BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十五章 護廷十三隊

瀞霊廷。

 

その名は、ずっと前から知っていた。

 

けれど、実際に足を踏み入れて最初に思ったのは。

 

「…………」

 

違う。

 

だった。

 

◇

 

山本重國の後ろを歩く。

 

身体にはまだ戦いの跡が残っている。焼けた腕には布を巻き、肩も痛む。

 

それでも気になるのは、自分の傷より周囲だった。

 

建物も道も人もいる。

 

けれど、俺の記憶にある瀞霊廷とは随分違う。

 

新しく建てられたばかりの建物の隣に古い家が残り、道もまだ完全には整っていない。

 

後の時代に見る、整然とした街ではなかった。

 

「…………」

 

当然か。

 

俺の知っている瀞霊廷は、ここから長い時間をかけて作られていくものなのだから。

 

通りを歩く者たちは山本を見ると道を空ける。

 

その後ろにいる俺には、別の意味で視線が集まった。

 

誰だ。

 

そんな顔をしている。

 

当然だろう。

 

つい昨日まで、俺は瀞霊廷とは何の関係もない人斬りだった。

 

「何を見ておる」

 

「いえ」

 

「珍しいか」

 

「はい」

 

「そうか」

 

それだけ言って、山本は歩き続ける。

 

知っている場所なのに、知らない。

 

妙な気分だった。

 

◇

 

しばらくして、一つの建物へ入った。

 

「入れ」

 

「はい」

 

中には棚が並び、そこには何本もの刀が置かれていた。

 

「好きなものを取れ」

 

「よろしいのですか」

 

「ああ」

 

一本取って握る。

 

戻す。

 

次を取る。

 

三本、四本と確かめて、首を傾げた。

 

「あの」

 

「何じゃ」

 

「全部同じでは?」

 

「そうじゃ」

 

「…………」

 

なら、なぜ選ばせたのだろう。

 

「何か違いがあるのかと思いました」

 

「ない」

 

「そうですか」

 

少し残念だった。

 

「浅打じゃ」

 

「…………」

 

手が止まる。

 

「これが」

 

「ああ」

 

浅打。

 

斬魄刀になる前の刀。

 

死神が持ち続け、自らの魂を刻み込むことで、その者だけの斬魄刀となる。

 

知識としては知っていた。

 

けれど、実際に手の中にあると妙な感じがする。

 

「これが、斬魄刀になるのですね」

 

「お主次第じゃ」

 

「私次第」

 

「持っただけで何かになるものではない」

 

鞘から抜く。

 

綺麗な刃だった。

 

一度振る。

 

――ヒュンッ。

 

もう一度。

 

――ヒュンッ。

 

「どうじゃ」

 

「普通ですね」

 

「当然じゃ」

 

「少し残念です」

 

「何を期待しておった」

 

「もう少し、何かあるのかと」

 

山本の視線が浅打へ落ちる。

 

「今は何もない。お主が入れるのじゃ」

 

「…………」

 

その言葉だけは、妙に気に入った。

 

◇

 

浅打を腰へ差す。

 

今まで使っていた刀と二本になった。

 

旅の途中で刀は何度も変わった。

 

折れたものもあれば、刃こぼれが酷くなったものもある。

 

今使っている刀も最初から持っていたものではない。

 

それでも、随分長く俺と一緒に戦ってきた。

 

「捨てる必要はない」

 

山本が言った。

 

「今までの刀を持つことと、浅打を持つことは別じゃ」

 

「そうなのですか」

 

「ああ」

 

なら、今はこのままでいい。

 

二本とも腰へ差した。

 

◇

 

建物を出てさらに歩くと、妙な気配を感じた。

 

一つではない。

 

いくつも。

 

強い。

 

それだけではなく、殺気を隠す気すらないような者が、この先に何人もいる。

 

自然と足が速くなった。

 

「この先には、強い方がいらっしゃいますか」

 

「おる」

 

「何人ほど」

 

「見れば分かる」

 

「そうですか」

 

少し間を置く。

 

「楽しみです」

 

「そうか」

 

山本は、もう俺のこういう反応に少し慣れているようだった。

 

◇

 

広い場所へ出る。

 

そこには十人以上の者たちがいた。

 

男も女もいる。

 

若い者もいれば、随分歳を重ねた者もいた。

 

立っている者。

 

座っている者。

 

壁にもたれている者。

 

酒を飲んでいる者。

 

誰一人として同じようには見えない。

 

けれど、一つだけ共通していた。

 

強い。

 

旅をしていた頃なら、何年探しても一人出会えるかどうかという者が、ここには何人もいる。

 

「…………ふふ」

 

思わず顔が綻んだ。

 

こんな場所があったのか。

 

「何笑ってんだ」

 

見ると、ひときわ大きな男がいた。

 

丸々と太った巨体に、白く塗られた顔。その顔を囲うように、太い赤の紋様が引かれている。頭からは長い辮髪が垂れていた。

 

片手には酒を持っている。

 

「申し訳ありません」

 

「何がそんなに面白え」

 

「皆さん、強そうなので」

 

男が俺を見る。

 

顔、身体、腰の二本の刀。

 

「お前、八千流か」

 

「はい」

 

周囲の何人かがこちらを見る。

 

「あれが?」

 

「思ったより細えな」

 

「本当にそんなに斬ったのか?」

 

大男が酒を飲む。

 

「随分、人を斬ったらしいな」

 

「そうらしいですね」

 

「覚えてねえのか」

 

「数えていませんので」

 

男が笑った。

 

「俺もだ」

 

「…………」

 

少し笑った。

 

やはり、ここは今までいた場所とは違う。

 

◇

 

男の手が刀へ伸びる。

 

「なあ」

 

「はい」

 

「ちょっとやろうぜ」

 

「…………!」

 

顔が綻んだ。

 

「よろしいのですか」

 

「あ?」

 

「斬り合っても」

 

「そのつもりで言ってんだよ」

 

「嬉しいです」

 

いつもの刀へ手を伸ばしかけて、止まる。

 

そういえば、今日はもう一本ある。

 

手にしたばかりの浅打。

 

まだ誰かと斬り合ったことはない。

 

なら、ちょうどいい。

 

浅打の柄を握る。

 

「何だ、新しい刀か」

 

「はい」

 

「なら試し斬りに――」

 

「やめい」

 

山本の声で、二人とも止まった。

 

「後にせい」

 

男がしばらく山本を見る。

 

「ちっ。分かったよ」

 

「八千流」

 

「はい」

 

「お主もじゃ」

 

「はい」

 

浅打から手を離す。

 

残念だった。

 

「何だよ、その顔」

 

「いえ」

 

「やりたかったのか」

 

「はい」

 

男が笑う。

 

「気に入った。善定寺有嬪だ」

 

「卯ノ花八千流と申します」

 

「今度やろうぜ」

 

「はい」

 

即答した。

 

今度。

 

その言葉が妙に嬉しかった。

 

旅をしていた頃は、強い者と斬り合えば、それで終わることが多かった。

 

勝つか、死ぬか。

 

次など、ほとんどなかった。

 

けれど、この男はここにいる。

 

他の者たちもいる。

 

また斬り合える。

 

今日で終わりではない。

 

そのことが、思った以上に嬉しかった。

 

◇

 

改めて周囲を見る。

 

誰も俺を恐れていない。

 

道を空ける者もいない。

 

俺が何人斬ったのかなど、大したことだと思っていない。

 

今まで町へ入れば、戸を閉ざす者がいた。

 

逃げる者もいた。

 

人斬り。化け物。大罪人。

 

そんな目を向けられることにも、もう慣れていた。

 

一人で歩くことも嫌いではない。

 

けれど、ここに来て初めて気づいた。

 

俺は、こういう場所も探していたのかもしれない。

 

一度斬り合って終わる相手ではなく、何度でも刀を抜ける相手。

 

斬って、斬られて。

 

それでも次がある者たち。

 

仲間と呼ぶにはまだ早い。

 

それでも少なくとも、ここには俺と同じように刀を抜くことを躊躇わない者たちがいる。

 

悪くない。

 

たぶん。

 

かなり、嬉しかった。

 

◇

 

「揃ったか」

 

山本が言った。

 

好き勝手にしていた者たちが、少しずつ彼を見る。

 

善定寺も、女たちも、端にいた翁も。

 

完全に静かになったわけではない。

 

それでも空気が変わった。

 

「これより、お主らには儂と共に戦ってもらう」

 

誰も答えない。

 

山本は続ける。

 

「ここにおる者が何をしてきたか、儂は知っておる。人を殺した者。奪った者。己が力のみを頼りに生きてきた者」

 

その視線が、一瞬こちらでも止まった。

 

「その過去を問うために集めたのではない。儂が求めておるのは、善人ではない」

 

山本が全員を見渡す。

 

「共に戦える強者じゃ」

 

誰も口を挟まなかった。

 

「儂がお主らを集めた理由は一つ。尸魂界を護るためじゃ」

 

護る。

 

この場には、随分と似合わない言葉だった。

 

誰かを護るためにここへ来た者が、どれほどいるのだろう。

 

少なくとも、俺は違う。

 

山本も承知しているはずだった。

 

「何を護るべきか分からぬなら、考える必要はない」

 

山本の声が少し低くなる。

 

「儂が示す」

 

「…………」

 

「儂が敵と定めた者を斬れ。立ちはだかる者を斬れ。敵が百なら、百斬れ」

 

随分と単純な話だった。

 

善人になれとは言わない。

 

刀を捨てろとも、過去を悔いろとも言わない。

 

俺たちがすることは、今までと変わらない。

 

刀を抜き、敵を斬る。

 

ただ、その刃の向かう先を山本が定める。

 

「その刃をもって、尸魂界を護る」

 

「…………」

 

なるほど。

 

俺たちに護る者になれと言っているのではない。

 

斬ることしか知らない者たちを、護るために使う。

 

そういうことなのだろう。

 

◇

 

「そして」

 

山本が続ける。

 

「今日より」

 

次に来る言葉を、俺は知っていた。

 

ずっと前から。

 

「お主らを、護廷十三隊とする」

 

「…………」

 

胸の奥で、何かが鳴った。

 

護廷十三隊。

 

あまりにもよく知っている名前。

 

別の世界で、画面の向こうから何度も聞いた。

 

けれど、今はその画面の向こうにはいない。

 

目の前には山本重國がいる。

 

周囲には、後に殺伐とした殺し屋集団と呼ばれる者たちが立っている。

 

そして、その中に俺もいる。

 

腰へ触れる。

 

そこには今日初めて手にした浅打があった。

 

まだ何も入っていない刀。

 

――お主が入れるのじゃ。

 

山本の言葉を思い出す。

 

「…………」

 

ここなら何度でも斬り合える。

 

明日も、その先も、俺の知らない剣を見られる。

 

もっと強くなれる。

 

「…………ふふ」

 

隣にいた者が怪訝そうにこちらを見る。

 

「何だ」

 

「いえ」

 

浅打の柄を握る。

 

「楽しみで」

 

護廷十三隊。

 

知っていた名前。

 

けれど、もう画面の向こうにあった組織ではない。

 

殺すことを躊躇わない者たちを、一人の男が集め、その刃の向かう先を定めた。

 

それが、この日の護廷十三隊だった。

 

そして、その十三人の中に。

 

卯ノ花八千流として。

 

俺は初めて立った。

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