BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第三章 師を探そう

剣を習おう。

 

そう決めたのはいいが、問題が一つあった。

 

「……どなたに習えばよいのでしょう」

 

知らない。

 

当たり前である。俺は尸魂界に来て、まだ大して日が経っていない。

 

知り合いもほとんどいないし、剣術道場の場所なんて知るはずもない。

 

そもそも、この時代の流魂街に道場なんてあるのかすら分からない。

 

なら、探すしかない。

 

幸い、見分け方は簡単だ。

 

刀を持っていて、俺より強そうで、できれば人にものを教えられる程度には話が通じる人間。

 

最後が一番難しい気がした。

 

 

それから数日。

 

俺は流魂街を歩き回った。

 

刀を持っている者は思ったより多い。ただ、刀を持っているからといって、剣士とは限らなかった。

 

腰に差しているだけだったり、威嚇のためだったり、単なる用心棒だったり。

 

以前の俺と大して変わらないような振り方をする者もいる。

 

今なら少し分かる。

 

少なくとも、上手いか下手かくらいは。

 

――いや。

 

それも危ないな。

 

俺はつい先日、刀を持っていない男たちにぼこぼこにされたばかりだ。

 

素人が素人を見て、

 

――あいつ、弱そう。

 

などと思い始めたら終わりである。

 

謙虚にいこう。

 

俺はまだ弱い。ものすごく弱い。

 

卯ノ花烈という名前だけを見れば、とんでもない詐欺である。

 

もっとも、まだ烈ですらないのだが。

 

 

見つけたのは、市の近くだった。

 

最初に気づいたのは刀ではない。音だった。

 

――カンッ。

 

硬いもの同士がぶつかる。

 

少し間を置いて、また。

 

――カンッ。

 

「…………」

 

俺は足を止めた。

 

音の方を見ると、建物の間に少し開けた場所がある。

 

そこに二人の男がいた。

 

一人は若い。もう一人は、四十か五十くらいに見える。

 

もちろん魂の外見年齢が当てになるのかは知らない。

 

二人とも木の棒を持っていた。

 

若い男が構える。

 

「行きます」

 

「ああ」

 

踏み込んだ。

 

「…………」

 

速い。

 

棒が振り下ろされ、中年の男が受ける。

 

――カンッ!

 

そのまま若い男の棒が流された。

 

「うわっ」

 

次の瞬間、中年の男の棒が若い男の首元で止まっていた。

 

「…………」

 

俺は瞬きした。

 

何をした?

 

もう一度。

 

若い男が構える。今度は横。

 

中年の男は半歩動く。

 

避けた。

 

それだけ。

 

そして。

 

――コツン。

 

「痛っ!」

 

若い男の頭に棒が落ちた。

 

「だから足を見るな」

 

「見てませんよ!」

 

「見てるから言ってる」

 

「見てませんって!」

 

「じゃあ何で同じところに三回引っかかる」

 

「…………」

 

若い男が黙った。

 

中年の男がため息をつく。

 

「もう一度」

 

「はい」

 

「今度は当てようとするな」

 

「え?」

 

「お前は当てようとするから身体が先に死んでる」

 

「……分かりません」

 

「だからやれ」

 

「はい……」

 

「…………」

 

俺は見ていた。

 

面白い。

 

何を言っているのか、半分くらい分からない。

 

でも、あの男が俺より遥かに上手いことは分かる。

 

若い男も俺より強いだろう。

 

その男を、中年の男は遊ぶようにあしらっている。

 

――いた。

 

ようやく見つけた。

 

剣を知っている人間。

 

俺はその場で待った。

 

 

稽古が終わる。

 

若い男が帰っていき、中年の男が棒を片づけ始めた。

 

俺は近づいた。

 

「失礼いたします」

 

「あ?」

 

男がこちらを見る。

 

目つきが悪い。

 

怖い。

 

でも、先日の三人組とは違う。

 

こちらを舐め回すような視線ではない。

 

顔。腰の刀。手。足。

 

それだけ見た。

 

「何だ」

 

「先ほどの稽古を拝見しておりました」

 

「そうか」

 

「はい」

 

「…………」

 

「…………」

 

終わった。

 

会話が。

 

男は片づけを続ける。

 

待て待て。

 

ここからだ。

 

「あの」

 

「何だ」

 

「私にも、剣を教えていただけませんでしょうか」

 

男の手が止まった。

 

こちらを見る。

 

「お前に?」

 

「はい」

 

「何で」

 

「強くなりたいのです」

 

「何で」

 

「…………」

 

二回聞く?

 

俺は少し考えた。

 

「刀が好きですので」

 

「…………」

 

男が俺を見る。

 

何だ、その顔。

 

俺だって分かっている。強くなりたい理由としては薄い。

 

でも、実際そうなのだから仕方ない。

 

「刀を振ることが好きなのです」

 

「それで?」

 

「もっと上手く振れるようになりたいのです」

 

「…………」

 

男は俺の腰を見る。

 

「それは?」

 

「拾いました」

 

「拾った?」

 

「はい」

 

「…………」

 

男の目がさらに怪しくなった。

 

まずい。

 

変な女だと思われている。

 

正解だけど。

 

「抜いてみろ」

 

「はい?」

 

「その刀だ。抜け」

 

「……はい」

 

俺は鞘から刀を抜いた。

 

男が少し離れる。

 

「振れ」

 

「ここででしょうか」

 

「他に何がある」

 

俺は柄を両手で握った。

 

いつものように構え、足を開いて刀を上げる。

 

振り下ろす。

 

――ヒュッ。

 

「…………」

 

悪くない。

 

少なくとも、自分ではそう思った。

 

最近ではかなり安定して、この音が出るようになってきた。

 

男を見る。

 

「…………」

 

無表情。

 

もう一度振る。

 

――ヒュッ。

 

今度はもっと良かった。

 

「どうでしょう」

 

「駄目だな」

 

「…………」

 

即答だった。

 

「駄目ですか」

 

「ああ」

 

「どの辺りが」

 

「全部」

 

「…………」

 

全部。

 

思ったより広範囲だった。

 

男が俺の前まで来る。

 

「足が死んでる」

 

「足」

 

「腰も使えてない」

 

「…………」

 

「肩に力が入りすぎだ」

 

「はい」

 

「握りも強すぎる」

 

「…………はい」

 

「刀を振ってるんじゃない。刀に振られてる」

 

最後の一言は、少し刺さった。

 

「……以前よりは、振られなくなったと思うのですが」

 

「以前がどれだけ酷かったかなんて知らん」

 

正論。

 

何も言えない。

 

男が刀を見る。

 

「刃筋も安定してない」

 

「刃筋」

 

「知らんのか」

 

「言葉だけは」

 

「誰に習った」

 

「誰にも」

 

「…………」

 

男が俺を見る。

 

「独学か?」

 

「はい」

 

「どれくらい振ってる」

 

「正確には分かりませんが……二十日ほどでしょうか」

 

「…………」

 

少しだけ、男の表情が変わった。

 

ほんの少し。

 

「そうか」

 

それだけだった。

 

俺は刀を鞘へ戻す。

 

「では、教えていただけますか?」

 

「嫌だ」

 

「…………」

 

即答。

 

本日二回目である。

 

「なぜでしょう」

 

「面倒だから」

 

「…………」

 

それだけ?

 

「先ほどの方には教えておられましたが」

 

「あいつからは飯をもらってる」

 

「…………」

 

なるほど。

 

非常に分かりやすい。

 

俺には金がない。飯もない。

 

提供できるものは――ないな。

 

「分かりました」

 

俺は頭を下げた。

 

「お時間をいただき、ありがとうございました」

 

「ああ」

 

男が少し意外そうな顔をした。

 

俺はその場を離れた。

 

さて、困った。

 

でも、収穫はあった。

 

足。腰。肩。握り。刃筋。

 

全部駄目。

 

「…………」

 

よし。

 

明日はそこを意識して振ろう。

 

 

翌日。

 

俺はまた来た。

 

「…………」

 

男が俺を見る。

 

「何だ」

 

「おはようございます」

 

「何しに来た」

 

「見学です」

 

「…………」

 

男は何も言わなかった。

 

追い出されもしなかった。

 

なら、見てもいいということだろう。

 

俺は端に座った。

 

昨日の若い男が来て、稽古が始まった。

 

見る。

 

昨日までとは違う。

 

足を見る。

 

いや。

 

足だけを見るなと言っていた。

 

なら全体。

 

どう立っている。

 

どう動く。

 

どの瞬間に木の棒を振る。

 

中年の男はほとんど大きく動かない。

 

なのに、若い男の攻撃は当たらない。

 

そして自分の棒だけが当たる。

 

「…………」

 

何で?

 

分からない。

 

だから面白い。

 

稽古が終わった。

 

俺は頭を下げる。

 

「ありがとうございました」

 

「何も教えてないぞ」

 

「見せていただきましたので」

 

「そうか」

 

帰る。

 

そして、自分の場所で刀を振る。

 

昨日言われた。

 

足が死んでいる。

 

なら動かす。

 

一歩。

 

振る。

 

「…………違う」

 

もう一度。

 

踏み込む。

 

振る。

 

刀と身体がばらばらになる。

 

「難しいですね」

 

でも、昨日とは違う。

 

何が駄目なのか、少しだけ考えられる。

 

 

翌日。

 

「おはようございます」

 

「…………」

 

翌々日。

 

「おはようございます」

 

「…………」

 

その次。

 

「おはようございます」

 

「お前、暇なのか」

 

「はい」

 

「…………」

 

正確には、刀以外にすることがない。

 

毎日見た。

 

そして、毎日自分でも振った。

 

男の言ったことを一つずつ試す。

 

肩の力を抜く。

 

抜きすぎると刀がぶれる。

 

握りを緩める。

 

怖い。

 

足を動かす。

 

刀と合わない。

 

何度も。

 

何度も。

 

何度も。

 

少しずつ。

 

本当に少しずつ、変わる。

 

 

七日目。

 

「振ってみろ」

 

「…………」

 

突然だった。

 

「私でしょうか」

 

「他に誰がいる」

 

「はい」

 

刀を抜いて構えると、妙に緊張した。

 

何だこれ。試験みたいだ。

 

肩の力を抜き、刀だけを振らないよう意識する。

 

足から動き、身体ごと振る。

 

――ヒュッ。

 

「…………」

 

男は何も言わない。

 

もう一度、同じように振る。

 

――ヒュッ。

 

「いかがでしょう」

 

「相変わらず下手だ」

 

「…………」

 

知っていた。

 

「だが」

 

男が俺の足を見る。

 

「少しはましになった」

 

「…………」

 

思った以上に嬉しかった。

 

「ありがとうございます」

 

「手を出せ」

 

「はい?」

 

「手」

 

言われた通り差し出すと、男は俺の手のひらを見た。

 

何度も擦れて硬くなった皮には、少し裂けた跡も残っている。

 

「毎日振ってるのか」

 

「はい」

 

「どれくらい」

 

「暇な時間は常に」

 

「一日何回だ」

 

「数えておりません」

 

「…………」

 

「楽しいので」

 

男はしばらく俺を見ていた。

 

「明日」

 

「はい」

 

「刀は置いてこい」

 

「…………はい?」

 

「聞こえなかったか」

 

「いえ」

 

聞こえたからこそ、意味が分からない。

 

「剣を習いに来ているのですが」

 

「だから置いてこい」

 

「…………」

 

意味は分からないが、ここで反論して断られたら困る。

 

「分かりました」

 

 

翌朝。

 

言われた通り、刀を置いてきた。

 

ものすごく不安だった。手元が寂しいし、せっかく拾った刀を盗まれていないかも気になる。

 

大丈夫だ。隠した。

 

たぶん。

 

「来たか」

 

「はい」

 

男から木の棒を渡される。

 

「振れ」

 

言われた通り振る。

 

「違う」

 

もう一度。

 

「違う」

 

さらにもう一度。

 

「違う」

 

五回、十回と振っても全部違う。

 

さすがに腹が立ってきた。

 

「何が違うのでしょう」

 

「全部」

 

「それは以前も伺いました」

 

「ならまず立て」

 

「立っておりますが」

 

「立ってない」

 

「…………」

 

哲学?

 

男が棒で俺の足を叩いた。

 

「痛っ」

 

「ここ。足を開け」

 

言われた通り開く。

 

「広すぎる」

 

戻す。

 

「狭い」

 

「…………」

 

細かい。

 

男が俺の足を動かす。

 

「ここ。膝」

 

少し曲げる。

 

「曲げすぎ」

 

戻す。

 

「戻しすぎ」

 

「…………」

 

難しい。

 

そこからも、腰、背中、顎、肩と次々に直された。

 

「棒を持つな」

 

「…………?」

 

「握り締めるなって意味だ」

 

「先にそう言ってください」

 

頭を叩かれた。

 

「痛いです」

 

「口答えするな」

 

「理不尽ですね」

 

もう一度叩かれた。

 

「…………」

 

この男、絶対楽しんでいる。

 

「そのまま立ってろ」

 

「どれくらいでしょう」

 

「俺がいいと言うまで」

 

「…………」

 

結局、俺は棒を持ったまま立ち続けることになった。

 

刀は置いてきた。剣も振らない。

 

ただ立っているだけ。

 

一刻ほど経つころには足が震え始めた。

 

刀を百回振る方が楽だ。

 

「膝」

 

直す。

 

「腰」

 

また直す。

 

「肩」

 

直して、また立つ。

 

つらい。

 

何が楽しいんだ、これ。

 

昨日までの俺なら、そう思っていたかもしれない。

 

でも、今は少し違う。

 

この男は、俺が知らない何かを知っている。

 

それが悔しいくらい面白かった。

 

 

日が傾いたころ。

 

「今日は終わりだ」

 

「…………」

 

ようやく姿勢を崩すと、足も腰も痛んだ。

 

結局、今日は剣を一度も振っていない。

 

「明日もでしょうか」

 

「ああ」

 

「刀は?」

 

「いらん」

 

「…………」

 

刀を習いに来たはずなのだが。

 

まあいい。

 

「よろしくお願いいたします」

 

頭を下げると、男は「ああ」とだけ答えて背を向けた。

 

少し歩いたところで、俺はまだ名前すら聞いていなかったことを思い出す。

 

「あの」

 

「何だ」

 

「お名前を伺っておりませんでした」

 

男が振り返った。

 

「宗玄だ」

 

「宗玄様」

 

「様はいらん」

 

「では、宗玄殿」

 

「好きにしろ」

 

「私は――」

 

「卯ノ花だろ」

 

「…………」

 

思わず目を瞬いた。

 

「ご存じだったのですか」

 

「この前、あの若造に聞かれて答えてただろ」

 

「ああ」

 

そういえば、見学していたときに名前を聞かれた気がする。

 

それでも、改めて挨拶くらいはしておきたい。

 

「卯ノ花清子と申します」

 

「長い」

 

「では、清子と」

 

「好きにしろ」

 

「…………」

 

適当な人だ。

 

宗玄はそのまま歩き出した。

 

俺はその背中を見ながら考える。

 

師匠。

 

ということでいいのだろうか。

 

正式に弟子にするとは言われていない。

 

でも、教えてくれた。

 

なら。

 

「師匠」

 

呼んでみると、宗玄の足が止まった。

 

振り返らないまま答える。

 

「勝手にしろ」

 

そして、また歩き出した。

 

「…………」

 

俺は少し笑った。

 

悪くない。

 

いや、かなりいい。

 

尸魂界へ来て、刀を拾った。

 

毎日振り、襲われ、負けて、人を殺した。

 

そして、師を得た。

 

まだ何もできない。立つことすら駄目だと言われた。

 

でも、それでいい。

 

知らないなら覚えればいい。

 

一つずつ。

 

全部。

 

俺は宗玄の背中へ頭を下げた。

 

「明日もよろしくお願いいたします」

 

返事はなかった。

 

それでも翌日、俺はまたここへ来る。

 

そして立つ。

 

今度こそ。

 

本当の剣術を始めるために。

 

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