BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十章 強い人

人を殺した翌朝、目が覚めて最初に感じたのは痛みだった。

 

肩も腕も脚も腹も、身体を起こすだけで昨日つけられた傷が一斉に痛む。

 

「…………」

 

生きている。

 

当たり前のことなのに、少し不思議だった。

 

昨夜はほとんど眠れなかった。

 

目を閉じるたびに、あの男の二本目の刀が浮かぶ。一本目で視線を奪い、その陰から来た刃。

 

何度思い返しても、最後には男が倒れた。

 

――カラン。

 

刀が落ちる音まで、はっきり覚えている。

 

人を殺した。

 

その事実は朝になっても消えない。

 

怖かった。

 

それなのに、俺が一番長く考えていたのは、やはりあの二本目だった。

 

どうすれば、もっと早く分かったのか。

 

いや。

 

見ようとしたから遅れたのかもしれない。

 

一本目を避けた時点で、二本目が来る場所は分かったはずだ。

 

「…………」

 

気づけば、また剣のことを考えていた。

 

少しだけ、自分が嫌になった。

 

◇

 

幾日か休み、傷が塞がり始めると、俺はまた歩き出した。

 

今度は、刀を持っているだけの者には声をかけない。

 

強い者を探した。

 

「この辺りで、一番剣の強い方をご存じですか」

 

聞いて、教えてもらい、会いに行く。

 

そして戦う。

 

名前の知られた者は、確かにそれなりに強かった。

 

速い者もいれば、力の強い者もいる。間合いの遠い者、懐へ潜るのが上手い者、刀とは別に短い刃を隠し持つ者もいた。

 

中でも、砂を投げてきた男には驚いた。

 

「卑怯では?」

 

「殺し合いに卑怯も糞もあるか!」

 

「なるほど」

 

「納得すんのかよ!」

 

納得した。

 

宗玄も新太も、そんなことはしなかった。

 

だから知らなかったのだ。

 

目を潰せるなら砂を使い、転ばせられるなら石を使う。壁があれば追い込み、狭い場所なら長い刀を振らせない。

 

剣だけを見ていた頃には気づかなかったことが、いくらでもあった。

 

戦うたびに知らないものが見つかる。

 

それが、楽しかった。

 

◇

 

半年が過ぎた。

 

いつの間にか、腰の刀も変わっていた。

 

最初に拾った刀は、何度も打ち合い、何度も研ぎ、最後には大きく刃が欠けた。

 

少し寂しかった。

 

初めて人を殺した刀であり、宗玄に初めて剣を教わった刀でもある。

 

捨てることはできず、折れた刃を布に包んで持っている。

 

今、腰にあるのは別の刀だった。

 

俺が倒した男が持っていたものだ。

 

最初は持っていくことに抵抗があった。

 

けれど、死んだ者に刀は要らない。

 

そう考えた。

 

正しいのかは分からない。

 

ただ、その刀はよく斬れた。

 

◇

 

「お前が清子か」

 

ある日、初めて向こうから名前を呼ばれた。

 

振り返ると、知らない男が立っている。

 

腰には刀。

 

無意識に足、腰、肩へ視線が動いた。

 

「何見てんだ」

 

「申し訳ありません。癖で」

 

「聞いた通りだな」

 

「?」

 

男が刀へ手を置く。

 

「強え奴を探して歩いてる女がいるってな」

 

俺は少し驚いた。

 

「私のことでしょうか」

 

「他にいんのかよ」

 

「分かりません」

 

「…………」

 

男が眉を寄せた。

 

「何人斬った」

 

「分かりません」

 

今度は、本当に分からなかった。

 

最初の数人は覚えている。

 

だが、いつからか数えなくなった。

 

殺した者もいれば、生きている者もいる。逃げた者もいれば、こちらが倒れたこともある。

 

「覚えてねえのか」

 

「はい」

 

「気味悪ぃ女だな」

 

「よく言われます」

 

「それも聞いた」

 

どうやら、少し有名になっているらしい。

 

妙な気分だった。

 

「強い奴を探してんだろ」

 

「はい」

 

「なら俺とやれ」

 

思わず男を見る。

 

「強いのですか」

 

男が笑った。

 

「お前を斬りに来たんだ。それで不足か?」

 

それで十分だった。

 

「お願いします」

 

刀へ手をかけた。

 

◇

 

男は強かった。

 

それ以上に、やりづらかった。

 

来ると思えば来ない。

 

こちらが入れば下がり、追えばその瞬間に斬ってくる。

 

刀を避けて反撃しても、そこにはもう男がいない。

 

速いわけではない。

 

なのに、合わない。

 

「何だ。聞いてたほどじゃねえな」

 

「そうでしょうか」

 

「ああ」

 

「…………」

 

嬉しい。

 

「何笑ってんだよ」

 

「いえ。少し困っております」

 

「それで笑うのか?」

 

「はい」

 

「やっぱ気味悪ぃな!」

 

男が来る。

 

今度は追わない。

 

待ちもしない。

 

俺が斬れるところへ入った。

 

男の足が変わり、構えも変わる。

 

その対応も、次の形になる。

 

さらに入る。

 

男が外れる。

 

その先へ刀を返す。

 

――キンッ!

 

初めて、男の刀とぶつかった。

 

そこからは何も考えなかった。

 

男が来れば身体が動き、斬れば避けられる。

 

なら、また入る。

 

男が下がれば、足が勝手にその先へ出る。

 

やがて、男の顔から笑みが消えた。

 

◇

 

戦いは長引いた。

 

何度も斬られ、こちらも何度も斬ったが、互いに浅い。

 

決めきれないまま、脚は重くなり、腕も上がらなくなっていく。

 

それでも、まだ終わってほしくなかった。

 

男が構えを変えた。

 

今まで一度も見せなかった形だった。

 

「…………」

 

来る。

 

だが、どこから来るのか分からない。

 

考えるな。

 

男を見る。

 

次の瞬間、男の身体が沈んだ。

 

低い。

 

懐へ入ってくる。

 

刀が身体に隠れた。

 

だが、その瞬間には俺の身体も動いていた。

 

後ろではなく、前へ出る。

 

「なっ――」

 

男の横を抜けながら、刀を振った。

 

何をしたのか、自分でもよく分からない。

 

ただ、手には確かな感触が残った。

 

振り返る。

 

男が一歩動き、そのまま地面へ崩れた。

 

首から血が流れていた。

 

◇

 

また、殺した。

 

けれど以前とは違い、手は震えなかった。

 

そのことに気づいた瞬間、別の意味で怖くなった。

 

男の前へしゃがむ。

 

息はない。

 

さっきまで、あれほど俺を困らせていたのに、もう動かない。

 

そしてやはり、最後の動きをもう一度見たいと思った。

 

「…………」

 

まただ。

 

人が死んだのに、俺はその人より剣を惜しんでいる。

 

ただ、今回はもう一つ気になることがあった。

 

最後に、俺は何をしたのだろう。

 

横でも、斜めでもない。

 

男が来て、身体が動き、その場所を刀が通った。

 

それだけだった。

 

宗玄の剣でもない。

 

旅の途中で見た、誰かの剣でもない。

 

「あれは……」

 

俺の剣だったのだろうか。

 

まだ、分からなかった。

 

◇

 

それから、妙なことが起き始めた。

 

「清子ってのはお前か」

 

「はい」

 

「勝負しろ」

 

「はい」

 

探さなくても、向こうから来るようになった。

 

最初はありがたかった。

 

歩き回らなくても、知らない剣や強い剣が向こうからやって来る。

 

だが、その中には時々、目的の違う者もいた。

 

「お前を斬れば俺の名が上がる」

 

「…………?」

 

意味が分からない。

 

「なぜでしょう」

 

「お前が有名だからだよ!」

 

「そうなのですか」

 

「知らねえのか!」

 

「はい」

 

男が、少しだけ気の毒そうな顔をした。

 

◇

 

噂というものは、自分では見えないらしい。

 

強い者を探して歩く女。

 

戦えば笑う女。

 

斬られても止まらず、勝っても金を取らない。

 

恨みがあるわけでもないのに、ただ強いというだけで刀を抜く。

 

俺が何を思って戦っているのかなど、俺以外には関係なかった。

 

俺はただ、強い人と戦いたかった。

 

知らない剣を見たかった。

 

自分より、もっと強いものを見つけたかった。

 

それだけだった。

 

◇

 

ある集落へ入ったとき、道端で遊んでいた子供と目が合った。

 

子供の顔が固まり、すぐに母親らしい女のところへ走っていく。

 

女は子供を抱き寄せながら、こちらを見ていた。

 

怯えている。

 

「…………」

 

胸の奥に、嫌なものが残った。

 

会ったこともない人たちだ。

 

なのに、俺を知っている。

 

その日の夕方、宿を探していた俺に男が言った。

 

「出ていけ」

 

刀は持っていない。

 

それでも、声は震えていた。

 

「なぜでしょう」

 

「とぼけんな」

 

男が俺を見る。

 

「人斬りが」

 

「…………」

 

初めて、そう呼ばれた。

 

反論しようとして、やめた。

 

間違ってはいない。

 

俺は人を斬った。

 

何人も。

 

そして明日、どこかに強い者がいると聞けば。

 

たぶん、また会いに行く。

 

「申し訳ありません」

 

それしか言えなかった。

 

頭を下げ、集落を出る。

 

空はもう暗くなり始めていた。

 

腰の刀が、今日は少しだけ重く感じた。

 

それでも。

 

捨てようとは、思わなかった。

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