BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第十九章 外の果て

 

八千流と名乗るようになってからも。

 

旅は続いた。

 

強い者がいると聞けば、そこへ向かった。

 

知らない剣があると聞けば、見に行った。

 

それまでと。

 

何も変わらなかった。

 

 

ある土地に、一つの剣術一門があった。

 

門下は多く。

 

その中でも当主は、この辺りでは並ぶ者がいないという。

 

聞けば、行かない理由はなかった。

 

 

大きな門をくぐると、庭では何人もの男たちが刀を振っていた。

 

足を止め、何人かを見る。

 

悪くない。

 

けれど、探している人はいなかった。

 

「何者だ」

 

一人の男がこちらへ来る。

 

「八千流と申します」

 

その名を聞いて、周囲の手が止まった。

 

「八千流……?」

 

「人斬りの?」

 

小さく声が聞こえる。

 

目の前の男も、僅かに表情を変えた。

 

「何の用だ」

 

「こちらの当主が大変お強いと伺いました」

 

「先生に?」

 

「はい。戦っていただきたくて」

 

男がこちらを見る。

 

「先生に会わせるまでもない」

 

刀を抜いた。

 

「俺が相手をしてやる」

 

斬った。

 

そのまま横へ一歩ずれる。

 

遅れて血が飛び。

 

男が倒れた。

 

「当主の方はいらっしゃいますか」

 

誰も答えなかった。

 

「貴様……!」

 

一人が刀を抜き、斬りかかってきた。

 

刃をかわし。

 

すれ違いざまに斬る。

 

男が倒れる。

 

「よくも!」

 

今度は数人が一斉に刀を抜いた。

 

前から来た一人を斬る。

 

横から来た男も斬る。

 

背後から迫った刃をかわし、振り向きざまに斬った。

 

また一人。

 

向かってきた者から、次々に斬り捨てる。

 

やがて。

 

誰も来なくなった。

 

「…………」

 

足元には、何人もの門下が倒れている。

 

残った者たちは刀を握ったまま、動かなかった。

 

「当主の方はいらっしゃいますか」

 

「――もうよい」

 

声がした。

 

建物の奥を見る。

 

一人の老人が立っていた。

 

白い髪。小柄な身体。腰に一本の刀。

 

老人が庭へ下りてくる。

 

倒れている門下たちを見る。

 

それから、俺を見る。

 

「お前が八千流か」

 

「はい」

 

「儂に何の用だ」

 

「お強いと伺いました」

 

「それだけか」

 

「はい」

 

老人の目が細くなる。

 

「それだけのために、これだけ斬ったか」

 

「刀を抜かれましたので」

 

「…………」

 

老人はしばらく何も言わなかった。

 

やがて。

 

柄へ手をかける。

 

「先生!」

 

残っていた門下たちが動く。

 

「下がっておれ」

 

静かな声だった。

 

それだけで、誰も動かなくなった。

 

老人が刀を抜く。

 

「望み通り、相手をしてやる」

 

「ありがとうございます」

 

俺も刀を構えた。

 

 

老人は強かった。

 

最初の一太刀で分かった。

 

「…………ふふ」

 

久しぶりに楽しい。

 

もっと見たいと思った。

 

何度も斬り合い、老人の刀が何度も迫る。

 

それでも。

 

一度も俺には届かなかった。

 

やがて。

 

俺の刀が老人の身体を深く斬った。

 

「先生!」

 

声が上がる。

 

老人が膝をついた。

 

刀を地面へ突き、倒れずにこちらを見る。

 

「…………満足したか」

 

「はい」

 

少し考える。

 

「とても」

 

「…………そうか」

 

老人の手から刀が離れた。

 

身体が倒れる。

 

「先生!」

 

残った門下たちが駆け寄っていく。

 

俺は刀についた血を払った。

 

「ありがとうございました」

 

頭を下げる。

 

返事はなかった。

 

 

門を出る。

 

それでも頭にあるのは、老人の剣だった。

 

「…………」

 

随分と久しぶりにいい剣だった。

 

まだ知らない剣はある。

 

そう思い、振り返ることなく次の強い者を探しに歩いた。

 

 

それからしばらくして。

 

ある町へ入ったとき、遠くからいくつもの刀の音と怒鳴り声が聞こえてきた。

 

そちらへ向かうと、広い通りを埋めるように二つの集団が斬り合っていた。

 

合わせれば百人近くはいるだろう。

 

既に何人も倒れ、通りのあちこちに血が流れている。それでも争いは止まらず、怒号と刃のぶつかる音が絶え間なく響いていた。

 

何が原因なのかは分からない。

 

興味もなかった。

 

「…………」

 

一人。

 

大柄な男が、太い刀を振るっている。

 

周囲の者とは明らかに違った。

 

次々に相手を斬り倒していく。

 

その刀を目で追う。

 

「…………ふふ」

 

反対側にもいた。

 

細身の男だった。

 

こちらも周囲とは違う。

 

次々に迫る相手を斬りながら、ほとんど足を止めない。

 

「…………」

 

二人いる。

 

刀の柄へ手をかけた。

 

 

近くにいた男を斬った。

 

男が倒れる。

 

その向こうにいた者が俺を見る。

 

「何だ、てめ――」

 

斬る。

 

別の男がこちらへ来る。

 

それも斬った。

 

どちらの側かは知らない。

 

邪魔だった。

 

大柄な男へ向かって歩く。

 

途中、何人か向かってきた者を斬りながら進む。

 

大柄な男がこちらに気づいた。

 

「誰だ、てめえ!」

 

答える代わりに斬りかかる。

 

男が受け、刃がぶつかる。

 

「…………!」

 

男の顔が変わる。

 

「ふふ」

 

そのまま斬り合った。

 

周りではまだ大勢が戦っている。

 

だが、どうでもよかった。

 

目の前の男だけを見る。

 

数合斬り合い、やがて。

 

俺の刀が男を斬った。

 

大きな身体が倒れる。

 

「頭ァ!」

 

声が上がった。

 

「…………」

 

頭。

 

この人がそうだったらしい。

 

知らなかった。

 

まあいい。

 

振り返る。

 

もう一人。

 

細身の男を探す。

 

いた。

 

少し離れたところで、こちらを見ている。

 

その周囲にいた者たちも、いつの間にか手を止めていた。

 

細身の男が刀を下げる。

 

「お前……何者だ」

 

「八千流と申します」

 

ざわめきが起こった。

 

男の表情が変わる。

 

俺は刀を構える。

 

「次は、あなたと戦いたいのですが」

 

「…………」

 

男が倒れた大柄な男を見る。

 

それから俺を見る。

 

「俺たちの争いに、何の恨みがある」

 

「ありません」

 

「なら、何で入ってきた」

 

「お二人が強そうでしたので」

 

「…………」

 

男はしばらく黙っていた。

 

やがて、刀を構え直す。

 

「狂ってやがる」

 

そのまま地面を蹴った。

 

 

この男も強かった。

 

先ほどの男とは、まるで違う剣だった。

 

斬り合い。

 

最後には。

 

俺の刀が届いた。

 

細身の男が倒れる。

 

「…………」

 

周囲を見る。

 

もう誰も斬り合っていなかった。

 

二つの集団の者たちが、刀を持ったままこちらを見ている。

 

俺は刀についた血を払った。

 

二人とも、いい剣だった。

 

けれど、もう少し長く斬りあいたかった。

 

そのまま町を出た。

 

あの争いがどうなったのかは知らない。

 

どちらが勝ったのかも。

 

そもそも何を奪い合っていたのかも知らなかった。

 

俺が覚えているのは。

 

あの場所に。

 

二人の強い者がいたことだけだった。

 

 

それからも旅は続いた。

 

ある日の夕方。

 

山道を歩いていると、前に一人の男が立っていた。

 

通り過ぎようとする。

 

「八千流」

 

足を止めた。

 

男は刀を握っていた。

 

「はい」

 

「ようやく見つけた」

 

「私をお探しでしたか」

 

「ああ」

 

男が刀を抜く。

 

「兄の仇だ」

 

「…………」

 

兄。

 

誰のことだろう。

 

「お兄様は?」

 

「……弥十郎だ」

 

「…………」

 

名前を聞いて、顔を思い出そうとする。

 

だが、分からない。

 

男の顔が歪んだ。

 

「覚えてねえのか」

 

「申し訳ありません」

 

「ふざけるな!」

 

男が斬りかかってきた。

 

刃を受ける。

 

一目見た時から分かっていた。

 

あまり強くない。

 

男の胸を斬った。

 

「ぐっ……」

 

男が膝をつく。

 

それでも刀を握っていた。

 

「兄貴は……」

 

「…………」

 

「お前に斬られて……」

 

男が立ち上がろうとする。

 

もう一度。

 

斬った。

 

男が倒れた。

 

「…………」

 

刀についた血を払う。

 

弥十郎。

 

もう一度、名前から顔を思い出そうとする。

 

やはり、分からない。

 

この人の兄なら。

 

もう少し強かったのだろうか。

 

刀を鞘へ戻した。

 

 

「大悪人、八千流が、こちらへ向かっているらしい」

 

その一言に。

 

集まっていた者たちの顔が変わった。

 

部屋にいるのは、いずれも近隣に一門を構える者たちだった。

 

流派は違う。

 

古くから付き合いのある者もいれば。

 

互いの剣を認めていない者もいる。

 

普段なら、こうして同じ場所に集まることもない。

 

「確かなのか」

 

「三日前、西で見た者がいる」

 

「ここへ来るとは限らん」

 

「だが、来ないとも限らん」

 

誰も否定しなかった。

 

八千流が何を求めて歩いているのか。

 

今では知られている。

 

金でも。土地でもない。

 

強い者。

 

それだけだった。

 

「八千流に潰された一門は、一つではない」

 

部屋が静かになる。

 

「北では当主と師範を斬られ、一門が潰れた。南でも同じだ。門下を何人も斬られ、全滅したところもあるそうだ」

 

「…………」

 

「東では、争っていた二つの勢力へ乱入し、双方の頭を斬ったとも聞く」

 

一人が低い声で言った。

 

「強いと噂になれば、どこへでも現れる」

 

「理由は、それだけか」

 

「ああ」

 

強い者がいる。

 

それだけで現れ、戦い、斬る。

 

相手が一人でも。

 

その後ろに何人いようと関係ない。

 

「この辺りには、名の知られた一門がいくつある」

 

誰も答えなかった。

 

「次が我々のどこであっても、おかしくない」

 

一人の男が鼻を鳴らした。

 

「だから何だ」

 

視線が集まる。

 

「人斬りの小娘一人を相手に、我々が徒党を組むというのか」

 

「…………」

 

「そんな真似をして何になる。一人で来るなら、迎えればよい」

 

「そうして潰れた一門がいくつあると思っている」

 

男が黙る。

 

「次がお前のところでも、同じことが言えるか」

 

「…………」

 

誰も口を挟まなかった。

 

この辺りには。

 

名の知られた剣士が何人もいる。

 

それぞれの一門に当主がいて、師範がいて、腕の立つ門下がいる。

 

噂に聞こえる八千流にとって、来る理由には、それで十分だった。

 

「待っていれば、どこかが狙われる」

 

「なら、どうする」

 

「こちらから討つ」

 

「…………」

 

「各一門から腕の立つ者を出す」

 

しばらく沈黙が続いた。

 

やがて。

 

一人が頷いた。

 

それに続き。

 

また一人。

 

反対していた男も、最後には何も言わなかった。

 

こうして、いくつもの一門が。

 

八千流一人を討つために手を組んだ。

 

 

数日後。

 

集まった者は五十人を超えた。

 

各一門の師範、名のある剣士、腕を認められた門下。

 

中には、八千流に師や仲間を斬られた者もいた。

 

全員が刀を持っている。

 

八千流が通ると見込んだ街道で待ち。

 

日が傾き始めた頃。

 

「……来たぞ」

 

遠くに一人の女が見えた。

 

「あれが……八千流か」

 

刀を腰に差した女が歩いてくる。

 

やがて、五十人を前にして足を止めた。

 

 

目の前に大勢の人がいる。

 

皆。

 

刀を持っていた。

 

「八千流だな」

 

先頭にいた男が言った。

 

「はい」

 

男はこちらを見据える。

 

「引き返すつもりはあるか」

 

「ありません」

 

「そうか」

 

男の手が柄へかかる。

 

「なら、ここでお前を討つ」

 

周囲の者たちも刀へ手をかけた。

 

「…………」

 

見渡す。

 

これだけの人数がいる。

 

そして、同じではない。

 

立ち方、刀の位置、重心。

 

それぞれ違う。

 

いくつもの剣がある。

 

「…………ふふ」

 

思わず笑った。

 

「何がおかしい」

 

「いえ」

 

刀の柄へ手をかける。

 

「これだけの方と一度に戦えるとは思いませんでしたので」

 

男の顔が険しくなる。

 

「やはり化け物か」

 

刀が抜かれた。

 

続いて、いくつもの刀が鞘を走る。

 

俺も刀を抜いた。

 

 

討伐隊は。

 

その日のうちに壊滅した。

 

 

日が沈みかけていた。

 

街道には大勢の者が倒れている。

 

折れた刀、血に濡れた地面。

 

その間を歩く。

 

着物も、髪も。

 

全身が返り血で染まっていた。

 

けれど。

 

俺自身に傷はない。

 

「…………」

 

何人か。

 

いい剣を使う人がいた。

 

一人では見られなかった剣も。

 

いくつも見られた。

 

刀についた血を払う。

 

「ありがとうございました」

 

倒れている者たちへ頭を下げた。

 

刀を鞘へ戻す。

 

強かった。

 

知らない剣もあった。

 

五十人もいれば、今まで見たことのない動きをする者もいる。

 

それなのに。

 

「…………」

 

足りない。

 

 

街道を歩きながら、先ほどの戦いを思い返した。

 

いい剣はいくつもあった。

 

最初は分からない動きもあった。

 

それでも。

 

斬り合えば分かる。

 

一度。

 

二度。

 

刀を合わせるうちに。

 

次が見えるようになる。

 

「…………」

 

もっと強い者を。

 

もっと知らない剣を。

 

今までなら、それでよかった。

 

歩けばどこかにいた。

 

なら、また探せばいい。

 

そう考えたところで、足が止まった。

 

「…………」

 

なぜか、その日はその先を考えられなかった。

 

 

夜になり、火を起こして一人で座った。

 

俺の知らない剣を、たくさん見た。

 

俺より強い者にも、何人も会った。

 

斬られ、負け、覚え、いつか届くようになれば、また次を探した。

 

宗玄とは違うところにいる何か。

 

それを求めて、ここまで来た。

 

実際、宗玄とは違う剣はいくらでもあった。

 

宗玄より速い者もいたかもしれない。

 

力だけなら、宗玄を上回る者も間違いなくいた。

 

それなのに。

 

一度もなかった。

 

あの感覚だけは。

 

 

構えた宗玄を思い出す。

 

『打て』

 

どこでもいいと言われた。

 

右でも、左でも、上でも、突きでも。

 

どこへ行っても、そこに宗玄の棒がある気がした。

 

まだ一本も振っていないのに、もう宗玄の剣の中にいる。

 

あのときは何も分からず、ずるいとさえ思った。

 

「…………」

 

今なら、どうだろう。

 

数え切れないほどの剣を見た。

 

斬り合い、覚え、使い、忘れた。

 

そして八千流と名乗るところまで来た。

 

それでも、あの剣を分からないと思うのだろうか。

 

胸が、久しぶりに高鳴った。

 

俺の知らない剣。

 

俺より強い者。

 

宗玄とは違う何か。

 

ずっと外にあると思って探していた。

 

けれど、色々な剣を知れば知るほど、最後に思い出したのは一番最初に何も分からなかった剣だった。

 

「…………ふふ」

 

笑ってしまった。

 

ずいぶん遠くまで来た。

 

何年歩いたのかも、どれだけの人間と斬り合ったのかも分からない。

 

それなのに今になって、確かめたいものが一つだけ残った。

 

 

翌朝、歩き出した。

 

昨日までとは、向かう先が違う。

 

強い者の噂を聞くためではない。

 

知らない剣を探すためでもない。

 

宗玄のもとへ。

 

どれほど遠くまで来たのか、自分でもよく分からない。

 

来た道など、とっくに覚えていなかった。

 

それでも、帰る場所だけは覚えている。

 

あの山。

 

あの家。

 

庭に立てかけられた棒。

 

宗玄と、新太。

 

「…………」

 

今なら、あなたの剣が分かるのでしょうか。

 

それとも、やはり何も分からないのでしょうか。

 

どちらでもよかった。

 

ただ、もう一度向かい合いたかった。

 

足を速める。

 

俺は初めて、新しい剣を探すためではなく、かつて知ることのできなかった剣を見るために。

 

来た道を戻り始めた。

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