BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十六章 もっと

最初の二人と別れてから、七日が経った。

 

肩の傷はまだ完全には塞がっていない。刀を振れば少し痛むし、寝返りを打てば傷が引きつって目が覚める。

 

それでも、歩くのをやめる理由にはならなかった。

 

むしろ最近、妙な癖がついた。

 

道ですれ違う者の腰に刀があると、無意識に目で追ってしまう。

 

どちらの足から歩き出すのか。重心はどこにあるのか。肩に余計な力は入っていないか。

 

本人の顔を見るより先に、そんなところばかり見ている。

 

そして少しでも気になる動きを見つけると、頭の中で勝手に刀を抜かせてしまう。

 

この距離なら、どう構えるのだろう。

 

どちらから斬ってくるのだろう。

 

俺が入れば、どう動くのだろう。

 

「…………」

 

すれ違った男が、不審そうにこちらを見ていた。

 

どうやら、また見過ぎていたらしい。

 

「申し訳ありません」

 

軽く頭を下げて通り過ぎる。

 

数歩進んだところで、もう別の男の腰に刀を見つけた。

 

「…………」

 

困った。

 

最近、人を見ると刀を抜かせたくなる。

 

 

最初のうちは、向こうから絡まれることが多かった。

 

女が一人で歩いていて、腰には刀。それだけで目をつける者はいるらしい。

 

「置いてけ」

 

道を塞いだ男が言った。

 

「何をでしょう」

 

「刀だよ。見りゃ分かんだろ」

 

「…………」

 

俺は男の腰を見る。

 

刀がある。

 

右足が少し前に出ていて、肩幅も広く、腕も太い。

 

「その前に、一つお願いしてもよろしいでしょうか」

 

「あ?」

 

「刀を抜いていただけますか」

 

「てめえ……」

 

男の眉が寄ったが、それでも刀を抜いた。

 

両手で柄を握り、右足を前にして刀を頭の横まで持ち上げる。

 

高い構えだ。

 

宗玄とも、先日の二人とも違う。

 

「何笑ってやがる!」

 

「申し訳ありません。嬉しくて」

 

「気持ち悪ぃんだよ!」

 

男が踏み込んだ。

 

速くはないが、大きい。

 

振り下ろされた刀から半歩外れ、そのまま胴へ斬り込むと、男は正面から受けた。

 

――ガキンッ!

 

「…………!」

 

手首から肘まで、一気に痺れた。

 

重い。

 

技ではなく、身体の大きさと力をそのまま刀へ乗せている。

 

「なるほど……」

 

「何がだ!」

 

もう一度来る。

 

今度は受けずに外れると、勢いのついた刃が地面すれすれまで落ち、その瞬間に首が空いた。

 

刀を走らせ、喉へ触れる寸前で止める。

 

「…………」

 

男が固まった。

 

「ありがとうございました」

 

「……は?」

 

刀を納め、頭を下げる。

 

大きく振るぶん隙も大きいが、まともに受ければこちらの身体ごと崩される。

 

知らなかった剣だった。

 

また一つ。

 

 

別の日には、ほとんど刀を振らない男がいた。

 

こちらが入れば下がり、さらに入ればまた下がる。何度繰り返しても仕掛けてこないので、最初は逃げているのかと思った。

 

だが、足の裏に硬いものが触れた。

 

「っ」

 

石だ。

 

ほんの一瞬だけ視線を落とした、その瞬間に男が来た。

 

「…………!」

 

反射的に刀を合わせたが、すでに刃は首の近くまで来ている。身体を捻ると、切られた髪が数本宙を舞った。

 

「なるほど」

 

「あ?」

 

「それを待っていたのですね」

 

俺が石を踏むことではなく、意識が相手から外れる瞬間を待っていたのだ。

 

男は答えず、また距離を取る。

 

「…………ふふ」

 

「何笑ってやがる」

 

「申し訳ありません。面白くて」

 

「頭おかしいんじゃねえのか」

 

それも、よく言われる。

 

だが、その日から見るものが少し増えた。

 

地面や壁、光、周囲にいる人間。

 

剣を振る者が使うのは、刀だけではないらしい。

 

 

左手で刀を持つ女にも会った。

 

「さっきから何見てんの」

 

「珍しくて」

 

「何が?」

 

「左で刀を持つ方とは、初めてお会いしました」

 

「気持ち悪いんだけど」

 

「申し訳ありません」

 

やはり言われた。

 

だが、実際に向かい合ってみると面白かった。

 

知っているはずの足の位置も、刀の来る方向も、身体を外す方向も、何もかもが少しずつ逆になる。

 

分かっているつもりなのに間違え、頬を斬られ、次は腕、その次には脇腹へ浅く刃が入った。

 

それでも、口元が緩んだ。

 

まだ知らないものがある。

 

その事実が、傷の痛みより嬉しかった。

 

 

そうして歩いているうちに、一月が過ぎた。

 

最初に斬られた肩の傷はもうほとんど分からないが、代わりに腕や腹、脚、背中に新しい傷が増えていた。

 

どれも深くはない。

 

それでも傷を見るたび、誰につけられたものなのか思い出せる。

 

力任せに刀を振る男。

 

足元を使った男。

 

左利きの女。

 

妙に低い位置から斬り上げてきた老人。

 

傷と一緒に、彼らの動きも身体へ残っている。

 

誰もいない場所で刀を抜き、力の強かった男を思い出しながら身体ごと振り下ろしてみる。

 

――ヒュンッ。

 

やはり、あれほどの重さは出ない。身体が違うのだから当然だ。

 

なら、同じ剣にする必要もない。

 

自分に使えるものだけ、身体が覚えればいい。

 

もう一度振ると、先ほどとは少しだけ違う音がした。

 

 

やがて、別の問題が出てきた。

 

強い人が、なかなか見つからない。

 

最初は知らない構えや動きを見るだけで十分だったのに、最近は戦っている途中で、次にどこから来るのか、どちらの足で入るのか、どこへ逃げるのかが分かるようになってきた。

 

「もう終わりでしょうか」

 

目の前で男が倒れている。

 

息はあるが、俺の首まで刀が届くことは一度もなかった。

 

返事がないので刀を納める。

 

「ありがとうございました」

 

頭を下げて歩き出す。

 

知らない動きはあったし、面白くなかったわけでもない。

 

けれど、足りない。

 

宗玄と向かい合ったときは、何をしても斬られる気がした。新太だって、最後の頃には何度も俺を困らせた。

 

あれが欲しい。

 

知らないだけでは、もう足りない。

 

俺が分からず、困らされるもの。

 

できれば――俺を斬れるもの。

 

「…………」

 

そういう人は、どこにいるのだろう。

 

 

それから、探し方を変えた。

 

「この辺りで、一番剣の強い方をご存じですか」

 

「…………は?」

 

食べ物を売っていた男が俺を見る。

 

「剣を使う方です」

 

「何でそんな奴探してんだ」

 

「戦ってみたいので」

 

「…………」

 

男が一歩、俺から離れた。

 

「どうされました?」

 

「いや……」

 

少し迷ったあと、男は北を指した。

 

「三つ先の集落にいる」

 

「強いのですか?」

 

「人を何人も斬ってる」

 

「…………!」

 

思わず身を乗り出した。

 

「本当ですか」

 

「お、おう」

 

「ありがとうございます」

 

「待て。行くのか?」

 

「はい」

 

「今から?」

 

「はい」

 

また変な顔をされた。

 

けれど、そんなことはどうでもよかった。

 

人を何人も斬っているのなら、少なくとも今までの者たちよりは強いかもしれない。

 

気づけば、足が速くなっていた。

 

 

男は本当にいた。

 

大きな男だった。

 

顔には古い傷が走り、腰には二本の刀を差している。

 

「お前が?」

 

「はい」

 

「俺とやりてえって女は」

 

「はい」

 

男が笑った。

 

「死ぬぞ」

 

「…………」

 

胸が高鳴った。

 

脅しなのかもしれない。

 

それでも、その言葉を聞いて嬉しくなった。

 

「そうですか」

 

「あ?」

 

「それは、楽しみです」

 

柄へ手を置く。

 

男の笑みが消えた。

 

 

強かった。

 

本当に。

 

強かった。

 

「っ!」

 

――ギンッ!

 

刀が弾かれ、手首に痛みが走る。

 

立て直すより早く二本目が来た。

 

「…………!」

 

頬が熱い。

 

切られた。

 

「遅え!」

 

今度は低い。

 

身体を浮かせると、刀が足元を抜けていく。

 

着地した瞬間には、もう二本目が来ていた。

 

「っ!」

 

――ガキンッ!

 

受ける。

 

重い。

 

押し込まれる。

 

次の瞬間、腹に衝撃が入った。

 

「ぐっ……!」

 

蹴られた。

 

地面を転がり、肺から息が抜ける。

 

痛い。

 

それでも、すぐに起き上がった。

 

「まだやんのか」

 

「はい」

 

答えるのに迷いはなかった。

 

男が少し笑った。

 

「イカれてやがる」

 

「ありがとうございます」

 

「褒めてねえよ」

 

「そうでしたか」

 

刀を構え直す。

 

男の足を見る。

 

腰。二本の刀。距離。

 

そして。

 

その全部を。

 

やめる。

 

男を見る。

 

「もう一度」

 

 

何度斬り合ったのか、途中から分からなくなった。

 

腕を斬られた。

 

肩も。

 

脚にも刃が入った。

 

俺も男を斬った。

 

最初は浅く。

 

次は、もう少し深く。

 

互いの血が地面へ落ちているのに、どちらも止まらない。

 

「…………ふふ」

 

「やっぱりお前」

 

男が息を切らしながら笑った。

 

「頭おかしいだろ」

 

「よく言われます」

 

「だろうな!」

 

二本の刀が来る。

 

片方だけを見るな。

 

男を見る。

 

「…………!」

 

一つ目から外れる。

 

二つ目。

 

見えない。

 

いや。

 

見なくていい。

 

そこしかない。

 

刀を合わせる。

 

――ギンッ!

 

二本目が流れた。

 

身体はもう、前へ出ていた。

 

男の胸が空いている。

 

「…………」

 

刀が走った。

 

――ザンッ。

 

「…………!」

 

手に伝わった感触で分かった。

 

深い。

 

今までとは違う。

 

刃が肉を裂き、その奥まで入っている。

 

刀を抜く。

 

血が噴いた。

 

男が一歩下がった。

 

何か言おうと口を開く。

 

声は出なかった。

 

もう一歩。

 

握っていた刀が指から滑り落ちる。

 

――カラン。

 

そのまま、男も倒れた。

 

「…………」

 

動かない。

 

しばらく待ったが、それでも動かない。

 

近づいてしゃがむ。

 

息をしていなかった。

 

俺が殺した。

 

 

刀を見る。

 

赤い。

 

手が、少し震えていた。

 

あの日とは違う。

 

あの日は殺されそうになり、地面へ押さえつけられて逃げられず、生きるために刀を刺した。

 

殺そうと思ったわけではない。

 

生きたかった。

 

だから、刺した。

 

でも今は違う。

 

俺はこの男を探した。

 

自分からここまで来て、刀を抜き、戦った。

 

そして、殺した。

 

腹の奥がひどく重い。

 

男を見る。

 

もう動かない。

 

なのに、頭の中に何度も浮かぶのは、倒れた男の姿ではなかった。

 

二本目。

 

最初の刀を避けた直後、死角から来たあの剣。

 

途中まで、本当に分からなかった。

 

もう少し遅ければ、俺の首に入っていたかもしれない。

 

一本目で視線を奪い、二本目を身体に隠す。

 

刀の角度や足の位置を思い返すほど、もう一度見たくなる。

 

「…………」

 

そこで、ようやく気づいた。

 

もう見られない。

 

男は死んでいる。

 

胸の奥が冷えた。

 

人を殺したことが怖い。

 

でも、それだけではなかった。

 

俺は今、この人が死んだことよりも、もうこの人の剣を見られないことを惜しいと思った。

 

「…………」

 

それが、何より怖かった。

 

 

刀の血を拭い、鞘へ納めた。

 

男の前で頭を下げる。

 

「ありがとうございました」

 

返事はない。

 

当然だった。

 

身体中が痛む。脚にも傷があるし、今日はもう戦えそうにない。

 

歩きながら、傷が治ったらどうするのだろうと考えた。

 

答えは、考える前に出ていた。

 

次を探す。

 

足が止まった。

 

人を殺したばかりなのに、もう次に戦う相手のことを考えている。

 

自分でも、少し嫌になった。

 

それでも宗玄のところへ戻ろうとは思わないし、刀を捨てようとも思わない。

 

ただ、もっと見たい。

 

今日の男より強い人。

 

今日の男より分からない剣。

 

俺が何をしても届かず、何をしても斬られるような。

 

そんな剣を、見てみたい。

 

「…………」

 

怖い。

 

それでも、知りたい。

 

もっと。

 

止まっていた足が、また前へ出る。

 

次にどこへ行けばいいのかは、まだ知らない。

 

けれど、強い剣があると聞けば、きっと俺はそこへ向かう。

 

そのことだけは、もう分かっていた。

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