トモリと《共有》しませんか?   作:ロヒキア

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#00. プロローグ(視点:視聴者)

 暑い夏のことだった。

 学生の本分である勉強から一時的に開放され、完全フリーとなった長期休暇をダラダラと満喫していた。

 

 外は暑いからエアコンの効いた部屋から出たくない。

 レトルトを含めれば3日分の備蓄は確保しているから大丈夫。

 

 そんな素晴らしい名分があったおかげで、涼しい風に癒されながらのんびりとパソコンを起動していた。適当にネットサーフィンでもしようかと考えたが、それよりも何か配信でも見たい気分だった。なので、NicoTubeという動画共有プラットフォームを開く。

 

 ありがたいことに、夏休み効果で配信者たちの活動は頻繁になっている。

 新しい発見があるかもと期待しながら開かれたサイトのトップ画面からオススメ欄を眺めていると、1つ興味を惹かれる配信を発見した。

 

「《共有》……ああ、前に話題になってたやつか」

 

 先月辺りに掲示板のスレで見た覚えのあるスキル名だった。

 確か、トモリという配信者が持つユニークスキルだったはずだ。

 

「同接は1228人。夏休みとはいえ大したもんだ」

 

 スキルの話題だけが先行しているかと思っていたが、この人数がリアルタイムで見ているのならばまずハズレではないだろう。普段見ている配信者は活動時間帯が夜間なこともあり、お試し気分で配信を開くことにした。

 

「それでは、いつもの共有体験のお時間に入りましょうか」

 

 つい数分前に始まったばかりだったようだ。

 最初の挨拶が終わり、何か定番の流れに入るタイミング。内容からして、噂のスキルを体験させてくれるのだろうか。

 

「ユニークスキル《共有》についての注意事項です」

 

 そうこう考えながら配信を眺めていると、共有体験についての前置きが説明されていく。何度も説明して慣れているのか短く要約された内容を話し終え、何を食べるかを付け加えてから希望者を募り始めていた。

 

◎ ノ

 

 好奇心から自分も希望してみる。

 見た目から挙手を意味する1文字を打ち込みコメントを送信した。

 

「それでは、これもいつもの抽選アプリを起動! 30人も居るので1人ずつ名前を挙げることは出来ません。だから、当たったかどうかは実際に食べるまで楽しみにしていてください」

 

 そう言いながら取り出したのは、じゃがいもを薄くスライスして揚げた定番のチップスだった。その中でも一番有名だと思われるメーカーの薄い塩味である。

 

「いただきます」

 

 食への感謝を一言口にしてから、配信主がチップスを一齧りする。

 サクリと耳障りの良い音がした瞬間、自身の歯もまた同じようにサクサクとした食感を拾った。

 

 程よく薄い塩味が感じ取れたと同時に、ほんのりとした油の風味が口内を駆け巡る。舌の上にはざらついた感触があるが、そこからはじゃがいも本来の味が伝わってきた。

 配信主である彼が追加で2枚、3枚と追加で口の中に入れていく。すると、同じように口の中ではチップスの世界が広がっていた。

 

 少しの間サクサクとした食感が続き、彼が飲み込むと喉辺りをチクチクと角の尖った欠片が通り抜けていく。こうして、何も食べてないのに画面の先にいる彼の食事を共有できる体験は終わった。

 

「ヨシ、体験コーナーも終わったので探索を開始しましょうか。本日は極力共有配信の予定なので、お次は探索状況の《共有》を……と、いつものように殺到してなによりです。早速抽選をしますね」

 

 初めて体験した不思議な感覚に浸っていると、また別の共有を始めることを告げていた。どうやら探索中の感覚も共有できるらしい。

 これも面白そうだと思い挙手コメを書き込むと、幸運なことに再び当選することができた。

 

 配信主が《共有》開始の合図をすると、彼の視覚や嗅覚、聴覚といった五感が拾う情報が伝わってきた。

 

 頭の中に洞窟内の映像が浮かんでくる。

 まるで一人称視点のようでFPSのようであるが、ゲームと違い視界の中の岩肌1つ1つの質感きめ細かい。

 

 それに、洞窟特有の少し湿った土臭い匂いがする。

 そのまま鼻孔を通り抜けていき、その空気の味を舌先が拾った。

 

「これは面白いな」

 

 素直な感想が一言零れる。

 最先端のVRゲームに4DXを足しても、ここまで詳細な体験をすることはできない。

 

 自身が運動音痴なこともあり、ダンジョンとは無縁の生活をしていた。一度は行ってみたいと思う気持ちは確かにある。だが、その程度の好奇心で行って怪我をしたらどうするんだという不安からずっと諦めていた。

 

 それが、疑似的にであるが叶ったのだ。

 

 よりリアルな条件を味わうために目を閉じる。

 視界から自室の景色は消え、脳裏に映る洞窟ダンジョンの光景だけが広がった。

 

 新感覚の楽しさを味わっていると、ふと聴覚が微かな音を拾う。

 自分ではなく、《共有》してくれている配信主が拾った音のようだ。

 

「居ますね。数は……3匹。まだ気付かれてないようです。先に仕掛けますね」

 

 そう言うと、配信主が駆け出した。自身ではあり得ないほどの早さで洞窟内を疾走している。初動から10秒も経たぬ内にモンスターの姿が視界に入った。

 

「シッ! ハッ! ハッ!」

 

 そして、こちらにワンテンポ遅く気付いたモンスターたちに先制攻撃を加え、瞬く間に一掃した。

 

「お疲れ様です。それでは、《共有》のメンバー変更をしますね。再度抽選です!」

 

 戦闘が終わると、残念ながら先ほどまでの感覚は消えていた。

 もう一度体験してみたかったが、残念ながら何度も運良く当たることはない。恐らく、抽選の仕様的にも連続で当たらないようになっているだろう。

 

 それでも、画面越しに見る配信も楽しかったので、結局は最後まで見続けた。

 

「そういえば……」

 

 配信を開いて早々に共有を体験していたので、まだ彼の名前を知らなかった。

 画面を少しだけ下にスクロールしてチャンネル名と配信タイトルを確認する。

 

 チャンネル名:トモリ

 配信タイトル:【下級探索】トモリと《共有》しませんか?【DTuber】

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