トモリと《共有》しませんか?   作:ロヒキア

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#06a. 【スキル《共有》】トモリ、ゲストと探索します【DTuber】(前編)

 検証に使った機材の片付けが終わると、大学教授とその一行は猛スピードで去って行った。帰り際に名刺を渡されたことから、もしかしたら《共有》に興味を持ったのかもしれない。

 

 他の大人たちも撤収し、志乃の父である誠も仕事関係の話をするので一旦席を外した。残された2人は待っている間、残りのお茶をゆっくりと消費しながらのんびり過ごしている。

 

「そうだ。友真(ゆうま)はミサクと同じで専業探索者を志望してるのだったな?」

「え? ああ、そうですね。DTuberもやりながら本業にしたいと考えてますよ」

 

 まだお互いのこともほとんど知らないので、自然と2人の共通点である探索者の話となった。

 

 専業探索者とは、名前の通り探索者の仕事で生計を立てる者のことである。好きにダンジョンに潜り、着々と成長しながらより先まで進んでいく。時々、協会からの依頼を受けることもあるが、基本的には自身でロードマップを決める自由業だ。

 

 将来的にはそうなりたいと考えているので、友真は上位の探索者学校へ入学して探索や戦闘といった知識と技術を学んでいる。

 

「それは良かった。探索者志望なら私にも協力できることがあるぞ」

「協力?」

「ああ、やはり考えたのだがお礼にお茶1本では全然足りてないと思ってな。それに、これからも度々顔を合わせるんだ。なら私なりに好感度を上げるにはこれが一番だと思う」

 

 お礼の件は先ほどので十分だと返そうと思ったが、続く言葉を聞いて飲み込んだ。どうやら、志乃なりに友真と仲良くなる方法を考えていたようだ。

 

「好感度って……さっきのことを引っ張りますか」

「うむ、まずは志乃と呼び捨てにしてもらうために頑張るとしよう」

 

 先ほど、好感度と言ってお茶を濁した話を覚えていたらしい。志乃の野望がいつ実現するかはわからないが、やる気に満ちているのでその日は遠くないのかもしれない。

 

「ひとまず、好感度の話は置いておきましょう。それで、協力と言うのは?」

「ああ。友真の《共有》について思ったのだが、パーティを組んだときにこそ真価を発揮するんじゃないかと思ってな。それに、視聴者の中にはこういった使い方ができるのに……と考えている者だって居るかもしれない」

 

 そこで一度口を止めてお茶を飲む。一息ついたところで、続きを話し始めた。

 

「だから、一度《共有》の使い方について視野を広げてみるのはどうだろうか。私がサポートするから、配信でやってみないか?」

「えっと……」

 

 突然の提案に、友真は少しだけ考え込んだ。特にマイナスになることはなく、むしろプラスばかりである。

 

 志乃は探索者学校の名門である聖学の2年生で、中級ソロ資格を持つ探索者だ。パーティを組んだ際のポジションは後衛であるが中衛も熟せるらしく、先輩として色々と教えられるのだろう。

 

 そして、友真はまだ配信開始から4日目の新人である。DTuber界隈では異性コラボなんて普通によくあることで、ガチ恋売りをしないのであれば何も支障は無い。なんなら、今のうちにそっち方面の売り方はしないと方針を伝えることもできる。

 

 強いて言えば、志乃が目立って友真の影が薄くなる可能性があるくらいだろうか。そこまで考えたところで、すぐに結論を出した。

 

「決めました。是非お願いします」

「良かった。なら、連絡先を交換しよう。連絡手段がないと日時を決めることも緊急時の連絡もできないからな」

「そうですね。では――」

 

 互いに取り出したスマホを起動し、連絡先の交換をする。多くの人が愛用しているメッセージアプリで、他にも通話やメモ帳の共有などができる優れものだ。メッセージは文章以外にも専用のスタンプなどもあり、お互いの登録が完了しているかの確認のために変なスタンプを数回送り合った。

 

「おっけーですね。それでは……と、そういえばこの後配信する予定でした」

 

 スマホを仕舞ったところで、今日の予定を思い出して口にする。検証が予定通り終わった場合は配信をすると告知していたのだ。

 

「……ほぅ、それは好都合だな」

 

 それを聞いた志乃は、頭の中でこの後の流れを思案する。ちょうど昼時であり、帰宅までにはまだ時間がある。父は話をすれば了承してくれるので、何も問題ないと判断した。

 

「突発ゲストとして来ます?」

「ああ、行こう」

 

 こうして、今日の配信は志乃をゲストに迎えることなった。

 

「それでは、ご飯を食べたら準備をしましょうか」

「そうだな。友真は配信の準備を、私は近場のダンジョンなどを聞いておこう」

 

 予定が決まれば、あとは動くだけである。まずはSNSでゲストありの配信についての告知を出しておく。それから協会内にある食堂へ向かい、ご飯を食べて英気を養うと各自必要な行動に移った。

 

 余談であるが、昼ご飯中に《共有》を使う許可は下りなかった。

 

 

***

 

 

 それから、2時間後。2人はそう遠く離れていないダンジョンに来ていた。協会の職員に近場のオススメを聞いたところ紹介されたのがここらしい。友真はまだ聞いていないが、志乃のやりたい内容と合致しているようだ。

 

「懐かしいな。私も去年の今頃は友真と似たような装備で探索をしていたぞ」

「聖学でも同じなんですねー。この恰好ってどこも一緒なんでしょうか?」

 

 隣接する協会の出張支店で着替えるために一度別れ、合流してダンジョンに向かう道中の会話であった。

 

 友真はいつものようにジャージを着てその上にレンタルした防刃ベストを身に纏っている。背中に背負う長剣も変わらない姿で、それを見た志乃はしみじみと昔のことを思い出していた。

 

「志乃さんは……下級とはいえ、普段着で大丈夫なのですか?」

 

 友真が不安げに口にしたように、志乃は街中を歩いても違和感のない恰好をしていた。検証中に着ていたパーカーを脱ぎ、代わりに浴衣風のブラウスを羽織っている。黒系の袖の大きなデザインをしており、青系のキュロットとの色合いからやや大人びた雰囲気を醸し出していた。唯一、協会から借りたカーボン製の近代的な弓を背負っていることだけが、探索者であることの証明となっていた。

 

「問題ないぞ。これは探索用の装備だ」

「え、それって探索装備だったんですか!?」

 

 中級探索者だから問題ないとお洒落を優先したのかと思いきや、どうやら違うらしい。

 

「うむ、そうだ。中級エリアで手に入る素材を使っていてな、軽くて丈夫だから普段着にもちょうど良い」

 

 街中を歩いていても違和感のない姿でありながら、ちょっとダンジョン寄ろっかのノリでそのまま探索ができるのが強味。志乃曰く、探索者を生業にする人はダンジョン資源を使った服しか着なくなることが多いとのこと。

 

「身内話になるのだが、聖学の制服は自分で採って来たダンジョン資源を使って作る習わしがある。入学時は一般の素材からスタートして、一定量の資源を学園に納付すると新しい制服を作ってくれるんだ」

「へぇ、面白い風習ですね。そうやって、一目で実績がわかるようにしてるのですか」

 

 聖学は実力主義を謳っている学校である。制服についてもその一環の1つで、教師からの評価が薄らとあったり、友人グループも同じぐらいの実力で固まったりするのだとか。

 それでいて、質の悪いカーストが起きてないのは生徒会が統率をしっかり取っているからと噂されている。

 

 ちなみに、聖学は境専の隣県でそう遠くない場所にある。共に上位に位置する探索者学校であり、理事同士も旧友の関係であることから学校同士の交流もたまにあった。

 

 そんな風に雑談をしながらダンジョンの中へと入ると、友真は配信の準備を始めた。いつものように協会から借りて来た探索カメラを起動させ、2人が綺麗に映っていることを確認する。

 

「ほぅ、DTuberをするには特別なことが必要かと思ってたが違うんだな。協会に情報を送るのとほとんど変わらないのか」

「そうですね。違うのは、NicoTubeとアカウント連携して配信の枠を立てるぐらいです」

 

 事前に立てていた配信枠を開くと、チャット欄には幾つか書き込まれていた。待機と一言だけの者や、ゲストを予想する者、どこか見覚えのある知り合いのHNなど様々である。

 

「ヨシ、準備ができました。いつでもスタートOKですよ」

「解かった。では、カメラに映らないように一旦離れよう。挨拶が終わったら呼んでくれ」

「了解です! それでは……あっ」

「どうした?」

 

 いざ、開始……の直前、ふと大切なことに気付いた。ボタンを押そうとした手を止め、志乃の方に振り向いて問い掛ける。

 

「そういえば、配信中は何と呼べば良いですか?」

「……あっ、そうだな。少しだけ考えさせてくれ」

 

 DTuberは、基本的に本名をそのまま使う者は少ない。幾つか理由があるが、身バレ対策だったり日常とは違う自分を演じたいからだったりが主だ。

 

「確か、友真……いや、トモリは苗字の一部から取ってるんだったよな?」

「そうですね。“みなともり”なので、トモリだけ抽出しました」

「……ふむ」

 

 名前の由来を聞いた志乃は、顎に手を当てて少しだけ考え込む。そして、数秒ほどですぐに決めた。

 

「クシノと呼んでくれ。苗字の1文字目と、下の名前だ。これなら意識しなくても私の名前だと認識できる」

「クシノさんですね。はい、バッチリです」

「……むぅ」

 

 さり気なく呼び捨てにさせようとした志乃であったが、狙いは外れる。ここで無意識にでも言わせていれば押し切れると考えていたが、残念ながら上手くいかなかったようだ。

 

 そんな少し不満げな反応をトモリは聞き流し、今度こそ開始の操作を行う。

 

「それでは改めて、スタートします!」

 

 そして、配信が始まった。

 

 

***

 

 

「みなさん、こんにちはー! 2日ぶりです。新人なのに急遽休んだり、ゲリラ寄りの配信になったりしてすみません!!」

 

◎ こんちゃー

◎ ええんやで

◎ むしろ、検証頑張ってえらい

◎ 協会からの公式な発表楽しみにしてんで

◎ ガルウィングたすかる

 

 謝罪の言葉を述べて深々とお辞儀をすると、今回も両手が後ろに高く上がった。これまでと違って由緒正しき構えをするつもりはなかったのだが、ピシッと両手を伸ばしていたために無意識にしてしまったのだろう。

 

 今まではその構えに対して触れる視聴者は居なかったが、母数が増えたおかげか反応もちらほらとあった。なお、カメラの外で待機する志乃は何とも言えない表情でその様子を眺めている。

 

「寛容なコメント感謝です! それでは、まずは俺のユニークスキル《共有》についての説明と注意事項から伝えます」

 

 いつものように、どういった能力なのか説明をしていく。もちろん、カロリーゼロ理論が成立していることも忘れない。

 

「それと、もし五感に難を持つある方が居たら、申し訳ないのですが暫くは我慢をお願いします。まだ検証回数が少ないので何が起こるか解りません。隠して《共有》した結果、何か悪いことが起きてもこちらでは責任を取れないことをご理解ください」

 

 今回からは注意事項が1つ増えたので、こちらも忘れず伝える。これに関しては、協会からも言われたことである。

 

「それでは、最後にお試し体験を……と、希望者の手が上がるのが早いですね。では、早かった10名の方に体験してもらいましょう」

 

 恐ろしく早い挙手コメントをトモリは見逃さなかった。前回までの配信には居なかった人たちであったことも把握済みだ。

 

 苦手な味などを聞きながら、慣れた手付きでポーチからお菓子を取り出す。今回は10人の意見がすぐに一致したおかげですんなりと決めることができた。

 

◎ おお……

◎ 何も食べてないのに鮮明な味が!?

◎ んー、ないすコンソメ

◎ パリッパリな食感まで……しゅげぇ

◎ ダイエットでおやつ我慢してたから神の慈悲を感じるTT

 

 《共有》を体験した視聴者たちの驚く反応に、今日もトモリは大満足である。一部感極まる者も居たが、無事最初の流れも終わった。

 

「事前の説明はこれで全部です。それでは、告知した通り今回はゲストを招いての探索となります。早速お呼びしますね」

 

◎ 誰かなー?

◎ 有名人?

◎ ゴリマッチョくる?

◎ 性癖の開示だとッ!?

 

 視聴者たちが予想と期待で賑わう中、トモリはカメラ外で待機するクシノへと手招きする。それを見た彼女はコクリと頷き、無言でスッと隣に移動した。

 

◎ おっ

◎ 有名人ではないっぽいね

◎ んー、これはクール系

◎ 弓使いか~

◎ 私服でダンジョンとか舐めプか?

◎ ふむ、良いシルクを使ってるね

 

 チャット欄ではクシノの容姿や装備についての書き込みが多い。その中には、最初トモリが勘違いしたように防具を身に着けていないのかと苦言する者も居た。

 

「クシノと呼んでくれ。知ってる人は多いと思うが、《共有》の検証に協力した被験者だ。お礼も兼ねて今回の配信に参加させて貰った。よろしく頼む」

 

 挨拶をして、ペコリと小さく礼をする。顔を上げると、先ほどあったコメントに対しての返答をした。

 

「それと、この服はシルキーモスの素材を使った歴とした防具だ。防弾、防刃、防衝撃、どれもトモリのベストより遥かに高性能だぞ」

 

◎ ふへー

◎ 完全に普段着にしか見えんかったわ

◎ シルモスって中級やん!?

◎ 最低でも中級以上の資格持ちってことか

◎ ほぉ、つまり年上のお姉さんってことですな

 

 基本的に探索者が纏う装備は、協会からのレンタル品を除けば自身の手で得た資源だけを使って作られている。本人の背丈に合わない物を使っていると、その性能に依存して成長に繋がらないという考えがあるからだ。

 

 ただし、それは暗黙のルールなだけであって法律で禁止されている訳ではない。なので、極稀に金に物を言わせて上級以上の素材をつかった防具でガチガチに固めた上で初級や下級のダンジョンへと赴く者も居はする。

 

 とはいえ、その姿は実力に不相応な装備を着ていて実に滑稽に見られる。少なくとも、日本では『こんな探索者は嫌だ』の大喜利で殿堂入りを果たした程度には不格好であると浸透していた。

 

◎ 初めての味はどうだった?

 

 ふと、コメントの中に今日の検証についての質問が流れた。それを見つけたクシノは、得意気な顔でそれに答える。

 

「うむ、最高だったぞ。他の人達は食事の度にあれを体験できるのは正直羨ましい。だが、トモリのおかげで私にも可能性が見えてきた。本当に嬉しい限りだ」

 

◎ そっか、俺たちにとっては普通のことだもんな

◎ かあちゃんピーマン苦くて嫌いって言ってごめんよ

◎ 親父作る飯が茶色いって文句言って申し訳ねぇ

◎ 俺も嫁の作る炭頑張って食べるわ

 

 どの質問を拾ったのか言わずに答えたが、話の内容から味覚を《共有》した件についてだと視聴者たちはすぐに気付いた。それに便乗したのか、思い思いに感じたことを書き込んでいる。

 中には大変な旦那さんも居るようだが、何やら覚悟を決めたようだった。

 

「ここで懺悔するな。本人に言って喜ばせてやれ」

「炭を食べる人は、我慢するよりも一緒に料理をしてみたらどうでしょうか? 火加減も見れますし、同じ作業を共にする時間って大切ですよ」

 

 しかし、その覚悟はインターセプトされる。

 

◎ はーい

◎ この配信が終わったら言ってくる

◎ 一緒にか……そうしようかな

◎ イイハナシダナー

◎ やさしいせかい

◎ やさいせいかつ

 

 そして、今日もまた1つ平穏が増えるのだった。




【あとがき】
・シルキーモス
 森林タイプの中級エリアに生息している蚕の成虫に似たモンスター。毒の鱗粉も撒き散らし、風魔法で遠くまで飛ばしてくる害悪タイプである。耐久力は低いが、他のモンスターと共に襲ってくるので遠距離から攻撃する手段が有効。
 ドロップ品の中にシルクに似た軽くて丈夫な生糸があり、それを使った衣類を志乃は好んでいる。

・ヨメガメシマズニキ
 嫁と一緒に料理のさしすせそから勉強中。その日の晩は肉じゃがを作ったが、砂糖と片栗粉を間違えたためにギリギリ不味くないけどナニコレェ的な肉とジャガイモの煮物となった。
 2人で笑い合いながらなんとか完食した。
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