BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
いつもと同じ道を歩き、隊首会へ向かう。
もう何度歩いたか分からない。肉雫唼を腰に差し、決められた場所へ向かう。
今日も山本重國から何か命令があるのだろう。それを聞いて、終われば十一番隊へ戻る。
いつもと同じ。
そう思っていた。
◇
部屋へ入ると、何人かはすでに来ていた。
有嬪もいる。志島知霧もいる。
いつもの顔を確認しながら、十一番隊隊長の位置へ立つ。
それから一人、また一人と隊長たちが入ってきた。
「…………」
何かがおかしい。
並んだ顔を、もう一度見る。
一番隊。
二番隊。
三番隊。
「…………」
三番隊隊長の位置だけが空いていた。
遅れているのだろうか。
そう思いながら、隊首会が始まるのを待った。
やがて山本重國が入ってくると、全員が静かになった。
山本重國は並んだ隊長たちを一度見渡してから、口を開いた。
「三番隊隊長、厳原金勒は、先日の任務において殉職した」
「…………」
一瞬、意味が分からなかった。
厳原が死んだ。
「敵は討伐済み。厳原は交戦により重傷を負い、その傷がもとで息を引き取った」
「…………」
強かった。
俺は知っている。何度も刀を合わせたのだから。
それでも、死んだ。
不思議なことではない。
戦えば死ぬことがある。それくらい、ずっと前から知っている。
旅をしていた頃にも、戦争でも、数え切れないほど見てきた。俺自身、死にかけたことは一度や二度ではない。
だから、驚くようなことではない。
そう思うのに。
「…………」
空いたままの三番隊隊長の位置へ目を向ける。
護廷十三隊が生まれた日、山本重國の前に並んだ十三人。
その一人が、欠けた。
◇
厳原が死んでから、しばらく経った。
「剣八隊長」
「はい」
「隊首会です」
「分かりました」
また、いつもの道を歩く。
部屋へ入ったところで、見慣れない顔に気づいた。
「…………」
三番隊隊長の位置に、知らない者が立っている。
見覚えはない。
けれど、誰なのか考える必要はなかった。立っている位置が答えだった。
やがて山本重國が入ってくる。
「今日より、三番隊を預ける」
新しい隊長の名が告げられた。
それだけだった。
そのまま隊首会が始まる。
任務の話。隊の配置。流魂街で起きている問題。
いつもと変わらない。
「…………」
少しだけ、妙な気分だった。
ついこの間まで厳原が立っていたところに、今日は別の者が立っている。
けれど、誰もそれをおかしいとは思わない。
やがて隊首会が終わると、隊長たちはそれぞれ立ち上がった。
俺は少しだけ、その場に残った。
「…………」
三番隊隊長の位置を見る。
ついこの間まで、そこには厳原が立っていた。
今日は別の者が立っていた。
「剣八」
声がした。
有嬪だった。
「はい」
「何してんだ」
「少し、考えていました」
「何を」
「…………」
もう一度、先ほどまで新しい隊長が立っていたところを見る。
「有嬪」
「あ?」
「隊長は、代わるのですね」
「…………」
有嬪も、俺の視線の先を見た。
「そりゃそうだろ」
「そうですね」
「死ぬこともありゃ、辞めることもある。いつまでも同じ奴がいるわけじゃねえ」
「はい」
「何だ。今さら気づいたのか?」
少し考える。
「考えたことがありませんでした」
「そうかよ」
有嬪も、しばらくそこを見ていた。
「どんな奴でも、いつかはいなくなる」
「…………」
「お前もな」
「そうですね」
俺も、有嬪も、山本重國ですら。
いつかはいなくなる。
分かっているはずのことだった。
それでも今まで、考えたことはなかった。
◇
厳原がいなくなっても、日々は変わらなかった。
任務へ行き、十一番隊へ戻り、隊士たちを鍛える。時間があれば他の隊長と刀を合わせ、自分もまた強くなる。
新しい三番隊隊長も、当然のようにその中にいた。
強かった。
そうでなければ、山本重國が一つの隊を預けることもないのだろう。
最初のうちは隊首会でその位置を見るたび、ほんの少しだけ違和感があった。
けれど、それもいつの間にかなくなった。
そこに立っているのは三番隊隊長。
それでいい。
◇
それから何年かが過ぎ、また一人、最初の十三人から隊長を退く者が出た。
今度は死んだわけではない。
理由までは知らなかったが、その者が去ってしばらくすると、やはり同じ位置には別の者が立った。
さらに時が過ぎれば、任務から帰らない者も出た。
空いた隊長の位置には、やがて新しい者が立つ。
そうして一人、また一人と、あの日に山本重國の前へ並んだ顔が減っていった。
◇
ある日の隊首会。
山本重國の話を聞きながら、ふと周囲を見る。
「…………」
山本重國がいる。
有嬪も、志島知霧もいる。
まだ知っている顔はある。
けれど、あの日とは違う。
護廷十三隊が生まれた日、山本重國の前に並んだ十三人。
もう、あの顔ぶれではなかった。
知らない顔が増えた。
そう思って、少し違うことに気づいた。
知らない顔が増えたのではない。
知っている顔が減ったのだ。
「…………」
それでも、十三人の隊長は揃っている。
一人が死ねば別の者が立ち、一人が去ればまた別の者がその隊を率いる。
護廷十三隊は人を入れ替えながら、それでも続いていく。
あの日に集まった十三人だけが、護廷十三隊だったわけではない。
俺たちがいなくなっても、十三の隊は残る。
それは、受け継がれていくものなのだ。
知っている顔が減っていくのは、少し寂しい。
けれど。
あの日、山本重國の前に並んだ十三人から、次の者へ。
そして、その次の者へ。
こうして続いていくのだと思うと、少しだけ誇らしい気もした。
◇
「剣八隊長!」
「はい」
十一番隊へ戻ると、若い隊士が刀を持ってこちらへ走ってきた。
「一本お願いします!」
「私とですか?」
「はい!」
「よろしいのですか?」
「お願いします!」
「…………」
思わず口元が緩む。
「分かりました」
斬魄刀を抜く。
始解はせず、直刀のまま構える。
すると、周囲にいた隊士たちまで集まってきた。
「また始まったぞ」
「何秒持つと思う?」
「十秒」
「無理だろ」
「聞こえてるぞ!」
「では、いつでもどうぞ」
「はい!」
隊士が地面を蹴った。
以前よりも速い。
振り下ろされた刀を斬魄刀で逸らすと、隊士の身体がわずかに流れた。
その首元へ刃を止める。
「そこまでですね」
「…………くそ」
「よかったですよ」
「全然届かなかったじゃないですか」
「以前よりは近かったです」
「本当ですか?」
「はい」
嘘ではない。
以前なら、刀を逸らす必要すらなかった。
「もう一度お願いします」
「いいですよ」
「今度は俺も!」
「俺もやる」
「なら三人で行くぞ」
いつの間にか、人数が増えている。
「三人でよろしいのですか?」
「隊長がいいなら!」
「もちろんです」
三人がそれぞれ刀を構える。
一人では届かないと分かっているからか、互いの位置を確認している。
前よりも考えるようになった。前よりも速くなった。
少しずつ、強くなっている。
「…………ふふ」
刀を構える。
「では、来てください」
◇
ある日、隊舎を歩いていると、稽古場の方から刀のぶつかる音が聞こえてきた。
珍しいことではない。
十一番隊では、暇さえあれば誰かが刀を振っている。
そのまま通り過ぎようとして、聞き覚えのある声に足を止めた。
「違う。今ので何で止まるんだ」
「でも、避けられたから――」
「避けられたからじゃねえよ。次だ。外したなら、外したところから斬れ」
「はい!」
「返事だけはいいな。もう一回」
稽古場を見る。
二人の隊士が向かい合っていた。
一人はまだ若い。十一番隊へ入って、それほど経っていない者だった。
もう一人には見覚えがある。
「…………」
以前、俺に何度も挑んできた隊士だった。
あの頃はまだ若かった。
『一本お願いします!』
刀を持って走ってきて、俺に斬りかかり、あっという間に負けた。
負けても、すぐにもう一度と言ってきた。
それから何度も挑んできた。
一人で駄目なら二人。
二人で駄目なら三人。
仲間と相談して、どうすれば俺へ刀が届くのかを考えていた。
その男が今は、若い隊士の前に立っている。
「来い」
「はい!」
若い隊士が踏み込んだ。
刀が振り下ろされる。
男は半歩だけ身体を外し、刀を受け流した。
若い隊士の身体が崩れる。
そこへ刀を止めた。
「そこまで」
「くそ……」
「今ので終わりだ。相手が隊長なら、首飛んでるぞ」
「隊長なら最初ので終わってますよ」
「だったら最初で終わらねえようにしろ」
「無茶言わないでください」
「俺も言われた」
「誰にですか?」
男が少しだけ笑った。
「隊長にだよ」
「…………」
俺は物陰から二人を見る。
そんなことを言っただろうか。
正確には覚えていない。
何十年も前のことだ。
けれど、似たようなことなら何度も言った気がする。
「もう一度お願いします」
「いいぞ」
男が刀を構える。
若い隊士も構えた。
少し離れたところでは、別の隊士たちがそれを見ている。
「次、俺な」
「俺が先だ」
「勝手に決めんなよ」
「お前ら、順番くらい守れ!」
騒がしい。
昔から変わらない。
けれど、そこにいる顔は違う。
俺に挑んできていた者が、今は挑まれる側にいる。
俺から何かを教わった者が、今度は別の者へそれを教えている。
そして、教わった若い者も、いつかは誰かに同じことを言うのかもしれない。
「…………」
声はかけなかった。
もう一度、刀のぶつかる音が響く。
俺は少しだけ笑って、その場を離れた。
◇
それから、さらに年月が過ぎた。
新しく入った隊士を連れ、瀞霊廷の中を歩いていた時のことだった。
三番隊の隊舎の近くを通ったところで、若い隊士が前を歩く一団へ目を向けた。
「あれ、三番隊ですか?」
「ええ」
「先頭の人が隊長ですよね」
「そうですね」
今の三番隊隊長が、隊士たちを連れて歩いている。
その姿を見ながら、若い隊士が言った。
「三番隊の隊長って、ずっとあの人なんですか?」
「いいえ」
「前にもいたんですか?」
「いましたよ」
「へえ」
それだけの反応だった。
当然なのだろう。
この隊士が護廷十三隊へ入った時には、今の三番隊隊長がすでにそこにいた。
「どんな人だったんです?」
「厳原金勒という方です」
「厳原……」
若い隊士が首を傾げる。
「すみません。知りません」
「…………」
「有名な人だったんですか?」
少し考える。
「強い方でした」
「隊長なら、そりゃ強いですよね」
「そうですね」
若い隊士は納得したように頷いた。
それ以上、厳原について尋ねることはなかった。
俺も話さなかった。
歩きながら、少しだけ昔を思い出す。
護廷十三隊が生まれた日。
山本重國の前に並んだ十三人の中に厳原はいた。
何度も刀を合わせた。
俺にとっては、そういう男だ。
けれど、この隊士は知らない。
生まれていなかったのかもしれない。
あるいは、流魂街のどこかで暮らしていたのかもしれない。
どちらでも同じだ。
この者にとって、三番隊隊長といえば今そこを歩いている男なのだ。
「剣八隊長?」
「はい」
「どうかしました?」
「いいえ。何でもありません」
また歩き出す。
厳原がいなくなった時には、空いた場所がひどく目についた。
今では、その場所に別の者が立っていることが当たり前になっている。
そして、その前に誰が立っていたのか知らない者までいる。
「…………」
随分、時間が経ったのだ。
◇
十一番隊にも新しい者が入り、古い者がいなくなった。任務で死んだ者もいれば、別の隊へ移る者もいる。
それでも、また新しい者が入ってくる。
人が入れ替わっても、十一番隊は十一番隊のままだった。
戦うことが好きな者が集まり、強くなりたい者が刀を振る。
負ければ悔しがってまた刀を握り、勝てば喜んで今度はもっと強い者へ挑んでいく。
いつの間にか出来上がったその空気は、最初からそうだったかのように隊の中へ根づいていた。
そして、俺はずっとその真ん中にいた。
◇
また、いくらかの時が過ぎた。
その日の隊首会にも、見慣れない顔があった。
以前なら、誰だろうと思ったかもしれない。
けれど今は、その者が立っている位置を見るだけで分かる。
また一人、代わったのだ。
「…………」
もう、厳原の時ほど驚かなかった。
誰かがいなくなれば、やがてその位置には別の者が立つ。
それが護廷十三隊なのだと、いつの間にか俺も分かるようになっていた。
ふと、まったく別の顔が頭に浮かんだ。
流魂街の古い家。
何度斬りかかっても、俺の刀を逸らした老人。
踏み込めば、その一歩を使われ、強く振ればその力を使われた。
宗玄。
「…………」
そういえば、あれからどれくらい経った?
護廷十三隊ができ、戦争があった。
十一番隊を預かり、剣八と呼ばれるようになった。
その間にも年月は流れ、今ではあの日に並んだ隊長たちまで少しずつ入れ替わっている。
十一番隊でも、俺に刀を向けていた若者が、次の若者へ刀を教えるようになった。
厳原を知らない隊士までいる。
けれど、その間、一度も宗玄には会いに行っていない。
「…………」
最後に会った時も、随分と年を取っていた。
それなのに、何故かまた行けば会えるような気がしていた。
あの家へ行けば、いつものように宗玄がいて、俺の顔を見て、また刀を持つ。
そんな気がしていた。
久しぶりに顔を見に行こう。
今の俺を見たら、何と言うだろう。
それに、もう一度くらい刀を合わせてくれるかもしれない。
「…………ふふ」
そう考えると、少し楽しみになった。
隊首会が終われば、久しぶりに宗玄のところへ行こう。
随分と時間が経ってしまった。
それでも、あの家へ行けば宗玄はいる。
そう思っていた。