トモリと《共有》しませんか?   作:ロヒキア

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#08b. 【トモリ《共有》】お部屋で収益化記念【DTuber / 雑談】(後編)

「……まったくもう」

 

 サルミアッキをドカ食いしてトモリが自傷ダメージに悶絶すると、更にスパチャは加速した。暫くの間、くぐもった悲鳴を漏らす姿を堪能した視聴者たちは、息を合わせたように祝福のカラフル乱舞を止めた。

 

 それから少しして立ち直ったトモリは、現在遺憾の意を表している。最初は善意であったのだろうが、あまりの量に困惑し出した頃からは面白半分で投げているだろうことを理解して、ほんの少しだけ怒っていた。

 

◎ すまんやで

◎ 悪いがこの瞬間が生き甲斐なんだ

◎ 人生で一度キリの反応なんだから許して欲しい

◎ ごめんね、これお詫び [\687]

 

「ほら、そうやって簡単にスパチャしない!」

 

 チャット欄は形だけの謝罪と言い訳で埋め尽くされていた。謝罪に見せかけての追い銭投げに対しては目敏く反応し、トモリは威嚇までしている。

 新たな一面を見れた一同は、ホクホク顔になりながらこの辺がラインだと察して一様に規律正しく切り替えた。

 

「ちゃんと反省してくださいね。……あぐっ、それでは今日の配信でやりたかったこと。配信者らしいことをやっていきます」

 

 目の前のケーキを大きく掬って飲み込むと、改めて話を進めた。

 

◎ お

◎ なんだなんだー?

◎ 激辛チャレンジと予想

◎ 配信者って言えば愛用してるシャンプーを語るとっからだよなぁ

 

 配信者らしいことと聞いて、視聴者たちは各々が連想するらしいことをコメントしている。一部危ない癖を持つ者も居たが、ミサクに注意喚起されていたこともあり、トモリは華麗にスルーした。

 

「まず1つ目、ファンネームを決めましょう」

 

 告げたのは、トモリの配信を応援する視聴者たちの総称である。

 

◎ そういやなかったね

◎ 感想投稿するのに困ってたからたすかる

◎ タグも無かったもんな

 

 現状、トモリの配信を示す名前やハッシュタグは決まっていない。故に、SNSで盛り上がるためのキーワードが無く、ファン同士の繋がりが作りにくい状況にあった。そのことをクラスメイトから教えられたので、今回の配信を機に整えることにした。

 

「とはいえ、俺の方で用意はしてないんですよね。恥ずかしながらネーミングセンス皆無なものでして……。なので、この場で皆さんと一緒に考えていきます。タグはこの後で、まずはファンネームから案を募集します」

 

 ただし、考えるのは視聴者任せである。そんな他力本願な行動であったが、チャット欄には次々と案が書き込まれていった。

 

◎ トモ友(トモリの友達)

◎ トモフレ(トモリのフレンド)

◎ 共有者(《共有》する視聴者)

◎ 灯り手(ともり ⇒ 灯り)

 

 その中からトモリが拾っていき、候補に残ったのは4つである。そこからアンケートを取り、一番票の多かった名前を採用することにした。

 

 同じような流れで配信タグやファンマークなども決めていく。時々、お菓子やケーキ、ジュースの味を視聴者たちと《共有》しつつ、急がず焦らずまったりとしたペースで進行し、漸く配信者として必要な形が整っていった。

 

「ヨシ、これで配信者らしくなりましたね。それでは、質問タイムに入りましょう。事前に募集していた質問をランダムで出して答えていきます。もちろん、答えられないものはスルーするのでご了承くださいね」

 

 そう言って、配信画面上に質問が映るように操作をする。『フワフワ』という匿名で質問やメッセージを送受信できるサービスで、配信者がファンとのコミュニケーショに使うことができる。

 

 最初からお題を指定することもできるが、今回は質問を募集したこともあり特に指定することなく受け付けていた。

 

「それでは、一つ目の質問から取り出していきますねー」

 

◎ これを待っていた

◎ wkwk

◎ 俺の質問出るかなー?

◎ おまいら、変なのは送ってないだろうな

 

 期待するコメントで盛り上がる中、最初に表示されたのは性別に関する質問だった。

 

 

Q. トモリって男?

「男ですよー。この喉仏が目に入らぬかー」

 

◎ どアップたすかる

◎ いいや、まだだ。まだ作り物の可能性が

◎ ニキ、もう受け入れろよ

 

 カメラに近付き、拡大された喉元を映す。喜ぶコメントとは裏腹に、未だトモリを男だと信じぬ諦めの悪い視聴者も居たが、そいつもいつかは現実を受け入れてくれるだろう。

 

 

Q. ノーマルスキルは何持ってるの?

「ちょうど先週鑑定を受けたので、そのときの用紙を見せましょうか。隠す箇所もあるので少し待っていてくださいね」

 

◎ はーい

◎ ナイス鑑定

◎ いってら^^

 

 カメラの前から離れ、隣の部屋へと取りに行く。整頓された棚から取り出したファイルを開け、目的の用紙を出すと黒い付箋を貼って個人情報に関する箇所を全て見えなくした。

 

「お待たせしました。これが現在のスキルですねー」

 

 戻って来ると、手にした用紙をカメラに見えやすく提示する。そこには、トモリの持つスキルが記載されていた。《長剣術Lv.2》《隠密Lv.2》《身体強化魔法Lv.4》《水魔法Lv.3》など、普段の配信で披露している能力が書かれている。

 

 秘密にしていた凄い戦闘技術がないかほんのり期待されていたが、そんな物はない。しかし、その他の項目に書かれていた一般的なスキルの1つが注目を集めることとなった。

 

◎ 手品Lv.5!?

◎ え、は?

◎ 確か、最近話題のイケメンマジシャンがLv.6だったような

◎ 本職並みにできるってこと!?

◎ 今度シルクハット被って欲しい

 

 目安として、レベルが4もあれば一定の技術を収めたと判断されている。そのため、さらに一段上の数値は玄人並の能力を持っていることを意味していた。

 

「小さい子たちが喜んでくれるのでずっと練習してたんですよ。去年のスキル発現時はLv.3だったんですが、探索者学校に通うようになってから5まで上がりました」

 

 探索者の身体能力は常人を逸脱している。その中には当然器用さもあり、指先の感覚も鋭い。その影響もあって、トモリの技術はさらに向上していた。

 補足として、トモリが得意なのはコインマジックである。コインが数枚あればできるので前もって準備が要らなく、小さな子たちに強請られてもすぐに披露できるのが理由だった。

 

 期待するファンのためにカメラの前で袖を捲る。開いた両手の平と甲を見せて何も無いことをアピールしてから、一度手を閉じてすぐに開く。すると、双方の手の平には500円玉が1枚ずつあった。出した2枚のコインを使って軽く手品を披露すると、チャット欄は大いに盛り上がるのだった。

 

 

Q. 憧れのDTuberとかいる?

「実は、恥ずかしい話DTuberのことをまだあまり知らないんですよね。先月までは自分のことで手一杯で、他の方の配信を見る機会が少なかったものでして……。なので、少し回答とズレますが、同時期にデビューした0karenさんの配信が面白くて凄いなーと思ってます」

 

◎ 言われてみれば他の配信者の名前とか話題にしてなかったな

◎ まあ過去聞いてる限りNicoTubeとは無縁の生活だったろうし

◎ オカレンかー

◎ エンタメ性高くて良いよね

◎ まだ同時期のDTuberしか見れてない感じか

◎ 同期で同性だしライバル枠かな?

◎ やはり自爆、自爆は全てを解決する

 

 トモリが本格的に探索者を目指し始めたのは《共有》を発現してからであり、DTuber文化について学び始めたのも最近である。故に、自分以外のDTuberのことはほとんど知らなかった。

 そのため、正直に白状して代わりに唯一アーカイブを見たことのあるクラスメイトの名前を出した。ちょうど新人として注目を集めている相手だったこともあり、知り合いであることなどはバレずに話す事に成功した。

 

 

Q. 中級に上がるまで装備はレンタルするつもり?

「夏頃にはMy装備を手に入れる予定ですよ。防具は学校経由で依頼済みで、素材はクシノさんがゲストに来てくれたときに倒したリザード系モンスターの素材ですね。武器に関しては、クラスの職人目指してる友人が成長次第作ってもらう約束をしてます」

 

◎ なるほどねー

◎ 将来の職人とコネができるって裏山

◎ なんか青春の1ページって感じが素敵やん

◎ クラス仲良くて良き哉

 

 次の質問は、トモリの装備に関してだった。一般的に、下級エリアに入れるようになった探索者はまず自前の装備を作るところから始める者が多い。大体1ヶ月程度で必要な素材を集められるので、質問主もそろそろ作るのかと気になっていたのだろう。

 

「とはいえ、6月の終わりになってもまだ難しいようだったら一度お店に製作依頼を出すことにはなります。さすがに中級パーティ試験をレンタル武器で受けるには心許ないですからね」

 

 7月の中旬には探索者資格の昇格試験が待っている。今回受けるのは中級パーティ資格で、3人で組んで受けることになる少し特殊な試験だ。この資格を取ると、同資格を持つ者3人以上で組んでいれば中級エリアの探索ができる。

 これを落とすと次回はまた半年後になることもあり、1発で受かるよう万全の準備を整えるつもりだった。

 

◎ おー、もう受けるんか

◎ 中級P受かればソロ試験も楽になるもんな

◎ 筆記は免除になるもんねー

◎ 純粋に中級エリア潜れるのがでかい

◎ がんばえ~

 

「はい、頑張ります♪」

 

 

Q. どの魔法流派にするかは決めてるの?

「そういえば、魔法流派について話したことなかったですね」

 

 魔法流派とは、その名の通り魔法に対する技法や解釈によって生まれた流派のことだ。基本的に、魔法を使う際に必要なのは術式とイメージが必要であり、その2つに対する型や考え方によって枝分かれしている。

 

 術式は、魔法を使うための土台だ。全体の構成、形や変化、運動、発動スイッチといった骨組み部分にあたる。最終的な結果が合っていれば良いので魔法によっては何種類も作られているが、大きく分けると数式型と言語型の2種類にまとめることができる。

 その術式にイメージを付け加えることで、肉付けされた術式が魔法となり完成する訳だ。

 

「学校バレに繋がるので流派は伏せますが、略式型を学ぶつもりですよ。現状は何でもできる便利屋さんを目指しているので、残念ながら浪漫型とは相性悪いんですよね」

 

◎ まあそうだよね

◎ 氷柱作って発射だもんなー

◎ 浪漫型はどうしても後衛になるしね

◎ でも、浪漫型にはロマンが詰まってる

 

 略式型は発動の早さを重視している傾向にあり、浪漫型は性能を重視している傾向にある。浪漫型に魅力を感じてはいるが、現状では諦めるしかなかった。

 

 

Q. ちゃんとご飯は食ってるかいJ( 'ー`)し

「ちゃんと食べてますよー。朝昼夜と3時のおやつ。探索者は身体が資本なのでバッチリです。とはいえ、学食以外だとスーパーの弁当や総菜ばかりなので料理も少しずつできるようになりたいですね」

 

 1人暮らしを始めてまだ2カ月であり、漸く料理以外の家事に慣れてきたところである。借りている部屋には二口のコンロが備え付けてあるので、今は初心者向けのレシピを試している段階だった。

 

◎ もっと食べてると思ってた

◎ 地獄合宿は1日7食って話だもんね

◎ 自炊は慣れてくると習慣になるぞい

◎ かあちゃん……

 

 

 そんなこんなで、順調に質問は消化されていった。時々不埒な物も出てきたが、それらは全て丸めてゴミ箱へポイである。こうして話題が尽きないまま時間は過ぎていき、時刻は21時を回った。

 

「ヨシ、質問はここまでにしましょう。口が疲れました」

 

 喋ってばかりの配信には慣れてなかったこともあり、開始から2時間で音を上げることとなった。新たに用意したカフェインの入っていないお茶を口にしつつ、配信を終わらせる流れに持っていこうとしたところで1つのコメントが目に入る。

 

◎ 登録者3000人になってるよ

 

「えっ、3000人……ほ、本当だー!? え、ど、どうしましょう。追加で記念配信ドンですか?」

 

 驚くことに、配信を開始する前より2倍近く増えていた。完全に予想外の展開であったが、新人DTuberの記念配信というのは新規が集まりやすい傾向にあるため、そこまで珍しいことではなかった。

 

◎ ずっと人増えてて凄かったぞ

◎ 人が人を呼ぶ循環

◎ おおおめええええでえええとおおおおお!!!!!

◎ これがインフレスパイラル

◎ 人が多いところにはみんな釣られるクマー

 

 チャット欄にはお祝いのコメントが弾幕になって飛び交っている。じわじわと増えていたことに気付いていたが、トモリが反応するまでは黙っていたようだ。

 

「ありがとうございます! 改めて初見さん宛ての挨拶や《共有》について説明したいところですがすみません、今日のところはお開きになります」

 

 少々勿体ないが、今日のところは終わるのを優先する。すでにテーブルの上にあったケーキもお菓子も空っぽであり、《共有》を体験させることもできないのだ。

 

「本日の配信はここまでです。ご視聴ありがとうございました! また次回もよろしくお願いします。それでは、お疲れさまでしたー!」

 

◎ おっつー

◎ お疲れ様です

◎ おつとも~

◎ おつおつおー

 

 終わりの挨拶を告げて、配信を切る。暫く終了画面が流れた後、配信は終了した。

 こうして、記念配信は大成功の形で終わるのだった。




【あとがき】
・トモリの配信のファンネーム
 ひとまず、『共有者』で仮決定にして書いていきます。『共有者に共有すると』みたいな文章がちょこちょこ出そうなので、書きにくい読みにくい、もっと良いの閃いた!とかあれば静かに変わっているかもです。

・トモリの配信の配信タグやFM
 候補はありますが、リアルとの被りを避けたいので作中には出ません。

・ノーマルスキル
 戦闘スキル以外にも、日常的なスキルもある。
 現状の能力が表示されるので、本人の資質は分からない。これのおかげで自分磨きが楽しくなったと感じる人も多い反面、自身がゲームみたいに数値化されるのが怖いと感じる人も少なからず居る。
 『Lv』は最大9まで確認が取れている。これが最大なのかは定かではない。

・手品Lv.5
 コインを出したり消したり増やしたり相手の手の中にワープさせたり両替したりできるかもしれない。今はまだ有効活用できてないが、スタイリッシュな戦闘スタイルに役立つ可能性を秘めているかもしれない。

・職人を志望しているクラスメイト
 前衛タンクの男。有言実行を心掛けている。好きなことには熱中するタイプなので、7月までに武器加工をできるようになろうと毎日修練中。果たして、期末試験は大丈夫なのだろうか……?

・魔法流派
 最初は10にも満たない数の流派しかなかったが、新しい発見や既存の流派からの独立などにより現在ではマイナー含むと凄い量になっている。
 上位の探索者学校であれば、大体のところが特定の流派の専門家を雇っている。

・イメージの重要性
 動画編集に例えると、術式はすでに完成されたテンプレート。
 イメージが、そこに加えるイラストや音楽、アニメーションといった素材。
 故に、イメージの質によって魔法の威力や精度は大きく変わる。ただし、質が良い=消費魔力が多いとも言えるのでその加減が重要。魔法を1回使ったら魔力がカラになってぶっ倒れたなんて話は4月によく見る風物詩。

・術式の言語
 実は、身体言語も有効である。
 そのため、滅茶苦茶派手に動いて詠唱するスタイリッシュ流派も存在するらしい。
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