それからの戦闘は、驚くほど短かった。
十八隻もの大型輸送船を包囲して追い詰めることへ戦力を集中させていた敵にとって、後方から突然現れたオビ=ワンは完全な不意打ちだった。輸送船団の周囲へ展開していた戦闘機の一部が慌てて反転しようとする中、通信機から聞き慣れた明るい声が飛び込んでくる。
『オビ=ワン! 次は僕が行きます! みんなを見てください!』
「分かった。だが深追いはするな、アナキン。目的は撃破ではなく脱出だ」
『はい!』
素直な返事とほとんど同時に、アナキンの機体は右方向から迫る敵戦闘機編隊へ一直線に突っ込んでいった。
「……聞いているのか、あれは」
聞いてはいるのだろう。アナキンは良くも悪くも素直な弟弟子である。言われたことの意味も理解するし、反抗したいから命令を無視するような性格でもない。ただし、自分なら出来ると判断したことまで止めるかどうかは別なだけなのだ。
そんなことをオビ=ワンが考えている間にも、アナキンは三機の敵戦闘機から集中するレーザーの間へ自ら飛び込み、フォースに導かれた機動で全てをかわしていた。左右から迫る火線をぎりぎりまで引きつけたところで急激に機首を落とし、追従しようとした三機の編隊を崩す。そのまま機体を反転させると、一機のエンジンを撃ち抜き、離脱しようとした二機目へ照準を移し、ほとんど間を置かず撃墜した。
あんまりな暴れっぷりにドロイドに混乱が起きる。
相変わらずわけのわからない操縦技術である。
『二機です!』
「数えなくていい!」
『もう一機!』
「楽しむな!」
『楽しんでません! よし! もう二機! このまま突入します!』
声は明らかに楽しそうだったが、そこへ文句を言うよりも、オビ=ワンが来てくれたから護衛専念から敵戦力へ突入しての混乱へ切替えたアナキンが突撃することで、輸送船団周辺の圧力が大きく下がった事実の方が重要だった。
オビ=ワンは機体を旋回させながら戦術画面へ目を走らせた。
大型輸送船十八隻。護衛についているスターファイター四十八機。そして、そのほとんどを操っているのは、つい数時間前まで奴隷だった人々。
かなり不味いと直感した。
個々には操船経験者も戦闘経験者もいるのだろう。実際に十八隻の輸送船は飛んでいるし、四十八機の護衛機も敵へ反撃している。しかし、それだけだった。護衛機はそれぞれ近くにいる輸送船を守り、敵が迫れば反射的にそちらへ向かう。輸送船同士も互いに衝突しないよう距離を取っている程度で、誰が全体を見ているのかも、何を優先すべきなのかも決まっていない。
このままでは、いくら今巡洋艦を沈めたアナキンが敵を引き付けながら暴れても意味がない。輸送船の一隻でもジャンプ準備に手間取れば、その後ろへ別の船が詰まり、最悪の場合は敵に撃沈されるより先に味方同士で退路を塞ぎかねなかった。
「輸送船側、聞こえるか?」
『聞こえている!』
「私はジェダイ・ナイト、オビ=ワン・ケノービだ。そちらで全体をまとめているのは?」
『アルト・ストラタス! 元軍人だ!』
返ってきた声には張りがあった。少なくとも、恐慌状態の民間人が指揮を執っているわけではないらしい。
オビ=ワンは僅かに安堵しながら、同時に戦術画面へ表示されている輸送船団の動きへ目を細めた。
「ストラタス。脱出手順は?」
『一番船から番号順だ! ジャンプ準備が出来次第、一隻ずつ出す!』
なるほど、とオビ=ワンは理解した。
間違ってはいない。
ほんの少し前まで奴隷だった数百万人を十八隻もの輸送船へ乗せ、誰が何処へ乗っているのかすら完全には把握できていない状況である。ならば船に番号を振り、一番、二番、三番と順番に逃がす方法は極めて分かりやすい。アルトが元軍人だからこそ、まず混乱を抑えるための秩序を作ろうとしたのだろう。
ただし、それは敵に撃たれていない状況ならば、である。
「番号順はやめろ」
『何?』
「準備が終わった船から飛ばせ。一番船を待つ必要はない」
『だが、順番を崩せば混乱する!』
「待っている間に撃沈される方が困る」
短く返しながら、フォースの助けを借りてオビ=ワンは各船から飛び交っている情報を拾っていった。一番船はハイパードライブの調整が遅れている。逆に九番船と十四番船は既にジャンプ可能で、五番船も間もなく準備が整う。
便宜上付けた番号と、今この瞬間にそれぞれの船が置かれている状況には、もはや何の関係もない。
「九番と十四番はもう飛べる。先に行かせろ」
『……分かった!』
アルトの返答は早かった。一度は反論したものの、理由を理解した途端、自分の案へ拘ることなく切り替えたのだ。
『九番船! 十四番船! 順番変更だ! 準備が出来ているなら先に飛べ!』
『こちら九番、本当にいいのか!?』
『いい! ジェダイの指示に従え!』
『了解!』
数秒後、九番船が長い光となって星々の彼方へ消え、続いて十四番船もハイパースペースへ突入した。
その動きを確認したオビ=ワンは、アルトへの評価を一段上げた。人をまとめる能力があるし極めて柔軟性が高い。背中を預けられる。
「ストラタス。船団を四群に分けろ。近い船同士でいい」
『四群だと?』
「十八隻を一列にするな。一隻止まれば後ろまで詰まる。四、五隻ずつに分けて、それぞれでジャンプ準備を進めろ」
『……なるほど』
今度は反論すらなかった。今までのやり取りでこのジェダイが戦場慣れしていることをアルトは悟ったからだ。背中を預けられる、と。
『聞いたな! 近い船同士で四群に分かれろ! 番号はもう気にするな! 飛べる奴から飛ぶ! ジェダイの指示に従うんだ!』
アルトの声が船団全体へ響き、その指示を受けた十八隻が少しずつ位置を変え始めた。まだ軍隊と呼べるほど整ってはいない。共通の教範もなければ、統一された訓練も受けていない。それでも、ほんの数分前まで個々に逃げていただけの巨大な集団が、徐々に同じ意図を持って動き始める。
つまりは、極々自然とオビ=ワンを指揮官とした指揮系統が急速に出来上がったのだ。それを見て取った共和国エージェントもすぐに従った。
『こちらヴァン! 共和国エージェントだ! 船団側の通信を整理してる!』
「ちょうどいい。残りの船のすべてのジャンプ準備状況と損傷状態をまとめて私へ送ってくれ。直ぐに」
『いきなりかよ。人使いが荒いな』
「急いでいるからな」
『初対面でいきなりそれだけの事を頼みやがるのか』
「初めまして。これからよろしく頼む。申し訳ない。これで良いな」
『ははっ、なるほど、あんたがオビ=ワンか。あの師弟から話を聞いた通りだな。信頼できる!』
数秒後、それまで通信網の中をばらばらに飛び交っていた各船の状況が、整理された一つの情報として指揮官となったオビ=ワンの戦術画面へ表示された。
(あの師弟、ね)と何故か助ける人々に大歓迎される何時ものを噛みしめながら指示するオビ=ワン本人には、もちろん指揮官になったつもりなどない。
ただ目の前に問題があり、それを解決するために必要な指示を出しているだけなのに指揮官になったのだった。何時も通りに。
本人は政治家嫌いなのに悲しいくらいに政治家適性が高い男、それがオビ=ワンだった。
『オビ=ワン! 指揮艦みたいなのを見つけました!』
そんな即席の指揮系統が形になったところで、嫌な予感しかしない弟弟子の声が通信機から響いた。
「アナキン、待て」
『あれを沈めれば追撃が鈍ります!』
「だから待てと言って──」
最後まで言う前に、アナキンの戦闘機が急加速した。敵側も意図を察したらしく、指揮艦を守ろうと複数の戦闘ドロイドが進路を変え、アナキンへ火線を集中させた。
だが、当たらない。
機体を上下左右へ僅かに振っているだけにしか見えないのに、レーザーだけが不自然なほど僅かな差で外れていく。天性の飛び屋の飛び方で敵編隊の間を抜けると、そのまま指揮艦の船体すれすれまで接近して攻撃。
最初にセンサーアレイ。続いて通信塔。そして、推進部へプロトン魚雷を見事に叩き込んだ──そして、内部で誘爆が始まった。
オビ=ワンが今まで何度も見てきた光景をもう一度見る顔──宇宙猫の顔──で見守る前で、アナキンの機体が離脱した直後、指揮艦の中央から巨大な火球が膨れ上がり、そのまま船体が二つに折れた。
『やりました!』
「よくやった!」
思わず褒めてしまってから、また弟弟子を甘やかしたかと思ったが今はどうでもいい。指揮艦を失ったことで敵部隊の動きが明らかに乱れた。統一されていた戦闘機の旋回に遅れが生まれ、複数の艦艇が互いに異なる方向へ進み始めた。
逃げられる。
「ストラタス、今だ! 次の船を飛ばせ!」
『分かった! 三番、五番、十二番! 行け!』
アルトの命令を受けた三隻がほとんど連続してハイパースペースへ飛び込み、戦術画面から姿を消したのと同時に、大混乱に陥った敵はそのまま失策を犯した。
最も脅威度が高いと見込んだアナキンを排除しなければならないと判断したのだ。輸送船団を追っていた戦闘機さえ次々と進路を変え、指揮艦を沈めた少年の機体へ殺到し始める。
つまり、オビ=ワンにとっては好都合だった。
「護衛機はアナキンの所へ行くな! 輸送船を守れ! ともに飛ぶぞ!」
『弟弟子を一人にして放っておくのか!?』
「本人が勝手に敵を引き付けている。なら使う! 大丈夫だ! あの程度で落ちはしない!」
『オビ=ワン! 聞こえてますよ! 僕を囮にする気ですね! 何時も通りに!』
「聞こえているなら戻れ!」
『あと少しです! この巡洋艦を沈めないと!』
十三歳の少年を囮にする鬼畜という非難をオビ=ワンに浴びせようとしたアルトが、兄弟弟子の通信越しでのやり取りを聞いてこれがこの兄弟弟子の日常なのだと理解した。アナキンが沈めた巡洋艦の爆炎に顔を照らされながら、呆れたように息を吐く。
『……ジェダイってのは大変なんだな』
「分かってくれて嬉しいよ」
軽口を返しながらも、オビ=ワンは船団左側から迫っていた巡洋艦へ機体を向けた。大型輸送船へ射線を通そうとしている敵艦の、船体中央ではなく片側の推進器へ数発のレーザーを集中させる。
推進器から炎が噴き出し、巡洋艦が大きく姿勢を崩して船団の進路から外れていく。撃沈する必要はない。敵を全滅させる必要もない。目的は、この秘密武装組織を壊滅させることではないのだ。
輸送船団を逃すことでしかない。だから追撃能力だけを奪った方が、時間も危険も少なくて済む。と色々あって戦場慣れした例外ジェダイ、オビ=ワン・ケノービは呼吸するように考えて見本を見せながら指示を出す。
「全護衛機へ。見たとおりだ。敵艦は推進器、センサー、通信設備を優先して狙え! 撃沈する必要はない!」
『了解!』
『右舷推進器を狙う!』
『こちら六番機、通信塔を潰す!』
オビ=ワンの指示を受けた四十八機の動きが、そこでさらに変わった。
先ほどまで各々が目の前の敵を迎撃していた機体が、数機ずつ一つの目的を持って動き始める。一機が戦闘ドロイドを引き離している間に別の二機が武装艦の推進器へ攻撃を集中させ、別の一群は船体そのものには目もくれずセンサーと通信設備を破壊する。
ほんの少し前まで、ただ必死に逃げながら目の前へ現れた敵と戦っていた四十八機が、一つの戦力として機能するなか続々と輸送船は逃げていく。
『残り十隻!』
「飛ばせ!」
『八隻!』
「次だ!」
『五隻!』
「よし。そのまま行くぞ」
残り三隻が二隻になり、やがて最後の一隻だけが戦術画面へ残った。
『オビ=ワン! 最後です!』
「分かっている。アナキン、戻れ!」
『はい! 皆を落ち着かせているマスターも最後の輸送船にいます!』
今度こそ素直に戻ってきたアナキンの戦闘機が、最後の大型輸送船の開いた格納庫へ四十八機の最後に滑り込んでいく。それを確認したオビ=ワンは、すぐにアルトへ通信を繋いだ。
「アルト、行け! 私が殿になる!」
『ありがとう……オビ=ワン』
「礼は安全になってからでいい。早く行け!」
『了解した!』
十八隻目の大型輸送船が光となって消え、戦術画面から守るべき船影が完全に消えた。
そこで初めてオビ=ワンも機首を敵から外し、ハイパードライブを起動する。星々が長い線となって流れ、ほんの一瞬前までレーザーと爆発に満たされていた戦場が遠ざかっていった。
六百万人。大型輸送船十八隻。護衛についていた四十八機のスターファイター。損傷はあれど、何一つ、誰一人失わなかった。
「…………」
静かになった操縦席で、その結果にオビ=ワンはようやく深く息を吐いて力を抜いた。そこでふと、今さらのように気づく。
アルト・ストラタスとは、ほんの十数分前まで名前すら知らなかった。ヴァンという共和国エージェントも同じである。彼らへ自分の命令に従えと言った覚えもなければ、自分が指揮官だと宣言した記憶もない。
ただ状況を見て、必要だと思ったことを言っただけだった。
それなのに気づけば、ヴァンが情報を集め、オビ=ワンが判断し、アルトが命令を伝え、六百万人を乗せた船団全体がその判断を基準として動いていた。
つまりは自分が指揮官になっていた。何故か。
「……まあ、全員無事ならいいか」
深く考えるようなことでもないだろう。
こういうことを平然とやってのけるから、本人の意思とは無関係に責任と役職と期待だけが次々と積み上がっていくのだが、オビ=ワン・ケノービ本人だけは、その程度にしか考えなかった。
「それよりも今、自分が考えるべきことは別にあるからな」
奴隷。
十八隻の大型輸送船とスターファイター。
ツェルカ社とその子会社。
元老院議員との黒い取引。
そして共和国が存在すら把握していなかった秘密武装組織。
聞かなければならないことが多すぎる。
「さて……マスターには、じっくり説明してもらおうか」
同時刻。
「三十分……たった三十分だぞ。少年一人に、指揮艦を含む巡洋艦五隻と戦闘機二十一機が沈められた、だと……たった一人が十隻あった巡洋艦の半分を沈めた……と」
ツェルカ社の重鎮は、届けられた戦闘記録を前に震えていた。彼の目には、アナキン機に近づいた艦や機体を示す光点が尽く消えるという、これだけでも心がへし折れそうな記録が映されていた。
当然ながら、それで終わるわけがない。
「二隻の巡洋艦がやられてから包囲を仕掛けた時に、現れた一機は、まともな指揮系統すらなかった輸送船十八隻と護衛機四十八機を、到着して僅か数分で組織化し、優勢に戦いながら包囲を崩して全艦全機無事に脱出した……と」
それだけでも悪い夢だと理解を拒みたくなるが、何より理解できないことがある。
「……そもそも、六百万人だぞ。六百万人が襲われてパニック一つないだと」
つい数時間前まで奴隷だった六百万人。突然解放され、十八隻もの船へ押し込まれ、軍隊に追撃されている。そんな人々がパニック一つ起こさず、最後の最後まで一人のジェダイ・マスターを信じて行動し続けた。その事実に、重鎮は崩れ落ちた。
「何故、六百万人もの奴隷が、パニック一つ起こっていない? 暴動もない。命令系統も崩壊していない。あのジェダイ・マスターは、一体どうやって六百万人をまとめているんだ?」
クワイ=ガン・ジン。オビ=ワン・ケノービ。アナキン・スカイウォーカー。この三人が、それぞれ別方向にジェダイの外れ値であることなど、彼は知らない。だから、コレがジェダイの平均だと認識する。
「…………バケモノだ。これがジェダイなの……か。そんな連中を、私たちは敵に回したの……か」
奴隷たちなど瞬殺できると考え、十八隻の大型輸送船と四十八機の護衛戦闘機で構成された寄せ集めの輸送船団を潰すために、巡洋艦十隻と戦闘機百二十機という概算で十倍以上にもなる戦力を送り込んだのだ。
それが結果だけを見れば、巡洋艦は四隻、戦闘機も七十五機しか生き残れないほど、一方的に叩きのめされたのである。
しかも相手は、守るべき大型輸送船十八隻どころか一機の戦闘機すら失っていない。
報告書を握りしめた重鎮は、そこで初めて理解した。
ジェダイという存在を。