「そんな訳で、本日はクシノさん主導による俺の育成配信となります。なにやら、《共有》の使い方に関して名案があるそうなので凄く楽しみです」
「過剰な期待はしないでくれ。トモリが言ったように、《共有》で試したいことがあってな。2年生で習う内容になるが、やってみて損にならないと思ったから提案してみたんだ」
◎ なるほどね
◎ 2年生ってことはアレかな?
◎ ダンジョン鬼ごっこか!
◎ いんや、攻略TAと見たね
◎ 索敵だろか
◎ ふむふむ、縛りプレイだな
クシノの説明を聞いた視聴者たちは、何をするのかの予想で盛り上がっている。探索者エアプが多いのか、DTuberの企画であるような物ばかりが並んでおり、正解もあったが他に埋もれていた。
「ひとまず、何をするかは探索しながらにしようか。トモリ、ダンジョンの説明を頼む」
「オーケーです。今回来ているのは、蜘蛛の巣タイプの洞窟になります」
ダンジョンの特徴について説明をしながら、先にある階段を降りていく。
蜘蛛の巣タイプは、最初の部屋から道が四方八方に広がるダンジョンだ。道を選んで進むと小部屋があり、また同じように道が分かれている。そうやって探索を進めていくのだが、そのルートが正解だとか限らないのが厄介な点だ。順調に進んでいるかと思いきや、先にあるのは行き止まりなんてことがザラである。
しかも、深い層まで潜ると察知能力の高いモンスターも現れるようになり、戦闘音を聞きつけて四方からモンスターが追加で雪崩れ込んで来ることもある。とはいえ、下級エリアでは滅多に起きないことなので今回はあまり気にする必要はない。
「前回探索した直線三差路タイプとは違い、マッピングをしながら探索する必要があります。視聴者のみなさんに記憶してもらう方法もありますが、それは本当に最終手段ですね」
◎ 蜘蛛の巣型かー
◎ ちゃんと覚えてないと右か左かも解らなくなるんだよね
◎ 真の最終手段は協会に助けを呼ぶもあるぞ
◎ 迷惑掛ける上にお金も払う血の代償定期。
コメントでも蜘蛛の巣タイプの厄介さについて書き込まれている。洞窟型の中でも特に嫌われている構造であるのだが、そのおかげか2人以外に探索者は居なかった。
「着きましたね。では、まずはマッピングから始めましょうか」
「今回は互いに描くことにしよう。最後に見比べて添削する時間を設けようか」
「分かりました」
階段を降りて辿り着いた小部屋には、4つの道が続いていた。正面に1つ、左右に1つずつ、階段をグルッと回った後方に1つである。
「手本のように四方に分かれているな」
「東西南北綺麗に分かれてそうですね」
◎ 実質チュートリアル
◎ 初心者に優しい設計
◎ これなら縦横操作だけでも一安心
キャッキャとゲーム気分なコメントを他所に、2人は紙を取り出して地図を描き込んだ。数秒の内に作業を終え、早速アンケートを取る。
「今回は進む道を投票方式で決めていきましょうか。2番目に多い案を採用していきます」
1番人気にしないのは、ちょっとしたエンタメも兼ねてである。そうすれば2番狙いで他のライバルをトップに押し上げようとしたり、作戦が空回って最下位に転落したりと結果が読めないのだ。
そして、短期決戦による10秒で終わった集計結果は――。
「47%、44%、5%、4%……見事に偏ったな」
「正面1位、後方2位と僅差で争って……左右は残念ながら不人気でしたね」
◎ くっ、裏をかいて後方入れるべきだったか
◎ っしゃ! 狙い通りだぜ!!
◎ むぅ……左派仲間は居らぬのか
◎ え、右手理論ダメなの?
◎ ギリギリセーフ
コメントでは、早速結果に対しての書き込みが散乱している。もっとバラけるかと思っていたが、意外に偏るようだ。
◎ ゲームだと正面が正解なこと多いし
◎ 階段の裏とか隠し通路っぽくて良いよね
◎ わざわざ回り込む必要あるのが怪しい
◎ 実はボスへの直通ルート
ここでも変わらずゲーム脳な視聴者である。
「いや、ゲームの理屈で決められても困るんだが」
「解りませんよ。視聴者さんの中にはベテランの勘で決めた人も居るかもしれませんし」
事実、暇な時間にDTuberの配信を見る探索者は意外と多い。トモリの言うように、視聴者の中には探索者を名乗るコメントもあった。
◎ 俺、中級探索者だけど右だと思うわ
◎ 後方ガ正解、ワタシ特級アルネ
◎ 我様、特級越えた超特急なんだけど正面が当たりとだけ言っとくわ
ただし、それが本当なのかは定かではない。
「トモリ、気を付けろ。どうやら視聴者の中に法螺吹きが紛れ込んでるようだ」
「あはは、きっと中には真実も混じってますよ。超特急は確実に偽物ですけど」
「サイコロ3つ振りそうだしな」
「自分で振って何ですが、この話は長くなりそうなので止めておきましょう。ほら、視聴者さん達もそのゲームの話で盛り上がらないでください」
電車で全国を巡るボードゲームの話で盛り上がり出したコメントを制する。このままだと、雑談配信になると学習していたからだ。
脱線しそうな空気を一掃して、2番目に票の多かった後方の道を進む。通路に入り、横に2人並んでも少し余裕がある程度の道を進む中、クシノは1つの課題を出した。
「探索中の動きについてだが、まずは索敵からやっていこうか」
「分かりました」
索敵は、進んだ先にモンスターや罠があるかなどを先行して調査する作業だ。気配を消すのが上手な者や、咄嗟に逃げられる身軽な者が担当することが多く、これができればパーティ内での役割を増やすことができる。
「覚えるのは中級に上がってからでも問題ない。けど、トモリの場合は《共有》があるから練習も兼ねて今回はやって欲しい」
「《共有》があるから、ですか?」
「そうだ。本来、索敵は得た情報を戻ってから口頭や紙に描いて伝える必要がある。だが、トモリであれば五感で得たものをそのままリアルタイムで仲間に伝えられるんだ」
◎ うわ、なにそれ超便利
◎ いや、けどさ。それってドローンとかに斥候させりゃ良くね?
◎ あー、映像越しに先を見るとかやるよな
◎ 配信でよく見かけるよね
◎ おまえら……さてはシロウトだな?
斥候の役割についてクシノが述べるが、コメントではドローンなどを使えば良いと言う者が多かった。一部、有識者らしき数名は何かを知っているようで彼女の考えに賛同している。
「確かに、コメントの言う通りドローンを使う手もある。ただ、カメラ越しの映像では捉えきれない物も多い。だから、上級エリアより先での斥候はそれだけで価値が高くなるんだ」
「聞いたことがあります。上級の中にはカメラに映らないモンスターも居るって」
「そうだな。有名どころだと、スカイフィッシュというモンスターが居る。他にも、偵察に出したドローンがレイスの団体を連れて帰ってきたなんて話もあるな。それ故に、上級ではドローンを出すぐらいなら索敵せずに突っ込んで臨機応変に対応した方がマシだと言われている」
◎ あぐっ!?
◎ 言われみれば斥候配信って中級までしか見た記憶ないわ
◎ お、俺は気付いてたし
◎ ままままあ常識だよね
◎ 探索者系の学科1年後期で習うぞ
クシノの説明のおかげで、トモリも視聴者たちも納得できた。震える声で知ったかぶりをする視聴者も居たが、プライドが高い生き物なので優しくしてあげて欲しい。
「それで、ここまで話した内容だと別に今やらなくても良くね、と思われるかもしれない」
「……あー、確かに話の繋がりがないですね」
今の話だと、中級に上がってから習っても遅くはない。ただ、それでも今やるという事はちゃんとした理由があるのだろう。
「そこで《共有》の話に戻る。トモリの視覚を共有しながら、視線の動きなどをアドバイスしていくのが1つ。もう1つは、離れた場所で待機している仲間を認識できるかの検証だな」
「ふむ……前者は理解できました。俺が学べるのに加えて、視聴者さんも探索中の視点を共有ができて万々歳です。けど、後者で思いつく手段は現状ではサイズ的理由で難しいですね」
探索中の映像を地上に送ってコミュニケーションを取れるのは、探索カメラが特殊な作りをしているからだ。魔力を用いた特殊な電波を飛ばし、それを近くにある探索者協会の出張所に設置された受信機が受け取っている。そこから配信サイトへ送り、視聴者たちに届けている。
つまり、受信機を所持していれば理論上はダンジョン内でも配信を見ることは可能だった。ただし、大量の情報を高品質で受信できる物となると大型の冷蔵庫サイズになるため、普通の探索者が持ち運ぶのは現実的ではない。
探索カメラがコメントを受信できるのは、最小限の情報だけに絞っているからである。故に、ダンジョン内で配信を見るという手段は取れなかった。
◎ なるほど、今まではお菓子食べる以外に《共有》してなかったもんな
◎ 嗅覚でダンジョン内の臭いがどうなるか気になる
◎ ダンジョンの壁ってどんな感触なのかな?
◎ あれ? 意外と探索したことない人多め???
そんな配信以外の手段について思いめぐらすトモリを後目に、視聴者たちは味覚以外の感覚を《共有》することについて賑わっていた。初級エリアであれば無資格でも探索できるのだが、怪我のリスクや運動音痴といった理由から一度も経験したことが無い人が意外と居るようである。
そういったコメントが目に入ったトモリの頭には、ダンジョン探索の感覚を味わえる疑似VR体験とか需要ありそうだな、と新しい案が浮かんでいた。
それからすぐに2つ目の小部屋に辿り着き、何もないことを確認すると、クシノが話の続きを口にする。
「待たせたな。視覚共有で盛り上がってるところ申し訳ないが、後者の手段について話そう。これが試したい物だ」
取り出したのは、2対の小さな無線機だった。
「声を届ける通信機器だ。協会から借りてきた物になる」
「短い距離で連絡し合える……そっか、それだとスマホの代わりになりますね」
「ああ、配信越しに《共有》できる事に気付いたのは通話中だったと聞いている。ならば、これで代用できないかと思ってな」
◎ なるへそ
◎ その手があったか
◎ へー、どうやって配信で共有できるの知ったかと思ったらそういう事か
◎ ダンジョン内だとスマホ繋がらないもんね
無線機は、嘗て探索者の必需品になっていた道具である。複数の人員を配置し、定期的な連絡を取りながら探索を進めていた。それが、探索カメラの開発により直通で地上に情報を送れるようになったため使われなくなった。
今では骨董品の扱いだが、それでも愛用している一部探索者や、複数パーティで探索する際に利用されるので探索者協会の各支店には残されている。それをクシノは借りてきたのだ。
「トモリのはイヤホンで聞けるようにしている。これなら私の声が漏れることもない」
「ありがとうございます」
トモリにイヤホンと無線機を渡すと、クシノは一度小部屋から出て行った。起動すると、多少ノイズがあるが彼女の声が聞こえる。イヤホンに接続して音が漏れていないことを確認すると、早速《共有》を試すことにした。
初めて電話で届けたときのように、声を頼りに相手を意識する。今見えている視界――特に目ぼしい物はなかったので、配信画面の方へと視線を向けてクシノに届ける。
『おお!? トモリの見ている物が私にも届いてるぞ。視覚を共有すると頭に浮かぶのか』
どうやら、無事に上手くいったようだ。これで離れていても問題ないと確認できたので、クシノは小部屋へと戻って来た。
「ふむ、鏡もないのに私が見えるというのは不思議なものだな。目を瞑ればTPS視点で動くこともできそうだぞ」
トモリの視界が共有された状態で、クシノは楽しそうに動きを確認している。
◎ なにそれ、楽しそう
◎ トモリー、僕にも視覚共有してー
◎ おれもおれもー
◎ クシノちゃんって意外にゲーマー?
その姿を見た視聴者たちも、心躍らせるようにお願いしてきた。
「よし、大丈夫そうですね。視聴者のみなさんも興味津々ですし、希望者は名乗り出てください。沢山居た場合は交代制にしますね」
◎ 興味あるから頼む
◎ あ、俺も視覚共有してー
◎ 我も我もー
◎ ノ
希望者を募ると、沢山の視聴者たちが名乗り出た。一度に全員はできない人数だったので、今回も先着順にする。
「では、最初に書いた10人から共有します」
いつものように、視聴者のHNを読み上げながら《共有》していく。チャット欄で思い思いの反応を見届けると、この状態のまま索敵に赴いた。
『壁に寄り過ぎだ。当たらない程度に距離を取ってくれ』
時々、イヤホン越しにクシノからの声が聞こえる。彼女がこの1年間で得た知識と経験を基に、適切なアドバイスが飛んできた。
◎ 斥候してるから俺もアドバイスできるよ。歩くときの足の動き見せて。
他にも、探索者だと思われる視聴者からのアドバイスも書き込まれる。言われた通りに視線を足元に向け、助言により動きが先鋭化されていく。
◎ 足りぬ。もっと忍びの心で歩くのだ。
◎ よし、次は千鳥足だ!!
ただ、中には適当な助言をする人も混じっているので、本当に信頼できるかの見極めは必要そうだ。
そうこうしながら進んで行くと、広い空間が視界に入った。中にモンスターが居る可能性を考慮して道中よりもさらに気を付けながら慎重に移動し、バレないように入口の壁に身を隠して中を探る。
「Gu?」
「Guu」
「Guruaaaa」
全部で7体のモンスターが居た。キョロキョロと辺りを探りながら、たまに鼻をスンスンと鳴らしている。
『リザードマンだな』
リザードマンは、爬虫類の姿をしたモンスターだ。強固な鱗の皮膚を持ち、鋭い爪や牙を持っている。二足歩行と四足歩行の個体が居るが、今回は7匹とも二足歩行のタイプのようだった。下級エリアの中では危険な部類に入り、前回戦ったゴブリンなど何十匹集まっても返り討ちにできる強さを持っている。
『嗅覚が鋭い個体かもしれない。気付かれる前に戻って来てくれ』
もう少し様子を見たかったが、すぐに帰還するよう指示が出たので引き返した。
「期待通りの成果だったな」
「ええ、おかげで《共有》の可能性が広がりました。まさか、こんな方法があるとは」
志乃の元へ戻ると、どう戦うか決める前に使用感について話し合う。
◎ トモリ視点楽しかった
◎ 目を瞑ると俺も探索してる気分になれたわ
◎ いいなー
◎ ふむ、トモリは優秀な斥候になれそうだ
◎ 次はおいらにもお願いッス
コメントでも、視覚を共有した配信に対して高評価のようだ。
「気になったのだが、《共有》で認識する近くとは視界内なのか? それとも、距離なのか?」
「視界内ですね。ただ、一度認識すれば壁などに隠れても大丈夫です」
「ふむ、その認識した状態で……例えば、トモリが知らない内に遠くに離れた場合はどうなるんだ?」
「あっ、それは試したことないですね。今度試してみましょう」
◎ それは確かに気になるな
◎ もし認識できなくなったら壁に居ないってことじゃん
◎ FPSだったらチートやんけ
◎ 壁の中にい……ない
《共有》についての評価が落ち着いたところで、本題に入る。
「それでは、リザードマン7体を相手にどう戦うか決めようか」
「そうですね。まずは奇襲、部屋の20メートルぐらい手前から一気に駆け抜ける形はどうですか?」
嗅覚が鋭いのなら、こちらの匂いが届かない位置から一気に距離を詰める。そう考えたトモリは案を出した。
「私も賛成だ。なら、あとは奇襲後の動きだが……トモリは近くに居るやつから順番に倒していってくれ。それ以外は私が仕留めたり牽制したりしよう」
「分かりました。後衛は任せます」
トモリを前衛に、後ろからクシノがサポートする。方針が決まったので、早速モンスターの待つ小部屋へと向かうことにした。
「ッシッ!」
小部屋が見えると、すぐに2人は動き出した。トモリが先行して入り、一番近くに居たリザードマンの喉元に長剣を突き刺す。
全体的に硬い鱗の皮膚を纏っているが、首回りや関節、脇の下といった部位は身体の構造上どうしても柔らかい必要がある。それでも柔軟性があり切断は難しいのだが、魔力で強化された一撃の前には無力だった。
「「「「「「Guruaaaaaa!!」」」」」」
仲間が殺られたことで、残る6体が敵の存在に気付き咆哮を上げる。トモリの方へと殺意を滾らせ突進して来るが、その動きはクシノが牽制した。
「はっ!」
「「「Gya!?」」」
彼女の魔力で作り出された矢が弦に弾かれ放たれる。放たれた矢は6本に分かれ、それぞれ1本ずつリザードマンへと突き刺さった。内3体の片膝を打ち抜き、転倒させる。そして、残る3体は額を撃ち抜かれ力尽きていた。
「ふっ!」
無防備となった1体の首を縦に払って跳ね飛ばす。起き上がろうとするもう1体に近付き、同じように首を横振りで切り離した。
そして、次……と行こうとする前に太い矢が通り抜け、こちらへ走り出そうとしていた最後の1匹の顔面に大穴が空いていた。
「戦闘終了だな。最後のは余計だったか」
「お疲れ様です。いえいえ、十分見せ場は作ってもらえたので大丈夫ですよ。ありがとうございます」
下級エリアであるだけに、やろうと思えば最初の1矢で残る6匹全てを屠ることもできていた。中級レベルの探索者であれば、そのぐらいのことは簡単に熟せる。
◎ うーん、強い
◎ 弓を弾いて打つのが一瞬だった
◎ トモリの動きも良いんだけど、それ以上にクシノちゃんが強ッってなる
◎ さす中級
それでも全てトモリ任せにはしたくないのと、自身の技量を証明するために程よいぐらいには動いた。それらはしっかりと探索カメラに映っており、クシノの実力も伝わったようだ。
「ドロップ品は皮素材が多いですね。爪や牙もありますが、これなら買い取り額も期待できそうです」
「皮は売らずに防具の素材にしても良いな。これなら下級防具としては上等な物が出来そうだ」
「それは良いですね。防具の素材どうしようか悩んでたのでちょうど助かりました」
いつまでも協会からのレンタル防具では恰好が付かない。クシノの提案を採用し、トモリは頭の中で必要な数の計算を始めた。
「……うん、半分ずつに分けるとしてもあと4体分集めれば足りそうですね。今度個人でも潜ってみます」
「皮は全てトモリが貰って良いぞ。それ以外を売った分から皮代を差し引いてくれれば大丈夫だ」
「え、良いんですか!? ありがとうございます」
トモリの育成が目的であるが、稼ぎの等分は半々と事前に決めていた。譲り合いなどがないのは、互いが対等であるという意味でもある。
「では、またどの道を行くかアンケートを取りましょうか。引き返すのは無しだから、3択になります」
最初の部屋と同じように4方向へと通路が分かれている。再び視聴者に選択権を与えて、次への道を決めるのだった。
それからも、索敵と戦闘を交互に繰り返していった。配信開始から1時間半ほど経ったところで帰ることを選び、トモリがマッピングした地図を見ながら入口へと向かう。
「……ふぅ、無事に帰って来れましたね」
「ちゃんと戻って来れたな。あとは、添削の時間といこうか」
そこそこ深くまで潜っていた事もあり、帰ってくるのに30分を要した。入口まで戻って来たので、描いた地図をみんなで評価する。
「トモリはもう少し地形に目を向けた方が良さそうだな。この辺の情報はスタンピードに遭遇したときの撤退時に役立つぞ」
「なるほど」
◎ ふぇー
◎ トモリの地図は情報が少ないな
◎ あとは描くのも遅かったぜ
◎ クシノちゃんはトモリの三分の一も掛かってなかったぞ
道については問題無かったが、クシノが描いた物に比べて情報の乱雑さが目立っている。それに、時間を掛け過ぎているのも課題のようだ。彼女のアドバイスを聞き、コメントの中で有益そうなのも拾いながら、自身の描いた地図に学んだことを書き足していった。
「お付き合いいただきありがとうございました。未熟な姿ばかり見せて少し恥ずかしいですね」
「トモリは考え過ぎだ。等身大の姿を見せた方がみんな喜ぶし、配信始めて一週間も経ってない新人が無理に背伸びしても格好悪いだけだぞ」
◎ せやで
◎ そうだそうだー
◎ まだ蝉も生きてる日数なんだぞ
◎ マンネリを感じてから考えやがれー
◎ 成長コンテンツを最初から追える楽しさがあるんだよ!
「ほら、ファンの人もそうだそうだと野次っている」
「そうですね、ありがとうございます。良ければこれからも俺の成長を見守り、一緒に楽しんでいただけると嬉しいです」
まだまだ反省ばかりで改善すべきことは多い。それでも、今を楽しんでくれている人達の言葉をしっかりと受け入れ胸に刻んだ。
「それでは、今回の配信は終わりとなります。みなさん、お疲れさまでしたー」
「お疲れさまでした。また呼ばれる機会があればよろしく頼む」
終わりの挨拶をして、配信を終了させた。
***
「……ふぅ、意外と肩肘張るものだな」
「ですよね。長時間ずっと自然体でいられる人はどうやってるのでしょうか?」
ダンジョンを出て一式を返却した後、2人はお昼を食べた食堂に帰って来ていた。
「しかし、恩を返した筈なのにまた恩を貰う事になるのか」
「そこまで難しく考えなくて良いですよ。一緒にご飯を楽しみましょう」
時間は夕暮れ。少し早いが、探索したこともあり早めのご飯を食べることにした。こうなることを予想していたため、協会には事前に食事のお願いをしている。
今回もまた検証を兼ねているのだが、データ取りのない普通の食事だ。ただ、念のため何かあれば医療スタッフが飛んで来れるようにはなっていた。
「機材が無いのは気楽ですね」
「昼ので十分データは取れたようだしな。あとは食後に治療ポーションを使うだけだ」
疑似的に味覚を脳に感じさせ、この感覚が無いのは欠陥状態なのだと認識するようになるかの検証も始めていく。もし上手くいけば、《共有》しなくても味が分かるようになれるかもしれない。
「今回はお子様ランチか」
「玩具や旗は無いですし、大人様ランチと呼ぶべきでしょうね」
食堂の人が特別に作ってくれたのは、ハンバーグにエビフライ、オムライスなどがワンプレートの上に盛り付けられた料理だった。飲み物にオレンジジュースも備え付けてある。最近では、大人用でもこういった1つのお皿に色んな料理を盛り付けたメニューを置いている店も増えているらしい。
「では食べましょうか。どれからいきますか?」
「……そうだな、エビフライから頼む」
志乃の希望に従い、箸で掴んだエビフライを横にあるタルタルソースに軽く付けてから齧りつく。少し酸味のあるマヨネーズの味と、濃厚な卵とレモンの風味が口いっぱいに広がった。
「んんっ、これがエビフライなのか。いつも周りの子たちが嬉しそうに食べてたから気になってたんだ。サクサクの食感は分かるのだが、こんな味だったんだな」
まるで子供のように喜ぶ彼女の姿に自然と笑みが零れる。ゆっくりとエビとソースの調和を味わってから飲み込んだ。
「志乃さんは一度に食べきるタイプですか? それとも、三角食いするタイプですか?」
「いつもは食べきるが……今回は三角食いで頼む」
次はオムライス、その次はハンバーグ。今度はエビフライにタルタルをたっぷり付けて、その後はオレンジジュースを一口。
「うむ、どれも凄く美味しいな」
「ええ、本当に美味しいですね」
美味しそうに食べている今の志乃は、探索中のキリッとした姿は無くただ食事を楽しむ可愛らしい少女である。
友真も普段以上に嬉しそうに一口一口食べ、とても有意義な時間を過ごした。
【あとがき】
・トモリ(湊森友真)
今回は生徒役として配信しながら探索をした。自分の視覚を共有して色々アドバイスを貰えるのが新鮮で楽しい。
その時、ふと閃いた! このアイディアは、自身のトレーニングに活かせるかもしれない!
・クシノ(久住志乃)
味覚共有のお礼として探索の手伝いを申し出た。魔法で作った矢を弓で射る戦い方を得意とする後衛タイプであるが、短刀を使った近接戦も問題なくできる。
配信以外での認識方法として、無線機以外にも発信機や盗聴器なども候補に考えていたが、この案はストーカー疑惑を持たれそうだなと思い却下した。
・スカイフィッシュ
長い棒状の胴体にヒレのような羽根が付いた不思議な外見のモンスター。高速で空を飛び回ることと、顔が魚に似ていたために有名なUMAの名前が付けられた。特殊な体質でカメラに映ることはない。
・レイス
大きな布を被って全身を隠した半透明のモンスター。無音で空を浮遊し、ドローンや探索カメラを追いかける習性がある。1台のドローンに引っ掛かった数の最高記録は二桁後半らしい。
・リザードマン
爬虫類に酷似した姿を持つモンスター。今回は二足歩行型だったが、四足歩行型も存在している。両方のタイプが群れを成して襲ってくると、上下に注意を向ける必要ができるので地味に面倒である。