トモリと《共有》しませんか?   作:ロヒキア

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#02b. 【スキル《共有》】トモリ、ダンジョンに潜ります【DTuber】(後編)

 数十秒程して蘇ったトモリは、多少ふらつきながらも探索を再開した。まだ目にうっすらと涙が溜まっているのは、未だに口の中が辛い状態なのを我慢しているからだろう。

 

◎ いやー、地獄絵図でしたなー

◎ 涙目でかわよ

◎ 少し人減ったね

◎ その代わり平穏が訪れた

◎ 治安が良いから大正解

 

 恐れをなして人が居なくなる覚悟で実行したのだが、意外にも去ったのはお仕置きされた10人だけであった。今は残った人たちがワイワイと現状を楽しんでいる。補足となるが、探索中は配信主がチャット欄を見ない時間が長いこともあり、視聴者同士での会話が許されていることが多い。

 結果的に行動に移したのは成功だったようで、早い段階で環境整備ができたことにトモリはご満悦となった。

 

「――っと、来ましたね。漸くダンジョンっぽい展開の来訪です」

 

 そんなことはさて置いて、本日の目玉が現れたようである。進む通路の先に、子供ぐらいの背丈の影がヌルリと現れた。

 

「Gugaaaaaaaa!!」

 

 こちらに気付いた影は、威嚇するように咆哮を上げて走り寄って来る。それに合わせ、トモリは背中の長剣を抜いて先端を突き付け待ち受けた。

 

 距離が近くなりカメラに映った影の正体は、緑色の肌に尖った耳を持ち、半裸に腰蓑を巻いた小鬼だった。左右の手には何も持っておらず、ただ鋭く伸びたボロボロの爪が際立っている。

 

◎ 定番モンスきちゃー!

◎ 油断してヤられんなよー

◎ ゴブリンは殺さなきゃ(使命感

◎ がんばえー

 

 コメントにも書かれたように、この小鬼はゴブリンと呼ばれている。洞窟型のダンジョンに生息していることが多い種族で、弱小ながらも群れると少し面倒になるモンスターだ。しかし、今回の相手は体格が小さく、武器も防具も持たないようで、更には仲間も居ないゴブリンの中でも特に弱い個体であった。

 

「どうやら1匹だけのようですね。ちょうど良いですし、1つ検証といきましょうか」

「Gi…Gii…」

 

 右手で剣先を相手に向けたまま、左足を後ろに下げて半身を隠す。下手に近付けば一撃で頭を貫くぞという圧を掛けると、ゴブリンは警戒するように足を止めた。

 

◎ 検証って?

◎ ああ、それって以下略某?

◎ モンスターに《共有》すんのか

◎ それだ!!

 

 左手でポーチを探り、先ほど視聴者たちと何度も共有した酸味の強いグミを取り出す。先ほどの騒動で1袋食べきったので新たなる味だった。

 

「正解です。実はモンスター相手に使うのは初めてなんですよね。では……南無三ッ!!」

「Gi!?」

 

 勢い良くグミを口に放り込み、ゴブリンにも味をお届けする。すると、突然口内に広がる味に驚いたのか一言だけ呟き――そして、硬直した。

 

「……あれ?」

 

 驚くのは想定通りだったが、どういう訳か数秒経った今でも硬直したままである。色々と気になることはあるが、考える前にまずは仕留めるべきだと判断した。

 ツーステップで保たれていた距離を詰め、首を目掛けて長剣を並行に振り抜く。その動きに一切反応することもなく、一撃でゴブリンの首は圧し折れた。

 

「Gyu…」

 

 喉に残った空気が抜けたのか、小さな悲鳴のようなものが漏れ出る。死した肉体は折れた方向へと倒れ込み、小さく弾んでから動かなくなった。

 

◎ ないすぅ!

◎ 一撃★必殺

◎ 結構なお点前で

 

 振り抜いた長剣を再び構え直し、周囲に増援がないことを確認してから鞘に納める。

 

「……ふぅ、返り血が気持ち悪いですねー」

 

 首を圧し折った際、裂けた皮膚から噴き出た青色の血が衣服に点々と付着している。すぐに消えるとはいえ、生暖かい感触は生理的に受け付けないようだ。

 

◎ 気持ちはわかるまーん

◎ 病気持ってそうで怖いよね

◎ ここ17年で変な病気に掛かった事例は無いから安心してくれ

◎ どうせその内慣れる

◎ 人によっては快楽に目覚めたりね

 

 無修正の人型モンスターを屠るシーンであったが、コメントは平常運転である。この辺はダンジョンが生活に浸食した影響か、はたまたグロテスクな状況に対しての免疫が自然と付いてきているからだろうか。

 そうした正常な反応をする視聴者たちと一言二言交わしていると、服に付いていた返り血が粒子状になって消えていった。倒したゴブリンの方に目を向けると、同じように粒子状になって消えていき、後には小さな魔石だけが残っていた。

 

 このように、モンスターを倒すと魔石が手に入る。見た目は綺麗な石なのだが、中に大量のエネルギーを蓄えているらしい。たまに魔石以外の物を落とすこともあるが、残念ながら副産物は落とさなかったようだ。

 

◎ 私から作りました(生産者表示

◎ 実質、尿路結石

◎ www

 

 魔石を手に入れた光景を見た視聴者の反応は、しょうもない大喜利である。

 

「……はは、今スベったみなさんは座布団を投げ捨てて地べたに五体投地してくださいねー」

 

 しかし、トモリには全くウケなかった。見事に空ぶった者に対して慈悲はなく、バッサリと切り捨てる。

 

「そんなことより、さっきのゴブリンの反応見ましたか? どこか変でしたよね。もしや、酸っぱい体験が初めてでビックリしたのでしょうか?」

 

 平伏を始めるコメントをスパリと無視し、トモリは先ほどの可笑しな光景について問い掛ける。共有したときの反応は、まるで理解不能な状況に直面したかのようだった。

 

◎ ちっちゃい子が初めてコーラ飲んだときみたいな?

◎ ありうる

◎ にしては驚き過ぎじゃね?

◎ たし蟹

◎ なんか、宇宙ぬこーって感じだった

 

「宇宙ぬこーですか」

 

 トモリの頭の中に、ミーム好きな親友から見せてもらった物の1つが思い浮かぶ。宇宙空間を背景にポカンとした表情を浮かべる猫の画像だ。その姿と先ほどのゴブリンを重ね合わせると、見事に合致していた。

 

◎ もしかしてモンスターって味覚がなかったり?

◎ 無いはずの味覚がこんにちは死ねーして宇宙ゴブリンになったってこと!?

◎ え、なにそれ面白発見やん

◎ はえー、確定スタン取れるってことか

◎ まさかの神スキル展開

◎ ヨシ、俺は歴史の証人になったるど

 

 視聴者たちも宇宙ゴブリンについての話題で大いに盛り上がる。様々な推測の他にも、ハズレスキルが実は……みたいな展開が来るかもという状況に期待する者も現れ随分と賑やかだ。

 

「そうだったら感無量ですね。では、期待を胸に引き続き検証タイムに突入しましょうか」

 

 そう告げると、チャット欄も満場一致で賛同した。こういった展開はみんな大好物なのである。

 モンスターと遭遇するまでは、警戒を怠らない程度にチラチラとチャット欄を眺めて雑談をする。次回以降に共有するお菓子の候補を決めるため、好きなお菓子発表視聴者さんたちとワイワイ楽しくお話した。

 

「第2ゴブリン発見。《共有》いきます」

「Gi? ……Gugyagyaaaaaa!!」

 

 そして、遭遇した2回目の戦闘。共有されたゴブリンは一瞬困惑したが、すぐに立ち直って襲い掛かってきた。素早く壁と天井を蹴って移動し、背後の頭上から一撃で脳天を勝ち割る。

 

「来ました、第3ゴブリンです。《共有》開始します」

「Gigi!? Gia!? Giiiipe!! Pe!!」

 

 3匹目のゴブリンは、何か嫌いな物を無理矢理食べさせられたかのように唾を何度も吐き捨てた。水魔法で三角錐の形に作り出した鋭い氷柱を打ち抜くと、顔に大きな空洞ができた。

 

「2人共、両成敗です」

 

 次の分かれ道に着くと、視聴者からアンケートで行き先を決めようと提案される。折角なので案に乗っかり投票を開始すると、右の道が半数を超えて勝利した。

 

 そこで終われば良いのだが、チャット欄で左を選んだ相手を煽る者が現れる。結果、2人の視聴者が口喧嘩を始めたので仲裁することとなった。再び酸っぱいグミを一気食いしての《共有》である。

 

◎ あぐぁ

◎ ミ”ッ

 

「……ぁ、ぅ……ぐぅッ……」

 

 被疑者2人と裁判官1人、合計3名が犠牲になったが問題なく探索は進む。

 そんなこんなで1時間ほど探索を続け、10度の検証が行われた。

 

 

***

 

 

「結局、最初のゴブリン以外は宇宙へと飛んでいかなかったですねー」

 

 本日の探索を終え、来た道を引き返しながら話すのは検証結果についてだった。

 

◎ ほんと何だったんだあのゴブリン

◎ 個体差あんのかなー?

◎ 俺は味覚が無かった説を推すぜ

◎ 急に生えた初めての味に思考が凍ったパティーンか

◎ 神スキルでなかったのは残念

◎ くそう……見届け人にはなれずか

 

 残念ながら、2匹目の宇宙ゴブリンは現れなかった。それ故に、あの反応の正体は何だったのか皆で色んな仮説を立てて話し合っている。

 今のところ、あの邂逅が切っ掛けでモンスターが味覚を学習した説を推す者が多い。これは、ダンジョンが意志を持っている可能性があると考える者が多いのが理由である。今回の《共有》で味覚を理解したと推測しているのだ。

 

 その次に味覚が無い個体だった説が推されている。モンスターは同じ種類でも1匹1匹の性格や行動パターンが異なっていたりする。なので、あのゴブリンが偶々味覚障がいだったと考えているのだ。他にも、モンスターを操作するダンジョン主に届いた説、滅茶苦茶美味くて絶頂した説などぶっとんだ仮説を唱える者もいた。そういった説をトモリが拾う度に四方八方からツッコミが飛ぶ。

 

 そうしてやんややんやと賑やかな雑談をしていると、あっという間に入口へと戻って来た。

 

「ヨシ、無事到着しましたね。みなさん、お付き合いいただきありがとうございましたー!!」

 

 誰かが入ってきた時に邪魔にならぬよう、部屋の隅っこに移動して終わりの挨拶に入る。いつものように両手をブンブンと振りながらお礼を伝えた。

 

◎ おつー

◎ お疲れ様です

◎ お疲れーらいす

◎ 圧倒的な乙

 

 始まりの挨拶同様、終わりの挨拶も多様にバラけている。

 

「次回の配信ですが、1日スキップして明後日となります。ごめんなさい、明日は友人と一緒に探索するのでお休みです」

 

 相手は、同じ学校に通うクラスメイトである。配信に乗せる案もあったのだが、まだ連携が見せられるレベルに達してないので今回はしないことを選んだ。

 

◎ はーい

◎ あいよー

◎ 時間決まったら告知よろー

◎ おk。友人ってのはクラスメイト?

 

 視聴者の方も軽い感じで了承の返事が書き込まれた。その中に友人に対する質問があったので、少しだけ拾うことにする。

 

「クラスメイトで合ってますよ。2人共出演OKと花丸貰い済みなのですが、功夫が足りないとのことなのでゲストに来るのは当分先となります」

 

◎ ほむ、功夫が足りぬのなら仕方がにゃい

◎ 地道に励むのじゃぞ

◎ 残念だけど、出演する日を楽しみにしてるよ

◎ まあパーティでとなると魅せ方変わるしね

 

 配信しない理由を告げると、視聴者たちはすぐに納得してくれたようだ。やはり功夫という言葉は説得力が高いらしい。

 

◎ 男同士の友情って極上だよね

◎ 同じ学び舎で精進し合う仲間か、良いなー

◎ 生涯の友になるかもだから大事にしろよ

◎ 友達? なにそれ美味しいの?

 

 他にも友人関係に対して触れるコメントが多く書き込まれている。そして、少し腐りかけてる者と錯乱する者に対しては無視して問題ない。

 

「もちろんです! これからも変わらず仲良しですよー」

 

 だが、友情に関するコメントはしっかりと拾う。それはもう、とても良い笑顔で答えた。

 ズッ友は絶対不変なのである。

 

「それでは、終わりとしますね。本日はありがとうございました!! また次回、さようならー」

 

 右手を高く上げ、勢い良く振りながら終わりの挨拶をする。こうして、2回目の配信は多くの視聴者に恵まれながら楽しく終了した。




【あとがき】
・トモリ
 身軽な遊撃タイプの探索者。
 切れ味よりも頑丈さを優先した長剣と、好きに形状と形態を変えられる水魔法を好んで使用している。清純そうに見せて一定の好感度に達すると遠慮がなくなり刺すようになるタイプ。今回の制裁で《共有》を扱うコツを少し掴み、一度に10人まで対象に取れるようになった。

・モンスター
 ダンジョン内に生息する不思議な生物。他の生き物を見つけると敵だと判断して襲い掛かってくる。死ぬと粒子状になって消滅し、運が良いと魔石やアイテムを落とす。

・ゴブリン
 ファンタジー定番のモンスターで、多くのダンジョンに生息している。
 今回遭遇したのは、その中でも特に弱い個体。小柄で、防具も武器も無く、皮膚も柔らかかった。繁殖能力は無い。

・魔石
 ダンジョンで発見された新たなエネルギー源。研究により魔石発電の技術が生まれたことで大きな発展に繋がった。他にも多くの活用法が見つかっている。
 食べると胃が痙攣して6時間ほど嘔吐が続く。
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