BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第九章 もっと

最初の二人と別れてから、七日が経った。

 

肩の傷はまだ完全には塞がっていない。刀を振れば少し痛むし、寝返りを打てば傷が引きつって目が覚める。

 

それでも、歩くのをやめる理由にはならなかった。

 

むしろ最近、妙な癖がついた。

 

道ですれ違う者の腰に刀があると、無意識に目で追ってしまう。

 

どちらの足から歩き出すのか。重心はどこにあるのか。肩に余計な力は入っていないか。

 

本人の顔を見るより先に、そんなところばかり見ている。

 

そして少しでも気になる動きを見つけると、頭の中で勝手に刀を抜かせてしまう。

 

この距離なら、どう構えるのだろう。

 

どちらから斬ってくるのだろう。

 

俺が入れば、どう動くのだろう。

 

「…………」

 

すれ違った男が、不審そうにこちらを見ていた。

 

どうやら、また見過ぎていたらしい。

 

「申し訳ありません」

 

軽く頭を下げて通り過ぎる。

 

数歩進んだところで、もう別の男の腰に刀を見つけた。

 

「…………」

 

困った。

 

最近、人を見ると刀を抜かせたくなる。

 

◇

 

最初のうちは、向こうから絡まれることが多かった。

 

女が一人で歩いていて、腰には刀。それだけで目をつける者はいるらしい。

 

「置いてけ」

 

道を塞いだ男が言った。

 

「何をでしょう」

 

「刀だよ。見りゃ分かんだろ」

 

「…………」

 

俺は男の腰を見る。

 

刀がある。

 

右足が少し前に出ていて、肩幅も広く、腕も太い。

 

「その前に、一つお願いしてもよろしいでしょうか」

 

「あ?」

 

「刀を抜いていただけますか」

 

「てめえ……」

 

男の眉が寄ったが、それでも刀を抜いた。

 

両手で柄を握り、右足を前にして刀を頭の横まで持ち上げる。

 

高い構えだ。

 

宗玄とも、先日の二人とも違う。

 

「何笑ってやがる!」

 

「申し訳ありません。嬉しくて」

 

「気持ち悪ぃんだよ!」

 

男が踏み込んだ。

 

速くはないが、大きい。

 

振り下ろされた刀から半歩外れ、そのまま胴へ斬り込むと、男は正面から受けた。

 

――ガキンッ!

 

「…………!」

 

手首から肘まで、一気に痺れた。

 

重い。

 

技ではなく、身体の大きさと力をそのまま刀へ乗せている。

 

「なるほど……」

 

「何がだ!」

 

もう一度来る。

 

今度は受けずに外れると、勢いのついた刃が地面すれすれまで落ち、その瞬間に首が空いた。

 

刀を走らせ、喉へ触れる寸前で止める。

 

「…………」

 

男が固まった。

 

「ありがとうございました」

 

「……は?」

 

刀を納め、頭を下げる。

 

大きく振るぶん隙も大きいが、まともに受ければこちらの身体ごと崩される。

 

知らなかった剣だった。

 

また一つ。

 

◇

 

別の日には、ほとんど刀を振らない男がいた。

 

こちらが入れば下がり、さらに入ればまた下がる。何度繰り返しても仕掛けてこないので、最初は逃げているのかと思った。

 

だが、足の裏に硬いものが触れた。

 

「っ」

 

石だ。

 

ほんの一瞬だけ視線を落とした、その瞬間に男が来た。

 

「…………!」

 

反射的に刀を合わせたが、すでに刃は首の近くまで来ている。身体を捻ると、切られた髪が数本宙を舞った。

 

「なるほど」

 

「あ?」

 

「それを待っていたのですね」

 

俺が石を踏むことではなく、意識が相手から外れる瞬間を待っていたのだ。

 

男は答えず、また距離を取る。

 

「…………ふふ」

 

「何笑ってやがる」

 

「申し訳ありません。面白くて」

 

「頭おかしいんじゃねえのか」

 

それも、よく言われる。

 

だが、その日から見るものが少し増えた。

 

地面や壁、光、周囲にいる人間。

 

剣を振る者が使うのは、刀だけではないらしい。

 

◇

 

左手で刀を持つ女にも会った。

 

「さっきから何見てんの」

 

「珍しくて」

 

「何が?」

 

「左で刀を持つ方とは、初めてお会いしました」

 

「気持ち悪いんだけど」

 

「申し訳ありません」

 

やはり言われた。

 

だが、実際に向かい合ってみると面白かった。

 

知っているはずの足の位置も、刀の来る方向も、身体を外す方向も、何もかもが少しずつ逆になる。

 

分かっているつもりなのに間違え、頬を斬られ、次は腕、その次には脇腹へ浅く刃が入った。

 

それでも、口元が緩んだ。

 

まだ知らないものがある。

 

その事実が、傷の痛みより嬉しかった。

 

◇

 

そうして歩いているうちに、一月が過ぎた。

 

最初に斬られた肩の傷はもうほとんど分からないが、代わりに腕や腹、脚、背中に新しい傷が増えていた。

 

どれも深くはない。

 

それでも傷を見るたび、誰につけられたものなのか思い出せる。

 

力任せに刀を振る男。

 

足元を使った男。

 

左利きの女。

 

妙に低い位置から斬り上げてきた老人。

 

傷と一緒に、彼らの動きも身体へ残っている。

 

誰もいない場所で刀を抜き、力の強かった男を思い出しながら身体ごと振り下ろしてみる。

 

――ヒュンッ。

 

やはり、あれほどの重さは出ない。身体が違うのだから当然だ。

 

なら、同じ剣にする必要もない。

 

自分に使えるものだけ、身体が覚えればいい。

 

もう一度振ると、先ほどとは少しだけ違う音がした。

 

◇

 

やがて、別の問題が出てきた。

 

強い人が、なかなか見つからない。

 

最初は知らない構えや動きを見るだけで十分だったのに、最近は戦っている途中で、次にどこから来るのか、どちらの足で入るのか、どこへ逃げるのかが分かるようになってきた。

 

「もう終わりでしょうか」

 

目の前で男が倒れている。

 

息はあるが、俺の首まで刀が届くことは一度もなかった。

 

返事がないので刀を納める。

 

「ありがとうございました」

 

頭を下げて歩き出す。

 

知らない動きはあったし、面白くなかったわけでもない。

 

けれど、足りない。

 

宗玄と向かい合ったときは、何をしても斬られる気がした。新太だって、最後の頃には何度も俺を困らせた。

 

あれが欲しい。

 

知らないだけでは、もう足りない。

 

俺が分からず、困らされるもの。

 

できれば――俺を斬れるもの。

 

「…………」

 

そういう人は、どこにいるのだろう。

 

◇

 

それから、探し方を変えた。

 

「この辺りで、一番剣の強い方をご存じですか」

 

「…………は?」

 

食べ物を売っていた男が俺を見る。

 

「剣を使う方です」

 

「何でそんな奴探してんだ」

 

「戦ってみたいので」

 

「…………」

 

男が一歩、俺から離れた。

 

「どうされました?」

 

「いや……」

 

少し迷ったあと、男は北を指した。

 

「三つ先の集落にいる」

 

「強いのですか?」

 

「人を何人も斬ってる」

 

「…………!」

 

思わず身を乗り出した。

 

「本当ですか」

 

「お、おう」

 

「ありがとうございます」

 

「待て。行くのか?」

 

「はい」

 

「今から?」

 

「はい」

 

また変な顔をされた。

 

けれど、そんなことはどうでもよかった。

 

人を何人も斬っているのなら、少なくとも今までの者たちよりは強いかもしれない。

 

気づけば、足が速くなっていた。

 

◇

 

男は本当にいた。

 

大きな男だった。

 

顔には古い傷が走り、腰には二本の刀を差している。

 

「お前が?」

 

「はい」

 

「俺とやりてえって女は」

 

「はい」

 

男が笑った。

 

「死ぬぞ」

 

「…………」

 

胸が高鳴った。

 

脅しなのかもしれない。

 

それでも、その言葉を聞いて嬉しくなった。

 

「そうですか」

 

「あ?」

 

「それは、楽しみです」

 

柄へ手を置く。

 

男の笑みが消えた。

 

◇

 

強かった。

 

本当に。

 

強かった。

 

「っ!」

 

――ギンッ!

 

刀が弾かれ、手首に痛みが走る。

 

立て直すより早く二本目が来た。

 

「…………!」

 

頬が熱い。

 

切られた。

 

「遅え!」

 

今度は低い。

 

身体を浮かせると、刀が足元を抜けていく。

 

着地した瞬間には、もう二本目が来ていた。

 

「っ!」

 

――ガキンッ!

 

受ける。

 

重い。

 

押し込まれる。

 

次の瞬間、腹に衝撃が入った。

 

「ぐっ……!」

 

蹴られた。

 

地面を転がり、肺から息が抜ける。

 

痛い。

 

それでも、すぐに起き上がった。

 

「まだやんのか」

 

「はい」

 

答えるのに迷いはなかった。

 

男が少し笑った。

 

「イカれてやがる」

 

「ありがとうございます」

 

「褒めてねえよ」

 

「そうでしたか」

 

刀を構え直す。

 

男の足を見る。

 

腰。二本の刀。距離。

 

そして。

 

その全部を。

 

やめる。

 

男を見る。

 

「もう一度」

 

◇

 

何度斬り合ったのか、途中から分からなくなった。

 

腕を斬られた。

 

肩も。

 

脚にも刃が入った。

 

俺も男を斬った。

 

最初は浅く。

 

次は、もう少し深く。

 

互いの血が地面へ落ちているのに、どちらも止まらない。

 

「…………ふふ」

 

「やっぱりお前」

 

男が息を切らしながら笑った。

 

「頭おかしいだろ」

 

「よく言われます」

 

「だろうな!」

 

二本の刀が来る。

 

片方だけを見るな。

 

男を見る。

 

「…………!」

 

一つ目から外れる。

 

二つ目。

 

見えない。

 

いや。

 

見なくていい。

 

そこしかない。

 

刀を合わせる。

 

――ギンッ!

 

二本目が流れた。

 

身体はもう、前へ出ていた。

 

男の胸が空いている。

 

「…………」

 

刀が走った。

 

――ザンッ。

 

「…………!」

 

手に伝わった感触で分かった。

 

深い。

 

今までとは違う。

 

刃が肉を裂き、その奥まで入っている。

 

刀を抜く。

 

血が噴いた。

 

男が一歩下がった。

 

何か言おうと口を開く。

 

声は出なかった。

 

もう一歩。

 

握っていた刀が指から滑り落ちる。

 

――カラン。

 

そのまま、男も倒れた。

 

「…………」

 

動かない。

 

しばらく待ったが、それでも動かない。

 

近づいてしゃがむ。

 

息をしていなかった。

 

俺が殺した。

 

◇

 

刀を見る。

 

赤い。

 

手が、少し震えていた。

 

あの日とは違う。

 

あの日は殺されそうになり、地面へ押さえつけられて逃げられず、生きるために刀を刺した。

 

殺そうと思ったわけではない。

 

生きたかった。

 

だから、刺した。

 

でも今は違う。

 

俺はこの男を探した。

 

自分からここまで来て、刀を抜き、戦った。

 

そして、殺した。

 

腹の奥がひどく重い。

 

男を見る。

 

もう動かない。

 

なのに、頭の中に何度も浮かぶのは、倒れた男の姿ではなかった。

 

二本目。

 

最初の刀を避けた直後、死角から来たあの剣。

 

途中まで、本当に分からなかった。

 

もう少し遅ければ、俺の首に入っていたかもしれない。

 

一本目で視線を奪い、二本目を身体に隠す。

 

刀の角度や足の位置を思い返すほど、もう一度見たくなる。

 

「…………」

 

そこで、ようやく気づいた。

 

もう見られない。

 

男は死んでいる。

 

胸の奥が冷えた。

 

人を殺したことが怖い。

 

でも、それだけではなかった。

 

俺は今、この人が死んだことよりも、もうこの人の剣を見られないことを惜しいと思った。

 

「…………」

 

それが、何より怖かった。

 

◇

 

刀の血を拭い、鞘へ納めた。

 

男の前で頭を下げる。

 

「ありがとうございました」

 

返事はない。

 

当然だった。

 

身体中が痛む。脚にも傷があるし、今日はもう戦えそうにない。

 

歩きながら、傷が治ったらどうするのだろうと考えた。

 

答えは、考える前に出ていた。

 

次を探す。

 

足が止まった。

 

人を殺したばかりなのに、もう次に戦う相手のことを考えている。

 

自分でも、少し嫌になった。

 

それでも宗玄のところへ戻ろうとは思わないし、刀を捨てようとも思わない。

 

ただ、もっと見たい。

 

今日の男より強い人。

 

今日の男より分からない剣。

 

俺が何をしても届かず、何をしても斬られるような。

 

そんな剣を、見てみたい。

 

「…………」

 

怖い。

 

それでも、知りたい。

 

もっと。

 

止まっていた足が、また前へ出る。

 

次にどこへ行けばいいのかは、まだ知らない。

 

けれど、強い剣があると聞けば、きっと俺はそこへ向かう。

 

そのことだけは、もう分かっていた。

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