2回目の配信をした翌日。トモリこと、
まだ待ち合わせの時間まで10分の猶予がある。とはいえ、あの2人のことだから先に着いて何かネタを仕込んでるだろうなと思い、やや早足気味に歩いていた。
「来ーたーなー! ゆーうーまー!!」
目的の記念碑が見えると同時に、名前を呼ぶ声が耳に入る。
声の先には、片手を振りながらこちらへと叫ぶ大柄の青年が記念碑の前に立っていた。その隣には、同じように片手を小さくゆっくりと振りながらも、視線は手にしたスマホに向けたままの小柄な青年の姿も見える。
「おはよう。やっぱり早めに来てたんですね」
「おう、おはよう! 今日は見事に探索日和だな!」
挨拶をすると、大柄の方はカラッと返してきた。ダンジョンの中は天気の影響を受けないのだが、常套句なので問題ない。
「ドーモ。ユウマ=サン。ミサクです」
「ドーモ。ミサク=サン。ユウマです」
小柄な方からは、礼儀を重んじたアイサツが返ってきた。これを返さねばシツレイに値するので、友真もしっかりと返す。
「友真が最後だな。オレとミサクは30分前には着いてたぜ!」
先ほどまで大きな声を出しながら手を振っていた青年の名は、沢城
友真よりも頭一つ分大きな巨体と、金色に染まった短いスポーツ刈りが特徴だ。今は半袖シャツ1枚にジーパンを履いたシンプルな恰好をしている。探索する際は、全身鎧を身に包んで大盾1つで攻撃も防御も熟す前衛タンクが担当だ。
合宿で同部屋だったのが縁で仲良くなり、こうして休日に遊ぶ程度には交流も多い。時々馬鹿な思い付きをして周りを巻き込むが、そういうところも含めてムードメーカーな気質だと言えよう。
「タクトは嘘吐き。本当は3分前に来たばかり」
隣に立ち、未だにスマホから目を離さない青年の方は、
タクトとは反対に、友真の肩ぐらいまでと背は少し低い。ジトーっとした目つきと、青みがかった髪を短めのストレートヘアにした見た目が特徴だ。今は薄手のパーカーにネックストールを着て露出を抑えている。探索中は、友真と同じように防刃ベストを着ており、後方から魔法で支援する杖使いだ。
口数は少なく暇があればスマホをつつくのだが、周りの声はしっかり聞き取っており何かあれば話に加わってくる。困っている知り合いを見かけると手助けしたり、適度にボケを拾ったりと意外に面倒見も良い。本人曰く、省エネ型とのこと。
「我は静かなる理解者」
たまに変なことを口にするが、恐らくはネットで拾った知識なのだろう。聞くと教えてくれるので、友真も自然とそういった知識への理解が深まっていた。
「3分前か……。ごめん、もう少しギリギリに来た方が良かったですか?」
そして最後にもう1人、
半袖シャツの上から厚めのカーディガンを羽織っており、下は少し余裕のあるズボンを履いている。今日も探索中はジャージに着替え、上に防刃ベストを着けるつもりのようだ。パーティを組んだ際のポジションは、前衛寄りの中衛で遊撃担当になる。
柔らかい口調とは裏腹に、場の雰囲気を汲み取って冗談を言ったり刺すこともある。親しい人にも敬語を使うのは、何よりも周りのキャラが濃いから個性を強くする方法を模索した結果だ。元より目上の人と関わることが多かったのもあり、今ではすっかり癖になっていた。
それと、13年前に街が崩壊したとき家族を亡くしており、去年まで児童養護施設でお世話になっていた過去を持っている。
「大丈夫だ、問題ない。どうせ30分じゃタクトも一発ギャグが限度」
「はあ!? 本気を出せばいくらでもネタは作れるんだが?」
「把握。探索終わったら1ネタプリーズ」
「きっとドッカンドッカン大爆笑させられるのでしょうねー。楽しみです」
3人揃うと、こうやって年相応のしょうもない話を交わすことも多い。ミサクがタクトを煽り、タクトが挑発に乗り、友真が乗ったり宥めたりする。
今回は乗った方が面白いと判断したのか便乗を選択したようだ。なお、帰る頃には全員がそのことを忘れていたのはご愛敬である。
***
全員揃ったので、まずは探索者協会の出張支店に立ち寄り装備と機材をレンタルした。備え付けの更衣室で荷物をロッカーに預けて着替えると、早速ダンジョンに入る。
「おー、こりゃ景観だな!」
「同意。寝転がってネットサーフィンしたい」
「広くて開放的ですねー。昨日一昨日と狭い洞窟だったから余計に新鮮ですよ」
今回のダンジョンは、蔓で構成された大きなドームの中に草原が広がっていた。ドーム隅には幾つか通路があり、その先はまた別のドームが同じように広がっている。そうやってドームを進みながら深部へと目指していく構造だった。
「そういや、配信始めるって言ってたがもうやってんのか?」
近くにモンスターが居ないことを確認してから、タクトが最近の出来事について問い掛けてきた。配信活動を始めることは事前に話していたので気になっていたのだろう。
「すでにGW3日目、絶対やってるはず。成果と感想をプリーズ」
ミサクも両手を広げながら期待の声を投げかける。DTuber活動を始めるにあたっての戦略を立ててくれた軍師であるのだが、伸びてから教えてと言われていたので彼も知っていない。
「一昨日から始めましたよ。練習のつもりだったのですが、何とビックリ。小バズして登録者100人を突破しました。予期せぬ形でしたが、最高のスタートを切れたところです」
「へぇー」
「ほーん」
「……あれ?」
自慢するようにピースサインと満面の笑みを決めたのだが、2人の反応はイマイチだった。期待を裏切る反応に拍子抜けする友真に対し、その理由はすぐ返ってきた。
「知ってたからな。検索したらすぐ見つかったぜ。配信の雰囲気も良さそうだし、まだまだ伸び代多そうで良かったわ」
「右に同じく。スレでもちらほら話題になってる。やはりミサクPの目に狂いは無かった」
「…………」
どうやら、配信活動のことをすでに知っていた上での問い掛けだったらしい。その答えに、友真は笑顔のまま硬直した。
「では、何故にどうしてリッスンしたのでしょうか?」
「そりゃー」
「ねー」
表情変わらぬまま質問する友真を相手に、2人は互いに顔を見合わせながら相槌を打つ。そして、顔を向けると同時に答えを口にした。
「「その顔が見たかったから」」
つまり、おちょくりたかっただけらしい。
「……へぇ」
それを聞いた友真は笑顔のままだった。そのまま、無言でポーチの中に手を突っ込み何かを取り出す。
「あのー……友真さん、その手にある物はもしや?」
「待て、話せばわかる。犯人はタクト。今朝チャットで提案してきた」
「はぁ? ミサクだってノリノリだったじゃねぇか。それに――」
取り出された物を見た2人は必死に止めようとする。いや、すでに止められないと悟ったのか、互いに罪を擦り付けて自分だけは助かろうと悪あがきをしていた。
「みんな仲良く逝きましょう」
そう言うと、友真は手にした世界一不味いと評判の飴を口に放り込んだ。
「「ま゛ッ゛!?」」
「う゛ぉ゛ぇ゛っ゛!?」
友真の口内では、濃厚なゴムの風味と少量のしょっぱさに甘さも混ざった混沌の世界が広がっていた。さらに、独特のアンモニアの香りが鼻孔にも届き未知の衝撃が駆け巡っている。
「お゛お゛っ゛」
「うぇぇぇぇぇぇ」
当然ながら、この感覚は2人にも共有されている。数多の不快感が口内で全力ドッジボールをしているかのようなエグみ。脳が理解を拒むのか、強烈なストレスが発生したのか、頭痛まで伴い始めている。
「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」」」
結果、3人は地べたに這いつくばり悶絶する悲鳴を挙げた。その悲鳴はドーム全体に広がり、エリア内に居たモンスター達がビクリと肩を震わせた。
幸いだったのは、このエリアに他の探索者が居なかったことだろう。悲鳴が上がった現場には、悶え苦しみながら倒れ伏す3人が居たのだから。
***
それから10分程度苦しんだところで3人は復活した。
立ち直るとすぐに「すまんな」「ええんやで」の精神により無事和解する。
《共有》が切れたことで全回復したタクトとミサクの2人。それに反して、友真だけは直に食べたためにまだ残り香に苦しんでいた。今は幾つかのお菓子を新たに取り出して、味の上書き中である。残る2人もお裾分けを貰って精神力を回復し、一息付いたところで改めて探索を開始した。
のどかな風景の中、茂みなどに警戒しながら進み始めて数分。早速、ミサクが何かを発見した。
「あっち。敵の獣系モンスターを発見」
彼が指を差した先には、1匹のモンスターが草を
「お、突撃ウサギじゃねぇか! ちょうど良い相手だな!!」
「タクト、五月蠅い」
ミサクの忠告も遅く、タクトの大きな声が聞こえたのか、突撃ウサギはこちらへと振り向いた。威嚇するような唸り声をあげ、3人に向かって一直線に突っ込んで来る。
「オレが前に出る」
「攻撃を行う」
「俺も攻撃を、ヘイトを買った責任はお願いしますよ」
突撃ウサギが近付いてくる中、役割の確認を済ませた。
タクトが一歩前に出て敵の角に合わせるように盾を構える。その後の展開を予想して、友真は少し横にズレて背中から抜いた長剣を中段に構えた。反対側に移動したミサクは、杖を構えて詠唱を始めている。
「……すぅ」
盾と角がぶつかり合う直前、タクトが大きく息を吸い込んだ。
「オォォォ――」
叫びと同時に、硬い物同士がぶつかるような大きな激突音が響く。タクトが構えた盾が突撃ウサギの角と正面衝突したのだ。
「――ッルァ!!」
「Pugiii!?]
せめぎ合いで膠着することもなく、掛け声と共に突撃ウサギの角をかち上げる。体の前面が宙に浮いた隙を突き、残りの2人が攻撃の姿勢に入った。
「首狙います」
「理解った。風の刃セット」
タクトの横を抜けた友真は、敵が反応するよりも早く長剣を横薙ぎに払う。今日はいつもと違い切れ味の鋭い長剣にしたおかげで、ギコギコせずともスーッと突撃ウサギの首に1本の深い線が入り、割けた傷口から血が噴き出した。
しかし、完全に断つことは出来なかった。瀕死になりながらも誰か1人でも道連れにしようと殺意に満ちた目で睨みつけている。
「ファイア」
そんな敵の狙いを阻止するかのように、待機していたミサクの魔法による追撃が入る。何とか繋がっていた首を風の刃が通り抜け、突撃ウサギの頭部は胴体から離れポトリと地面へと落下した。
「Pugyua…」
力の無い声を漏らしながら突撃ウサギは力尽きた。全体が粒子化していき、周りに飛び散った血肉も含めすぐに消滅していった。
「ッシャッ!! ナイス連携!!」
「見事なブロッキングでした。さすがはタクトです」
「さすタク。ナイトが強いのは確定的に明らか」
戦闘が終わり、互いの活躍を賞賛し合う。
「友真もタイミングがドンピシャだったぜ。ミサクもナイスだ」
「ありがとうございます。全員のファインプレーということで」
「最後の一撃は切ない」
事前に取り決めはしていたが、理想通りに動くことができた。後は、複数体を同時に相手できれば先へ進んでも心配ないだろう。
「ドロップ品は魔石と肉か」
タクトが背負っていた麻袋を下ろし、取り出した包装紙でお肉を包んで回収する。創作のように収納するアイテムがあれば良いのだが、残念なことにそんな便利な道具は見つかっていない。唯一の救いは、ドロップしたお肉はダンジョンを出るまで自然劣化しないことか。
「さすがに角は1発で出ないな」
「確率低いですもんね。もう少しこの辺で戦ってみますか?」
「回せば出る」
麻袋の口紐を縛りながら、タクトがそうボヤく。それを聞いた友真が提案を出し、ミサクはミームを呟いた。
モンスターを倒すと、魔石以外にも何かを落とすことがある。例えば、突撃ウサギであれば肉や骨、角に尻尾など。物によって確率が異なり、角や尻尾はあまり落とさない。
今回の目的は一緒に探索するのが主だが、欲を言えば希少品を手に入れて稼ぎを増やしたくもある。
「いいや、できれば2、3匹同時に相手したいな。もう少し先に進んで群れの居るエリアまで行こうか」
「異議なし」
「了解です」
こういうとき、最終的な決定権はリーダーが持つようにしている。日によって交代しており、今日はタクトが担当しているので彼の決定により先へ進むこととなった。
「次からは《共有》も使っていきますね」
「あいよ」
「把握した。探そう宇宙ウサギ」
友真がユニークスキルの使用を2人に申告する。ちょうど、昨日から気になっていたモンスターとの味覚共有について試したかったのだ。
友真の配信を見ていたので、理由を言わずとも狙いは伝わったようだ。全員の目的が一致したこともあり、本日の探索は下級エリアの中層でのモンスター狩りとなる。
その後、ミサクの魔力が尽きるまで探索を続けた。
***
地上へ帰還した後、3人は近くの喫茶店で食事を摂っていた。魔力切れで動けなくなったミサクをタクトが担ぎ、近寄るモンスターを友真が撃退しながらダンジョンを脱したのである。
「……ぷはぁ、ありがてぇっ」
「蘇りましたね。2人ともお疲れさまでした」
「お疲れさん。ちとギリギリまで攻め過ぎたな」
ダンジョンを出ると、まずは隣接する探索者協会の出張所に戻って返却と換金をした。予定よりも少し多めの成果にホクホク顔となったところで全員のお腹が仲良く鳴ったので、近くにあった喫茶店へと移動したところである。
店員に案内されたテーブル席にミサクを下ろし、残る2人も座る。注文したドリンクや食事を摘まみながら、みんなで探索の感想戦を行うことにした。
「魔力切れが想像の数倍重いと知れて良かった。タクトありがとう、圧倒的感謝の極み」
「タクトが力持ちで助かりましたね。俺だけだと危なくなったらミサクを盾にしてました」
「いやん、大事なところに穴が開いちゃう」
「そこはオレの持ち味だからな。ひとまず、ミサクは魔法以外の手段も覚えた方が良さそうだぜ」
今回一番の学びは、探索から切り上げるタイミングの重要性である。地獄合宿のときは魔力切れを起こすと効率が悪いと言われたので経験しておらず、今回が初めての体験だった。頭では解っていても、正確な引き時の判断は難しい。その判断を間違えたらどうなるかを実体験できたのは大きな収穫だった。
「身をもって思い知った。今度教官に相談する」
「ああ、こういうのは有識者に聞くのが一番だもんな」
魔法使いは魔力の消耗が多いこともあり、節約の手段が必要となる。とはいえ、戦闘はほとんど味方任せといったスタイルではパーティのお荷物になってしまうので、何かしらの役割を兼任できるのが理想だ。
例えば、魔法以外に射程のある武器で援護したり、機動力を磨いて囮を担ったりする者も居る。他にも、重装備で盾役をしながら隙を見て魔法を使うタイプや、遊撃も熟せる魔法使いといった変わり種も存在した。そのぐらい、魔法一本だけで上位にいける魔法使いは希少なのだ。
「理想は遠かった。魔法だけを極めるのは超人以外には不可能なのが現実である、まる」
例外なのは、膨大な魔力を持っているのでそもそも節約の概念を持たない化け物と、周囲の残留魔力を使う意味不明な技術を扱う変態ぐらいである。ただ、この2人は常人には真似できない域に到達しているから参考にならない。
そんな数ある選択肢の中からどんな道を選ぶかは分からないが、ミサクも今回の反省を踏まえて魔法以外のことも頑張る決意をしたようだ。
「おー、頑張れよー。オレは魔力操作だな。燃費が良い魔法とはいえ無駄が多いわ」
タクトは《身体強化》の魔法にムラがあるのが不満のようだ。この魔法は、ほぼ全ての探索者がダンジョン内で常時使用している。術式も簡単で覚えやすいので3人も地獄合宿の初日に使えるようになったのだが、身体能力を向上させるだけのシンプルな能力故に奥が深い。
例えば、込める魔力を増やせばその分だけ身体能力も上がる。だが、肉体の制御が補助される訳ではないので、ただ闇雲に強化するだけでは指1本でさえ思った通りに動かせなくなる。そのため、少しずつ出力を増やしながら体を慣らしていく地道な積み重ねが必要なのだ。
「自主トレ増やすかなー。教官に何か良いのメニューないか聞いてみるかー」
なお、有名なDTuberの1人に超重鎧を纏い、身体強化の魔法をフルブーストして突進する変人も存在する。しかし、そいつもまた例外中の例外なので参考にしてはいけない。
「2人は明確な課題が見つかって羨ましいですね。俺は……やっぱり《共有》でしょうか」
友真の能力は、ユニークスキルを除けば平均的であった。軽盾を持てば回避タンク、長剣を持てば削り役、魔法を使えばサポート要員、投擲も人並みには出来るので総合力から遊撃を担当している。しかし、悪い言い方をすれば突出した能力を持たない器用貧乏とも言えた。
せめて《身体強化》か《水魔法》のどちらかに重点を置いて鍛え、前衛か後衛かに寄らせれば良いのだが未だに決め切れていない。故に、平らな伸び代が続いていた。
「んー、固定パーティでも組むようになれば方針が定まるのですが……難しい物ですねー」
迷いの原因は、遊撃役が被ったときのポジション移動である。探索者のポジションを全体で見ると中衛を得意とする者が多く、臨時でパーティを組むとどうしても被りやすいのだ。
互いの呼吸が読めもしない状況で完全に同じ役割が2人動けば、意図が被ったときに連携に乱れが生じる。そのため、そういったときはどちらかが別の役割に変える必要がある。
その一点だけで、友真は未だに方針が決まらず彷徨っていた。つまり、ただの優柔不断である。
「友真、それ美味しそうだけどどんな味?」
「……え?」
どうするべきかと悪い方向に思考がループする友真を見かねたのか、ミサクが不意に食事の話を振った。考え事に集中しながら、無意識に皿の上でグルグルと回し続けていたパスタの味が気になったのである。
「美味しいですよ。スパイスの効いたニンニク風味の味がもっと食べさせろと訴えてきますし、エビやホタテも弾けるようなプリップリの食感で格別ですね」
他にも、ベーコンやインゲン豆、細切りスライスの人参などの具材が贅沢に入っている。ランチセットだったので、自家製のクルトン入りコーンスープや3種類の副菜が乗ったミニプレートなどもあり完璧な布陣が敷かれていた。
「いつものプリーズ」
「オレも頼む」
「はいはい、しょうがないですねー」
スキルの名前をぼかしているが、何をして欲しいのかすぐに理解した友真は《共有》を2人に使った。そして、フォークに絡めたパスタを一口食べる。取れなかった具は箸に持ち替えてからお口にモグモグ。
「ほむ」
「やっぱ、面白れぇスキルだよな」
「まあ、こういった遊びに特化したユニークスキルですからねー」
結局、新たな宇宙をバックにするモンスターとの遭遇は果たせなかった。残念ながら、どいつもこいつも一瞬硬直した程度ですぐに復帰して襲って来る。あの1回が偶然の奇跡だった可能性もあるが、友真の中では《共有》がモンスターに上手く届いてないのかと懸念してもいた。
「友真、また思考の惑星がループザループしてる。もっと気楽にダイスで決めてもヨシ!」
「ミサクの言う通りだぞ。オレらなんてまだ卵の殻が付いた雛なんだぜ。伸ばさなかった方だって後からいくらでも修正利くんだからな」
「むー、そうですね」
再度悪い考えに染まりそうだったところを、2人がセーブする。それでもまだ決めかねている友真を見て、ミサクが1つの提案を口にした。
「ボクにいい考えがある」
「え?」
「お?」
「この後、友真の家でゲーム対決をする。トータルで一番勝った人のポジションをひとまず重点的に鍛えるとよろし」
タクトが勝てば前衛。《身体強化》に重点を置き、近接での立ち回りや軽盾の扱いなどを鍛える。
ミサクが勝てば後衛。《水魔法》に重点を置き、さらに他属性の魔法にも慣れていく。
「その場合、俺が勝ったらどうするのですか?」
「あー……」
「そこは、中衛もといサポート強化。投擲や魔法の最適化は普通だし……そうだ、《影魔法》覚えよう。特に、操作と実体化の2つ」
《影魔法》は、ユニークスキル《影支配》を研究して生まれた再現魔法である。
自身の影を自由に動かせる《影操作》
質量を持たせる《影実体化》
容量を大きくする《影拡大》
色を変える《影変色》
といったように、様々なデータを取って解析し、用途を絞って細分化することで再現に成功した。欠点としては、1つ1つ取得する必要があることと、普通のノーマルスキルと比べて圧倒的に取得難易度が高いことが挙げられる。
「あの、俺が勝ったときだけ難易度爆上がりしてませんか?」
「嫌ならわざと負けりゃ良いじゃん。けどよ、友真は敗北者になって良いんか?」
「やってやろうじゃねえかよ、この野郎!」
「……ミサク、それは俺の声真似ですか? まあ、自ら敗北の道を進む気はさらさらないですけど」
友真が勝てばサポート強化。ミサクの無茶な提案により、再現魔法である《影操作》と《影実体化》の取得をさせられる。
こうして、3人のゲーム対決が火蓋を切ることとなった。目的が決まり、支払いを済ませて店を出ると、友真の家へと向かうことにする。
「その前にスーパーで色々買ってから行こうぜ」
「賛成。今夜は友真のハウスで宴のタイム」
「良いですね。夜はお好み焼きにしましょうか」
「ッシャッ!!」
「広島と大阪の戦いが始まる」
こういったとき、1人暮らしが居ると便利である。この1ヶ月で何度も友真の家に集まって遊んでおり、その流れで少し奮発して最新のゲーム機も導入されていた。
少し大きな出費だったこともあり、ソフトに関しては全て友人たちから借りている者になっている。ついでに、お好み焼き用のホットプレートもタクトの私物だった。
「折角ですし、全員違うお好み焼きにしてみませんか?」
「良いなそれ」
「餅とチーズに100万点」
「この前調べたら、キャベツの代わりに大量のネギをぶち込むってのがあったんですよね」
「ひき肉……いや、海鮮系もありだな。ぐぅ……あー、悩むー!!」
各自、気になる具材について話ながらスーパーまでの道のりを歩く。友真とミサクの2人はすぐに決めたのだが、タクトは未だに2択から絞り込めていないようだ。
「友真、お願いしたいことがある」
頭を抱えて悩むタクトを後目に、ミサクが友真に声を掛けた。普段とは違い、真剣な面持ちで見つめている。
「畏まって急に、何でしょうか?」
「実は……」
その内容は、《共有》に関わる話だった。
【あとがき】
・
トモリの名義で配信活動をしているDTuber。児童養護施設出身で、現在は学校と提携しているアパートで1人暮らしをしている。
物心がつく少し前に起きた街一帯が崩壊する事件に巻き込まれ両親を亡くした。だが、当時は似たような境遇の子どもが多かったので、特別珍しい訳ではない。
・沢城
友真のクラスメイトで、合宿で同室だった縁から仲良くなった友人。両親共にデカく、健啖家で小学生の頃から運動ばかりしていたのでガタイが大きい。
小学生の頃に読んだ漫画に出てきた中国拳法に憧れを持っており、その中でも鉄山靠は特にカッコ良いと思っている。母親に頼んで近くの道場に入れてもらったこともあるが、先生の話を聞かないわんぱく小僧だったためにすぐ退会した過去を持つ。
・
友真のクラスメイトで、中学時代から仲の良い親友。省エネ型を自称しており、何かと要領が良い。
幼い頃に見た同時に2種類の魔法を扱う御業に憧れを抱いた。その使い手が左右の手でそれぞれ違う絵を描けるようになれば出来ると語るインタビュー動画を見たのを機に、ずっとトレーニングを続けている。
・突撃ウサギ
初級のダンジョンに生息する大柄なウサギ型モンスター。
額から生えた角は鋭く、木の板ぐらいであれば簡単に貫く。ただし、角が進化した代わりなのか耳は短く聴力は人とあまり変わらない。ドロップ品の中にある角は愛用する工芸家が居るためそこそこ高く買い取ってくれる。尻尾は何となく運気が上がりそうということで人気が高い。肉は鶏ササミに似ており、筋肉界隈で人気がある。骨は犬が喜んで齧る。
・魔力切れ
ダンジョン発生以来、あらゆる生物には魔力があることが判明した。魔力の量や質には個体差があり、努力次第で成長することが解っている。魔力を使い過ぎると全身の倦怠感と脱力感に襲われる。その状態で無理矢理魔力を絞り出すとミイラのようになって死ぬ。休養を取ったり、外部からエネルギーを補給することで回復する。
・友真の住むアパート
境専の学校から徒歩5分のところにある1LDKの賃貸物件。学校側が大部分を負担してくれるおかげで、破格の安さで借りられている。オーナーは境専の卒業生で、国内TOP100に入っている探索者。学校と契約しているので、境専関係者しか利用できない。
・勝負の行方
残念ながら、引き分けとなり保留となった。後日、友情破壊ゲームで再戦が行われるらしい。