トモリと《共有》しませんか?   作:ロヒキア

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#07. 湊森友真の日常:休み明けの学生日和

 志乃がゲストとして出演した配信から6日が経ち、黄金の一週間が終わりを告げる。その間にも変わらず探索配信をしていたが、それ以外にもクラス男子で集まってカラオケやボーリングをしたり、学校の施設を借りてトレーニングをしたり、志乃と食事をしたり、いつもの3人で友情破壊ゲームをしたりと濃密な時間を過ごしていた。

 

 今日から再開する学校の授業。いつものように身支度を済ませ、始業開始の30分前に教室へと到着した。

 

「おはようございます」

「おはよー」

「あ、湊森(みなともり)くんおはよー」

「おっはー、友真(ゆうま)

 

 開けっ放しのドアから入り、朝の挨拶をする。すると、すでに到着していた数グループがこちらに気付き挨拶を返してきた。まだ入学してひと月であるが、クラスの仲は全体的に良い。やはり、地獄のような合宿を共に支え励まし合いながら乗り越えて来た戦友であるのが大きいだろう。

 

 友真は自身の鞄を机の上に置くと、手招きするグループの方へと移動した。

 

「湊森さんがDTuberデビューしたと、陽菜(ひな)は聞きました」

「良い配信だった。家に居ながら探索気分を味わえるのは高評価だ」

「ウチの学年だとトモトモがバズ二番乗りだね~」

「やっぱ、オンリーワン要素があると強かばい」

「羨望。ユニークスキル、ズルい」

 

 話題の中心は、友真のDTuber活動についてだった。野郎共には休日会ったときに直接(ねぎら)われたが、女性陣とは一週間ぶりの顔合わせとなる。メッセージアプリのクラスグループ内で情報共有されてはいたが、直接話を聞きたかったのだろう。

 もう1人友真以上に順調な者も居るが、この場には居ないので保留にされている。

 

「そうですね。興味本位で来てくれる人が多くてありがたい限りですよ」

 

 そんなクラスメイトの反応に、友真は嬉しそうに返事をした。手にはピースサインを沿えており、随分とご機嫌なようである。

 

「ただ、探索者としては時々厳しいコメントをする人も現れますね」

「そこは致しかぬ」

「下級。まだ、ヒヨッコ」

「かと言って、中級に上がってから始めても出遅れ大きいしね~」

「ぐぎぎ、初見以外のコメントが欲しい……」

 

 同時期に配信を始めたクラスメイトも何人か居て、どんな状況か話をしてくれる。やはり、新規参入が激しいこの時期は他との差別化が上手くいかないと難航しているようだった。

 

「はーっはっはっはァ。まさか不知火(しらぬい)は兎も角、君までこのボクよりも人気が出るとはやるねィ」

斑鳩(いかるが)さんはまだ始めてもないと、陽菜は認識してます」

「え、まだと? 休み前はあげんチャンネル登録してくれってアピールして回っとったとに?」

「確か、先週クラス全体にライバル宣言してましたよね。もしや、このまま不戦敗で終わるつもりですか?」

「はァ? GW中は多忙で配信できなかっただけだがァ?」

 

 中には、時間に余裕がなくチャンネルだけ作って未配信の者も居た。言い訳しているように見えるが、彼は怠惰を隠すための嘘を悪徳と考える人間なので事実なのだろう。

 焚き付けられるとより火が付くタイプだから、早ければ放課後には動き出しているかもしれない。

 

「そういえば、バズ一番乗りのヌイヌイはまだ来てないね~」

「どうしぇ寝坊ばい。今日も小夏に叩き起こしゃれとーところやなか」

「いつものように、チャイムが鳴る頃に来るでしょうね」

宝生(ほうしょう)もよくも毎日飽きずに起こしてやるものだ」

「惚れた弱みというものだと、陽菜は考察してます」

 

 もう1人、友真よりも先にDTuberデビューに成功した男の話が出た。ユニークスキル《自爆》を持ち、派手な能力と効率的な戦闘スタイルで着実に知名度を上げているクラスメイトだ。いつも朝礼ギリギリに滑り込む形で登校するのが習慣となっている。

 ちょうど話題に挙がったこともあり、朝礼までの時間で、幾つか投稿されている切り抜き動画をみんなで見ることにした。

 

「魔法連発して、近付かれたら《自爆》するから全体的に派手だな」

「羨ましい魔力量ですね。それに、また使える属性が増えてますよ」

「どれも付け焼刃じゃない。まだ完成度が低いから使ってないだけで、全属性使えると見た。多分、おそらく、きっと」

「探索中はいつもと顔つきが違うと、陽菜は見て取ります」

「同意。少し、キリッとしてる」

 

 赤、青、黄と3色の魔法弾を使い分け、危なくなったら辺りを吹き飛ばす。配信主である彼はダウナー気質で視聴者にも雑に対応しているが、それが良いと言う者たちで賑わっていた。そして、頻繁にトラブルと遭遇する体質らしく目が離せない展開が多い。

 視覚的に楽しく、想定外のハプニングがこんにちはしてくる。これぞ魅せる探索のやり方だと、1つの模範を現すような配信がそこには映っていた。

 

「おはよーさーん、全員席に座れー」

 

 探索者と配信者の2つの視点を交えながらみんなで論票を述べ合っていると、前方の戸口が開き担任の先生が入ってきた。時計にはHRが間もなく訪れる時間だと針が刻まれている。

 まだ来てない2名を除く全員が挨拶を返し、配信の視聴を止めると各自自分の席へと移動した。

 

「すみません、遅くなりました!」

「さーせん」

 

 そして、本鈴が鳴ると同時に話題の2人が教室に滑り込んで来た。

 

 

***

 

 

 私立境界(きょうかい)探索専門高校。

 それが、友真が通う学校の名前だ。ダンジョン関係の政策が整い出した頃に設立された学校で、各分野に特化した優秀な人材を育てることを方針にしている。学業以外での負担を減らすべく、生活や探索の補助制度が充実しているのが最大の売りだ。

 

 『探索科』『調査保全科』『資源工学科』が1学年に1クラスずつあり、その分野での即戦力となれるよう実戦的な知識や技術が学べる。また、進学時に希望すれば他科への転入試験も受けられる。

 

 卒業生の中には、探索者として活躍して国内のランキングTOP100に名が乗る者、裏方として十全に活躍している者、話題の新星として有名になりつつある者など、すでに結果を出している者も多い。そういった魅力があるおかげで毎年倍率は上がっており、それがまた一層境探生の質を高めるものとなっていた。

 

 そんな過酷な競争を友真が勝ち抜けたのは《共有》のおかげである。ユニークスキルという下駄がなければ落ちて一般の探索者学校に通っていた未来もあった。その場合、今頃は毎日通帳と睨めっこしながら、必死に探索者資格を取ろうと慌ただしい生活を送っていたかもしれない。

 

「――といったように、中級エリアに生息するラット系のモンスターは下級のときと動きはそう変わらない。だが、1匹1匹が段違いに強くなっているから、下級のときと同じ感覚で戦えば簡単に首を噛み切られる。なので、タンク職の者は今の内から動く意識を持っておくように……と、そろそろチャイムが鳴るな。今日やった内容は、中級試験もだが下級エリアの探索時でも注意すべき事柄になる。本当に大事なことなので気を付けろよ。気を付け、礼。お疲れさーん」

 

 本日午前最後の授業。タイムキープが得意な教師が締めに入り、終わりの挨拶をすると同時にチャイムが鳴った。道具の片付けを手早く済ませた教師が早足に退出する。

 お腹から空腹の訴えを受ける生徒たちも各自昼ご飯を食べるために各自行動を起こす。友真は、普段通りにミサクとタクトと共に食堂へ行くことにした。

 

「やっぱガッツリがえぇよな。天丼に、おかずは生姜焼きと――」

「とろろ蕎麦と月見うどんを1つずつ。おにぎり、海老天、鶏天、薩摩に蓮――」

「親子丼と塩ラーメン、ご飯大盛りと後は餃子に、サラダは増し増し。増し増しだー!」

 

 境探のメイン食堂はバイキング形式になっており、最初に支払いを済ませればあとは好きに取って食べられる。3人とも食べ盛りな上に大量のエネルギーを欲する探索者でもあるので、お盆いっぱいに乗せられるだけ乗せてからテーブル席に着いた。

 この量は普通のことであり、周りの人たちも同じようにテーブルの上に山ほどの食事が場を埋めている。その中には他と比べてさらに数倍多い筋肉眼鏡も居たが、それは関係ない話なので割愛する。

 

「ついにこの日が来たな」

「うむ、やっとレクリエーションを楽しめる」

「4月は最後まで基礎鍛錬でしたもんねー」

 

 食事をしながら話すのは、午後からの授業についてだった。この学校では午前座学、少し長めの昼休憩が挟まり、午後実技と分けられている。

 実技は、最初の1ヶ月は地味な鍛錬が続いていた。下旬に全員が合格し、GWを抜けて5月に入った今日から漸く辛い期間から解放される。

 

「今日はテニスだったな。2人は何かネタは用意してんのか?」

「バッチリですよ。この日の為にこっそり訓練しておきました」

「そうなのだ。漫画の必殺技を再現してやるのだ」

 

 テニスではあるが、何でもありのテニスである。ボールに属性を付与したり、フィールドに干渉したり、相手プレイヤーにデバフを与えたりなど直接攻撃以外は全て自由。

 ただし、ラケットを魔力で強化しておかないと一撃で圧し折れるので、手元の意識を忘れぬよう注意が必要だ。

 

 一見遊びにしか見えないが、魔力コントロールや発想力を鍛える授業になる。教官から戦闘指導や、ダンジョン資源の加工実習のような真面目な日もあるが、定期的にレクリエーションを兼ねた日も用意されていた。

 曰く、遊び感覚で技術を磨くのが一番自然に成長するとのこと。確かに、漫画やアニメの技を再現できると思えば幾らでも頑張れるもんね。

 

「くらえッ!! 俺の、漢玉ァアアアアア!!」

「なんの、これしきィッ!! 我が波動弾はまだ69式目よッ!!」

 

 時間は少し飛んで、実技の時間。観戦中のコートでは、タクトが同じパワー系のクラスメイトと力をぶつけ合う対決が行われている。その原始的な戦いは拮抗しており、全ゲーム40-40の勝負を繰り返しながらも終わりが近付いてきていた。

 

「我が水魔法の真髄、見せてしんぜよう」

「水の無いところでこのレベルの水魔法を発動できるだと!?」

 

 隣のコートでは、属性魔法を主体とした生徒同士のテクニカルな戦いが繰り広げられている。たまに、漫画の台詞を引用しているのか何を言ってるんだこいつとツッコミを入れたくなるが、友真は空気を読んで何も言わなかった。

 

 水魔法って魔力から水を生み出してるから当然じゃん。誰もが同じことを思ったが、それを口に出す者は誰も居ない。

 

「行くわよ、美のテニスを魅せてあげようじゃない」

「良くってよ、お姉さま」

 

 また別のコートに視線を向けると、画風の違う戦いが始まっている。一見普通のテニスに見えるのだが、フィールドに干渉しているようだ。何せ、背景に色とりどりの花が咲き乱れているのだから。それに、どこからかBGMのようなものまで聞こえてくる。

 

「友真、そろそろ僕たちの番」

「分かりました。事前の打ち合わせ通りにいきましょうか」

「グッ!!」

 

 パワー対決をしていた2人の試合が終わり、友真とミサクの出番が回ってきた。コートの上で伸びている魔力切れコンビは速やかに回収され、試合の舞台へと降り立つ。

 

「……ほぅ、貴様たちが相手か」

「ええ、あなたたちに敗北を刻むペアですよ」

「笑止。つまらぬ、戯言よ」

「残念ながら未来は決まってる。勝つのは僕たち」

 

 ネットを挟んで相手の男女ペアと軽い口上戦を行う。相対する2人は、普段の大人しい性格に反して物凄く偉そうだった。そういうプレイなのだろうか。

 こういったときはその場の空気に乗るのが一番美味しい。この場に立つ4人が即席で作り上げた戦いの空気の中、試合を開始するために定位置に着いた。

 

「開始の宣言をしろ!主審!!」

「試合開始ィィィ!!」

 

 主審である先生の高らかな宣言により試合が始まる。相手のレシーバーは、冷静にこちらを見つめながら構えている。その立ち位置がやや内側に寄っているのを確認してから、サーバーである友真は《共有》を発動した。

 

「見ろ!! 湊森と久住から白い湯気みたいなオーラが出てるぞ!!」

「な、何なんだアレは……」

「まさか、伝説のシンクロなのか!?」

 

 観客もノリノリである。

 因みに、オーラの正体はミサクの水魔法による水蒸気の操作だ。自身だけでなく離れた仲間の周囲も操作するのは高等技術になるのだが、この日のためにひたすら修練してきていたのかもしれない。補足として、《共有》は客観的には視認できないスキルなので発動する意味はなかったりする。

 

「友真、油断せずにいこう」

「ええ、1球1球大事にいきましょう」

 

 圧倒的にこちらが優位となるような空気の中、試合は始まった。

 

「ふっ!!」

 

 息を吐くと同時に、鋭い左方向へのスライス回転が掛かったサーブが放たれる。無駄な力が入っていない正確な一撃は、ボックスの隅に入り外へと逃げて行った。

 

「無駄。余裕で、間に合う」

 

 レシーバーの女が、ボールより早く周り込んで超鋭角に強く打ち返す。

 

「知ってた」

 

 その未来を読んでいたかのように、打球方向にはすでにミサクが待ち構えていた。打ち返されたボールが速かったこともあり、まだ穴の大きい空間へとボレーが打ち込まれる。

 

「ふんっ、その程度か」

 

 しかし、ネット付近に居たはずの男が一瞬で移動してボールの着弾点で構えていた。探索者にとって、テニスコート程度であれば一歩で届く狭さなのである。

 

「残念、そのボールは跳ねない」

 

 そして、当然ながらそれはミサクも知っている。

 

「なん……だと……!?」

「イン! 15-0」

 

 ボールは予測された軌道より手前で急激に落下して地面へと衝突した。そこから反発することなくコート上を滑っていき、そのまま相手のラケットの下を素通りしていく。風魔法により超高速回転をかけられた結果、地面を滑走したのだ。

 

「……もうダメ」

「ミサクッ!?」

 

 そして、ミサクの限界がここで来てしまった。

 

 《共有》によって無駄に追加された視界。

 常時発動している《身体強化》。

 自身と友真の周囲に水蒸気を巻き起こす精密な魔力コントロール。

 その上で、さらに《風魔法》まで使った。

 

 要は、ミサクの処理能力がキャパシティオーバーしたのである。

 

「あとは、まかせ……たっ、ガクッ」

「み、ミサク? ……ねぇ、返事してよ」

「湊森選手、定位置へ移動してください」

 

 力尽きたミサクを心配する友真だったが、現実は非常である。無慈悲な審判の指示に従い、ミサクをコートの隅に転がしてサーブ位置へと移動した。必要があれば味方を見捨てるのもまた探索者として必要なことなのである。

 

 その後、1人で必死に頑張ったが3-6で負けてしまった。持てる手段を全て使い、ノーアド方式故に40-40に持っていく形でなんとか食らいついたのだが届く事はなかった。

 圧倒的不利の中奮闘したが、それでも負けは負けである。敗者は空しく去るしかない。

 

 まだ元気だった友真はミサクを担ぎ上げてコートを後にした。敗因は、ネタに特化して勝負を蔑ろにしたことであろう。




【あとがき】
・私立境界探索専門高校
 境港市にある探索者学校の1つ。優秀な人材に育て上げる育成能力の高さと、生徒が学業に専念できるための補助制度が充実している歴史の浅い名門校。
 各学年3クラスで、各30人ずつと生徒数は意外と少ない。だが、留学生の受け入れや転入制度も設けているので夏休みが終わった2学期頃に何人か増えることが多い。
 制度を決めた偉い人曰く、『スキル発現から1年で大化けする子が入ってくるのは浪漫』『入試に落ちても諦めない生徒の頑張りからしか取れない栄養素がある』『留学生系ヒロイン、私の好きな言葉です』とのこと。
 転入試験は毎年7月にえっぐい難易度で行われており、合格しても8月の長期休暇の間に在学生と同等の地獄合宿を乗り越える必要がある。

・クラスメイト
 友真が所属するクラスの仲間たち。探索者に憧れを持ち、猛勉強して受験を攻略し、最初の1ヶ月を励まし合いながら乗り越えてきたので全体的に仲が良い。
 ダンジョンはロマンの塊なので、みんな少年心や少女心を忘れず持っている。

斑鳩(いかるが) (まさる)
 友真のクラスメイトで、何事も一番になりたがっている男。GW中に配信をする予定だったが、中間テストで学年1位を取るために猛勉強していたので時間を回せなかった。周りに焚きつけられた日の放課後にダンジョンへ赴きDTuberの初配信をした。

不知火(しらぬい) (ほむら)
 クラスメイトの1人で、やれやれ系男子。友真より1日遅れでDTuberデビューしたが、派手な戦闘と時折起きるハプニングにより一気に知名度を上げた。すでに登録者は1万人を超えている。
 同じクラスの宝生(ほうしょう)小夏(こなつ)は、隣の家に住む幼馴染。

・湊森 友真(トモリ)
 何かシンクロ感すごいよね、のノリで《共有》を発動した。今回は完全にデバフである。ミサクが倒れた後は相手への妨害として使った。

・ミサク
 余裕そうに見せて、実は鼻血が出そうなぐらい無理をしていた。しょうもないことに見えるが、水魔法の技術がかなり向上したらしい。試合中はずっとコートの隅に転がっており、ときどき強烈なショットの余波でゴロゴロ回転していた。

・友情破壊ゲーム
 堅実のタクト、戦略のミサク、運の乱高下が激しい友真、数合わせのCPUによる友情と勝負は別物という戦いが行われた。暗黙の了解として、勝負をリアルに持ち込まないという不文律がある。理由は、探索者同士の喧嘩は洒落にならないから。
 なお、栄光を得たのはダークライと名付けられたCPUであった。
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