BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
翌日。
新太と向かい合い、棒を構える。
右、左、前、後ろ。どこへでも行けるが、どこへ行っても剣がある。
昨日、宗玄から教わったことを思い出す。
『選べると思えるものを減らせ』
言葉の意味は分かる。問題は、どうやるかだ。
「始めろ」
「はい」
新太が右へ動き、俺も動く。
――カンッ!
返しを外れて斬るが受けられ、次に左から来た一撃を外れて突く。新太が下がったので、そのまま追った。
「清子」
「はい」
「止めろ」
足を止める。
「今、何してた」
「新太の選択肢を減らそうとしていました」
「どうやって」
「右なら横。左なら斜め。前なら外れて突き、後ろなら詰めます」
宗玄が俺を見る。
「全部考えてるな」
「…………はい」
「遅い」
「はい」
分かっている。
相手を見る。距離を見る。構えを見る。そのうえで選択肢を考え、何を選ばせてどう斬るかまで決めようとしている。
分かったことが増えるほど、考えなければならないことも増えていた。
「師匠」
「何だ」
「全部を考えなくなるまで、繰り返すのでしょうか」
「ああ」
やはり、それしかないらしい。
「分かりました」
◇
何度も繰り返した。
新太を見てこちらの構えを変えれば、新太も変わる。そして俺は、その変化を見てから合わせる。
「…………」
違う。
また、合わせている。
『合わせるだけなら、後手だ』
以前、宗玄に言われた言葉が妙に残っていた。
なら、俺が先に動けばいいのか。
踏み込むと新太が下がり、追って振るが受けられ、そのまま肩を打たれた。
「痛っ」
「何だ今の」
「先に動いてみました」
「何で?」
「後手にならないように」
新太が宗玄を見る。
宗玄は俺を見ていた。
「清子」
「はい」
「後手の反対は」
「先手です」
「それで先に動いたのか」
「はい」
「馬鹿」
「…………」
久しぶりにはっきり言われた。
「違うのでしょうか」
「違う」
宗玄が棒を取る。
「新太。俺を打て」
「はい」
◇
二人が構える。
宗玄はいつものように、普通に立っている。
「打て」
新太が足を動かした瞬間、宗玄の棒が新太の首に触れた。
――ヒュッ。
「…………!」
新太が先に動き、宗玄はそのあとだった。それなのに、宗玄の棒が先に届いている。
「もう一度」
今度は新太が一気に踏み込んだ。
宗玄は半歩外れ、肩を打つ。
また新太が先で、宗玄が後。それでも、一度も宗玄が後手には見えなかった。
「清子」
「はい」
「分かるか」
考える。
新太は先に動いている。だが、宗玄の前ではどこへ行くか迷い、それでも打てと言われて最後には自分で選んだ。
「新太は先に動いています」
「ああ」
「でも、どこからどう打つかは、動く前から師匠に読まれている」
「まし」
宗玄が棒を下ろす。
「先に動くのが先手じゃない」
「…………」
「先に決めた方が先手だ」
胸の中に落ちた。
相手が先に動いてもいい。その動きがこちらの用意したものなら、後から斬っても後手ではない。
◇
「やれ」
「はい」
もう一度、新太と向かい合う。
先に動く必要はないが、動いてから考えていては遅い。新太が動く前に、その先を考える。
右を少し空けると、新太の目が動いた。
警戒している。
なら、半歩だけ距離を変え、今度は少し深く右を空ける。
新太が踏み込んだ。
右。
外れて斬る。
――カンッ!
受けられた。
失敗。
「もう一度」
次は同じことをしない。新太も覚えている。
右を空けるとそこを見るが、来ない。
なら、棒を少し右へ寄せる。
左が広くなり、新太の足が動いた。
左。
外れて斜めに振る。
――こつ。
「っ」
腕に当たった。
「…………」
昨日とは少し違う。
ただ隙を見せて誘ったのではなく、一度右を意識させて警戒させ、そのあと左を選ばせた。
「何だよ」
「いえ」
「その顔やめろ」
「どの顔でしょう」
「何か試してる顔」
「…………」
ばれている。
「もう一度」
「はい」
◇
何度も試した。
見せた隙にそのまま打たれ、読んだ方向と逆へ来る。誘ったつもりでも何も起きず、考えている間に普通に打たれることもあった。
「痛っ」
「清子」
「はい」
「顔に出てる」
「…………」
「考えてるとき、目が止まる」
新太も頷く。
「分かる」
「新太」
「はい」
「余計なこと言うな」
「はい!」
そこは否定してほしかった。
◇
昼を過ぎたころ。
右を見せても来ない。左を空けても来ない。距離を詰めれば新太が下がり、追えば横へ動く。
俺はそのたびに合わせていた。
また、後手だ。
「止めろ」
宗玄が言った。
「何で当たらない」
「新太が、私の思った通りに動かないからです」
口に出してから気づいた。
当たり前だ。新太には、新太の考えがある。
「相手を操れると思うな」
「…………」
「人は人だ」
「はい」
「なら、どうする」
分からない。
選ばせる。でも、操るわけではない。
「新太」
「はい」
「俺とやれ」
◇
宗玄と新太が構える。
今度は、新太が何を選ぶのかを見る。
新太は迷っていた。
右、左、上、突き。
宗玄は何もしていないように見えるが、よく見ると足も構えも距離も、ほんのわずかに変わっている。
新太が右へ行こうとすれば、宗玄の棒が動く。
新太がやめる。
左へ行こうとすれば、今度は宗玄の足が変わり、また止まった。
「…………!」
宗玄は、一つを選ばせようとしていない。
新太が選ぼうとするたび、そこを消している。
右は駄目。左も駄目。前も駄目。
残ったところへ、新太が踏み込んだ。
突き。
宗玄は半歩外れ、首を打つ。
「清子」
「はい」
「今のは」
「突かせたのでしょうか」
「違う」
「…………」
「他を消した」
「…………!」
同じようで違う。
突けと操ったわけではない。新太が自分で選んだ。ただ、他を選べなかった。
新太にとっては自分で選んだ剣でも、宗玄にとっては最初からそこへ来る剣だった。
「…………ふふ」
「何が面白い」
「師匠」
「何だ」
「少し、ずるいですね」
新太が吹き出した。
「お前、親父にそれ言う?」
「新太」
「はい!」
宗玄は俺を見る。
「剣に公平を求めるな」
「はい」
「勝て」
短い。
でも、その言葉が妙に好きだった。
◇
もう一度、新太と向かい合う。
今度は、一つを選ばせようとはしない。新太が選ぼうとするものを見て、嫌なものだけ消す。
右へ動こうとしたので棒を少し向けると、止まった。
左。
半歩変える。
また止まる。
前。
これは残す。
新太が踏み込んできたところを外れて突く。
――カンッ!
受けられた。
それでも、新太が少し目を見開く。
「今の、俺、前しか行けなかった?」
「分かりません」
「は?」
「新太が前を選んだので」
まだ宗玄のようには分からない。
たまたまだったかもしれないが、少しだけ近づいた気がする。
「もう一度」
「おう」
◇
夕方。
新太が構える。
右は消す。左は残し、前は消す。
新太が一瞬迷った。
その瞬間、身体が動いた。
一歩入る。
「っ!」
新太が慌てて左へ動き、そこへ斜めに振る。
――こつ。
肩に当たった。
「…………!」
今、新太が動くのを待っていなかった。
でも、無理やり先に動いたわけでもない。新太が迷った瞬間に入ったから、新太は動かざるを得ず、その先に俺の棒があった。
「師匠」
「ああ」
「今のは」
「まだ遅い」
「…………はい」
でも、駄目とは言われなかった。
「もう一度」
「はい」
◇
稽古が終わり、新太が地面に座り込んだ。
「疲れた……」
「ありがとうございました」
「お前、日に日にやりづらくなるな」
「そうでしょうか」
「前は普通に打ってくるだけだったのに」
褒め言葉だろうか。
「清子」
「はい」
「今日、何が分かった」
答えはもうあった。
「後から動いても、後手とは限りません。先に動いても、先手とは限らない。動く順番ではなく、その前に相手の次を決めている方が先手です」
しばらく沈黙して。
「まし」
「はい」
今度は素直に嬉しかった。
◇
翌日。
宗玄は何も教えなかった。
「昨日の続きだ」
「はい」
新太と向かい合う。
相手より先に動く必要はない。相手が動く前に、その先にいる。
「始めろ」
新太の足が右へ動きかける。
棒を少し向けると止まった。
左へ行こうとしたので半歩変えると、また止まる。
前。
これは残す。
新太が踏み込んできたところを外れて斬る。
――カンッ!
受けられ、返しを外れて突くが避けられた。
追わない。
見る。
昨日より少しだけ見える。
「もう一度」
「おう」
◇
何度も繰り返した。
成功より失敗の方が多い。右を読めば違い、左を消せば前へ来る。誘うことにこだわれば、普通に打たれる。
それでも、失敗した理由が少しずつ分かるようになっていた。
次に新太が右へ来たところを外れて斬る。
――こつ。
腕に当たった。
だが、今のは新太に右を選ばせたわけではない。ただ、右へ来るのが分かっただけだ。
「清子」
「はい」
「今のは」
「見て、合わせました」
「それで?」
「……後手です」
宗玄は少しだけ眉を動かした。
「当たっただろ」
「はい」
「なら今はそれでいい」
意外だった。
「ですが、合わせただけです」
「だから何だ」
「『合わせるだけなら、後手だ』と仰ったではありませんか」
「言った」
「では――」
「後手が悪いとは言ってない」
「…………」
宗玄はそれ以上、何も言わなかった。
◇
合わせる。
先を作る。
誘う。
待つ。
何が正しいのか、考えるほど分からなくなる。
「止めろ」
宗玄だった。
「清子」
「はい」
「何を探してる」
「…………」
正しい剣。
そう答えようとして、やめた。
以前、それで失敗した。
「分かりません」
「そうか」
宗玄が棒を取る。
「俺とやれ」
「はい」
◇
宗玄と向かい合う。
「打て」
右へ行こうとすると、宗玄が半歩変わった。
駄目。
左も駄目。
突きもある。
いや、あるように見えるだけかもしれない。
「遅い」
「っ!」
斜めに行く。
宗玄が外れ、首を打った。
「もう一度」
今度は迷わず突くが外され、横へ振れば読まれて脇腹を打たれる。
何度やっても駄目だった。
「そこまで」
息を整える。
「分かったか」
「いいえ」
「そうか」
宗玄が新太を見る。
「新太。俺とやれ」
「はい」
◇
新太が打ち、宗玄は外れて斬る。
新太が返すと、今度は宗玄が受けた。
「…………!」
受けた。
俺には『受けるな』と言っていたのに。
さらに新太が横から打つと、宗玄は後ろへ下がった。新太が追えば、もう一歩下がる。
俺が下がり過ぎれば、いつも直された。
受けることも、下がることも、できるだけ使わないようにしてきたのに、宗玄はその両方を使っている。
新太が大きく踏み込んだ瞬間、宗玄が止まった。
――ヒュッ。
新太の棒が空を切り、宗玄の棒が首に触れる。
「終わりだ」
「……はい」
「清子」
「はい」
「今、俺は何をした」
「受けて、下がって、新太に合わせていました」
「ああ」
「それでも勝ちました」
宗玄は棒を下ろした。
「剣に、先手も後手もない」
「…………」
「勝つために使え」
胸の中で何かがほどけた。
◇
宗玄は以前、俺を後手だと言った。
それを俺が、いつの間にか駄目なものだと思い込んでいた。
相手に合わせる。先を取る。誘う。待つ。下がる。受ける。
どれも、それ自体が間違いなわけではない。
「師匠」
「何だ」
「できないから、使うなと言ったのでしょうか」
「ああ」
やはりそうか。
俺が最初に受けていたのは、受けることしかできなかったから。
下がっていたのも、相手から離れるためにしか使えなかったからだ。
宗玄が棒を持ち上げる。
「使われるな」
「…………」
一歩下がった。
「使え」
それだけだった。
でも、十分だった。
同じ動きでも、何のためにするのかで違う。形ではなく、勝つために使う。
「はい」
◇
新太と、もう一度向かい合う。
新太が右から来る。
今度は外れずに受ける。
――カンッ!
新太が一瞬止まり、そこへ突く。
新太が下がっても追わずに待つと、次は上から来た。
今度は俺が下がる。
一歩、二歩と下がり、新太が大きく踏み込んだところを横へ外れて斜めに振る。
――カンッ!
受けられた。
「…………」
楽しい。
外れなければいけないわけではない。
先を取らなければいけないわけでも、相手を動かさなければいけないわけでもない。
全部、使っていい。
「…………ふふ」
「また笑ってるぞ」
「はい」
「否定もしなくなったな」
「楽しいので」
「そうかよ」
新太が横から打ってくる。
受ける。
強い。
なら、受け続けない。
力を抜くと新太の棒が流れ、身体が崩れたところへ打ち込む。
――こつ。
肩に当たった。
「…………!」
今のは考えていない。
受けた一撃が強かったから流し、崩れたから斬った。それだけだ。
「清子」
「はい」
「続けろ」
「はい」
◇
しばらくすると、新太も前ほど簡単には来なくなった。
右を見せても来ず、距離を詰めても下がらない。
俺を見ている。
新太も選んでいる。
なら、俺も選べばいい。新太がこちらを動かそうとするなら、それに乗ってもいい。
新太が左を空けた。
誘いかもしれない。
でも、行く。
左へ踏み込むと、やはり新太の棒が待っていた。
受ける。
押されて下がると、新太が追ってくる。
さらに下がり、新太の足が大きく出たところを外れて突く。
――こつ。
胸。
「今、分かってて来た?」
「途中で」
「途中で分かって、そのまま来たの?」
「はい」
「何でだよ」
「使えそうでしたので」
新太が嫌そうな顔をする。
「新太」
「はい!」
「続けろ」
「はい」
そのあと、誘いに乗って普通に何度も負けた。
「痛っ」
「それも使えそうだった?」
「今のは失敗です」
「だろうな」
「もう一度お願いします」
「おう」
でも、面白い。
正しい動きが一つではないのなら、試せるものはいくらでもある。
◇
夕方。
宗玄が稽古を止めた。
「清子」
「はい」
「刀を抜け」
「…………!」
「はい」
刀を抜く。
「構えろ」
「はい」
「斬り下ろし」
――ヒュンッ。
「横」
――ヒュンッ。
「斜め」
――ヒュンッ。
「突き」
――シュッ。
「もう一度」
繰り返す。
だが、以前とは違う。
斬り下ろし、横、斜め、突き。
四つの別々の形というより、必要なときに使うものとして感じるようになっていた。
「止めろ」
「はい」
「何が変わった」
自分の刀を見る。
「型が、少なく感じます」
「何でだ」
「別々のものでは、なくなってきたからでしょうか」
宗玄は少し黙った。
「まし」
「はい」
「明日から、型を減らす」
「…………?」
「減らす?」
「ああ」
「増やしたばかりですが」
「増やしたから減らす」
意味は分からない。
だが、胸が少し高鳴った。
「何を減らすのでしょうか」
「全部だ」
「…………」
「明日分かる」
「はい」
◇
帰り道。
型を減らす、という言葉を考えていた。
斬り下ろし、横、斜め、突き。
せっかく覚えたものを減らす。
もちろん、忘れろという意味ではないのだろう。
増やして、身体に入れて、そのあと減らす。
「…………」
分からない。
だからこそ、明日が楽しみだった。