トモリと《共有》しませんか?   作:ロヒキア

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リハビリ投稿です。
ノリと勢いで書き始め、推敲する度に大幅な書き直ししてたら8ヶ月が経ってました。

あまりにも……あまりにも、遅筆。


#01. 【DTuber】トモリと《共有》しませんか?【下級】

 16世紀に占星術師が残した大予言は当たった。

 予言された年の夏に、空から謎の物体が大量に飛来したのである。

 

 社会人は朝礼が終わり、今日の仕事に取り掛かり始めていた。

 主婦は洗濯機を回し、終わるまでのんびりとテレビを見ていた。

 子供たちは、終業式で校長先生の長い話が早く終わるのを切望していた。

 

 そんな最中、予兆も無く突然起きた災害である。

 不幸中の幸いは、飛来物による死傷者は1人も出なかったこと。

 

 しかし、衝突した跡には不可思議な空間が出来上がっていた。

 空間の先にあったのは、現在ではダンジョンと呼ばれる物騒な空間だったのだ。

 

 侵入者を見つけると襲い掛かって来るモンスター。

 新たなエネルギー資源となる魔石。

 未知の植物や鉱物。

 

 ファンタジー系の創作にありがちな世界がそこにはあった。

 

 ダンジョンに潜り、剣を振るって魔法を駆使し、モンスターを倒して秘宝を手に入れる。

 そんな職業――探索者が生まれたのは必然だった。

 

 

***

 

 

 それから17年が経過した現在。4月の入学式が終わり、新生活に慣れてきた頃にやってくる長いお休みGW(ゴールデンウィーク)。その初日に、人気(ひとけ)の無いダンジョンで配信を始めようとする者が居た。

 

 柔らかく綺麗な短い黒髪の青年だった。髭は生えてなく、成人男性の平均より少し高い身長であるが顔立ちはまだ幼い。しかし、童顔に反して袖越しに見える腕の引き締まり方から、鍛え上げられていることが分かった。

 服装は動きやすいジャージと、その上に防刃ベストを着込んでいる。背中には全長70cm程の両刃剣を納めた鞘を携え、腰にはポーチを付けていた。また、素材を回収するための小さな麻袋を左手に持っている。

 身に着けた武器と防具には探索者協会の印字がされており、レンタル品なのが見て取れる。その井で立ちは、まさに探索者になったばかりの新人だった。

 

 彼の居る場所は、洞窟型の中でも特に窮屈なタイプのダンジョンだった。中に入ると最初は小部屋から始まり、先には人が2人横になれる程度の狭い通路が3つに分かれている。選んだ道を進むと小部屋に着いて、再び3つに分かれた狭い通路を進む繰り返しとなる構造だ。

 

 映えの無い環境。

 複数人で探索するには狭すぎて互いが邪魔になる。

 更には、近場に遺跡型の開放的なダンジョンもある。

 

 故に、定期巡回で来る協会の職員か、もしくは余程の物好きぐらいしか来ない場所であった。それでも彼がこのダンジョンを選んだのは、見栄えよりも周りに人が居ないことを優先したからである。理由は幾つかあるが、一番は他の配信者と場所が被るのを避けたいからだ。

 

 4月と9月の年に2回行われる探索者資格試験。それに合格した新人探索者たちがDTuber(ディーチューバー)――ダンジョンの探索を主軸とした配信者が一斉にデビューする。そのため、このぐらい需要のないダンジョンでなければ場所が被ってしまうのだ。

 昔から配信活動をしていてる訳でも、芸能活動などをしていた訳でもない。特別トークが上手かったり、ビジュアルが特化している訳でもない。そのため、偶々配信を開いてやって来た視聴者に対して確実にアピールするには周りにノイズがないのが一番重要だと考えていた。

 

 青年には、他が真似できない自分だけの特別な武器があった。もし来た人の好みでなくても、SNSなどでそのことを流してくれれば興味本位で見に来てくれる人は現れる。その中からこの配信が好きと言ってくれる人が集まるようになれば良い。それが、インターネット文化に詳しい親友が立てた戦略であった。

 

 ダンジョン関係の高校に入学して1ヶ月。

 地獄のような2週間の合宿を乗り越え、最速で探索者資格を取得した。肉体の土台は出来上がり、基礎鍛錬以外にも手を広げられるようになった。そんな中で、彼が選んだのは特別な武器を伸ばすこと。そのためには、配信活動がうってつけだった。

 それが、今まで無縁だった青年がDTuber活動を始める切っ掛けである。まだ業界のことをほとんど知らない素人であるが、全力で楽しみ、最高に楽しませる気持ちだけはしっかりと持ち合わせていた。

 

 そんな心構えから、最初の配信を開始する。

 

 

***

 

 

「みなさん、初めましてのこんにちは! 本日からDTuber活動を始める、トモリと申します。完全未経験で何もかも手探りですが、精一杯学んでいくのでよろしくお願いします」

 

 起動させた探索カメラ――探索者が地上へリアルタイムに情報を送るための追跡カメラに向かって挨拶をしてからペコリと頭を下げる。この時、お辞儀の勢いで両腕を後ろに高く上げるのも忘れない。親友が教えてくれたやり方で、曰くガルウィングと呼ばれる由緒正しい感謝の構えらしい。

 

 しかし、残念ながらこれに対してツッコミなどがコメントされることはなかった。何せ、現在の視聴者は0人である。

 覚悟はしていたが、やはり世の中は世知辛いようだ。もしかしたら開始と同時に人が集まるのではと淡い期待を抱いていたが、それは見事に打ち砕かれてしまった。

 仕方ないので、人が来るまでは配信に慣れるための練習と割り切ろう。そう切り替えて、まずは虚空との会話から始めようか――としたところで、現在視聴している人数の数字が1に変わっていることに気付いた。

 

◎ 初コメ。

 

 そして、幸運なことにコメントも書き込まれた。

 

「えっ!? 初見さん、ほ、本当に……? こ、コメント、ありがとうございます!!」

 

 実は、親友の偽装ではないのだろうか。そんな疑惑が彼の脳裏を掠めたが、HN(ハンドルネーム)――インターネット上で活動する際の仮名を見て本物の初見さんだと気付き慌ててお礼を伝えた。

 何せ、この動画共有プラットフォームNicoTubeはアカウントの複数作成や作り直しはできない仕様になっている。一応、名前の変更は可能だが、そうすると最低90日間は再変更ができなくなる。故に、親友ではないと見抜くことが出来た。

 

 新人発掘が好きな者。初配信にコメントを残して、いざ有名になったときに最古参を名乗りたい者。DTuber事務所の関係者で青田買い候補を探している者。新人からしか得られない貴重な栄養素が生命源である者など、様々な理由でデビュー配信を見に来る人は居る。

 今回現れた初見さんも、恐らくはその何れかなのだろう。

 

◎ 装備的に新人だよね?

 

「は、はい!! 先週の探索者試験に合格したばかりの超ド新人です。面白いユニークスキルを発現したので、どうせならと思い立ってDTuberデビューしました」

 

 即切りはしなかったようで、トモリとの雑談に興じる意志があるようだ。ならばと事前に立ててもらった作戦に従い、すかさず自身の売りである能力を公開することにする。

 

◎ へぇ、ユニスキ持ちなんだ

 

 ダンジョンが飛来してきて以来、人は鑑定魔法によってスキルと呼称する技能ステータスを調べられるようになった。スキルは、《ノーマルスキル》と《ユニークスキル》の2種類に分類される。

 

 《ノーマルスキル》は誰でも条件を満たせば取得できるスキルだ。体を鍛える、武芸を磨く、魔法の術式を理解し反復練習を繰り返す、といったように一定の習熟をすれば身に着けることができる。

 反対に、《ユニークスキル》は取得条件の無い固有のスキルだ。ダンジョンが飛来した日と同じ7月19日に、数えで15歳となる人がスキルを発現する。そのとき、稀に癖の強い特殊なスキルを持っていることがあるのだ。双子の片割れしか持っていなかったり、全く違う生い立ちの2人が同じユニークスキルを持っていたりするため、生まれつき持ったスキルとしてそう呼称されている。

 

 ユニークスキル自体が稀有な上に、同じスキルは世界に数人しか持っていない。汎用的に再現する研究もされているが、それでも特別なものには変わりないのである。なので、DTuber活動において唯一無二のアピールポイントになるのだ。

 

「そう、嬉しいことに持ってたんですよ。その名も《共有》、指定した相手と感覚。つまりは五感を共有できるユニークスキルです!」

 

 誇らしげな表情で五本の指を広げ、自信満々にスキルの名前を叫ぶ。そして、ちょうど良く部屋の隅に良い形の岩壁を見つけたので、そちらへと移動し腰掛けて会話に専念することにした。

 ダンジョン内ではあるが、入口近辺までモンスターがやって来る危険性が無いからこそできる油断である。

 

◎ へぇ……確かに独自性はありそうだけど、配信映えするの?

 

 《共有》はユニークスキルの中でも珍しい精神系の能力だった。視覚的に悟られ難く、やり方次第ではモンスター相手に優位に立ち回れる搦め手は便利である。しかし、裏を返せば画面越しの視聴者にも見えない能力でもあるのだ。

 つまり、コメ主の言うように個性の強い能力ではあるのだが、DTuberとしては映えそうにない。

 

「うぐっ、辛辣な意見はグサッときますね」

 

 スキルが発現するのは、思春期真っ盛りな時期である。その状況でさらにユニークスキルなんて特別な物を得られた者の多くは、(ろく)に検証もせずにスゲースゲーと有頂天に大口を叩いて回るのだ。

 

「でもですね、安心してください。ちゃんと試した上で面白いと言える自信があるのですよ」

 

 なので、配信に向かないという意見は正しいはずなのだが、トモリには問題ないという確信があった。何せ、これから行うのは恐らく世界初となるスキルの使い方なのである。

 

◎ え、どうやって?

 

 まずはそれを行う前に視聴者の嗜好を問い掛ける。

 

「百聞は一見に如かずと言います。NBWさんは甘い物は平気ですか? それと、共有しても大丈夫ですか?」

 

 相手のHNを読み上げて問いかける。この質問は、これからやる上で絶対に必要なことなのだ。披露しても嫌いな物であれば大きく不評を買ってしまうのだから。

 

◎ あ、うん、平気だけど……

 

 やや困惑的ではあるが、大丈夫だと返ってきた。そして、トモリの質問の意味に見当がついたのか、即座に新しいコメントが書き込まれる。

 

◎ もしかして、画面越しにも共有できるの?

 

 それは、《共有》の対象範囲についてだった。そもそも精神系のスキルは数が少なく、検証もあまり行われていない。故に、遠く離れた相手を認識して対象に取れるかなど誰も試したことがなかったのだ。

 それを偶然ながら発見した。親友との電話中に、チビッ子が口の中へお菓子を入れてきたのが切っ掛けである。何を食べてるのか聞かれた際に、練習漬けだった影響で反射的に《共有》を使ってしまった結果、相手に届いたのだ。

 

 それから今のアカウントを作って身内限定の配信を行い、HNの相手に対して画面越しに《共有》をやってみると同じように成功した。

 

「よく解りましたね。このスキルは、遠く離れた相手でも互いに認識していればお届けできるんです。それじゃ、早速ご体験タイムを」

 

 これから行うことを説明しながら、腰のポーチから一口サイズのチョコレートを取り出す。そして、包装を雑に剥がして中身を取り出し口へと放り込んだ。すると、2人の口内に同じ世界が広がった。

 

 濃厚なミルクの甘さと香りが舌から鼻まで突き抜け、その後に砂糖特有の甘みがやってくる。体温によってチョコレートは少しずつ溶けていくが、それは非常になめらかで優しい舌触りであった。

 不思議と幸せな気持ちになれる甘い世界であったが、残念ながらすぐに溶けて消えていく。堪能し終えたので、麻袋から水筒を取り出し蓋を開けて口にした。スポーツドリンクが口内に残るチョコレートを流し去っていくと、後にはさっぱりとした柑橘系の後味だけが残った。

 

◎ え、まじで、あま

 

 スキルの接続を切ると、すぐに驚きのコメントが書き込まれた。冗談かと疑っていた《共有》が本当に味や風味を届けてきたことに動揺しているようで単調である。

 

「ふっふっふ、どうでしょうか。これが《共有》の力です。今回は味覚と嗅覚、それに口内の触覚も合わせて3つの感覚をお届けしました」

 

 思惑通りの反応に、トモリは大満足のようだ。3本の指を立てながら、得意げに何を共有したかも告げている。

 

◎ あ、ああ、まさか冗談抜きに本当に届くなんて……

 

「他の精神系スキルも同じなのかはサッパリですが、俺の《共有》は届くようですねー。ただ、前提として互いに認識している必要はあります」

 

 条件があると語るが、それはほぼ無いとも言える程度であった。何せ、視聴者であるNBWは当然ながらインターネット上での偽名である。つまり、トモリの配信を視聴してコメントが認識された時点でスキルの対象に入る訳だ。

 これ、使い方次第でえっぐいことできそうじゃね? などとNBWが戦慄していると、トモリは何か大事なことを言い忘れていたことを思い出したのか、少し焦り気味に話し始めた。

 

「……あっ、すみません。スキルを使う前に言うのを忘れてました。《共有》でお届けできるのは五感だけで、カロリーやビタミンといった栄養素は届けられないのでご安心ください」

 

 謝罪の混じった補足説明を今更になってすると、すぐさまコメントが書き込まれた。

 

◎ それ、事前に説明しないと荒れるよ

 

「ごごご、ごめんなさい。本当にごめんなさい!! 悪気はなかったんです……お願いです、信じてください」

 

 どうせ五感しか届かないんだから後から説明しても問題ない、という考えは浅はかである。理由は言わずともがな。

 そのため、トモリも冷や汗を掻きながら弁明しているのである。親友に教えられたネットミームが反射的に出る程度には余裕は残っているようだが、心からの反省は本気でしていた。

 

◎ 同じミスはしないようにね

 

「は、はい!! 同じ過ちを犯さぬよう、説明テンプレートをしっかりと考えておきます。はい!!」

 

 改善案を告げ、忘れぬよう脳内フォルダのやることリストに記載する。トモリが口上を考えると発言したのを聞いて、NBWは新人によくあるやらかしの1つをしていることに気付いた。

 

◎ もしかして、何も決めずに配信開始した?

 

「ギクリッ!?」

 

 図星だった。そして、それを誤魔化すように言い訳をし始めた。

 

「は、はは、その通りです。いやいや、だってですよ。昨日までは訓練漬けで考える暇がなかったのですもん。それに、SNSの開設もしてない無名の新人が始めた配信にこんなに早く人が来るとは予想付かないですって。カメラを回して喋る慣らしをしながら何パターンか前口上を作ろうかなって軽い気持ちでいこうとしたところにすっごくすっごくありがたいことにNBWさんが来てくれて本当にありがとうございますヒャッホーゥ!! という嬉しさが込み上げて全てが丸ごと吹っ飛んじゃって、兎にも角にも《共有》をアピールせねばと言う思考に埋め尽くされた次第でございます。いやはや、本当に、本当に、配信開いてコメントまでしてくれて物凄くビッグ感謝なのですよ」

 

 息継ぎのほぼない、釈明と感謝のオンパレードである。思い付く限りの言葉を言いきったトモリは、足りない酸素を補給しようと必死に呼吸を繰り返していた。

 

◎ 良ければリスナー目線で手伝おうか?

 

「……ヒィ、フゥ、ヒュー……え?」

 

 トモリが息を整えてから顔を上げると、探索カメラの上部に映るホログラムモニターには手伝いを申し出るコメントが書かれていた。それを読んでどうしようかと一瞬だけ迷ったが、100%好意だと判断し甘えることを選択する。

 

「ありがとうございます。是非是非、お手伝いお願いします!!」

 

◎ 任せたまえ、泥船に乗った気持ちでいてくれ

 

「いやいや、そこはでっかくて頑丈な船に乗らせてくださいよー」

 

 雑な漫才を挟んだが、こうして初めての配信は視聴者を交えてのテンプレート作成となった。

 

「まずは《共有》の能力について詳細を説明しますね」

 

 現状、トモリが共有できるのは五感だけ。

 共有する相手は、お互いに認識している必要がある。

 それに対して相手が拒否することはできない。

 

◎ ちょっと試したいことがあるんだけど良いかな?

 

「はい? 何をすれば良いですか?」

 

 それに加えて、NBWが思い付いたことを2つ検証した。

 

 共有した状態で相手が配信を閉じた場合、効果は継続するのか?

 答え、閉じた後も10秒程度続いた。

 

 改めて配信に入り直した後、コメントに書き込まなくても対象に取れるか?

 答え、取れませんでした。

 

 そんな感じで新たに得た情報を加えながら注意事項を決めていく。多くの新人を見てきた有識者が協力してくれたおかげもあり、無事にテンプレートは完成した。

 

◎ 初見。もう探索終わった感じッスか?

 

 完成した説明を試しに述べようとした矢先、タイミング良く新たな視聴者が現れコメントを書き込んだ。

 

「ウミタクナイさん。初めましてー、コメントありがとうございます。色々あって、今日は雑談タイムですね」

 

 そのコメントを拾って、名前を呼んで挨拶をしながら現状を伝える。

 

「ところで、この配信特有の視聴者にも伝えられるユニークスキルがあるのですが体験してみませんか?」

 

 そして、早速《共有》についてのアピールを開始した。これが対面であれば途轍もなく胡散臭い勧誘である。唯一の救いは、配信主であるトモリが純粋そうな見た目をしていることだろうか。いや、それは余計に怪しくなる要因かもしれない。

 

◎ ユニスキッスか? 気になるんで説明おねしゃッス!!

 

 しかし、幸いなことに新たな視聴者は乗り気だった。好奇心旺盛なのか、画面越しのやり取りであったためか、離れることなく興味を持ってくれたようである。

 

「ありがとうございます。俺の《共有》は、五感を相手にもお届けできるスキルでして――」

 

 早速、出来立てほやほやの説明を始める。栄養素は届かないことを伝えるのも忘れることなく、相手の嗜好も聞いて、共有の許可も取ってからスキルを発動した。

 

◎ すげぇッス!! 何も食べてないのにめっちゃ甘いッス!!

◎ ホント不思議だよね

 

 新しくやってきた視聴者も、これには驚きであった。ついでに、便乗したNBWも再び共有を享受している。

 

「無事伝わってなによりです。今日のところはこの辺りで終わります。お付き合いいただきありがとうございました」

 

 挨拶テンプレートの慣らしも終わり、《共有》を体験するコーナーの開設もできた。配信を開始してから30分経過していたこともあり、初配信を終わらせるにはキリが良いと判断してお開きにする。

 

◎ お疲れ様

◎ 乙ッス!!

 

「はい!! 急な予定が入らなければ明日の同じ頃にまた配信します。ではでわー」

 

 カメラに向かって大きく両手を振りながら締めの挨拶をする。そして、遠隔で配信を終わらせる操作を行った。

 

「……ヨシ、見事に成し遂げました」

 

 配信が終わっていることを確認してから、トモリは安堵の声を漏らす。誰も来ないかもと不安に思っていたが、幸運なことに2人の視聴者が来てくれた。次回も来てくれるかは分からないが、なかなかの好感触を掴めたとは思う。

 数字だけ見れば小さなことであるが、彼にとっては満足いく成果だった。先ほどまでの視聴者とのやりとりを思い出し、反芻しながら軽い足取りでダンジョンを出る。

 

 各ダンジョンに隣接する探索者協会の出張支店に入り、借りていた装備と機材を返却すると、更衣室でロッカーに預けていた私服に着替える。これで、ようやく探索者モードから平凡な日常モードに戻ったのだ。

 

 明日共有するためのお菓子は何にしようか。ご機嫌なテンションのまま、食費を少しだけ削って配信用のお菓子を買い足そうと心に決めながらスーパーへと寄るのだった。




【あとがき】
・トモリ
 探索者資格を取得したので、GWの開始に合わせて配信をスタートした新人DTuber。
 大きなリアクションを取ったり、少し喋りが可笑しいのは小さな子たちがキャッキャと喜ぶのでやっていたら癖になってしまったため。
 配信者名の由来は、親しい人からの愛称……なのだが、配信上で使ってしまったために公共の場で呼ばれることは少なくなってしまった。

・NBW
 トモリの配信へ最初に来訪した視聴者。
 DTuberに携わる仕事をしており、プライベートでも新人を中心に色んな配信を見て回ってこうしたら伸びそうなど考えるのが趣味。ただ、厄介リスナーには成りたくないので勝手に口を出す事はない。ちなみに、NBWとは「Newbie Watcher」の略称である。「b」は何故か大文字。

・ウミタクナイ
 配信の終わり頃にやって来た2番目の視聴者。
 この時期になると色んな新人DTuberの配信を渡り歩き、有望株を見つけるとコメントを残している。理由は、とある掲示板の常連でバズったときに最古参マウントをするため。
 伸びると思った配信者のことをSNSや掲示板で拡散するので、参謀の狙い通りに行動を起こしてくれそうである。

・探索者協会
 ダンジョンによる大騒動が落ち着きを見せた頃に、新たに設立されたダンジョン庁の下部組織の1つ。主に、探索者の管理とサポートを担当している。職員の全員が一定以上の強さを持っており、非常時には戦力として駆り出される。

・ダンジョン関係の高校
 探索者資格を取得するために教育してくれる学校で、探索者学校と呼称されることが多い。卒業すれば高卒認定も取れるため、一般科目の授業や試験もあり、単位を落とすと留年してしまう。
 ちなみに、一般的な探索者学校は3年掛けて一番下(下級)の探索者資格を取れるようカリキュラムが組まれている。トモリが通う学校のような一部の探索者学校が狂っているだけ。

・精神系のスキル
 トモリ以外にも配信で使っている人は居る。
 しかし、視聴者の中から1人だけといったように絞り込むことがなく、カメラを対象に取っていたために今まで判明してなかった。
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