BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十一章 八千流

 

人斬りと呼ばれるようになってからも、俺は歩き続けた。

 

最初の頃は強い者の居場所を聞いて回っていたが、いつの間にか、その必要もなくなった。

 

町へ入ればこちらを見る者がいる。

 

目を逸らす者。道を空ける者。戸を閉める者。

 

そして時々、刀へ手をかける者。

 

「お前が清子か」

 

「はい」

 

「勝負しろ」

 

「はい」

 

それで始まる。

 

俺を倒して名を上げたい者もいれば、仲間を斬られた者や、ただ腕を試したい者もいた。

 

理由は違っても、刀を抜けば同じだった。

 

相手を見て、間合いへ入り、斬る。

 

それだけだった。

 

◇

 

さらに月日が流れた。

 

いくつ季節が過ぎたのか、途中から数えなくなった。

 

髪は伸び、刀も何度か変わった。着物も血で駄目になり、身体も数え切れないほど斬られた。

 

深く斬られ、何日も刀を握れなかったこともある。

 

それでも傷が塞がれば、また歩いた。

 

そして、剣も変わっていった。

 

◇

 

ある日、三人の男に囲まれた。

 

一人は正面。

 

二人は左右。

 

「やれ!」

 

同時に来る。

 

以前なら、一人ずつ見ていただろう。

 

今は違う。

 

正面の男が踏み込み、その身体の陰で右の男が動く。

 

身体が自然に前へ出た。

 

正面の刃から外れながら斬る。

 

――ザッ。

 

一人目が倒れるより早く刀を返し、右から来た刃を流す。

 

そのまま懐へ入った。

 

「ぐっ――」

 

二人目が崩れる。

 

背後から気配が来た。

 

振り向かず、一歩だけ前へ出る。

 

背中を狙った刀が空を切った。

 

そこで振り返ると、最後の男が止まっていた。

 

「来ないのですか」

 

「…………化け物」

 

男は刀を落とした。

 

戦わないのなら、斬る理由はない。

 

刀を納めると、男は逃げていった。

 

追わなかった。

 

◇

 

その夜、一人で刀を振った。

 

――ヒュッ。

 

もう一度。

 

――ヒュッ。

 

「…………」

 

昔は、足や腰、肩の動きまで一つずつ意識していた。

 

今は何も考えていない。

 

それでも刀は走る。

 

身体が勝手に動き、必要な場所へ刃が通る。

 

もう一度振る。

 

今度は少し踏み込み方が変わった。

 

自分で変えようとしたわけではない。

 

これも、どこかで見た誰かの動きだった気がする。

 

けれど、誰だったのかは思い出せなかった。

 

「…………」

 

まあ、いいか。

 

刀はきちんと振れている。

 

それだけ確認して、刀を納めた。

 

◇

 

強い者を探すことも、次第に難しくなった。

 

評判を聞いて訪ねても、期待したほどではない。

 

以前なら驚いただろう技も、どこかで似たものを見ている。初めて見る構えでも、刀を合わせる前から何を狙っているのか分かることさえ増えた。

 

それでも戦った。

 

もしかすると、自分の知らない何かを持っているかもしれない。

 

その期待だけで刀を抜く。

 

だが、期待が外れるたび、少しずつ何かが足りなくなっていった。

 

◇

 

「この先にゃ行かねえ方がいい」

 

山道へ入る前、老人に言われた。

 

「なぜでしょう」

 

「賊がいる」

 

「強いのですか」

 

「…………」

 

老人が黙った。

 

「何人も殺してる」

 

「剣を使いますか」

 

「知らん」

 

「そうですか」

 

なら、見ればいい。

 

歩き出すと、老人に呼び止められた。

 

「おい。死ぬぞ」

 

「はい」

 

それだけ答えて、山へ入った。

 

◇

 

賊は十人以上いた。

 

刀だけではない。槍も斧もあり、弓まである。

 

「女一人か」

 

男たちが笑った。

 

俺は少し嬉しくなった。

 

一人ずつではない。

 

全員。

 

同時なら、どこまでできるだろう。

 

「何笑ってやがる」

 

「申し訳ありません。少し、楽しみで」

 

刀を抜くと、笑い声が止まった。

 

◇

 

最初の矢を避けてからは、ほとんど考えなかった。

 

刀が来れば外れながら斬り、槍なら懐へ入る。後ろから来れば位置を変え、空いた場所へ刀を通す。

 

誰から覚えた動きなのかも考えない。

 

身体が、その場で必要なものを勝手に使う。

 

その中に、一人だけ妙に上手い男がいた。

 

こちらの刀を外し、すぐに返してくる。

 

速い。

 

身体を沈めると、刃が髪を切った。

 

「…………ふふ」

 

「何がおかしい!」

 

久しぶりだった。

 

少しだけ、分からない。

 

だから嬉しい。

 

男が続けて刀を振る。

 

一つ目を外れ、二つ目を流す。

 

三つ目。

 

そこへ入った。

 

――ザンッ。

 

男が倒れる。

 

もっと見たかった。

 

だが、もう次が来ていた。

 

◇

 

気づいたとき、立っている者はいなかった。

 

何人かは動いている。

 

何人かは、もう動かない。

 

こちらも斬られていた。腕から血が流れ、脇腹も痛む。

 

それでも、足りなかった。

 

十人以上いた。

 

武器も違った。

 

囲まれ、矢まで飛んできた。

 

それなのに。

 

宗玄と向かい合ったときの方が、怖かった。

 

その事実に気づいたとき、胸の奥に妙な空洞ができた。

 

◇

 

長く歩いていれば、人ではないものにも出会った。

 

白い仮面。

 

胸に空いた穴。

 

人の何倍もある身体。

 

「…………」

 

虚。

 

知っている。

 

この世界へ来る前から。

 

けれど、実物を見るのは初めてだった。

 

「本当にいるのですね」

 

思わず、そんな言葉が出た。

 

虚が吼える。

 

空気が震え、巨体から伸びた腕が振り下ろされた。

 

横へ外れると、地面が大きく砕ける。

 

剣ではない。

 

構えも、足運びも、刀の軌道もない。

 

代わりに腕や爪、牙、身体そのものが武器だった。

 

「…………ふふ」

 

面白い。

 

もう一度振り下ろされた腕を避け、懐へ入る。

 

胴へ斬りつけた。

 

――ザンッ。

 

「…………」

 

浅い。

 

人とは違う。

 

なら、もっと深く斬ればいい。

 

振り向いた虚の爪を潜り、そのまま首へ刀を走らせる。

 

――ザンッ。

 

巨体が揺れた。

 

それでも倒れない。

 

「なるほど」

 

刀を握り直した。

 

◇

 

それからも何度か虚と出会った。

 

四足で走るもの。

 

空から襲うもの。

 

異様に腕の長いもの。

 

刀がなかなか通らないもの。

 

こちらの動きを見て、考えるように戦うものまでいた。

 

剣は使わない。

 

それでも戦いには流れがある。

 

どこを見るか。

 

いつ入るか。

 

何を避けるか。

 

どこなら斬れるか。

 

人だけを相手にしていては知ることのできなかったものがあった。

 

だから虚も斬った。

 

見て、戦って、覚えた。

 

それもまた、少しずつ俺の中へ残っていった。

 

◇

 

それからも歩き、戦い、斬った。

 

負けることもあった。

 

深手を負い、何日も動けなくなったこともある。死にかけたことさえ一度ではない。

 

それでも死ななかった。

 

傷が塞がり、身体が動けば、また刀を握った。

 

いつしか、斬られることそのものを気にすることも少なくなっていた。

 

◇

 

ある夜、一人で刀を振った。

 

――ヒュンッ。

 

何の型だったのか、自分でも分からない。

 

ただ、そこに相手がいるつもりで振った。

 

そうすれば、身体が勝手に動く。

 

「…………」

 

宗玄の剣。

 

新太の剣。

 

旅で見た剣。

 

力で叩き潰す剣。

 

待つ剣。

 

左から来る剣。

 

足場を使う剣。

 

二本の刀。

 

身体で刃を隠す剣。

 

見た。

 

受けた。

 

使った。

 

合わないものは捨てた。

 

残ったものも、いつの間にか誰から覚えたのか分からなくなった。

 

それでも消えたわけではない。

 

必要になれば、身体が勝手に使う。

 

そこで、ふと一つの言葉が浮かんだ。

 

八千流。

 

「…………」

 

知っている。

 

この世界へ来る前から知っていた名前。

 

いつか、この身体が名乗る名前。

 

あらゆる流派。

 

あらゆる刃の流れ。

 

その全てが我が手にある。

 

昔の俺は、数え切れない流派を修めたから八千流なのだと思っていた。

 

けれど、今なら少し違って見える。

 

この手で、どれほどの剣と戦っただろう。

 

どれほど見て、受け、使い、そして忘れただろう。

 

もう数えられない。

 

誰の剣だったのかも分からない。

 

それでも全部、この身体に残っている。

 

「…………」

 

そうか。

 

八千の流派を一つずつ覚えるという意味ではない。

 

あらゆる剣を見て、受けて、自分の中へ入れる。

 

そして、誰の剣だったのかさえ忘れる。

 

それでも、その全てがこの手の中にある。

 

あらゆる流派。

 

あらゆる刃の流れ。

 

我が手にあり。

 

言葉だけなら、ずっと知っていた。

 

けれど、その意味を知ったのは今が初めてだった。

 

月の光が刀の上を流れる。

 

「八千流」

 

口に出す。

 

昔、画面の向こうで知った名前とは、もう違って聞こえた。

 

これは原作の誰かから借りた名前ではない。

 

俺が歩き、斬り、斬られ、覚え、忘れた果てに辿り着いたものだった。

 

もう一度刀を振る。

 

――ヒュンッ。

 

何の型かは分からない。

 

誰の剣だったのかも分からない。

 

それでいい。

 

刀を納める。

 

「八千流」

 

今度は、自然に言えた。

 

知っていた名前に。

 

ようやく、俺自身が追いついた。

 

◇

 

「名は」

 

ある男に聞かれた。

 

以前なら、迷わず清子と答えていただろう。

 

その日は少しだけ間が空いた。

 

「八千流」

 

「……八千流?」

 

「はい」

 

男が怪訝そうに眉を寄せる。

 

「変わった名だな」

 

「そうでしょうか」

 

「ああ」

 

「私は、気に入っています」

 

男が刀を抜く。

 

俺も抜いた。

 

八千流。

 

もう、借り物の名前ではなかった。

 

◇

 

やがて、清子という名を知る者は少しずつ減っていった。

 

代わりに、八千流という名が俺より先に各地へ届くようになった。

 

強い者がいると聞けば現れる女。

 

相手が一人でも、十人でも刀を抜く女。

 

何の流派か分からない剣を使う。

 

人斬り。

 

化け物。

 

大罪人。

 

呼び方はいくつもあった。

 

俺には、どれもあまり興味がなかった。

 

ただ一つ。

 

八千流。

 

その名だけは、自分で選んだものだった。

 

◇

 

ある夜、川辺に座って水面に映る月を眺めた。

 

長く歩いた。

 

たくさんの剣を見て、たくさんの人を斬った。

 

自分も数え切れないほど斬られた。

 

それでも傷は塞がり、また戦った。

 

そして、強くなった。

 

宗玄のところを出た頃とは、比べものにならない。

 

「…………」

 

だが、まだ足りない。

 

今の俺が宗玄と戦えば、どうなるのだろう。

 

あの頃のように何もさせてもらえないのか。

 

それとも今なら、一度くらい届くだろうか。

 

確かめたい。

 

けれど、戻る気にはならなかった。

 

まだ外には、俺の知らない剣がある気がする。

 

俺より強い者がいる気がする。

 

立ち上がり、刀を腰へ差した。

 

行く場所は決めていない。

 

ただ歩けば、いつか見つかる。

 

そう思っていた。

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