BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第二十章 代替わり

 

 いつもと同じ道を歩き、隊首会へ向かう。

 

 もう何度歩いたか分からない。肉雫唼を腰に差し、決められた場所へ向かう。

 

 今日も山本重國から何か命令があるのだろう。それを聞いて、終われば十一番隊へ戻る。

 

 いつもと同じ。

 

 そう思っていた。

 

     ◇

 

 部屋へ入ると、何人かはすでに来ていた。

 

 有嬪もいる。志島知霧もいる。

 

 いつもの顔を確認しながら、十一番隊隊長の位置へ立つ。

 

 それから一人、また一人と隊長たちが入ってきた。

 

「…………」

 

 何かがおかしい。

 

 並んだ顔を、もう一度見る。

 

 一番隊。

 

 二番隊。

 

 三番隊。

 

「…………」

 

 三番隊隊長の位置だけが空いていた。

 

 遅れているのだろうか。

 

 そう思いながら、隊首会が始まるのを待った。

 

 やがて山本重國が入ってくると、全員が静かになった。

 

 山本重國は並んだ隊長たちを一度見渡してから、口を開いた。

 

「三番隊隊長、厳原金勒は、先日の任務において殉職した」

 

「…………」

 

 一瞬、意味が分からなかった。

 

 厳原が死んだ。

 

「敵は討伐済み。厳原は交戦により重傷を負い、その傷がもとで息を引き取った」

 

「…………」

 

 強かった。

 

 俺は知っている。何度も刀を合わせたのだから。

 

 それでも、死んだ。

 

 不思議なことではない。

 

 戦えば死ぬことがある。それくらい、ずっと前から知っている。

 

 旅をしていた頃にも、戦争でも、数え切れないほど見てきた。俺自身、死にかけたことは一度や二度ではない。

 

 だから、驚くようなことではない。

 

 そう思うのに。

 

「…………」

 

 空いたままの三番隊隊長の位置へ目を向ける。

 

 護廷十三隊が生まれた日、山本重國の前に並んだ十三人。

 

 その一人が、欠けた。

 

     ◇

 

 厳原が死んでから、しばらく経った。

 

「剣八隊長」

 

「はい」

 

「隊首会です」

 

「分かりました」

 

 また、いつもの道を歩く。

 

 部屋へ入ったところで、見慣れない顔に気づいた。

 

「…………」

 

 三番隊隊長の位置に、知らない者が立っている。

 

 見覚えはない。

 

 けれど、誰なのか考える必要はなかった。立っている位置が答えだった。

 

 やがて山本重國が入ってくる。

 

「今日より、三番隊を預ける」

 

 新しい隊長の名が告げられた。

 

 それだけだった。

 

 そのまま隊首会が始まる。

 

 任務の話。隊の配置。流魂街で起きている問題。

 

 いつもと変わらない。

 

「…………」

 

 少しだけ、妙な気分だった。

 

 ついこの間まで厳原が立っていたところに、今日は別の者が立っている。

 

 けれど、誰もそれをおかしいとは思わない。

 

 やがて隊首会が終わると、隊長たちはそれぞれ立ち上がった。

 

 俺は少しだけ、その場に残った。

 

「…………」

 

 三番隊隊長の位置を見る。

 

 ついこの間まで、そこには厳原が立っていた。

 

 今日は別の者が立っていた。

 

「剣八」

 

 声がした。

 

 有嬪だった。

 

「はい」

 

「何してんだ」

 

「少し、考えていました」

 

「何を」

 

「…………」

 

 もう一度、先ほどまで新しい隊長が立っていたところを見る。

 

「有嬪」

 

「あ?」

 

「隊長は、代わるのですね」

 

「…………」

 

 有嬪も、俺の視線の先を見た。

 

「そりゃそうだろ」

 

「そうですね」

 

「死ぬこともありゃ、辞めることもある。いつまでも同じ奴がいるわけじゃねえ」

 

「はい」

 

「何だ。今さら気づいたのか?」

 

 少し考える。

 

「考えたことがありませんでした」

 

「そうかよ」

 

 有嬪も、しばらくそこを見ていた。

 

「どんな奴でも、いつかはいなくなる」

 

「…………」

 

「お前もな」

 

「そうですね」

 

 俺も、有嬪も、山本重國ですら。

 

 いつかはいなくなる。

 

 分かっているはずのことだった。

 

 それでも今まで、考えたことはなかった。

 

     ◇

 

 厳原がいなくなっても、日々は変わらなかった。

 

 任務へ行き、十一番隊へ戻り、隊士たちを鍛える。時間があれば他の隊長と刀を合わせ、自分もまた強くなる。

 

 新しい三番隊隊長も、当然のようにその中にいた。

 

 強かった。

 

 そうでなければ、山本重國が一つの隊を預けることもないのだろう。

 

 最初のうちは隊首会でその位置を見るたび、ほんの少しだけ違和感があった。

 

 けれど、それもいつの間にかなくなった。

 

 そこに立っているのは三番隊隊長。

 

 それでいい。

 

     ◇

 

 それから何年かが過ぎ、また一人、最初の十三人から隊長を退く者が出た。

 

 今度は死んだわけではない。

 

 理由までは知らなかったが、その者が去ってしばらくすると、やはり同じ位置には別の者が立った。

 

 さらに時が過ぎれば、任務から帰らない者も出た。

 

 空いた隊長の位置には、やがて新しい者が立つ。

 

 そうして一人、また一人と、あの日に山本重國の前へ並んだ顔が減っていった。

 

     ◇

 

 ある日の隊首会。

 

 山本重國の話を聞きながら、ふと周囲を見る。

 

「…………」

 

 山本重國がいる。

 

 有嬪も、志島知霧もいる。

 

 まだ知っている顔はある。

 

 けれど、あの日とは違う。

 

 護廷十三隊が生まれた日、山本重國の前に並んだ十三人。

 

 もう、あの顔ぶれではなかった。

 

 知らない顔が増えた。

 

 そう思って、少し違うことに気づいた。

 

 知らない顔が増えたのではない。

 

 知っている顔が減ったのだ。

 

「…………」

 

 それでも、十三人の隊長は揃っている。

 

 一人が死ねば別の者が立ち、一人が去ればまた別の者がその隊を率いる。

 

 護廷十三隊は人を入れ替えながら、それでも続いていく。

 

 あの日に集まった十三人だけが、護廷十三隊だったわけではない。

 

 俺たちがいなくなっても、十三の隊は残る。

 

 それは、受け継がれていくものなのだ。

 

 知っている顔が減っていくのは、少し寂しい。

 

 けれど。

 

 あの日、山本重國の前に並んだ十三人から、次の者へ。

 

 そして、その次の者へ。

 

 こうして続いていくのだと思うと、少しだけ誇らしい気もした。

 

     ◇

 

「剣八隊長!」

 

「はい」

 

 十一番隊へ戻ると、若い隊士が刀を持ってこちらへ走ってきた。

 

「一本お願いします!」

 

「私とですか?」

 

「はい!」

 

「よろしいのですか?」

 

「お願いします!」

 

「…………」

 

 思わず口元が緩む。

 

「分かりました」

 

 斬魄刀を抜く。

 

 始解はせず、直刀のまま構える。

 

 すると、周囲にいた隊士たちまで集まってきた。

 

「また始まったぞ」

 

「何秒持つと思う?」

 

「十秒」

 

「無理だろ」

 

「聞こえてるぞ!」

 

「では、いつでもどうぞ」

 

「はい!」

 

 隊士が地面を蹴った。

 

 以前よりも速い。

 

 振り下ろされた刀を斬魄刀で逸らすと、隊士の身体がわずかに流れた。

 

 その首元へ刃を止める。

 

「そこまでですね」

 

「…………くそ」

 

「よかったですよ」

 

「全然届かなかったじゃないですか」

 

「以前よりは近かったです」

 

「本当ですか?」

 

「はい」

 

 嘘ではない。

 

 以前なら、刀を逸らす必要すらなかった。

 

「もう一度お願いします」

 

「いいですよ」

 

「今度は俺も!」

 

「俺もやる」

 

「なら三人で行くぞ」

 

 いつの間にか、人数が増えている。

 

「三人でよろしいのですか?」

 

「隊長がいいなら!」

 

「もちろんです」

 

 三人がそれぞれ刀を構える。

 

 一人では届かないと分かっているからか、互いの位置を確認している。

 

 前よりも考えるようになった。前よりも速くなった。

 

 少しずつ、強くなっている。

 

「…………ふふ」

 

 刀を構える。

 

「では、来てください」

 

     ◇

 

 ある日、隊舎を歩いていると、稽古場の方から刀のぶつかる音が聞こえてきた。

 

 珍しいことではない。

 

 十一番隊では、暇さえあれば誰かが刀を振っている。

 

 そのまま通り過ぎようとして、聞き覚えのある声に足を止めた。

 

「違う。今ので何で止まるんだ」

 

「でも、避けられたから――」

 

「避けられたからじゃねえよ。次だ。外したなら、外したところから斬れ」

 

「はい!」

 

「返事だけはいいな。もう一回」

 

 稽古場を見る。

 

 二人の隊士が向かい合っていた。

 

 一人はまだ若い。十一番隊へ入って、それほど経っていない者だった。

 

 もう一人には見覚えがある。

 

「…………」

 

 以前、俺に何度も挑んできた隊士だった。

 

 あの頃はまだ若かった。

 

『一本お願いします!』

 

 刀を持って走ってきて、俺に斬りかかり、あっという間に負けた。

 

 負けても、すぐにもう一度と言ってきた。

 

 それから何度も挑んできた。

 

 一人で駄目なら二人。

 

 二人で駄目なら三人。

 

 仲間と相談して、どうすれば俺へ刀が届くのかを考えていた。

 

 その男が今は、若い隊士の前に立っている。

 

「来い」

 

「はい!」

 

 若い隊士が踏み込んだ。

 

 刀が振り下ろされる。

 

 男は半歩だけ身体を外し、刀を受け流した。

 

 若い隊士の身体が崩れる。

 

 そこへ刀を止めた。

 

「そこまで」

 

「くそ……」

 

「今ので終わりだ。相手が隊長なら、首飛んでるぞ」

 

「隊長なら最初ので終わってますよ」

 

「だったら最初で終わらねえようにしろ」

 

「無茶言わないでください」

 

「俺も言われた」

 

「誰にですか?」

 

 男が少しだけ笑った。

 

「隊長にだよ」

 

「…………」

 

 俺は物陰から二人を見る。

 

 そんなことを言っただろうか。

 

 正確には覚えていない。

 

 何十年も前のことだ。

 

 けれど、似たようなことなら何度も言った気がする。

 

「もう一度お願いします」

 

「いいぞ」

 

 男が刀を構える。

 

 若い隊士も構えた。

 

 少し離れたところでは、別の隊士たちがそれを見ている。

 

「次、俺な」

 

「俺が先だ」

 

「勝手に決めんなよ」

 

「お前ら、順番くらい守れ!」

 

 騒がしい。

 

 昔から変わらない。

 

 けれど、そこにいる顔は違う。

 

 俺に挑んできていた者が、今は挑まれる側にいる。

 

 俺から何かを教わった者が、今度は別の者へそれを教えている。

 

 そして、教わった若い者も、いつかは誰かに同じことを言うのかもしれない。

 

「…………」

 

 声はかけなかった。

 

 もう一度、刀のぶつかる音が響く。

 

 俺は少しだけ笑って、その場を離れた。

 

     ◇

 

 それから、さらに年月が過ぎた。

 

 新しく入った隊士を連れ、瀞霊廷の中を歩いていた時のことだった。

 

 三番隊の隊舎の近くを通ったところで、若い隊士が前を歩く一団へ目を向けた。

 

「あれ、三番隊ですか?」

 

「ええ」

 

「先頭の人が隊長ですよね」

 

「そうですね」

 

 今の三番隊隊長が、隊士たちを連れて歩いている。

 

 その姿を見ながら、若い隊士が言った。

 

「三番隊の隊長って、ずっとあの人なんですか?」

 

「いいえ」

 

「前にもいたんですか?」

 

「いましたよ」

 

「へえ」

 

 それだけの反応だった。

 

 当然なのだろう。

 

 この隊士が護廷十三隊へ入った時には、今の三番隊隊長がすでにそこにいた。

 

「どんな人だったんです?」

 

「厳原金勒という方です」

 

「厳原……」

 

 若い隊士が首を傾げる。

 

「すみません。知りません」

 

「…………」

 

「有名な人だったんですか?」

 

 少し考える。

 

「強い方でした」

 

「隊長なら、そりゃ強いですよね」

 

「そうですね」

 

 若い隊士は納得したように頷いた。

 

 それ以上、厳原について尋ねることはなかった。

 

 俺も話さなかった。

 

 歩きながら、少しだけ昔を思い出す。

 

 護廷十三隊が生まれた日。

 

 山本重國の前に並んだ十三人の中に厳原はいた。

 

 何度も刀を合わせた。

 

 俺にとっては、そういう男だ。

 

 けれど、この隊士は知らない。

 

 生まれていなかったのかもしれない。

 

 あるいは、流魂街のどこかで暮らしていたのかもしれない。

 

 どちらでも同じだ。

 

 この者にとって、三番隊隊長といえば今そこを歩いている男なのだ。

 

「剣八隊長?」

 

「はい」

 

「どうかしました?」

 

「いいえ。何でもありません」

 

 また歩き出す。

 

 厳原がいなくなった時には、空いた場所がひどく目についた。

 

 今では、その場所に別の者が立っていることが当たり前になっている。

 

 そして、その前に誰が立っていたのか知らない者までいる。

 

「…………」

 

 随分、時間が経ったのだ。

 

     ◇

 

 十一番隊にも新しい者が入り、古い者がいなくなった。任務で死んだ者もいれば、別の隊へ移る者もいる。

 

 それでも、また新しい者が入ってくる。

 

 人が入れ替わっても、十一番隊は十一番隊のままだった。

 

 戦うことが好きな者が集まり、強くなりたい者が刀を振る。

 

 負ければ悔しがってまた刀を握り、勝てば喜んで今度はもっと強い者へ挑んでいく。

 

 いつの間にか出来上がったその空気は、最初からそうだったかのように隊の中へ根づいていた。

 

 そして、俺はずっとその真ん中にいた。

 

     ◇

 

 また、いくらかの時が過ぎた。

 

 その日の隊首会にも、見慣れない顔があった。

 

 以前なら、誰だろうと思ったかもしれない。

 

 けれど今は、その者が立っている位置を見るだけで分かる。

 

 また一人、代わったのだ。

 

「…………」

 

 もう、厳原の時ほど驚かなかった。

 

 誰かがいなくなれば、やがてその位置には別の者が立つ。

 

 それが護廷十三隊なのだと、いつの間にか俺も分かるようになっていた。

 

 ふと、まったく別の顔が頭に浮かんだ。

 

 流魂街の古い家。

 

 何度斬りかかっても、俺の刀を逸らした老人。

 

 踏み込めば、その一歩を使われ、強く振ればその力を使われた。

 

 宗玄。

 

「…………」

 

 そういえば、あれからどれくらい経った?

 

 護廷十三隊ができ、戦争があった。

 

 十一番隊を預かり、剣八と呼ばれるようになった。

 

 その間にも年月は流れ、今ではあの日に並んだ隊長たちまで少しずつ入れ替わっている。

 

 十一番隊でも、俺に刀を向けていた若者が、次の若者へ刀を教えるようになった。

 

 厳原を知らない隊士までいる。

 

 けれど、その間、一度も宗玄には会いに行っていない。

 

「…………」

 

 最後に会った時も、随分と年を取っていた。

 

 それなのに、何故かまた行けば会えるような気がしていた。

 

 あの家へ行けば、いつものように宗玄がいて、俺の顔を見て、また刀を持つ。

 

 そんな気がしていた。

 

 久しぶりに顔を見に行こう。

 

 今の俺を見たら、何と言うだろう。

 

 それに、もう一度くらい刀を合わせてくれるかもしれない。

 

「…………ふふ」

 

 そう考えると、少し楽しみになった。

 

 隊首会が終われば、久しぶりに宗玄のところへ行こう。

 

 随分と時間が経ってしまった。

 

 それでも、あの家へ行けば宗玄はいる。

 

 そう思っていた。

 

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