BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十一章 先手と後手

 

翌日。

 

新太と向かい合い、棒を構える。

 

右、左、前、後ろ。どこへでも行けるが、どこへ行っても剣がある。

 

昨日、宗玄から教わったことを思い出す。

 

『選べると思えるものを減らせ』

 

言葉の意味は分かる。問題は、どうやるかだ。

 

「始めろ」

 

「はい」

 

新太が右へ動き、俺も動く。

 

――カンッ!

 

返しを外れて斬るが受けられ、次に左から来た一撃を外れて突く。新太が下がったので、そのまま追った。

 

「清子」

 

「はい」

 

「止めろ」

 

足を止める。

 

「今、何してた」

 

「新太の選択肢を減らそうとしていました」

 

「どうやって」

 

「右なら横。左なら斜め。前なら外れて突き、後ろなら詰めます」

 

宗玄が俺を見る。

 

「全部考えてるな」

 

「…………はい」

 

「遅い」

 

「はい」

 

分かっている。

 

相手を見る。距離を見る。構えを見る。そのうえで選択肢を考え、何を選ばせてどう斬るかまで決めようとしている。

 

分かったことが増えるほど、考えなければならないことも増えていた。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「全部を考えなくなるまで、繰り返すのでしょうか」

 

「ああ」

 

やはり、それしかないらしい。

 

「分かりました」

 

 

何度も繰り返した。

 

新太を見てこちらの構えを変えれば、新太も変わる。そして俺は、その変化を見てから合わせる。

 

「…………」

 

違う。

 

また、合わせている。

 

『合わせるだけなら、後手だ』

 

以前、宗玄に言われた言葉が妙に残っていた。

 

なら、俺が先に動けばいいのか。

 

踏み込むと新太が下がり、追って振るが受けられ、そのまま肩を打たれた。

 

「痛っ」

 

「何だ今の」

 

「先に動いてみました」

 

「何で?」

 

「後手にならないように」

 

新太が宗玄を見る。

 

宗玄は俺を見ていた。

 

「清子」

 

「はい」

 

「後手の反対は」

 

「先手です」

 

「それで先に動いたのか」

 

「はい」

 

「馬鹿」

 

「…………」

 

久しぶりにはっきり言われた。

 

「違うのでしょうか」

 

「違う」

 

宗玄が棒を取る。

 

「新太。俺を打て」

 

「はい」

 

 

二人が構える。

 

宗玄はいつものように、普通に立っている。

 

「打て」

 

新太が足を動かした瞬間、宗玄の棒が新太の首に触れた。

 

――ヒュッ。

 

「…………!」

 

新太が先に動き、宗玄はそのあとだった。それなのに、宗玄の棒が先に届いている。

 

「もう一度」

 

今度は新太が一気に踏み込んだ。

 

宗玄は半歩外れ、肩を打つ。

 

また新太が先で、宗玄が後。それでも、一度も宗玄が後手には見えなかった。

 

「清子」

 

「はい」

 

「分かるか」

 

考える。

 

新太は先に動いている。だが、宗玄の前ではどこへ行くか迷い、それでも打てと言われて最後には自分で選んだ。

 

「新太は先に動いています」

 

「ああ」

 

「でも、どこからどう打つかは、動く前から師匠に読まれている」

 

「まし」

 

宗玄が棒を下ろす。

 

「先に動くのが先手じゃない」

 

「…………」

 

「先に決めた方が先手だ」

 

胸の中に落ちた。

 

相手が先に動いてもいい。その動きがこちらの用意したものなら、後から斬っても後手ではない。

 

 

「やれ」

 

「はい」

 

もう一度、新太と向かい合う。

 

先に動く必要はないが、動いてから考えていては遅い。新太が動く前に、その先を考える。

 

右を少し空けると、新太の目が動いた。

 

警戒している。

 

なら、半歩だけ距離を変え、今度は少し深く右を空ける。

 

新太が踏み込んだ。

 

右。

 

外れて斬る。

 

――カンッ!

 

受けられた。

 

失敗。

 

「もう一度」

 

次は同じことをしない。新太も覚えている。

 

右を空けるとそこを見るが、来ない。

 

なら、棒を少し右へ寄せる。

 

左が広くなり、新太の足が動いた。

 

左。

 

外れて斜めに振る。

 

――こつ。

 

「っ」

 

腕に当たった。

 

「…………」

 

昨日とは少し違う。

 

ただ隙を見せて誘ったのではなく、一度右を意識させて警戒させ、そのあと左を選ばせた。

 

「何だよ」

 

「いえ」

 

「その顔やめろ」

 

「どの顔でしょう」

 

「何か試してる顔」

 

「…………」

 

ばれている。

 

「もう一度」

 

「はい」

 

 

何度も試した。

 

見せた隙にそのまま打たれ、読んだ方向と逆へ来る。誘ったつもりでも何も起きず、考えている間に普通に打たれることもあった。

 

「痛っ」

 

「清子」

 

「はい」

 

「顔に出てる」

 

「…………」

 

「考えてるとき、目が止まる」

 

新太も頷く。

 

「分かる」

 

「新太」

 

「はい」

 

「余計なこと言うな」

 

「はい!」

 

そこは否定してほしかった。

 

 

昼を過ぎたころ。

 

右を見せても来ない。左を空けても来ない。距離を詰めれば新太が下がり、追えば横へ動く。

 

俺はそのたびに合わせていた。

 

また、後手だ。

 

「止めろ」

 

宗玄が言った。

 

「何で当たらない」

 

「新太が、私の思った通りに動かないからです」

 

口に出してから気づいた。

 

当たり前だ。新太には、新太の考えがある。

 

「相手を操れると思うな」

 

「…………」

 

「人は人だ」

 

「はい」

 

「なら、どうする」

 

分からない。

 

選ばせる。でも、操るわけではない。

 

「新太」

 

「はい」

 

「俺とやれ」

 

 

宗玄と新太が構える。

 

今度は、新太が何を選ぶのかを見る。

 

新太は迷っていた。

 

右、左、上、突き。

 

宗玄は何もしていないように見えるが、よく見ると足も構えも距離も、ほんのわずかに変わっている。

 

新太が右へ行こうとすれば、宗玄の棒が動く。

 

新太がやめる。

 

左へ行こうとすれば、今度は宗玄の足が変わり、また止まった。

 

「…………!」

 

宗玄は、一つを選ばせようとしていない。

 

新太が選ぼうとするたび、そこを消している。

 

右は駄目。左も駄目。前も駄目。

 

残ったところへ、新太が踏み込んだ。

 

突き。

 

宗玄は半歩外れ、首を打つ。

 

「清子」

 

「はい」

 

「今のは」

 

「突かせたのでしょうか」

 

「違う」

 

「…………」

 

「他を消した」

 

「…………!」

 

同じようで違う。

 

突けと操ったわけではない。新太が自分で選んだ。ただ、他を選べなかった。

 

新太にとっては自分で選んだ剣でも、宗玄にとっては最初からそこへ来る剣だった。

 

「…………ふふ」

 

「何が面白い」

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「少し、ずるいですね」

 

新太が吹き出した。

 

「お前、親父にそれ言う?」

 

「新太」

 

「はい!」

 

宗玄は俺を見る。

 

「剣に公平を求めるな」

 

「はい」

 

「勝て」

 

短い。

 

でも、その言葉が妙に好きだった。

 

 

もう一度、新太と向かい合う。

 

今度は、一つを選ばせようとはしない。新太が選ぼうとするものを見て、嫌なものだけ消す。

 

右へ動こうとしたので棒を少し向けると、止まった。

 

左。

 

半歩変える。

 

また止まる。

 

前。

 

これは残す。

 

新太が踏み込んできたところを外れて突く。

 

――カンッ!

 

受けられた。

 

それでも、新太が少し目を見開く。

 

「今の、俺、前しか行けなかった?」

 

「分かりません」

 

「は?」

 

「新太が前を選んだので」

 

まだ宗玄のようには分からない。

 

たまたまだったかもしれないが、少しだけ近づいた気がする。

 

「もう一度」

 

「おう」

 

 

夕方。

 

新太が構える。

 

右は消す。左は残し、前は消す。

 

新太が一瞬迷った。

 

その瞬間、身体が動いた。

 

一歩入る。

 

「っ!」

 

新太が慌てて左へ動き、そこへ斜めに振る。

 

――こつ。

 

肩に当たった。

 

「…………!」

 

今、新太が動くのを待っていなかった。

 

でも、無理やり先に動いたわけでもない。新太が迷った瞬間に入ったから、新太は動かざるを得ず、その先に俺の棒があった。

 

「師匠」

 

「ああ」

 

「今のは」

 

「まだ遅い」

 

「…………はい」

 

でも、駄目とは言われなかった。

 

「もう一度」

 

「はい」

 

 

稽古が終わり、新太が地面に座り込んだ。

 

「疲れた……」

 

「ありがとうございました」

 

「お前、日に日にやりづらくなるな」

 

「そうでしょうか」

 

「前は普通に打ってくるだけだったのに」

 

褒め言葉だろうか。

 

「清子」

 

「はい」

 

「今日、何が分かった」

 

答えはもうあった。

 

「後から動いても、後手とは限りません。先に動いても、先手とは限らない。動く順番ではなく、その前に相手の次を決めている方が先手です」

 

しばらく沈黙して。

 

「まし」

 

「はい」

 

今度は素直に嬉しかった。

 

 

翌日。

 

宗玄は何も教えなかった。

 

「昨日の続きだ」

 

「はい」

 

新太と向かい合う。

 

相手より先に動く必要はない。相手が動く前に、その先にいる。

 

「始めろ」

 

新太の足が右へ動きかける。

 

棒を少し向けると止まった。

 

左へ行こうとしたので半歩変えると、また止まる。

 

前。

 

これは残す。

 

新太が踏み込んできたところを外れて斬る。

 

――カンッ!

 

受けられ、返しを外れて突くが避けられた。

 

追わない。

 

見る。

 

昨日より少しだけ見える。

 

「もう一度」

 

「おう」

 

 

何度も繰り返した。

 

成功より失敗の方が多い。右を読めば違い、左を消せば前へ来る。誘うことにこだわれば、普通に打たれる。

 

それでも、失敗した理由が少しずつ分かるようになっていた。

 

次に新太が右へ来たところを外れて斬る。

 

――こつ。

 

腕に当たった。

 

だが、今のは新太に右を選ばせたわけではない。ただ、右へ来るのが分かっただけだ。

 

「清子」

 

「はい」

 

「今のは」

 

「見て、合わせました」

 

「それで?」

 

「……後手です」

 

宗玄は少しだけ眉を動かした。

 

「当たっただろ」

 

「はい」

 

「なら今はそれでいい」

 

意外だった。

 

「ですが、合わせただけです」

 

「だから何だ」

 

「『合わせるだけなら、後手だ』と仰ったではありませんか」

 

「言った」

 

「では――」

 

「後手が悪いとは言ってない」

 

「…………」

 

宗玄はそれ以上、何も言わなかった。

 

 

合わせる。

 

先を作る。

 

誘う。

 

待つ。

 

何が正しいのか、考えるほど分からなくなる。

 

「止めろ」

 

宗玄だった。

 

「清子」

 

「はい」

 

「何を探してる」

 

「…………」

 

正しい剣。

 

そう答えようとして、やめた。

 

以前、それで失敗した。

 

「分かりません」

 

「そうか」

 

宗玄が棒を取る。

 

「俺とやれ」

 

「はい」

 

 

宗玄と向かい合う。

 

「打て」

 

右へ行こうとすると、宗玄が半歩変わった。

 

駄目。

 

左も駄目。

 

突きもある。

 

いや、あるように見えるだけかもしれない。

 

「遅い」

 

「っ!」

 

斜めに行く。

 

宗玄が外れ、首を打った。

 

「もう一度」

 

今度は迷わず突くが外され、横へ振れば読まれて脇腹を打たれる。

 

何度やっても駄目だった。

 

「そこまで」

 

息を整える。

 

「分かったか」

 

「いいえ」

 

「そうか」

 

宗玄が新太を見る。

 

「新太。俺とやれ」

 

「はい」

 

 

新太が打ち、宗玄は外れて斬る。

 

新太が返すと、今度は宗玄が受けた。

 

「…………!」

 

受けた。

 

俺には『受けるな』と言っていたのに。

 

さらに新太が横から打つと、宗玄は後ろへ下がった。新太が追えば、もう一歩下がる。

 

俺が下がり過ぎれば、いつも直された。

 

受けることも、下がることも、できるだけ使わないようにしてきたのに、宗玄はその両方を使っている。

 

新太が大きく踏み込んだ瞬間、宗玄が止まった。

 

――ヒュッ。

 

新太の棒が空を切り、宗玄の棒が首に触れる。

 

「終わりだ」

 

「……はい」

 

「清子」

 

「はい」

 

「今、俺は何をした」

 

「受けて、下がって、新太に合わせていました」

 

「ああ」

 

「それでも勝ちました」

 

宗玄は棒を下ろした。

 

「剣に、先手も後手もない」

 

「…………」

 

「勝つために使え」

 

胸の中で何かがほどけた。

 

 

宗玄は以前、俺を後手だと言った。

 

それを俺が、いつの間にか駄目なものだと思い込んでいた。

 

相手に合わせる。先を取る。誘う。待つ。下がる。受ける。

 

どれも、それ自体が間違いなわけではない。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「できないから、使うなと言ったのでしょうか」

 

「ああ」

 

やはりそうか。

 

俺が最初に受けていたのは、受けることしかできなかったから。

下がっていたのも、相手から離れるためにしか使えなかったからだ。

 

宗玄が棒を持ち上げる。

 

「使われるな」

 

「…………」

 

一歩下がった。

 

「使え」

 

それだけだった。

 

でも、十分だった。

 

同じ動きでも、何のためにするのかで違う。形ではなく、勝つために使う。

 

「はい」

 

 

新太と、もう一度向かい合う。

 

新太が右から来る。

 

今度は外れずに受ける。

 

――カンッ!

 

新太が一瞬止まり、そこへ突く。

 

新太が下がっても追わずに待つと、次は上から来た。

 

今度は俺が下がる。

 

一歩、二歩と下がり、新太が大きく踏み込んだところを横へ外れて斜めに振る。

 

――カンッ!

 

受けられた。

 

「…………」

 

楽しい。

 

外れなければいけないわけではない。

 

先を取らなければいけないわけでも、相手を動かさなければいけないわけでもない。

 

全部、使っていい。

 

「…………ふふ」

 

「また笑ってるぞ」

 

「はい」

 

「否定もしなくなったな」

 

「楽しいので」

 

「そうかよ」

 

新太が横から打ってくる。

 

受ける。

 

強い。

 

なら、受け続けない。

 

力を抜くと新太の棒が流れ、身体が崩れたところへ打ち込む。

 

――こつ。

 

肩に当たった。

 

「…………!」

 

今のは考えていない。

 

受けた一撃が強かったから流し、崩れたから斬った。それだけだ。

 

「清子」

 

「はい」

 

「続けろ」

 

「はい」

 

 

しばらくすると、新太も前ほど簡単には来なくなった。

 

右を見せても来ず、距離を詰めても下がらない。

 

俺を見ている。

 

新太も選んでいる。

 

なら、俺も選べばいい。新太がこちらを動かそうとするなら、それに乗ってもいい。

 

新太が左を空けた。

 

誘いかもしれない。

 

でも、行く。

 

左へ踏み込むと、やはり新太の棒が待っていた。

 

受ける。

 

押されて下がると、新太が追ってくる。

 

さらに下がり、新太の足が大きく出たところを外れて突く。

 

――こつ。

 

胸。

 

「今、分かってて来た?」

 

「途中で」

 

「途中で分かって、そのまま来たの?」

 

「はい」

 

「何でだよ」

 

「使えそうでしたので」

 

新太が嫌そうな顔をする。

 

「新太」

 

「はい!」

 

「続けろ」

 

「はい」

 

そのあと、誘いに乗って普通に何度も負けた。

 

「痛っ」

 

「それも使えそうだった?」

 

「今のは失敗です」

 

「だろうな」

 

「もう一度お願いします」

 

「おう」

 

でも、面白い。

 

正しい動きが一つではないのなら、試せるものはいくらでもある。

 

 

夕方。

 

宗玄が稽古を止めた。

 

「清子」

 

「はい」

 

「刀を抜け」

 

「…………!」

 

「はい」

 

刀を抜く。

 

「構えろ」

 

「はい」

 

「斬り下ろし」

 

――ヒュンッ。

 

「横」

 

――ヒュンッ。

 

「斜め」

 

――ヒュンッ。

 

「突き」

 

――シュッ。

 

「もう一度」

 

繰り返す。

 

だが、以前とは違う。

 

斬り下ろし、横、斜め、突き。

 

四つの別々の形というより、必要なときに使うものとして感じるようになっていた。

 

「止めろ」

 

「はい」

 

「何が変わった」

 

自分の刀を見る。

 

「型が、少なく感じます」

 

「何でだ」

 

「別々のものでは、なくなってきたからでしょうか」

 

宗玄は少し黙った。

 

「まし」

 

「はい」

 

「明日から、型を減らす」

 

「…………?」

 

「減らす?」

 

「ああ」

 

「増やしたばかりですが」

 

「増やしたから減らす」

 

意味は分からない。

 

だが、胸が少し高鳴った。

 

「何を減らすのでしょうか」

 

「全部だ」

 

「…………」

 

「明日分かる」

 

「はい」

 

 

帰り道。

 

型を減らす、という言葉を考えていた。

 

斬り下ろし、横、斜め、突き。

 

せっかく覚えたものを減らす。

 

もちろん、忘れろという意味ではないのだろう。

 

増やして、身体に入れて、そのあと減らす。

 

「…………」

 

分からない。

 

だからこそ、明日が楽しみだった。

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