BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第三章 師を探そう

剣を習おう。

 

そう決めたのはいいが、問題が一つあった。

 

「……どなたに習えばよいのでしょう」

 

知らない。

 

当たり前である。俺は尸魂界に来て、まだ大して日が経っていない。

 

知り合いもほとんどいないし、剣術道場の場所なんて知るはずもない。

 

そもそも、この時代の流魂街に道場なんてあるのかすら分からない。

 

なら、探すしかない。

 

幸い、見分け方は簡単だ。

 

刀を持っていて、俺より強そうで、できれば人にものを教えられる程度には話が通じる人間。

 

最後が一番難しい気がした。

 

◇

 

それから数日。

 

俺は流魂街を歩き回った。

 

刀を持っている者は思ったより多い。ただ、刀を持っているからといって、剣士とは限らなかった。

 

腰に差しているだけだったり、威嚇のためだったり、単なる用心棒だったり。

 

以前の俺と大して変わらないような振り方をする者もいる。

 

今なら少し分かる。

 

少なくとも、上手いか下手かくらいは。

 

――いや。

 

それも危ないな。

 

俺はつい先日、刀を持っていない男たちにぼこぼこにされたばかりだ。

 

素人が素人を見て、

 

――あいつ、弱そう。

 

などと思い始めたら終わりである。

 

謙虚にいこう。

 

俺はまだ弱い。ものすごく弱い。

 

卯ノ花烈という名前だけを見れば、とんでもない詐欺である。

 

もっとも、まだ烈ですらないのだが。

 

◇

 

見つけたのは、市の近くだった。

 

最初に気づいたのは刀ではない。音だった。

 

――カンッ。

 

硬いもの同士がぶつかる。

 

少し間を置いて、また。

 

――カンッ。

 

「…………」

 

俺は足を止めた。

 

音の方を見ると、建物の間に少し開けた場所がある。

 

そこに二人の男がいた。

 

一人は若い。もう一人は、四十か五十くらいに見える。

 

もちろん魂の外見年齢が当てになるのかは知らない。

 

二人とも木の棒を持っていた。

 

若い男が構える。

 

「行きます」

 

「ああ」

 

踏み込んだ。

 

「…………」

 

速い。

 

棒が振り下ろされ、中年の男が受ける。

 

――カンッ!

 

そのまま若い男の棒が流された。

 

「うわっ」

 

次の瞬間、中年の男の棒が若い男の首元で止まっていた。

 

「…………」

 

俺は瞬きした。

 

何をした?

 

もう一度。

 

若い男が構える。今度は横。

 

中年の男は半歩動く。

 

避けた。

 

それだけ。

 

そして。

 

――コツン。

 

「痛っ!」

 

若い男の頭に棒が落ちた。

 

「だから足を見るな」

 

「見てませんよ!」

 

「見てるから言ってる」

 

「見てませんって!」

 

「じゃあ何で同じところに三回引っかかる」

 

「…………」

 

若い男が黙った。

 

中年の男がため息をつく。

 

「もう一度」

 

「はい」

 

「今度は当てようとするな」

 

「え?」

 

「お前は当てようとするから身体が先に死んでる」

 

「……分かりません」

 

「だからやれ」

 

「はい……」

 

「…………」

 

俺は見ていた。

 

面白い。

 

何を言っているのか、半分くらい分からない。

 

でも、あの男が俺より遥かに上手いことは分かる。

 

若い男も俺より強いだろう。

 

その男を、中年の男は遊ぶようにあしらっている。

 

――いた。

 

ようやく見つけた。

 

剣を知っている人間。

 

俺はその場で待った。

 

◇

 

稽古が終わる。

 

若い男が帰っていき、中年の男が棒を片づけ始めた。

 

俺は近づいた。

 

「失礼いたします」

 

「あ?」

 

男がこちらを見る。

 

目つきが悪い。

 

怖い。

 

でも、先日の三人組とは違う。

 

こちらを舐め回すような視線ではない。

 

顔。腰の刀。手。足。

 

それだけ見た。

 

「何だ」

 

「先ほどの稽古を拝見しておりました」

 

「そうか」

 

「はい」

 

「…………」

 

「…………」

 

終わった。

 

会話が。

 

男は片づけを続ける。

 

待て待て。

 

ここからだ。

 

「あの」

 

「何だ」

 

「私にも、剣を教えていただけませんでしょうか」

 

男の手が止まった。

 

こちらを見る。

 

「お前に?」

 

「はい」

 

「何で」

 

「強くなりたいのです」

 

「何で」

 

「…………」

 

二回聞く?

 

俺は少し考えた。

 

「刀が好きですので」

 

「…………」

 

男が俺を見る。

 

何だ、その顔。

 

俺だって分かっている。強くなりたい理由としては薄い。

 

でも、実際そうなのだから仕方ない。

 

「刀を振ることが好きなのです」

 

「それで?」

 

「もっと上手く振れるようになりたいのです」

 

「…………」

 

男は俺の腰を見る。

 

「それは?」

 

「拾いました」

 

「拾った?」

 

「はい」

 

「…………」

 

男の目がさらに怪しくなった。

 

まずい。

 

変な女だと思われている。

 

正解だけど。

 

「抜いてみろ」

 

「はい?」

 

「その刀だ。抜け」

 

「……はい」

 

俺は鞘から刀を抜いた。

 

男が少し離れる。

 

「振れ」

 

「ここででしょうか」

 

「他に何がある」

 

俺は柄を両手で握った。

 

いつものように構え、足を開いて刀を上げる。

 

振り下ろす。

 

――ヒュッ。

 

「…………」

 

悪くない。

 

少なくとも、自分ではそう思った。

 

最近ではかなり安定して、この音が出るようになってきた。

 

男を見る。

 

「…………」

 

無表情。

 

もう一度振る。

 

――ヒュッ。

 

今度はもっと良かった。

 

「どうでしょう」

 

「駄目だな」

 

「…………」

 

即答だった。

 

「駄目ですか」

 

「ああ」

 

「どの辺りが」

 

「全部」

 

「…………」

 

全部。

 

思ったより広範囲だった。

 

男が俺の前まで来る。

 

「足が死んでる」

 

「足」

 

「腰も使えてない」

 

「…………」

 

「肩に力が入りすぎだ」

 

「はい」

 

「握りも強すぎる」

 

「…………はい」

 

「刀を振ってるんじゃない。刀に振られてる」

 

最後の一言は、少し刺さった。

 

「……以前よりは、振られなくなったと思うのですが」

 

「以前がどれだけ酷かったかなんて知らん」

 

正論。

 

何も言えない。

 

男が刀を見る。

 

「刃筋も安定してない」

 

「刃筋」

 

「知らんのか」

 

「言葉だけは」

 

「誰に習った」

 

「誰にも」

 

「…………」

 

男が俺を見る。

 

「独学か?」

 

「はい」

 

「どれくらい振ってる」

 

「正確には分かりませんが……二十日ほどでしょうか」

 

「…………」

 

少しだけ、男の表情が変わった。

 

ほんの少し。

 

「そうか」

 

それだけだった。

 

俺は刀を鞘へ戻す。

 

「では、教えていただけますか?」

 

「嫌だ」

 

「…………」

 

即答。

 

本日二回目である。

 

「なぜでしょう」

 

「面倒だから」

 

「…………」

 

それだけ?

 

「先ほどの方には教えておられましたが」

 

「あいつからは飯をもらってる」

 

「…………」

 

なるほど。

 

非常に分かりやすい。

 

俺には金がない。飯もない。

 

提供できるものは――ないな。

 

「分かりました」

 

俺は頭を下げた。

 

「お時間をいただき、ありがとうございました」

 

「ああ」

 

男が少し意外そうな顔をした。

 

俺はその場を離れた。

 

さて、困った。

 

でも、収穫はあった。

 

足。腰。肩。握り。刃筋。

 

全部駄目。

 

「…………」

 

よし。

 

明日はそこを意識して振ろう。

 

◇

 

翌日。

 

俺はまた来た。

 

「…………」

 

男が俺を見る。

 

「何だ」

 

「おはようございます」

 

「何しに来た」

 

「見学です」

 

「…………」

 

男は何も言わなかった。

 

追い出されもしなかった。

 

なら、見てもいいということだろう。

 

俺は端に座った。

 

昨日の若い男が来て、稽古が始まった。

 

見る。

 

昨日までとは違う。

 

足を見る。

 

いや。

 

足だけを見るなと言っていた。

 

なら全体。

 

どう立っている。

 

どう動く。

 

どの瞬間に木の棒を振る。

 

中年の男はほとんど大きく動かない。

 

なのに、若い男の攻撃は当たらない。

 

そして自分の棒だけが当たる。

 

「…………」

 

何で?

 

分からない。

 

だから面白い。

 

稽古が終わった。

 

俺は頭を下げる。

 

「ありがとうございました」

 

「何も教えてないぞ」

 

「見せていただきましたので」

 

「そうか」

 

帰る。

 

そして、自分の場所で刀を振る。

 

昨日言われた。

 

足が死んでいる。

 

なら動かす。

 

一歩。

 

振る。

 

「…………違う」

 

もう一度。

 

踏み込む。

 

振る。

 

刀と身体がばらばらになる。

 

「難しいですね」

 

でも、昨日とは違う。

 

何が駄目なのか、少しだけ考えられる。

 

◇

 

翌日。

 

「おはようございます」

 

「…………」

 

翌々日。

 

「おはようございます」

 

「…………」

 

その次。

 

「おはようございます」

 

「お前、暇なのか」

 

「はい」

 

「…………」

 

正確には、刀以外にすることがない。

 

毎日見た。

 

そして、毎日自分でも振った。

 

男の言ったことを一つずつ試す。

 

肩の力を抜く。

 

抜きすぎると刀がぶれる。

 

握りを緩める。

 

怖い。

 

足を動かす。

 

刀と合わない。

 

何度も。

 

何度も。

 

何度も。

 

少しずつ。

 

本当に少しずつ、変わる。

 

◇

 

七日目。

 

「振ってみろ」

 

「…………」

 

突然だった。

 

「私でしょうか」

 

「他に誰がいる」

 

「はい」

 

刀を抜いて構えると、妙に緊張した。

 

何だこれ。試験みたいだ。

 

肩の力を抜き、刀だけを振らないよう意識する。

 

足から動き、身体ごと振る。

 

――ヒュッ。

 

「…………」

 

男は何も言わない。

 

もう一度、同じように振る。

 

――ヒュッ。

 

「いかがでしょう」

 

「相変わらず下手だ」

 

「…………」

 

知っていた。

 

「だが」

 

男が俺の足を見る。

 

「少しはましになった」

 

「…………」

 

思った以上に嬉しかった。

 

「ありがとうございます」

 

「手を出せ」

 

「はい?」

 

「手」

 

言われた通り差し出すと、男は俺の手のひらを見た。

 

何度も擦れて硬くなった皮には、少し裂けた跡も残っている。

 

「毎日振ってるのか」

 

「はい」

 

「どれくらい」

 

「暇な時間は常に」

 

「一日何回だ」

 

「数えておりません」

 

「…………」

 

「楽しいので」

 

男はしばらく俺を見ていた。

 

「明日」

 

「はい」

 

「刀は置いてこい」

 

「…………はい?」

 

「聞こえなかったか」

 

「いえ」

 

聞こえたからこそ、意味が分からない。

 

「剣を習いに来ているのですが」

 

「だから置いてこい」

 

「…………」

 

意味は分からないが、ここで反論して断られたら困る。

 

「分かりました」

 

◇

 

翌朝。

 

言われた通り、刀を置いてきた。

 

ものすごく不安だった。手元が寂しいし、せっかく拾った刀を盗まれていないかも気になる。

 

大丈夫だ。隠した。

 

たぶん。

 

「来たか」

 

「はい」

 

男から木の棒を渡される。

 

「振れ」

 

言われた通り振る。

 

「違う」

 

もう一度。

 

「違う」

 

さらにもう一度。

 

「違う」

 

五回、十回と振っても全部違う。

 

さすがに腹が立ってきた。

 

「何が違うのでしょう」

 

「全部」

 

「それは以前も伺いました」

 

「ならまず立て」

 

「立っておりますが」

 

「立ってない」

 

「…………」

 

哲学?

 

男が棒で俺の足を叩いた。

 

「痛っ」

 

「ここ。足を開け」

 

言われた通り開く。

 

「広すぎる」

 

戻す。

 

「狭い」

 

「…………」

 

細かい。

 

男が俺の足を動かす。

 

「ここ。膝」

 

少し曲げる。

 

「曲げすぎ」

 

戻す。

 

「戻しすぎ」

 

「…………」

 

難しい。

 

そこからも、腰、背中、顎、肩と次々に直された。

 

「棒を持つな」

 

「…………?」

 

「握り締めるなって意味だ」

 

「先にそう言ってください」

 

頭を叩かれた。

 

「痛いです」

 

「口答えするな」

 

「理不尽ですね」

 

もう一度叩かれた。

 

「…………」

 

この男、絶対楽しんでいる。

 

「そのまま立ってろ」

 

「どれくらいでしょう」

 

「俺がいいと言うまで」

 

「…………」

 

結局、俺は棒を持ったまま立ち続けることになった。

 

刀は置いてきた。剣も振らない。

 

ただ立っているだけ。

 

一刻ほど経つころには足が震え始めた。

 

刀を百回振る方が楽だ。

 

「膝」

 

直す。

 

「腰」

 

また直す。

 

「肩」

 

直して、また立つ。

 

つらい。

 

何が楽しいんだ、これ。

 

昨日までの俺なら、そう思っていたかもしれない。

 

でも、今は少し違う。

 

この男は、俺が知らない何かを知っている。

 

それが悔しいくらい面白かった。

 

◇

 

日が傾いたころ。

 

「今日は終わりだ」

 

「…………」

 

ようやく姿勢を崩すと、足も腰も痛んだ。

 

結局、今日は剣を一度も振っていない。

 

「明日もでしょうか」

 

「ああ」

 

「刀は?」

 

「いらん」

 

「…………」

 

刀を習いに来たはずなのだが。

 

まあいい。

 

「よろしくお願いいたします」

 

頭を下げると、男は「ああ」とだけ答えて背を向けた。

 

少し歩いたところで、俺はまだ名前すら聞いていなかったことを思い出す。

 

「あの」

 

「何だ」

 

「お名前を伺っておりませんでした」

 

男が振り返った。

 

「宗玄だ」

 

「宗玄様」

 

「様はいらん」

 

「では、宗玄殿」

 

「好きにしろ」

 

「私は――」

 

「卯ノ花だろ」

 

「…………」

 

思わず目を瞬いた。

 

「ご存じだったのですか」

 

「この前、あの若造に聞かれて答えてただろ」

 

「ああ」

 

そういえば、見学していたときに名前を聞かれた気がする。

 

それでも、改めて挨拶くらいはしておきたい。

 

「卯ノ花清子と申します」

 

「長い」

 

「では、清子と」

 

「好きにしろ」

 

「…………」

 

適当な人だ。

 

宗玄はそのまま歩き出した。

 

俺はその背中を見ながら考える。

 

師匠。

 

ということでいいのだろうか。

 

正式に弟子にするとは言われていない。

 

でも、教えてくれた。

 

なら。

 

「師匠」

 

呼んでみると、宗玄の足が止まった。

 

振り返らないまま答える。

 

「勝手にしろ」

 

そして、また歩き出した。

 

「…………」

 

俺は少し笑った。

 

悪くない。

 

いや、かなりいい。

 

尸魂界へ来て、刀を拾った。

 

毎日振り、襲われ、負けて、人を殺した。

 

そして、師を得た。

 

まだ何もできない。立つことすら駄目だと言われた。

 

でも、それでいい。

 

知らないなら覚えればいい。

 

一つずつ。

 

全部。

 

俺は宗玄の背中へ頭を下げた。

 

「明日もよろしくお願いいたします」

 

返事はなかった。

 

それでも翌日、俺はまたここへ来る。

 

そして立つ。

 

今度こそ。

 

本当の剣術を始めるために。

 

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