BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十二章 外の果て

 

八千流と名乗るようになってからも。

 

旅は続いた。

 

強い者がいると聞けば、そこへ向かった。

 

知らない剣があると聞けば、見に行った。

 

それまでと。

 

何も変わらなかった。

 

◇

 

ある土地に、一つの剣術一門があった。

 

門下は多く。

 

その中でも当主は、この辺りでは並ぶ者がいないという。

 

聞けば、行かない理由はなかった。

 

◇

 

大きな門をくぐると、庭では何人もの男たちが刀を振っていた。

 

足を止め、何人かを見る。

 

悪くない。

 

けれど、探している人はいなかった。

 

「何者だ」

 

一人の男がこちらへ来る。

 

「八千流と申します」

 

その名を聞いて、周囲の手が止まった。

 

「八千流……?」

 

「人斬りの?」

 

小さく声が聞こえる。

 

目の前の男も、僅かに表情を変えた。

 

「何の用だ」

 

「こちらの当主が大変お強いと伺いました」

 

「先生に?」

 

「はい。戦っていただきたくて」

 

男がこちらを見る。

 

「先生に会わせるまでもない」

 

刀を抜いた。

 

「俺が相手をしてやる」

 

斬った。

 

そのまま横へ一歩ずれる。

 

遅れて血が飛び。

 

男が倒れた。

 

「当主の方はいらっしゃいますか」

 

誰も答えなかった。

 

「貴様……!」

 

一人が刀を抜き、斬りかかってきた。

 

刃をかわし。

 

すれ違いざまに斬る。

 

男が倒れる。

 

「よくも!」

 

今度は数人が一斉に刀を抜いた。

 

前から来た一人を斬る。

 

横から来た男も斬る。

 

背後から迫った刃をかわし、振り向きざまに斬った。

 

また一人。

 

向かってきた者から、次々に斬り捨てる。

 

やがて。

 

誰も来なくなった。

 

「…………」

 

足元には、何人もの門下が倒れている。

 

残った者たちは刀を握ったまま、動かなかった。

 

「当主の方はいらっしゃいますか」

 

「――もうよい」

 

声がした。

 

建物の奥を見る。

 

一人の老人が立っていた。

 

白い髪。小柄な身体。腰に一本の刀。

 

老人が庭へ下りてくる。

 

倒れている門下たちを見る。

 

それから、俺を見る。

 

「お前が八千流か」

 

「はい」

 

「儂に何の用だ」

 

「お強いと伺いました」

 

「それだけか」

 

「はい」

 

老人の目が細くなる。

 

「それだけのために、これだけ斬ったか」

 

「刀を抜かれましたので」

 

「…………」

 

老人はしばらく何も言わなかった。

 

やがて。

 

柄へ手をかける。

 

「先生!」

 

残っていた門下たちが動く。

 

「下がっておれ」

 

静かな声だった。

 

それだけで、誰も動かなくなった。

 

老人が刀を抜く。

 

「望み通り、相手をしてやる」

 

「ありがとうございます」

 

俺も刀を構えた。

 

◇

 

老人は強かった。

 

最初の一太刀で分かった。

 

「…………ふふ」

 

久しぶりに楽しい。

 

もっと見たいと思った。

 

何度も斬り合い、老人の刀が何度も迫る。

 

それでも。

 

一度も俺には届かなかった。

 

やがて。

 

俺の刀が老人の身体を深く斬った。

 

「先生!」

 

声が上がる。

 

老人が膝をついた。

 

刀を地面へ突き、倒れずにこちらを見る。

 

「…………満足したか」

 

「はい」

 

少し考える。

 

「とても」

 

「…………そうか」

 

老人の手から刀が離れた。

 

身体が倒れる。

 

「先生!」

 

残った門下たちが駆け寄っていく。

 

俺は刀についた血を払った。

 

「ありがとうございました」

 

頭を下げる。

 

返事はなかった。

 

◇

 

門を出る。

 

それでも頭にあるのは、老人の剣だった。

 

「…………」

 

随分と久しぶりにいい剣だった。

 

まだ知らない剣はある。

 

そう思い、振り返ることなく次の強い者を探しに歩いた。

 

◇

 

それからしばらくして。

 

ある町へ入ったとき、遠くからいくつもの刀の音と怒鳴り声が聞こえてきた。

 

そちらへ向かうと、広い通りを埋めるように二つの集団が斬り合っていた。

 

合わせれば百人近くはいるだろう。

 

既に何人も倒れ、通りのあちこちに血が流れている。それでも争いは止まらず、怒号と刃のぶつかる音が絶え間なく響いていた。

 

何が原因なのかは分からない。

 

興味もなかった。

 

「…………」

 

一人。

 

大柄な男が、太い刀を振るっている。

 

周囲の者とは明らかに違った。

 

次々に相手を斬り倒していく。

 

その刀を目で追う。

 

「…………ふふ」

 

反対側にもいた。

 

細身の男だった。

 

こちらも周囲とは違う。

 

次々に迫る相手を斬りながら、ほとんど足を止めない。

 

「…………」

 

二人いる。

 

刀の柄へ手をかけた。

 

◇

 

近くにいた男を斬った。

 

男が倒れる。

 

その向こうにいた者が俺を見る。

 

「何だ、てめ――」

 

斬る。

 

別の男がこちらへ来る。

 

それも斬った。

 

どちらの側かは知らない。

 

邪魔だった。

 

大柄な男へ向かって歩く。

 

途中、何人か向かってきた者を斬りながら進む。

 

大柄な男がこちらに気づいた。

 

「誰だ、てめえ!」

 

答える代わりに斬りかかる。

 

男が受け、刃がぶつかる。

 

「…………!」

 

男の顔が変わる。

 

「ふふ」

 

そのまま斬り合った。

 

周りではまだ大勢が戦っている。

 

だが、どうでもよかった。

 

目の前の男だけを見る。

 

数合斬り合い、やがて。

 

俺の刀が男を斬った。

 

大きな身体が倒れる。

 

「頭ァ!」

 

声が上がった。

 

「…………」

 

頭。

 

この人がそうだったらしい。

 

知らなかった。

 

まあいい。

 

振り返る。

 

もう一人。

 

細身の男を探す。

 

いた。

 

少し離れたところで、こちらを見ている。

 

その周囲にいた者たちも、いつの間にか手を止めていた。

 

細身の男が刀を下げる。

 

「お前……何者だ」

 

「八千流と申します」

 

ざわめきが起こった。

 

男の表情が変わる。

 

俺は刀を構える。

 

「次は、あなたと戦いたいのですが」

 

「…………」

 

男が倒れた大柄な男を見る。

 

それから俺を見る。

 

「俺たちの争いに、何の恨みがある」

 

「ありません」

 

「なら、何で入ってきた」

 

「お二人が強そうでしたので」

 

「…………」

 

男はしばらく黙っていた。

 

やがて、刀を構え直す。

 

「狂ってやがる」

 

そのまま地面を蹴った。

 

◇

 

この男も強かった。

 

先ほどの男とは、まるで違う剣だった。

 

斬り合い。

 

最後には。

 

俺の刀が届いた。

 

細身の男が倒れる。

 

「…………」

 

周囲を見る。

 

もう誰も斬り合っていなかった。

 

二つの集団の者たちが、刀を持ったままこちらを見ている。

 

俺は刀についた血を払った。

 

二人とも、いい剣だった。

 

けれど、もう少し長く斬りあいたかった。

 

そのまま町を出た。

 

あの争いがどうなったのかは知らない。

 

どちらが勝ったのかも。

 

そもそも何を奪い合っていたのかも知らなかった。

 

俺が覚えているのは。

 

あの場所に。

 

二人の強い者がいたことだけだった。

 

◇

 

それからも旅は続いた。

 

ある日の夕方。

 

山道を歩いていると、前に一人の男が立っていた。

 

通り過ぎようとする。

 

「八千流」

 

足を止めた。

 

男は刀を握っていた。

 

「はい」

 

「ようやく見つけた」

 

「私をお探しでしたか」

 

「ああ」

 

男が刀を抜く。

 

「兄の仇だ」

 

「…………」

 

兄。

 

誰のことだろう。

 

「お兄様は?」

 

「……弥十郎だ」

 

「…………」

 

名前を聞いて、顔を思い出そうとする。

 

だが、分からない。

 

男の顔が歪んだ。

 

「覚えてねえのか」

 

「申し訳ありません」

 

「ふざけるな!」

 

男が斬りかかってきた。

 

刃を受ける。

 

一目見た時から分かっていた。

 

あまり強くない。

 

男の胸を斬った。

 

「ぐっ……」

 

男が膝をつく。

 

それでも刀を握っていた。

 

「兄貴は……」

 

「…………」

 

「お前に斬られて……」

 

男が立ち上がろうとする。

 

もう一度。

 

斬った。

 

男が倒れた。

 

「…………」

 

刀についた血を払う。

 

弥十郎。

 

もう一度、名前から顔を思い出そうとする。

 

やはり、分からない。

 

この人の兄なら。

 

もう少し強かったのだろうか。

 

刀を鞘へ戻した。

 

◇

 

「大悪人、八千流が、こちらへ向かっているらしい」

 

その一言に。

 

集まっていた者たちの顔が変わった。

 

部屋にいるのは、いずれも近隣に一門を構える者たちだった。

 

流派は違う。

 

古くから付き合いのある者もいれば。

 

互いの剣を認めていない者もいる。

 

普段なら、こうして同じ場所に集まることもない。

 

「確かなのか」

 

「三日前、西で見た者がいる」

 

「ここへ来るとは限らん」

 

「だが、来ないとも限らん」

 

誰も否定しなかった。

 

八千流が何を求めて歩いているのか。

 

今では知られている。

 

金でも。土地でもない。

 

強い者。

 

それだけだった。

 

「八千流に潰された一門は、一つではない」

 

部屋が静かになる。

 

「北では当主と師範を斬られ、一門が潰れた。南でも同じだ。門下を何人も斬られ、全滅したところもあるそうだ」

 

「…………」

 

「東では、争っていた二つの勢力へ乱入し、双方の頭を斬ったとも聞く」

 

一人が低い声で言った。

 

「強いと噂になれば、どこへでも現れる」

 

「理由は、それだけか」

 

「ああ」

 

強い者がいる。

 

それだけで現れ、戦い、斬る。

 

相手が一人でも。

 

その後ろに何人いようと関係ない。

 

「この辺りには、名の知られた一門がいくつある」

 

誰も答えなかった。

 

「次が我々のどこであっても、おかしくない」

 

一人の男が鼻を鳴らした。

 

「だから何だ」

 

視線が集まる。

 

「人斬りの小娘一人を相手に、我々が徒党を組むというのか」

 

「…………」

 

「そんな真似をして何になる。一人で来るなら、迎えればよい」

 

「そうして潰れた一門がいくつあると思っている」

 

男が黙る。

 

「次がお前のところでも、同じことが言えるか」

 

「…………」

 

誰も口を挟まなかった。

 

この辺りには。

 

名の知られた剣士が何人もいる。

 

それぞれの一門に当主がいて、師範がいて、腕の立つ門下がいる。

 

噂に聞こえる八千流にとって、来る理由には、それで十分だった。

 

「待っていれば、どこかが狙われる」

 

「なら、どうする」

 

「こちらから討つ」

 

「…………」

 

「各一門から腕の立つ者を出す」

 

しばらく沈黙が続いた。

 

やがて。

 

一人が頷いた。

 

それに続き。

 

また一人。

 

反対していた男も、最後には何も言わなかった。

 

こうして、いくつもの一門が。

 

八千流一人を討つために手を組んだ。

 

◇

 

数日後。

 

集まった者は五十人を超えた。

 

各一門の師範、名のある剣士、腕を認められた門下。

 

中には、八千流に師や仲間を斬られた者もいた。

 

全員が刀を持っている。

 

八千流が通ると見込んだ街道で待ち。

 

日が傾き始めた頃。

 

「……来たぞ」

 

遠くに一人の女が見えた。

 

「あれが……八千流か」

 

刀を腰に差した女が歩いてくる。

 

やがて、五十人を前にして足を止めた。

 

◇

 

目の前に大勢の人がいる。

 

皆。

 

刀を持っていた。

 

「八千流だな」

 

先頭にいた男が言った。

 

「はい」

 

男はこちらを見据える。

 

「引き返すつもりはあるか」

 

「ありません」

 

「そうか」

 

男の手が柄へかかる。

 

「なら、ここでお前を討つ」

 

周囲の者たちも刀へ手をかけた。

 

「…………」

 

見渡す。

 

これだけの人数がいる。

 

そして、同じではない。

 

立ち方、刀の位置、重心。

 

それぞれ違う。

 

いくつもの剣がある。

 

「…………ふふ」

 

思わず笑った。

 

「何がおかしい」

 

「いえ」

 

刀の柄へ手をかける。

 

「これだけの方と一度に戦えるとは思いませんでしたので」

 

男の顔が険しくなる。

 

「やはり化け物か」

 

刀が抜かれた。

 

続いて、いくつもの刀が鞘を走る。

 

俺も刀を抜いた。

 

◇

 

討伐隊は。

 

その日のうちに壊滅した。

 

◇

 

日が沈みかけていた。

 

街道には大勢の者が倒れている。

 

折れた刀、血に濡れた地面。

 

その間を歩く。

 

着物も、髪も。

 

全身が返り血で染まっていた。

 

けれど。

 

俺自身に傷はない。

 

「…………」

 

何人か。

 

いい剣を使う人がいた。

 

一人では見られなかった剣も。

 

いくつも見られた。

 

刀についた血を払う。

 

「ありがとうございました」

 

倒れている者たちへ頭を下げた。

 

刀を鞘へ戻す。

 

強かった。

 

知らない剣もあった。

 

五十人もいれば、今まで見たことのない動きをする者もいる。

 

それなのに。

 

「…………」

 

足りない。

 

◇

 

街道を歩きながら、先ほどの戦いを思い返した。

 

いい剣はいくつもあった。

 

最初は分からない動きもあった。

 

それでも。

 

斬り合えば分かる。

 

一度。

 

二度。

 

刀を合わせるうちに。

 

次が見えるようになる。

 

「…………」

 

もっと強い者を。

 

もっと知らない剣を。

 

今までなら、それでよかった。

 

歩けばどこかにいた。

 

なら、また探せばいい。

 

そう考えたところで、足が止まった。

 

「…………」

 

なぜか、その日はその先を考えられなかった。

 

◇

 

夜になり、火を起こして一人で座った。

 

俺の知らない剣を、たくさん見た。

 

俺より強い者にも、何人も会った。

 

斬られ、負け、覚え、いつか届くようになれば、また次を探した。

 

宗玄とは違うところにいる何か。

 

それを求めて、ここまで来た。

 

実際、宗玄とは違う剣はいくらでもあった。

 

宗玄より速い者もいたかもしれない。

 

力だけなら、宗玄を上回る者も間違いなくいた。

 

それなのに。

 

一度もなかった。

 

あの感覚だけは。

 

◇

 

構えた宗玄を思い出す。

 

『打て』

 

どこでもいいと言われた。

 

右でも、左でも、上でも、突きでも。

 

どこへ行っても、そこに宗玄の棒がある気がした。

 

まだ一本も振っていないのに、もう宗玄の剣の中にいる。

 

あのときは何も分からず、ずるいとさえ思った。

 

「…………」

 

今なら、どうだろう。

 

数え切れないほどの剣を見た。

 

斬り合い、覚え、使い、忘れた。

 

そして八千流と名乗るところまで来た。

 

それでも、あの剣を分からないと思うのだろうか。

 

胸が、久しぶりに高鳴った。

 

俺の知らない剣。

 

俺より強い者。

 

宗玄とは違う何か。

 

ずっと外にあると思って探していた。

 

けれど、色々な剣を知れば知るほど、最後に思い出したのは一番最初に何も分からなかった剣だった。

 

「…………ふふ」

 

笑ってしまった。

 

ずいぶん遠くまで来た。

 

何年歩いたのかも、どれだけの人間と斬り合ったのかも分からない。

 

それなのに今になって、確かめたいものが一つだけ残った。

 

◇

 

翌朝、歩き出した。

 

昨日までとは、向かう先が違う。

 

強い者の噂を聞くためではない。

 

知らない剣を探すためでもない。

 

宗玄のもとへ。

 

どれほど遠くまで来たのか、自分でもよく分からない。

 

来た道など、とっくに覚えていなかった。

 

それでも、帰る場所だけは覚えている。

 

あの山。

 

あの家。

 

庭に立てかけられた棒。

 

宗玄と、新太。

 

「…………」

 

今なら、あなたの剣が分かるのでしょうか。

 

それとも、やはり何も分からないのでしょうか。

 

どちらでもよかった。

 

ただ、もう一度向かい合いたかった。

 

足を速める。

 

俺は初めて、新しい剣を探すためではなく、かつて知ることのできなかった剣を見るために。

 

来た道を戻り始めた。

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