BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
十一番隊隊長。
その座についてから、しばらく経った。
「剣八隊長」
「はい」
「本日の訓練ですが」
「はい」
「何をすればよろしいでしょうか」
「…………」
そう聞かれて、少し困った。
「普段は何を?」
「素振りや型の稽古を」
「なるほど」
間違ってはいない。
宗玄にも散々やらされた。足の置き方、腰の使い方、刀の握り方、振り方。
何度も繰り返した。
「それができているのでしたら、斬り合えばよいのでは?」
「…………」
隊士が黙った。
「どうされました?」
「いえ……隊士同士で、ですか?」
「はい」
「真剣で?」
「…………」
少し考える。
さすがに。
「死なない程度がよいかと」
「程度の話なのですか」
「はい」
「…………」
隊士が何とも言えない顔をした。
けれど、斬り合わなければ分からないことは多い。
目の前に相手がいる。こちらを斬ろうとしてくる。その中で、どう立つか。どう振るか。どう避けるか。
宗玄から教わったことも、旅の中で覚えたことも、結局は刀を合わせることで身についた。
「型を覚えることも大切です」
「はい」
「ですが、相手は型通りには動いてくださいませんので」
「……それは、そうですが」
「ですので、実際に斬り合うのが一番分かりやすいと思います」
「…………」
「それに」
「それに?」
「楽しいですし」
「隊長」
「はい」
「最後のは我々には必要ありません」
「そうですか?」
「はい」
残念だ。
◇
十一番隊には、よく怪我人が出た。
どうやら、他の隊より多いらしい。最初のうちは気にしていなかった。怪我をしたなら治せばいい。それだけだと思っていた。
けれど。
「また十一番隊ですか」
「はい」
四番隊へ負傷した隊士を連れていくと、志島知霧がいた。初代四番隊隊長にして山本重國に集められた十三人の一人だ。
その視線が、俺の後ろへ向く。
一人、二人、三人。
全員、十一番隊だった。
「…………」
「…………」
志島知霧が俺を見る。
「何でしょう」
「今週、何人目です?」
「…………」
少し考えた。
「覚えておりません」
「覚えておいてください」
「申し訳ありません」
「それで、この傷は?」
「訓練です」
「こちらは?」
「訓練です」
「そちらは?」
「訓練です」
「…………」
「…………」
「剣八殿」
「はい」
「訓練とは何をしているのですか」
「斬り合いを」
「真剣で?」
「はい」
「…………」
少し長く黙った。
「怪我人を減らしてください」
「ですが」
「減らしてください」
「…………」
「剣八殿」
「はい」
「返事は?」
「努力します」
「してください」
「はい」
怒られた。
◇
とはいえ、斬り合わなければ分からないこともある。
だから、訓練そのものをやめることはなかった。ただ、少しだけ大怪我をさせないように気をつけるようにはなった。
「そこまで」
刀を止める。
二人の隊士が動きを止めた。一人の刃が、もう一人の首へ届く寸前だった。
「今のはよかったです」
「ありがとうございます」
「ですが、もう少し深く入っていれば死んでいました」
「……はい」
「死なないようにお願いします」
「はい」
「四番隊で怒られますので」
「そこなのですか?」
「はい?」
「いえ、何でもありません」
妙な顔をされた。
何故だろう。
◇
数日後。
「剣八殿」
「はい」
「またですか」
「…………」
四番隊で志島知霧と目が合った。俺の後ろには、肩を深く斬られた隊士が一人。
「今日は一人です」
「人数の問題ではありません」
「そうですか」
「そうです」
どうやら違ったらしい。
負傷した隊士を座らせる。傷は深く、血もかなり流れている。
志島知霧が治療の準備を始める。
その手元を見て、ふと思った。
「少しよろしいでしょうか」
「何です?」
「私が治してみても?」
志島知霧の手が止まった。
「あなたが?」
「はい」
腰の肉雫唼へ手を置く。
「この刀で」
「…………」
刀を見られた。
「できるのですか?」
「おそらく」
「おそらく?」
「戦場ではできました」
「…………」
隊士の顔が引きつった。
「隊長」
「はい」
「私で試すのですか」
「嫌でしょうか」
「嫌というか……」
「死にはしないと思います」
「思います?」
「剣八殿」
「はい」
志島知霧に止められた。
「まず、見せてください」
「分かりました」
肉雫唼を抜く。
刀身から、ぬるりと粘体が這い出した。
「ひっ」
「動かないでください」
「はい……」
それが傷口へまとわりつく。
血を覆い、裂けた傷が少しずつ塞がっていく。
「…………」
何度見ても不思議だった。
斬ることなら分かる。どこへ刃を入れ、どれだけ深く斬り、どこを断てば動かなくなるのか。それなら、これまで何度も繰り返してきた。
けれど、傷を治すことについては何も分からない。
俺が何かをしているわけでもない。ただ肉雫唼に任せているだけで、流れていた血が止まり、裂けていた傷が塞がっていく。
やがて治療を終えた粘体が、ゆっくりと刀身へ戻っていった。
「動かしてみてください」
「はい」
隊士が恐る恐る腕を動かす。
「痛くない……」
「よかったですね」
「ありがとうございます」
「はい」
隊士が立ち上がる。
「では、続きを」
「今日は休ませてください」
志島知霧だった。
「ですが、傷は治りました」
「休ませてください」
「…………」
「剣八殿」
「はい」
「返事は?」
「分かりました」
また怒られた。
◇
十一番隊には、いつからか戦いを好む者が、少しずつ集まってきた。
「十一番隊へ入りたい?」
「はい」
「何故でしょう」
「ここなら、思う存分戦えると聞きました」
「…………」
なるほど。
「歓迎します」
「よろしいのですか?」
「はい」
「それだけで?」
「十分では?」
「…………」
「戦いが好きなのでしょう?」
「はい」
「でしたら」
断る理由はなかった。
俺自身、同じなのだから。
また別の日。
「剣八隊長」
「はい」
「十一番隊への転属を希望しております」
「理由を聞いても?」
「もっと強くなりたいのです」
「…………」
「十一番隊では、隊士同士でもよく刀を合わせると聞きました」
「はい。よく斬り合っていますね」
「私も、その中で鍛えたいと思いました」
「なるほど」
「駄目でしょうか」
「いいえ」
むしろ、俺にはよく分かる。
「歓迎します」
「ありがとうございます」
また一人。
そして、また一人。
戦うことが好きな者。強くなりたい者。強い者と刀を合わせたい者。実戦を恐れない者。
理由はそれぞれ違った。
けれど、いつの間にかそういう者たちが十一番隊へ集まるようになった。
そして、そうでない者は少しずつ離れていった。
俺が決めたわけではない。規則にした覚えもない。
ただ、隊長である俺が誰よりも斬り合うことを好んでいた。
だからなのか。
いつの間にか、十一番隊はそういう隊になっていた。
◇
隊士たちの相手もした。
けれど、俺にとってそれは斬り合いとは少し違った。
「始めてください」
「はい!」
合図と同時に、向かい合っていた二人が動く。
一人が正面から踏み込み、俺がそちらへ視線を向けたところで、少し離れていたもう一人が横へ回った。
以前なら、二人とも自分が斬ることしか考えていなかった。
今は違う。
一人が俺を動かし、もう一人がその先を狙っている。
正面の刃を受けずに外れると、待っていたように横から刀が来た。
身体を引いて避ける。
二人は追ってこなかった。
すぐに距離を取り、互いの位置を確かめている。
「…………」
悪くない。
「今のはよかったですよ」
「ありがとうございます!」
「ですが、二人目が少し早かったですね」
「はい」
「私がもう半歩動いてから入れば、もう少し斬りやすかったと思います」
二人が顔を見合わせる。
「もう一度やるぞ」
「ああ」
すぐに構え直した。
「…………ふふ」
「隊長?」
「いえ」
嬉しかった。
俺の隊には、強くなる者がいる。
◇
けれど、俺自身が強くなるにはそれでは足りない。
「一本、お願いできますか」
声を掛ける相手は、同じ隊長だった。
「またか」
「はい」
「この前やっただろ」
「はい」
「ならいいだろ」
「前回とは、もう違うかもしれませんので」
「何がだ」
「私が」
「…………」
「お願いします」
断られることもあった。
受けてもらえることもあった。
相手が誰であれ、強い者と刀を合わせられるのなら、それでよかった。
受けると重く、力を流し、避けて、避けられて、返し、返された。
「…………!」
腕を浅く斬られた。
血が流れる。
「…………」
肉雫唼を見る。
呼べば治せる。
けれど、指は動く。刀も握れる。
「治さないのか」
「まだ斬れますので」
「そうかよ」
「はい」
肉雫唼を構え直す。
「続きをお願いします」
相手も刀を構えた。
俺も踏み込む。
これだ。
隊士たちと刀を合わせるのも悪くない。成長を見るのは楽しい。
けれど、自分が斬られるかもしれない。次の一太刀で、こちらが倒されるかもしれない。
そういう相手と刀を合わせる時。
やはり、身体が軽くなる。
◇
肉雫唼も、少しずつ手に馴染んでいった。
名前を知ったからといって、すべてが分かったわけではない。むしろ、分からないことが増えた。
斬ることについては分かる。受け、流し、逸らし、そのまま斬る。丸みを帯びた刃にも慣れ、以前使っていた刀とは違うからこそできることも、少しずつ分かるようになってきた。
そして、傷を治すこともできる。
ただ、それについては相変わらずよく分からなかった。肉雫唼に任せれば傷は塞がるが、それ以上のことは何も分からない。
斬ることなら、昨日より今日、今日より明日と、分かることが増えていく。
治すことについては。
「…………」
まあ。
今はいいか。
刀を構える。
目の前には、また別の隊長がいる。
「行きます」
「ああ」
地面を蹴った。
◇
日々が過ぎた。
護廷十三隊ができたばかりの頃は、何もかもが粗かった。
隊という名前だけはあっても、決まっていないことの方が多い。
誰が何をするのか。どこまでがどの隊の役目なのか。命令をどう伝えるのか。人をどう補充するのか。
戦争が終わり、それらが少しずつ決められていった。
建物も増え、隊士も増えた。俺の知らない顔も増えた。
十一番隊も大きくなった。
そして、新しく入ってくる者は、最初から戦うことを好む者が多くなっていた。
「剣八隊長」
「はい」
「準備が整いました」
「分かりました」
前を見る。
十一番隊の隊士たちが、刀を持って並んでいる。
俺を見ている。
「…………」
妙な気分だ。
昔は一人だった。
流魂街で錆びた刀を拾って、ただ振った。
宗玄に出会った。
新太と斬り合った。
そこからずっと、強い者を探して歩いた。
今は、俺の後ろに刀を持った者たちがいる。
「隊長」
「はい」
「本日の訓練は?」
「そうですね」
考える。
「斬り合いましょうか」
「やはりですか」
「はい」
何人かが笑った。
「誰からやります?」
「俺からだ」
「昨日お前だっただろ」
「関係あるか」
「なら先に俺とやるか?」
「いいぞ」
「…………」
いつの間にか、俺が何も言わなくても勝手に斬り合い始めるようになっていた。
「隊長」
「はい」
「止めなくてよろしいので?」
「楽しそうですので」
「…………」
「それに」
刀を抜く。
「私も混ざりたいです」
「やっぱりですか」
「はい」
◇
一年が過ぎた。
さらに、何年も過ぎた。
俺は刀を振った。
隊長たちと。任務で出会った敵と。
何度も、何度も斬り合った。
勝った。
ごくまれに、負けることもあった。
傷を負い、また刀を振った。
昨日できなかったことが、今日はできた。
今日できなかったことが、何年か後には考えなくてもできるようになった。
そうして、少しずつ強くなった。
十一番隊も変わった。
戦いを好む者が集まり、強さを求める者が残り、新しく入った者は先にいた者と刀を合わせる。
強い者が尊敬され、勝った者が笑う。
俺が決めたわけではないし、規則にした覚えもない。
ただ、いつの間にかそれが十一番隊では当たり前になっていた。
俺は、ただ強くなりたかった。
斬り合うことが好きだった。
そして、同じような者たちが集まった。
それだけだった。
◇
さらに時が過ぎた。
瀞霊廷の景色も、随分と変わった。
護廷十三隊ができた日のことを知らない隊士の方が多くなった。
あの日、山本重國の前に並んだ十三人。
若い隊士たちは、俺たちがかつて粗暴な殺し屋の集まりだったことを知らない。
「剣八隊長」
「はい」
「隊首会です」
「分かりました」
立ち上がる。
肉雫唼を腰へ差し、廊下へ出た。
今日も、いつもと同じだと思っていた。
山本重國がいる。
志島知霧がいる。
有嬪がいる。
他の隊長たちもいる。
命令を聞いて、終われば戻る。
また刀を振る。
それだけ。
この頃の俺は、まだ。
それがいつまでも続くような気がしていた。