠点を守っているわけでもない。
そんな戦力が、十八隻の大型輸送船を追跡して逃走経路を塞ぎ、戦闘機を組織的に展開して包囲殲滅しようとしている。
しかも、クワイ=ガンの報告からまだ半日と経っていない。それだけの時間しか過ぎていないのに、これだけの戦力を即座に投入できた事に背筋が寒くなった。
この戦力は、今日突然集めたものではない。 艦艇を揃え、戦闘ドロイドを配備し、指揮系統を整え、補給し、いつでも動かせる状態で維持していたのだ。
つまりツェルカ社の企業網の何処かには、共和国が把握していない実働状態の軍事組織が存在しているという事だった。
通商連合によるナブー侵攻をその目で見たオビ=ワンだからこそ、それが何を意味するのか分かる。
「大問題どころではないな、これは……」
企業が自衛を名目に軍備を蓄え、共和国が実態を把握した時には一惑星を制圧できるほどになっていた。その結果を、銀河はほんの数年前に見たばかりなのだ。そして共和国元老院の腐敗により有耶無耶のお咎めなしになったばかりなのだ。
そして今、その二例目が目の前を飛んでいる。おそらくこれも有耶無耶になってしまうであろうシロモノが。
元老院の腐敗と目の前の現実の余りの酷さに、オビ=ワンは激しい頭痛を覚えた。
『オビ=ワン!』
数秒で状況を処理し終えると同時に通信機から、二機ほど敵戦闘機を撃墜しながら、兄さんが助けに来てくれたとばかりの聞き慣れた明るい声が飛び込んできた。
「アナキン」
『来てくれたんですね!』
「ああ。評議会から応援を頼まれた。それより、後ろの軍隊は何だ?」
『僕たちを追いかけてる傭兵ということになっている秘密武装組織です!』
「それは見れば分かる。何故追われている?」
『奴隷を助けたからです!』
「……奴隷?」
そんな単語は、半日前にコルサントを発つ時点では一言も聞いていない。 だが、それで十八隻もの大型輸送船がここにいる理由だけは理解した。
ならば詳しい事情は後だ。 あの輸送船団には助けを必要としている者たちが乗っている。そして、その彼らを軍隊が追い回している。
「……よし、分かった。詳しい話は安全になってから聞こう。まずは片付けるぞ」
『はい! 連中の尻から叩いてください! 僕は右から行きます!』
「了解した」
弟弟子の指示通り敵船団の後背へ回り込みながら、オビ=ワンは腹を括った。
評議会へ何を報告するか。クワイ=ガンが何をやったのか。何故あれだけの大型船団が必要になるほど多くの奴隷が出てきたのか。そして何故、ツェルカ社が軍隊に他ならない秘密武装組織を持っているのか。この件さえ話題にはなっても有耶無耶になるであろうどうしようもない元老院の腐敗も。
全部、後でいい。まずは全員で生き残る。話はそれからだ。
オビ=ワンは突然現れた自分に無防備だった一隻の巡洋艦へ照準を合わせ、そのまま撃沈した。