BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十四章 先へ

俺は踏み込んだ。

 

宗玄の棒が動く。

 

身体が外れ、俺の棒も走った。

 

――カンッ!

 

ぶつかる。

 

宗玄が変われば、俺も変わる。

 

もう何をしているのか考えない。

 

右、左、横、斜め。

 

そんな言葉は途中から消えていた。

 

ただ、宗玄がいる。

 

俺がいる。

 

剣がある。

 

宗玄の棒が首へ走る。

 

身体を沈めると、俺の棒が下から返る。

 

宗玄が半歩退いた。

 

追おうとして、足が止まる。

 

宗玄も止まった。

 

一瞬、向かい合う。

 

このまま入れば、宗玄は来る。

 

どこへ来るのかは分からない。

 

それでも、一歩踏み込んだ。

 

宗玄の棒が動く。

 

同時に俺も動いた。

 

――カンッ!

 

今度は弾かれない。

 

棒が残る。

 

そのまま返すと、宗玄が外れ、俺も入る。

 

また宗玄が変わる。

 

速い。

 

それでも、ほんの少しだけ追える。

 

「っ!」

 

――こつ。

 

宗玄の棒が肩に触れた。

 

「終わり」

 

「……はい」

 

負けた。

 

だが、以前のように何もできず終わったわけではない。

 

何度か剣を交わした。

 

「もう一度お願いします」

 

宗玄が少しだけ俺を見る。

 

「今日は終わりだ」

 

「…………」

 

かなり残念だった。

 

「はい」

 

 

少し離れたところでは、新太が地面に座っていた。

 

「何かさ」

 

「はい?」

 

「最近、俺いる意味ある?」

 

「…………」

 

意味。

 

「ありますよ」

 

「本当か?」

 

「はい」

 

「即答だな」

 

「新太と稽古をするのは、とても楽しいので」

 

新太が妙な顔をした。

 

「そういう意味じゃねえんだけど」

 

「?」

 

「いや、まあいい」

 

頭を掻く新太から視線を外し、棒を片づけている宗玄を見る。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「明日は――」

 

「来なくていい」

 

「…………」

 

俺は止まった。

 

新太も宗玄を見る。

 

「親父?」

 

「何だ」

 

「今……」

 

「聞こえただろ」

 

聞こえてはいた。

 

だからこそ、意味が分からない。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「明日は休みでしょうか」

 

「違う」

 

「では」

 

「もう来なくていい」

 

今度は、はっきり聞こえた。

 

 

「理由を伺ってもよろしいでしょうか」

 

「ああ」

 

宗玄が俺を見る。

 

「もう教えることがない」

 

「…………」

 

「嘘だろ」

 

新太が口を挟んだ。

 

「まだ親父に一本もまともに取れてねえじゃん」

 

「勝つまで教えるとは言ってない」

 

それはそうなのだが。

 

「ですが、師匠は私より遥かに強いです」

 

「ああ」

 

「なら、まだ教えていただけることが――」

 

「強い奴が全部教えられると思うな」

 

宗玄が棒を地面へ置いた。

 

「立て」

 

「はい」

 

「刀」

 

腰の刀を抜く。

 

「振れ」

 

「はい」

 

構えて斬る。

 

――ヒュンッ。

 

「もう一度」

 

――ヒュンッ。

 

「横」

 

振る。

 

――ヒュンッ。

 

「斜め」

 

――ヒュンッ。

 

「突き」

 

――シュッ。

 

宗玄がしばらく俺を見る。

 

「最初」

 

「あ……はい」

 

「全部駄目だった」

 

「はい」

 

よく覚えている。

 

「立てなかった。歩けなかった。握れなかった。振れなかった」

 

「……はい」

 

そこまで並べられると、少し悲しい。

 

「今はできる」

 

「はい」

 

「型も入った」

 

「はい」

 

「忘れ始めてる」

 

「はい」

 

「相手も見られる」

 

「はい」

 

宗玄は少し間を置いた。

 

「相手に合わせるだけじゃなく、自分の剣に相手を入れることも覚えた」

 

胸の奥が少し熱くなる。

 

「なら」

 

宗玄が俺を見る。

 

「ここから先は、俺の剣を覚えるな」

 

「…………?」

 

予想していなかった。

 

「師匠の剣を?」

 

「ああ」

 

「なぜでしょう」

 

「お前が俺になるからだ」

 

宗玄が自分の刀へ手を置く。

 

「俺の立ち方、間合い、斬り方。全部真似して、俺より少し上手くなったところで、それは俺の剣だ」

 

俺は黙った。

 

以前、宗玄に言われた。

 

今のお前は、自分の剣を作ろうとしている、と。

 

あのときは、まだ早いと言われた。

 

だが、今は。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「私の剣とは」

 

「知らん」

 

「…………」

 

やはり教えてはくれない。

 

「自分で探せ」

 

「……はい」

 

 

少し寂しい。

 

そう思った。

 

尸魂界へ来て刀を拾い、一人で振った。

 

襲われ、何もできず、だから剣を習おうと思った。

 

宗玄を見つけ、断られても通い続けた。

 

立つことから始まり、歩き、棒を振り、新太と向かい合った。

 

打たれて、失敗して、それでも少しずつできることが増えていった。

 

明日から、ここへ来ない。

 

まだ実感が湧かなかった。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「一つだけ」

 

「ああ」

 

少し迷ったが、やはり聞いておきたかった。

 

「私はまだ、師匠から一本も取っておりません」

 

「だから?」

 

「…………」

 

そう言われると困る。

 

「できれば、一度くらい取ってから行きたいのですが」

 

宗玄が俺を見る。

 

「清子」

 

「はい」

 

「俺に勝つまでここにいるつもりか」

 

少し考える。

 

「できれば」

 

「帰れ」

 

即答だった。

 

新太が吹き出す。

 

「親父、それはひでえだろ」

 

「うるさい」

 

「はい」

 

俺も少し笑った。

 

 

「清子」

 

「はい」

 

「外には、俺と違う剣を使う奴がいる」

 

胸が少し高鳴った。

 

「俺より速い奴。力のある奴。間合いの違う奴。刀の違う奴」

 

「はい」

 

「考え方の違う奴もいる」

 

「……はい」

 

聞くたびに、頭の中へ知らない剣士が増えていく。

 

「俺のところにいる限り、お前が見る剣は少ない」

 

それは嫌だ。

 

すぐにそう思った。

 

もっと見たい。

 

知らない剣を、もっと知りたい。

 

宗玄が俺の顔を見る。

 

「分かったみたいだな」

 

「はい」

 

腰の刀を見る。

 

「見てみたいです。いろいろな剣を」

 

「ああ」

 

「習えるなら、習いたいです」

 

「ああ」

 

一瞬だけ考える。

 

「戦えるなら、戦ってみたいです」

 

「知ってる」

 

「…………」

 

最初から知られていたらしい。

 

 

新太が立ち上がった。

 

「じゃあ、本当に行くのか?」

 

「はい」

 

「どこに?」

 

「…………」

 

考えたが、答えはない。

 

「分かりません」

 

「決めてねえのかよ」

 

「剣を使う方を探そうかと」

 

「最初と同じじゃん」

 

「…………」

 

確かに。

 

最初もそうだった。

 

剣を習おうと決め、剣を使える人を探した。

 

そして宗玄を見つけた。

 

「でも、今度は少し違います」

 

「何が?」

 

「上手い方かどうかくらいは、以前より分かると思いますので」

 

新太が笑った。

 

「そこだけかよ」

 

「大きな進歩です」

 

「まあな」

 

 

帰る前、俺は宗玄の前に立った。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

深く頭を下げる。

 

「ご指導、ありがとうございました」

 

「ああ」

 

それだけだった。

 

宗玄らしい。

 

頭を上げ、その場を離れる。

 

数歩進んだところで、後ろから声が飛んだ。

 

「清子」

 

「はい」

 

振り返る。

 

宗玄はこちらを見ていた。

 

「刀を捨てるな」

 

腰を見る。

 

拾ったときからずっと使っている、錆びて刃こぼれした刀。

 

「もちろんです」

 

「ああ」

 

捨てるわけがない。

 

これを拾ったから、すべてが始まった。

 

柄へ手を置き、もう一度頭を下げる。

 

「それでは、行って参ります」

 

「ああ」

 

 

歩き出す。

 

今度は振り返らなかった。

 

少し寂しい。

 

けれど、それ以上に楽しみだった。

 

宗玄とは違う剣。

 

新太とも違う剣。

 

知らない流派、知らない型、知らない間合い、知らない考え方。

 

天下には、どれほどの剣があるのだろう。

 

今の俺は、まだ知らない。

 

だから知りたい。

 

一つ覚えたなら、次を見る。

 

それも覚えたなら、また次へ行く。

 

いくらでもあるのなら、いくらでも見ればいい。

 

いくらでも習えばいい。

 

そしていつか、そのすべてを自分の身体へ残せばいい。

 

「……ふふ」

 

足が自然と少し速くなる。

 

それがどこへ繋がるのかなんて、まだ考えていなかった。

 

ただ、次の剣を見たかった。

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