卯ノ花烈は転生者   作:まいちー

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第九章 選ぶ

 

それから数日。

 

型、新太、宗玄。

 

朝から夕方まで、同じ稽古を何度も繰り返した。

 

「横」

 

「はい」

 

――ヒュンッ。

 

「斜め」

 

「はい」

 

――ヒュンッ。

 

「突き」

 

「はい」

 

――シュッ。

 

「もう一度」

 

「はい」

 

相変わらず楽しい。

 

そして少しずつ、新太の剣が見えるようになってきた。

 

 

新太と向かい合う。

 

「始めろ」

 

「はい」

 

新太が来る。

 

右からの一撃を外れて斬るが、受けられる。その返しを外れて突くと、新太が右へ逃げた。

 

「…………」

 

やはり右。

 

もう一度同じように突くと、今度は左へ変えた。

 

次は斜めから横。新太が下がったところを追って突く。

 

――こつ。

 

「痛っ」

 

肩に当たった。

 

「一本」

 

「はい」

 

新太が肩をさする。

 

「最近ほんと当ててくるようになったな」

 

「新太のおかげです」

 

「それ褒めてる?」

 

「はい」

 

「ならいいけど」

 

もう一度、構える。

 

新太が右から来る――と思ったが、途中で上へ変えた。

 

それを外れて横へ振る。受けられ、返しは右。

 

「…………!」

 

分かる。

 

外れて斬る。

 

――こつ。

 

「またか」

 

「はい」

 

「何で分かるんだよ」

 

「見ておりますので」

 

「それは俺もだよ」

 

「…………」

 

確かに。

 

 

十本やって、四本。

 

少し前なら、一度当たるだけで嬉しかった。それが今は、新太の動きが少しずつ見えるようになっている。

 

もう一度。

 

新太が右から来る。

 

いつもの形。

 

そう思って外れた。

 

「――っ!」

 

違う。

 

新太が途中で止まり、俺が外れた先へ棒を振った。

 

――こつ。

 

「痛っ」

 

腕を打たれた。

 

「…………」

 

今のは。

 

「もう一度お願いします」

 

「おう」

 

再び構える。

 

新太が右から来る。

 

今度はすぐに動かず待つと、新太も止まった。

 

やはり、俺が外れるのを見ている。

 

俺が新太の癖を覚えたように、新太も俺の動きを覚えている。

 

「…………ふふ」

 

「何で嬉しそうなんだよ」

 

「いえ」

 

面白い。

 

一つ分かったと思えば、相手も変わる。答えを覚えれば終わるわけではない。

 

「もう一度お願いします」

 

「おう」

 

 

そこから、新太の剣がさらに変わった。

 

右へ来ると見せて上へ変える。途中で止まり、速さや距離を変え、俺が外れるのを待つ。

 

――こつ。

 

「っ」

 

また腕を打たれた。

 

「今の、私が動くのを待っておりましたか?」

 

「さあな」

 

新太が少し笑っている。

 

間違いない。

 

俺が新太を見るようになったから、新太も俺を見るようになった。

 

何度も打たれるうちに、知っているはずの新太が急に分からなくなっていく。

 

いや。

 

これが、本当の新太なのかもしれない。

 

今までは俺の稽古のために、見やすく、打ちやすくしていただけだ。

 

「…………」

 

楽しい。

 

すごく。

 

 

新太が来る。

 

右に見せて上。

 

今度は分かった。

 

外れて斬る。

 

――カンッ!

 

だが受けられ、そのまま押されて俺の棒が流れた。

 

腹が空く。

 

突きが来る。

 

そう思って身体をずらした。

 

だが、新太は突かない。

 

「…………!」

 

さらに踏み込み、横。

 

「っ!」

 

――こつ。

 

「痛っ」

 

脇腹を打たれた。

 

「一本」

 

宗玄の声。

 

「…………はい」

 

悔しい。

 

完全に読まれた。

 

「清子」

 

「はい」

 

「何で負けた」

 

「突きが来ると決めつけました」

 

「ああ」

 

新太を見る。

 

「新太が、そう思わせた?」

 

「ああ」

 

新太が少し得意そうに鼻を鳴らした。

 

「俺だってそれくらいやる」

 

「はい」

 

「何か腹立つな、その返事」

 

「?」

 

「清子」

 

「はい」

 

「もう一度」

 

「はい」

 

 

今度は決めつけない。

 

新太が右から来る。

 

変えるか、そのままか。

 

分からない。

 

でも、待たない。

 

俺は半歩前へ出た。

 

「!」

 

新太の顔が変わる。

 

距離が変わり、右を振り切れなくなった新太が棒を引く。

 

次は突き。

 

それを外れて斬る。

 

――こつ。

 

「っ!」

 

新太の腕に当たった。

 

「…………」

 

俺が前へ出たから、新太が変えた。

 

そして、その先が見えた。

 

「もう一度」

 

「はい」

 

同じように前へ出ると、今度は新太が下がった。

 

横へ動けば、新太も動く。棒を上げれば、構えを変える。

 

同じことをしても、同じ答えは返ってこない。

 

俺が変われば、新太が変わる。その新太を見て俺も変われば、新太もまた変える。

 

終わらない。

 

「…………ふふ」

 

「また笑ってる!」

 

「はい」

 

「もう隠さねえのかよ!」

 

「隠す必要がありませんので」

 

「何がそんな楽しいんだよ」

 

俺は棒を構える。

 

「新太が分からなくなりました」

 

「……それ褒めてる?」

 

「もちろんです」

 

「ならいいけど」

 

新太も構える。

 

その顔が少し笑っていた。

 

 

「そこまで」

 

宗玄の声で棒を下ろす。

 

新太はその場に座り込んだ。

 

「疲れた」

 

「ありがとうございました」

 

「お前、まだやれそうだな」

 

「かなり」

 

「だろうな」

 

俺も疲れている。腕は重く、身体も痛い。

 

それでも、まだやりたい。

 

「清子」

 

「はい」

 

宗玄が棒を取った。

 

「何が分かった」

 

「…………」

 

今日、新太が急に分からなくなった。

 

それで分かったことがある。

 

「癖は、答えではありません」

 

「ああ」

 

「相手の癖が分かっても、変えられる」

 

「ああ」

 

「なら何の役に立つ」

 

考える。

 

新太は遠い距離で突きを外すと右へ行きやすい。斜めから横なら、下がりやすい。

 

でも、絶対ではない。

 

だから。

 

「選択肢を減らせます」

 

宗玄が俺を見る。

 

「どういう意味だ」

 

「新太が右へ行くことが多いと知っていれば、右へ行くかもしれないと最初から分かります」

 

「ああ」

 

「でも、右へ行くと決めつけない」

 

「それで?」

 

言いながら、少し分かってきた。

 

「右へ行きやすいなら、右を選びやすい形を作る」

 

「それから」

 

「右へ来るのを、待たない」

 

昨日の言葉が浮かぶ。

 

後手。

 

「右へ来るなら、もうそこへ剣があるようにする」

 

宗玄はしばらく黙っていた。

 

「ましだ」

 

「…………!」

 

久しぶりに聞いた。

 

「師匠、今のは――」

 

「片付けろ」

 

「…………はい」

 

聞けなかった。

 

でも、今日はそれでよかった。

 

 

その日の最後。

 

宗玄が刀を持ってきた。

 

「清子」

 

「はい」

 

「抜け」

 

鞘から刀を抜く。

 

「今日は型じゃない」

 

「…………?」

 

宗玄も刀を抜いた。

 

「…………!」

 

初めてだった。

 

宗玄が俺の前で、棒ではなく刀を構えた。

 

空気が変わる。

 

「見るだけだ」

 

「はい」

 

宗玄が構える。

 

普通に見える。

 

右も空いているし、左も届きそうだ。突きも入るように見える。

 

なのに。

 

何かがおかしい。

 

「清子」

 

「はい」

 

「どこを斬る」

 

右。

 

そう答えようとして、止まった。

 

右へ行けば、何が来る。

 

左なら。

 

突けば。

 

「…………」

 

分からない。

 

でも、どれを選んでも嫌な感じがする。

 

「分かりません」

 

「ああ」

 

宗玄が刀を下ろした。

 

「今日はそれでいい。納めろ」

 

「はい」

 

刀を鞘へ戻す。

 

「師匠、今の構えは」

 

「普通だ」

 

「…………」

 

あれが?

 

「右も」

 

「斬れる」

 

「左も」

 

「斬れる」

 

「突いても」

 

「斬る」

 

全部。

 

「では、どこへ行けばよかったのでしょうか」

 

「好きにすればいい」

 

「…………?」

 

宗玄が俺を見る。

 

「どれを選んでも、俺が斬る」

 

「…………」

 

ぞくりとした。

 

昨日まで俺は、新太に選ばせようとしていた。

 

相手の選択を少しずつ狭める。

 

でも、宗玄は違う。

 

右でも、左でも、前でも、後ろでもいい。

 

何を選んでも、その先に宗玄の剣がある。

 

「…………」

 

これが、同じものの先?

 

宗玄の刀はもう鞘に納まっている。

 

それでも、さっきより怖く見えた。

 

「清子」

 

「はい」

 

「明日から、俺の剣を見ろ」

 

「…………!」

 

「はい」

 

胸が高鳴った。

 

型でもない。

 

新太でもない。

 

宗玄の剣。

 

まだ何も分からない。

 

だから、見たい。

 

何度でも。

 

俺は鞘の中の刀へ、もう一度目を向けた。

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