BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十七章 強い人

人を殺した翌朝、目が覚めて最初に感じたのは痛みだった。

 

肩も腕も脚も腹も、身体を起こすだけで昨日つけられた傷が一斉に痛む。

 

「…………」

 

生きている。

 

当たり前のことなのに、少し不思議だった。

 

昨夜はほとんど眠れなかった。

 

目を閉じるたびに、あの男の二本目の刀が浮かぶ。一本目で視線を奪い、その陰から来た刃。

 

何度思い返しても、最後には男が倒れた。

 

――カラン。

 

刀が落ちる音まで、はっきり覚えている。

 

人を殺した。

 

その事実は朝になっても消えない。

 

怖かった。

 

それなのに、俺が一番長く考えていたのは、やはりあの二本目だった。

 

どうすれば、もっと早く分かったのか。

 

いや。

 

見ようとしたから遅れたのかもしれない。

 

一本目を避けた時点で、二本目が来る場所は分かったはずだ。

 

「…………」

 

気づけば、また剣のことを考えていた。

 

少しだけ、自分が嫌になった。

 

 

幾日か休み、傷が塞がり始めると、俺はまた歩き出した。

 

今度は、刀を持っているだけの者には声をかけない。

 

強い者を探した。

 

「この辺りで、一番剣の強い方をご存じですか」

 

聞いて、教えてもらい、会いに行く。

 

そして戦う。

 

名前の知られた者は、確かにそれなりに強かった。

 

速い者もいれば、力の強い者もいる。間合いの遠い者、懐へ潜るのが上手い者、刀とは別に短い刃を隠し持つ者もいた。

 

中でも、砂を投げてきた男には驚いた。

 

「卑怯では?」

 

「殺し合いに卑怯も糞もあるか!」

 

「なるほど」

 

「納得すんのかよ!」

 

納得した。

 

宗玄も新太も、そんなことはしなかった。

 

だから知らなかったのだ。

 

目を潰せるなら砂を使い、転ばせられるなら石を使う。壁があれば追い込み、狭い場所なら長い刀を振らせない。

 

剣だけを見ていた頃には気づかなかったことが、いくらでもあった。

 

戦うたびに知らないものが見つかる。

 

それが、楽しかった。

 

 

半年が過ぎた。

 

いつの間にか、腰の刀も変わっていた。

 

最初に拾った刀は、何度も打ち合い、何度も研ぎ、最後には大きく刃が欠けた。

 

少し寂しかった。

 

初めて人を殺した刀であり、宗玄に初めて剣を教わった刀でもある。

 

捨てることはできず、折れた刃を布に包んで持っている。

 

今、腰にあるのは別の刀だった。

 

俺が倒した男が持っていたものだ。

 

最初は持っていくことに抵抗があった。

 

けれど、死んだ者に刀は要らない。

 

そう考えた。

 

正しいのかは分からない。

 

ただ、その刀はよく斬れた。

 

 

「お前が清子か」

 

ある日、初めて向こうから名前を呼ばれた。

 

振り返ると、知らない男が立っている。

 

腰には刀。

 

無意識に足、腰、肩へ視線が動いた。

 

「何見てんだ」

 

「申し訳ありません。癖で」

 

「聞いた通りだな」

 

「?」

 

男が刀へ手を置く。

 

「強え奴を探して歩いてる女がいるってな」

 

俺は少し驚いた。

 

「私のことでしょうか」

 

「他にいんのかよ」

 

「分かりません」

 

「…………」

 

男が眉を寄せた。

 

「何人斬った」

 

「分かりません」

 

今度は、本当に分からなかった。

 

最初の数人は覚えている。

 

だが、いつからか数えなくなった。

 

殺した者もいれば、生きている者もいる。逃げた者もいれば、こちらが倒れたこともある。

 

「覚えてねえのか」

 

「はい」

 

「気味悪ぃ女だな」

 

「よく言われます」

 

「それも聞いた」

 

どうやら、少し有名になっているらしい。

 

妙な気分だった。

 

「強い奴を探してんだろ」

 

「はい」

 

「なら俺とやれ」

 

思わず男を見る。

 

「強いのですか」

 

男が笑った。

 

「お前を斬りに来たんだ。それで不足か?」

 

それで十分だった。

 

「お願いします」

 

刀へ手をかけた。

 

 

男は強かった。

 

それ以上に、やりづらかった。

 

来ると思えば来ない。

 

こちらが入れば下がり、追えばその瞬間に斬ってくる。

 

刀を避けて反撃しても、そこにはもう男がいない。

 

速いわけではない。

 

なのに、合わない。

 

「何だ。聞いてたほどじゃねえな」

 

「そうでしょうか」

 

「ああ」

 

「…………」

 

嬉しい。

 

「何笑ってんだよ」

 

「いえ。少し困っております」

 

「それで笑うのか?」

 

「はい」

 

「やっぱ気味悪ぃな!」

 

男が来る。

 

今度は追わない。

 

待ちもしない。

 

俺が斬れるところへ入った。

 

男の足が変わり、構えも変わる。

 

その対応も、次の形になる。

 

さらに入る。

 

男が外れる。

 

その先へ刀を返す。

 

――キンッ!

 

初めて、男の刀とぶつかった。

 

そこからは何も考えなかった。

 

男が来れば身体が動き、斬れば避けられる。

 

なら、また入る。

 

男が下がれば、足が勝手にその先へ出る。

 

やがて、男の顔から笑みが消えた。

 

 

戦いは長引いた。

 

何度も斬られ、こちらも何度も斬ったが、互いに浅い。

 

決めきれないまま、脚は重くなり、腕も上がらなくなっていく。

 

それでも、まだ終わってほしくなかった。

 

男が構えを変えた。

 

今まで一度も見せなかった形だった。

 

「…………」

 

来る。

 

だが、どこから来るのか分からない。

 

考えるな。

 

男を見る。

 

次の瞬間、男の身体が沈んだ。

 

低い。

 

懐へ入ってくる。

 

刀が身体に隠れた。

 

だが、その瞬間には俺の身体も動いていた。

 

後ろではなく、前へ出る。

 

「なっ――」

 

男の横を抜けながら、刀を振った。

 

何をしたのか、自分でもよく分からない。

 

ただ、手には確かな感触が残った。

 

振り返る。

 

男が一歩動き、そのまま地面へ崩れた。

 

首から血が流れていた。

 

 

また、殺した。

 

けれど以前とは違い、手は震えなかった。

 

そのことに気づいた瞬間、別の意味で怖くなった。

 

男の前へしゃがむ。

 

息はない。

 

さっきまで、あれほど俺を困らせていたのに、もう動かない。

 

そしてやはり、最後の動きをもう一度見たいと思った。

 

「…………」

 

まただ。

 

人が死んだのに、俺はその人より剣を惜しんでいる。

 

ただ、今回はもう一つ気になることがあった。

 

最後に、俺は何をしたのだろう。

 

横でも、斜めでもない。

 

男が来て、身体が動き、その場所を刀が通った。

 

それだけだった。

 

宗玄の剣でもない。

 

旅の途中で見た、誰かの剣でもない。

 

「あれは……」

 

俺の剣だったのだろうか。

 

まだ、分からなかった。

 

 

それから、妙なことが起き始めた。

 

「清子ってのはお前か」

 

「はい」

 

「勝負しろ」

 

「はい」

 

探さなくても、向こうから来るようになった。

 

最初はありがたかった。

 

歩き回らなくても、知らない剣や強い剣が向こうからやって来る。

 

だが、その中には時々、目的の違う者もいた。

 

「お前を斬れば俺の名が上がる」

 

「…………?」

 

意味が分からない。

 

「なぜでしょう」

 

「お前が有名だからだよ!」

 

「そうなのですか」

 

「知らねえのか!」

 

「はい」

 

男が、少しだけ気の毒そうな顔をした。

 

 

噂というものは、自分では見えないらしい。

 

強い者を探して歩く女。

 

戦えば笑う女。

 

斬られても止まらず、勝っても金を取らない。

 

恨みがあるわけでもないのに、ただ強いというだけで刀を抜く。

 

俺が何を思って戦っているのかなど、俺以外には関係なかった。

 

俺はただ、強い人と戦いたかった。

 

知らない剣を見たかった。

 

自分より、もっと強いものを見つけたかった。

 

それだけだった。

 

 

ある集落へ入ったとき、道端で遊んでいた子供と目が合った。

 

子供の顔が固まり、すぐに母親らしい女のところへ走っていく。

 

女は子供を抱き寄せながら、こちらを見ていた。

 

怯えている。

 

「…………」

 

胸の奥に、嫌なものが残った。

 

会ったこともない人たちだ。

 

なのに、俺を知っている。

 

その日の夕方、宿を探していた俺に男が言った。

 

「出ていけ」

 

刀は持っていない。

 

それでも、声は震えていた。

 

「なぜでしょう」

 

「とぼけんな」

 

男が俺を見る。

 

「人斬りが」

 

「…………」

 

初めて、そう呼ばれた。

 

反論しようとして、やめた。

 

間違ってはいない。

 

俺は人を斬った。

 

何人も。

 

そして明日、どこかに強い者がいると聞けば。

 

たぶん、また会いに行く。

 

「申し訳ありません」

 

それしか言えなかった。

 

頭を下げ、集落を出る。

 

空はもう暗くなり始めていた。

 

腰の刀が、今日は少しだけ重く感じた。

 

それでも。

 

捨てようとは、思わなかった。

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