BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
さらに時が流れた。
護廷十三隊の顔ぶれは、また大きく変わっていた。
卯ノ花が十一番隊を率いていた頃から残っている者は、もう僅かしかいない。隊首会へ出れば、後から隊長羽織を背負った者がほとんどだ。
それ自体には、もう慣れていた。
◇
その日、一番隊へ集められた隊長たちの前に、新しい隊長が立っていた。
十二番隊隊長、浦原喜助。
前任の曳舟桐生が零番隊へ昇進し、その後を継いだ男だった。
まだ隊長羽織が身体に馴染んでいないように見える。
「…………」
俺は、その名を頭の中で繰り返した。
浦原喜助。
知っている。
藍染惣右介の名を初めて聞いた時と同じだった。
前世の記憶のどこかに確かにある。それなのに、何をした人物だったのか、誰と関わっていたのかまでは出てこない。
昔なら、もう少し思い出せたのかもしれない。
「卯ノ花隊長?」
横から声を掛けられ、視線を向ける。
京楽春水が立っていた。
「どうかしました?」
「いえ。少し考え事を」
「新しい十二番隊長が気になるとか?」
「それも少し」
京楽も浦原を見る。
「ずいぶん若いねえ」
「京楽隊長も、隊長になられた頃は若かったでしょう」
「僕は昔から落ち着いてたからね」
「そうでしたか?」
「そこ疑う?」
少し離れたところから笑い声がした。
浮竹十四郎だった。
「京楽。卯ノ花隊長を困らせるな」
「困らせてないよ。昔の僕がどれだけ立派だったか話してただけ」
「それは俺の知っている昔とは違うな」
「浮竹までひどいなあ」
俺は僅かに笑った。
こうして新しい隊長が増えることも、今では珍しくない。
ただ、浦原喜助という名前だけが、しばらく頭に残った。
◇
隊首会が終わった。
俺は他の隊長たちとともに部屋を出る。
一番隊の廊下を歩いていると、近くを歩いていた藍染と目が合った。
「お久しぶりです、卯ノ花隊長」
藍染が丁寧に頭を下げる。
初めて四番隊へ負傷者を運んできた若い隊士は、いつの間にか五番隊副隊長になっていた。
「こうしてお話しするのは随分久しぶりですね」
「ええ。副隊長になられたとは聞いていましたが」
「まだ平子隊長に叱られてばかりですよ」
「おい、惣右介」
平子が振り返る。
「その言い方やと、まるで俺がお前をいじめてるみたいやんけ」
「そんなことないですよ」
「お前が言うたんやろ」
藍染が困ったように笑う。
「ほな行くで」
「はい」
平子が先に歩き出した。
藍染は俺へ一礼し、その後ろへ続く.
「惣右介」
「はい」
「お前、また俺の後ろ歩いとるやろ」
「副隊長ですから」
「関係あるか」
「では、横へ?」
「近いわ」
「難しいですね」
「絶対わざとやろ、お前」
二人の声が遠ざかっていく。
俺はその背を見送った。
隊長と副隊長。
少し変わった関係には見えるが、それだけだった。
◇
新しい十二番隊長は、隊へ馴染むのに苦労しているらしい。
そんな話を聞いたのは、それから間もなくのことだった。
特に副隊長の猿柿ひよ里が、浦原をなかなか認めようとしない。
四番隊にまで聞こえてくるくらいだから、相当なのだろう。
ある日、治療区画の入口から大きな声が聞こえた。
「こんなんで十分です!」
「十分かどうかを決めるのは、こちらです」
「歩ける言うてるでしょ!」
「歩けることと、治療が必要ないことは別ですよ」
俺が顔を出すと、ひよ里が腕を押さえて立っていた。
袖が裂け、その下に擦り傷と浅い切り傷がある。
隣には十二番隊の隊士が一人いた。
「卯ノ花隊長」
「どうされました?」
「訓練中に負傷されまして。四番隊へ連れて行けと、浦原隊長から」
「余計なことしてくれよって……」
ひよ里が舌打ちする。
「浦原隊長が?」
「自分でどうにでもなる言うたのに、四番隊行けの一点張りなんですよ」
「それは正しい判断ですね」
「卯ノ花隊長まで!」
俺は笑いながら、ひよ里を寝台へ座らせた。
傷自体は大したものではない。洗浄して、回道を使えばすぐに塞がる。
「新しい隊長とは、うまくいっていないのですか?」
「当たり前です」
ひよ里は即答した。
「曳舟隊長がおらんようなった思たら、いきなり知らん奴が来て隊長です言われて、はいそうですかってなれるわけないでしょ」
「そうですね」
「……否定せえへんのですか?」
「長く一緒にいた方の代わりが、すぐに見つかるものではないでしょう」
ひよ里が少し黙った。
俺は傷へ手を当てる。
回道の光が薄く広がる。
「ですが、浦原隊長は曳舟隊長の代わりになるために来たわけではないと思いますよ」
「…………」
「別の方ですから」
「そんなん分かってます」
「なら、もう少し見てから決めても遅くはないのでは?」
ひよ里は露骨に嫌そうな顔をした。
「卯ノ花隊長、あいつの味方なんですか?」
「いいえ」
「ほな、何でですか」
「まだ、よく知りませんので」
傷から手を離す。
「ですから、私もこれから見ます」
ひよ里は治った腕を見る。
「……変な人ですね」
「よく言われます」
「嘘でしょ」
俺は少し笑った。
◇
別の日。
二番隊から、任務中に負傷した者が数人運び込まれた。
隠密機動の任務に就いていた者たちだった。
いずれも深手ではなく、治療が済むと長居することなく四番隊を出ていく。
最後の一人を送り出したところで、四楓院夜一が治療区画へ顔を出した。
二番隊隊長にして、隠密機動総司令官。
四楓院夜一。
「終わったか、卯ノ花隊長?」
「ええ。皆さん、もう戻られましたよ」
「そうか。世話になった、卯ノ花隊長」
「これが私たちの仕事ですから」
夜一は治療区画を一度見回した。
「相変わらず見事な手際じゃのう」
「ありがとうございます」
その時、廊下の向こうから足音がした。
「夜一さん」
浦原だった。
卯ノ花の姿を見ると、軽く頭を下げる。
「卯ノ花隊長」
「浦原隊長」
夜一が浦原を見る。
「何じゃ」
「ちょーっと相談があるんスけど」
「断る」
「いやいや、まだ何も言ってないじゃないっスか」
「お主がわざわざ儂を探しに来る時は、大抵面倒事じゃ」
「いやァ、さすが夜一さん。よく分かってる」
「何年の付き合いじゃと思っとる」
浦原は頭を掻いた。
「だったら話が早いっスね」
「聞くとは言っておらん」
「そこを何とか」
二人のやり取りを聞きながら、俺は少しだけ意外に思った。
浦原は隊長になったばかりだが、夜一に対して遠慮する様子がほとんどない。夜一の方も、それを咎める様子はなかった。
随分と長い付き合いらしい。
「では、私はこれで」
「ああ」
「失礼します」
俺は二人を残し、治療区画の奥へ戻った。
◇
しばらくして、十二番隊の傘下に新しい組織が作られた。
技術開発局。
研究と開発を専門に行う、これまで護廷十三隊にはなかった組織だった。
四番隊にも、その影響はすぐに届いた。
「卯ノ花隊長」
「はい」
「十二番隊から、また試作品です」
隊士が箱を抱えている。
「今度は何でしょう」
「患者の霊圧の変化を記録するものだそうです」
「前のものは?」
「昨日、止まりました」
「……そうでしたか」
「こちらは改良版だと」
「では、試してみましょう」
最初の頃は壊れることも多かった。使いにくいものもあった。そのたびに十二番隊へ戻すと、少し形を変えて返ってくる。
何度か繰り返すうち、四番隊の治療区画にも、それまで存在しなかった器具が少しずつ増えていった。
俺一人なら必要のないものもある。傷を見れば分かる。霊圧へ触れれば分かる。
だが、経験の浅い隊士まで同じように判断できるわけではない。
そう考えると、悪い変化ではなかった。
◇
隊首会を終えて廊下へ出ると、少し先で愛川羅武と鳳橋楼十郎が立ち止まっていた。
「だからよ、斬れりゃいいだろ」
「羅武、君は分かっていないね。剣にも美しさというものがある」
「斬るのに美しさなんかいるか?」
「必要さ。ただ力任せに振るうだけでは、そこに何も生まれない」
「敵が斬れる」
「そういう話をしているんじゃない」
何の話だろう。
横を通り過ぎようとしたところで、羅武がこちらに気づいた。
「あ、卯ノ花隊長。ちょうどよかった」
「何でしょう?」
「卯ノ花隊長はどう思います?」
「何をですか?」
「剣に美しさが必要かどうかです」
「そうですね……」
少し考える。
「必要かどうかは分かりません。ただ、長く剣を振っていると、その者の生き方は剣に出るものだと思います」
ローズが僅かに目を細めた。
「それを美しいと感じることは、あるのではないでしょうか」
「ほら、分かっているじゃないか」
ローズが満足そうに笑う。
「いや、それお前の言ってたことと違わねえか?」
「本質は同じさ」
「絶対違うだろ」
また二人の言い合いが始まった。
俺は二人に会釈し、その場を離れた。
◇
ある日、九番隊から負傷者が運び込まれた。
担架の横には六車拳西がいる。
四番隊士が負傷者の脚を確認していると、拳西が横から言った。
「骨はたぶんいってねえ。避け損ねて吹っ飛んだだけだ」
「訓練中ですか?」
「ああ」
「白がやったの!」
後ろから久南白が顔を出した。
「何で得意そうなんだよ!」
「だって白の勝ちでしょ?」
「訓練で味方を治療送りにして勝ちも負けもあるか!」
「でも白の蹴り、すごかったでしょ?」
「聞いてねえ!」
騒ぎを聞きながら、俺も負傷した隊士のそばへ寄った。
四番隊士が場所を空け、俺はその脚へ触れる。
骨に異常はない。
「打撲ですね。今日は安静にしてください」
「ありがとうございます……」
隊士が力なく答える。
「ほら、大したことないじゃん」
「お前は黙ってろ!」
白が頬を膨らませる。
拳西が頭を抱えた。
「すみません、卯ノ花隊長」
「いえ」
俺は微笑んだ。
「賑やかな副隊長ですね」
「毎日こんな調子です」
「拳西が細かいんだよ」
「お前が適当すぎんだ!」
また始まった。
俺は負傷者へ包帯を巻きながら、そのやり取りを聞いていた。
◇
一番隊での用事を終えた帰りだった。
廊下を曲がったところで、柱の陰に立つ京楽を見つけた。
「京楽隊長?」
「……ああ、卯ノ花隊長」
「何をされているのですか?」
「いやあ、ちょっと休憩をね」
「そのようなところで?」
「人には落ち着ける場所ってものがあるんですよ」
もっともらしく言った、その時だった。
「見つけた」
後ろから声がした。
京楽の肩が、僅かに下がる。
「……リサちゃん」
矢胴丸リサが、書類を抱えて立っていた。
「こんなとこにおったん。さっきから探してたんやけど」
「いやあ、ちょうど卯ノ花隊長と大事な話をしててね」
「へえ」
リサが俺を見る。
「卯ノ花隊長、本当ですか?」
「いいえ。今お会いしたところです」
「ほらね」
「卯ノ花隊長。そこは話を合わせてくれてもいいんじゃないですか?」
「嘘はいけませんので」
リサが京楽を見る。
「卯ノ花隊長まで巻き込まんでよ」
「巻き込んでないよ。ちょっと協力をお願いしただけ」
「同じや」
リサが抱えていた書類を京楽へ差し出す。
「これ、まだ終わってないやろ」
「今からやろうと思ってたんだよ」
「今っていつからやねん。ええかげんにしぃや」
「……リサちゃん、今日はずいぶん厳しいねえ」
「今日もや」
京楽は諦めたように書類を受け取った。
「じゃあ卯ノ花隊長、僕はそろそろ仕事に戻りますよ」
「ええ。それがよろしいかと」
「ほな、戻るで」
「リサちゃん、僕が隊長なんだけどなあ」
「知っとる。せやから仕事してもらうんやろ」
京楽が俺を見る。
「卯ノ花隊長、うちの副隊長、ちょっと厳しいと思いません?」
「頼もしい副隊長だと思いますよ」
「ほら」
リサが得意そうに京楽を見る。
「……リサちゃん、何で君が得意そうなの?」
「別に」
「絶対嬉しいでしょ」
「早よ戻るで」
「はいはい」
リサが先に歩き出し、京楽も書類を抱えてその後を追っていった。
◇
隊首会が終わり、隊長たちが次々と広間を出ていく。
俺も四番隊へ戻ろうとしたところで、山本に呼び止められた。
「卯ノ花、少し残れ」
「はい」
何か話があるらしい。
隊長たちが退出した後、山本とともに別室へ移ると、長次郎が茶の支度をして待っていた。
「卯ノ花隊長、どうぞ」
「ありがとうございます」
勧められた場所へ座ると、長次郎が俺の前にも茶を置いた。
一口飲んで、少しだけ首を傾げる。普段飲んでいるものとは、香りが違う。
「雀部副隊長、これは?」
「現世から取り寄せた茶葉でございます」
「ああ、なるほど」
もう一口飲んでみる。
「美味しいですね」
「お気に召しましたか」
「ええ」
長次郎が僅かに嬉しそうな顔をした。
「卯ノ花隊長でしたら、こちらもお好みになるかもしれません。現世には他にも変わった茶葉がございまして――」
「長次郎」
「はい」
「卯ノ花にも持たせてやれ」
「承知いたしました」
「ありがとうございます」
山本も黙って茶を口にする。
どうやら、嫌いではないらしい。
長次郎が山本の湯呑へ茶を足す。その手つきには迷いがなく、山本も目を向けることすらしない。
長く仕えているだけあって、呼吸のようなものまで出来上がっているのだろう。
俺ももう一口飲んでから、湯呑を置いた。
「それで総隊長、お話というのは?」
「うむ。本題に入るか」
山本も湯呑を置く。
長次郎が姿勢を正した。
そこから先は、いつもの総隊長と隊長の話になった。
◇
新しい者も増えていた。
真央霊術院を僅かな期間で卒業した者がいる。
そんな噂が、四番隊にまで聞こえてきた。
「一年で卒業したそうですよ」
「それは随分早いですね」
「もう五番隊に入ったとか。市丸ギンという名前だそうです」
「そうですか」
その時は、それだけだった。
数日後。
一番隊へ向かう途中で、俺は五番隊の一団とすれ違った。
平子。
藍染。
そして、見慣れない銀髪の少年。
細い目をしている。
俺が視線を向けると、少年もこちらを見た。
「卯ノ花隊長」
藍染が頭を下げる。
「藍染副隊長」
「こちらは新しく五番隊へ入った市丸です」
「市丸ギンです。よろしゅうお願いします」
少年が笑う。
「卯ノ花烈です。よろしくお願いします」
「知ってますよ」
返事が早かった。
平子が少年を見る。
「お前、もうちょい言い方あるやろ」
「すんません」
謝っているようには見えない。
俺の目が、自然と少年の立ち方を捉えた。
細い身体に似合わず、妙な隙のなさがある。
そう思ったのも一瞬だった。
「では」
俺はそのまま平子たちとすれ違った。
◇
ある日の夕方。
俺が一番隊を出ると、少し離れたところで平子を待っていた藍染が頭を下げた。
「お疲れさまです、卯ノ花隊長」
「藍染副隊長も」
少し話したところで、一番隊から平子が出てくる。
「惣右介」
「はい」
「行くで」
「分かりました」
平子が歩き出し、藍染がその後ろへ続く。
別の道では、京楽が浮竹と話しながら歩いている。
遠くから、白の大きな声が聞こえた。
誰かが返事をする。
隊士たちが行き交い、それぞれが自分の隊へ戻っていく。
護廷十三隊は、昔とは随分変わった。
人が増えた。
役目が増えた。
技術も増えた。
騒がしくなった。
けれど、悪くない。
「卯ノ花隊長!」
呼ばれて振り返る。
四番隊の隊士が走ってきた。
「急患です!」
「分かりました。戻りましょう」
「はい!」
俺は四番隊へ向かった。
いつもと変わらない夕方だった。
もう一話投稿予定です