BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第四十章 旅禍

 

 白道門の前で、市丸ギンは笑っていた。

 

 巨大な門を持ち上げた兕丹坊の向こうには、黒い死覇装を纏った少年がいる。橙色の髪に、死神が持つものとしては異様に大きな斬魄刀。

 

 少年――黒崎一護は、目の前に立つ男が護廷十三隊の隊長だと知っても退かなかった。

 

「この野郎!」

 

 大刀を構え、一護が踏み込む。

 

 振り下ろされた刃を、ギンは斬魄刀で受け止めた。刃が噛み合い、一護が力を込めると、細い腕が僅かに押される。

 

「へえ」

 

 それでも、ギンの笑みは崩れない。

 

 一護がさらに押し込もうとしたところで、ギンが刀を構え直した。

 

「射殺せ――『神鎗』」

 

 短かった刀身が一瞬で伸びた。

 

「なっ――」

 

 一護が反応するより早く、伸びた刃が大刀を押し、その身体ごと後方へ弾き飛ばす。兕丹坊まで巻き込まれ、二人の身体が門の外へ押し戻された。

 

 巨体が門の外へ出た瞬間、支えを失った白道門が落ちていく。

 

 一護が顔を上げる。

 

 閉じていく門の向こうで、市丸ギンは変わらず笑っていた。

 

 やがて轟音とともに、白道門が完全に閉じた。

 

     ◇

 

 一番隊舎。

 

 隊首会のために集められた隊長たちが、左右に分かれて並んでいた。

 

 俺も四番隊隊長として、その列に立っている。

 

 議題は、つい先ほど白道門へ現れた旅禍と、それに対する市丸隊長の行動だった。

 

「てめえ、一人で勝手に旅禍と遊んできたそうじゃねえか」

 

 更木が市丸を睨む。

 

「しかも殺し損ねたってのはどういう訳だ? てめえ程の奴が旅禍四、五人殺せねえ訳ねえだろう」

 

「あら? 死んでへんねや、アレ」

 

 市丸は笑ったまま首を傾けた。

 

「いやァ、てっきり死んだ思うててんけどなァ。ボクの勘もニブったかな?」

 

「猿芝居はやめたまえヨ」

 

 涅隊長が口を挟む。

 

「我々隊長クラスが、相手の魄動が消えたかどうか、察知できないわけないだろ。それとも、それができないほど君は油断してたとでも言うのかネ?」

 

「いややなぁ。まるで、ボクがわざと逃がしたみたいな言い方やんか」

 

「そう言ってるんだヨ」

 

「うるせえぞ涅! 今は俺がこいつと喋ってんだ、すっこんでろ」

 

「下らぬ」

 

 砕蜂が吐き捨てるように呟き、京楽が笠に手を掛けて息を吐いた。

 

「やれやれ……」

 

「ぺいっ!」

 

 山本総隊長の一喝で、広間が静まる。

 

「やめんかい、みっともない! 更木も涅も下がらっしゃい!」

 

 二人が下がると、山本総隊長の目が市丸へ向いた。

 

「今回のおぬしの命令なしの単独行動、そして標的を取り逃がすという隊長としてあるまじき失態! それについて、おぬしからの説明を貰おうと思うての。そのための隊首会じゃ。どうじゃい。何ぞ弁明でもあるかの」

 

「ありません!」

 

 あっさりと答えた。

 

「…………」

 

 昔から掴みにくい男ではある。

 

 まだ平隊士だった頃から、何を考えているのか分からなかった。

 

 けれど、それだけだ。

 

 旅禍を殺さなかったことに何か理由があるのかもしれないし、本当に仕留め損ねただけなのかもしれない。

 

 今の時点では判断できない。

 

「市丸」

 

 藍染隊長が声を掛けた。

 

 市丸がそちらへ顔を向けようとした、その時だった。

 

 けたたましい鐘の音が鳴り響く。

 

「――緊急警報!」

 

 外から声が響いた。

 

「瀞霊廷内に侵入者有り! 各隊、直ちに守護配置について下さい!」

 

 空気が一変した。

 

「侵入者だと?」

 

 更木の顔に、それまでとは違う笑みが浮かぶ。

 

「旅禍か」

 

 次の瞬間には、もう踵を返していた。

 

「隊首会はひとまず解散じゃ! 各隊、即時邸内守護配置についてくれい!」

 

 隊長たちが一斉に動き出す。

 

 俺も一番隊舎を出た。

 

 それぞれが自隊へ戻る中、更木だけは明らかに違う方向へ走っていく。背後からやちるの声が聞こえ、その姿はすぐに屋根の向こうへ消えた。

 

 旅禍を探しに行ったのだろう。

 

 相変わらずだ。

 

 隊長になってから随分と経つが、強い相手がいると知った時の動きだけは、瀞霊廷で初めて会った頃と何も変わらない。

 

 だが、その日は各隊が捜索を続けても、侵入者が発見されることはなかった。

 

     ◇

 

 翌日。

 

 瀞霊廷の上空に、巨大な霊力の塊が現れた。

 

 四番隊舎へ戻る途中で足を止め、空を見上げる。

 

 霊力の塊は遮魂膜へぶつかり、表面を大きく軋ませながら内部へ潜り込んでいく。周囲にいた隊士たちも次々に足を止めた。

 

 直後、空で光が弾けた。

 

 塊が崩れ、四つの光となって瀞霊廷の各所へ飛んでいく。

 

「……今度は、本当に入ったようですね」

 

 昨日とは違う。

 

 すぐに四番隊舎へ戻った。

 

「卯ノ花隊長!」

 

 勇音が駆け寄ってくる。

 

「負傷者の受け入れ準備を始めています」

 

「ありがとうございます。第一治療区画は重傷者用に空けてください。歩ける方は第二へ。現在入院中の方も、動かせる方と残すべき方を分けましょう」

 

「はい」

 

「入口に二人置いて、搬送された時点で状態を確認してください」

 

 勇音が頷き、周囲の隊士へ指示を飛ばす。

 

 護廷十三隊は、侵入した旅禍を探して動き始めている。

 

 ならば、その次に必要になるのはここだ。

 

 誰が勝つにしても、戦えば傷はできる。

 

 空いている寝台と薬品を確認し、重傷者を受け入れられるよう治療区画を整える。

 

 最初の負傷者が運ばれてくるまで、それほど時間は掛からなかった。

 

「十二番隊、一名!」

 

「第二へ」

 

「七番隊、二名です!」

 

「こちらの方は第一へ。その方は第二で構いません」

 

 次々に入ってくる負傷者を、傷の深さで振り分ける。重傷者にはその場で回道を使い、他の隊士へ任せられる状態まで持っていけば次へ移る。

 

 やがて、十一番隊の隊士が運び込まれてきた。

 

「何がありました?」

 

「旅禍にやられました」

 

「人数は?」

 

「一人です。橙色の髪の男で……」

 

 橙色。

 

 白道門に現れた旅禍の特徴と一致する。

 

「分かりました。まず治療します」

 

 傷へ手を翳す。

 

 まだ、旅禍が一人の隊士を倒しただけだ。

 

 そう思っていた。

 

 だが、しばらくして届いた報告で、その認識は変わった。

 

「卯ノ花隊長。十一番隊第三席、斑目一角が旅禍との戦闘で敗北しました」

 

 処置をしていた手は止めず、報告へ耳を傾ける。

 

「斑目三席が?」

 

「はい。相手は橙色の髪の少年。名は黒崎一護」

 

 その名を聞いた瞬間、意識が報告へ引かれた。

 

 黒崎一護。

 

「卯ノ花隊長?」

 

「いえ。続けてください」

 

「斑目三席は生存しています。命に別状はありません」

 

「分かりました。こちらへ搬送してください」

 

 隊士が離れていく。

 

 俺は治療を続けながら、聞いた名前をもう一度頭の中で繰り返した。

 

 黒崎一護。

 

 どこかで聞いたことがある。

 

 いや。

 

 聞いた、というより。

 

 知っている。

 

 そんな感覚があった。

 

 けれど、その先が出てこない。

 

 以前にもにも似たことがあった。

 

 浦原喜助。

 

 藍染惣右介。

 

 名前や顔に引っ掛かりながら、すぐには何も繋がらなかった。

 

 何百年も生きている。前世で読んだ漫画の記憶など、今では夢より遠い。

 

「黒崎……一護」

 

 やはり何かがある。

 

 だが、思い出せない。

 

     ◇

 

 旅禍の侵入から、瀞霊廷は急速に慌ただしくなった。

 

 各隊が捜索と迎撃へ動き、四番隊にはその結果だけが次々と運び込まれてくる。

 

 その合間に、中央四十六室から新たな通達が届いた。

 

 朽木ルキアの処刑予定の変更。

 

 予定されていた日より、さらに早められている。

 

「……またですか」

 

 書面へ目を落とす。前日にも一度、処刑予定が早められていた。

 

「旅禍の侵入を受けて、でしょうか」

 

 勇音が隣から書面を見る。

 

「その可能性はありますね」

 

 朽木ルキアを奪還するために侵入した者たちなら、時間を与えず先に処刑を済ませる。

 

 理屈としては分かる。

 

 分かるのだが、短期間に幾度も予定が動くことが、僅かに引っ掛かった。

 

「卯ノ花隊長?」

 

「いえ。今は負傷者を優先しましょう」

 

「はい」

 

 書面を勇音へ返す。

 

 この時点では、それ以上のものではなかった。

 

     ◇

 

 翌日。

 

 黒崎一護の名は、さらに瀞霊廷の中へ広がっていた。

 

「六番隊副隊長、阿散井恋次が敗れたそうです」

 

「黒崎一護に?」

 

「はい」

 

 一角に続いて、副隊長。

 

 偶然ではない。

 

「あの旅禍は手ごわいようですね。阿散井副隊長の容体は?」

 

「応急処置の後、こちらへ搬送されます」

 

「第一へお願いします」

 

 隊士が離れていく。

 

 黒崎一護。

 

 名前を聞くたびに記憶の奥で何かが動くのに、まだ掴めない。

 

 その時、治療区画の入口に裏廷隊の隊士が現れた。

 

 騒がしい室内を迷うことなく進み、俺の前で足を止める。

 

「卯ノ花隊長」

 

「何用ですか?」

 

「一級厳令です」

 

 隣にいた勇音も顔を上げた。

 

 ただの伝令ではない。

 

「伺いましょう」

 

 隊士が姿勢を正す。

 

「五番隊隊長、藍染惣右介隊長が亡くなられました」

 

「…………」

 

 一瞬、周囲の音が遠のいたように感じた。

 

「藍染隊長が?」

 

「はい。瀞霊廷内にて遺体が発見されています。現在、犯人は判明しておりません。なお、遺体は検死のため四番隊へ搬送されます」

 

「分かりました」

 

 隊士が去る。

 

「……藍染隊長が殺されたなんて」

 

 勇音の動揺した声に、俺は僅かに視線を落とした。

 

 藍染惣右介。

 

 まだ五番隊の平隊士だった頃から知っている。穏やかで物腰が柔らかく、隊長となってからもその印象は変わらなかった。

 

 名前に引っ掛かっていた一人でもある。けれど、何も思い出せないまま長い年月が過ぎた。

 

 その男が、死んだ。

 

「まだ何も分かっていません」

 

「……はい」

 

「勇音。検死の準備をしてください」

 

「分かりました」

 

 ほどなくして、藍染の遺体が運び込まれた。

 

 検死室の戸を閉じ、俺と勇音だけが中へ残る。

 

 寝台の上には、全身を覆う白布。その傍らまで進み、布へ手を掛けた。

 

 静かに捲る。

 

「…………」

 

 現れたのは、見慣れた藍染の顔だった。

 

 目を閉じ、何の反応も返さない。

 

「……本当に、藍染隊長なんですね」

 

 勇音が小さく呟く。

 

 俺は答えず、顔から身体へ視線を移した。

 

「始めましょう」

 

「はい」

 

 傷を調べる。

 

 死因を確認し、身体に残されたものを一つずつ見ていく。どこから見ても、そこに横たわっているのは藍染惣右介だった。

 

 それでも、検査を終えた後も僅かな違和感だけが残った。

 

 おかしなところは何もない。

 

 顔も、身体も、かすかに残る霊圧の名残も、知っている藍染惣右介のものだ。

 

 けれど、死ぬ原因となった傷以外の痕跡が全くない。

 

 仮にも一つの隊を預かる隊長格が、一切の抵抗もできず、即死したというのか。

 

「卯ノ花隊長?」

 

「……いえ」

 

 今は答えがない。

 

 白布を戻す。

 

 旅禍が侵入し、処刑予定が二度動き、その最中に隊長格が一人殺された。

 

 全て、旅禍が下手人であれば、それまでだ。

 

 けれど、胸の奥に残った小さな違和感は消えなかった。

 

     ◇

 

 その日のうちに、別の話も耳へ入った。

 

「更木隊長が黒崎一護を探しているそうです」

 

「更木隊長が?」

 

「斑目三席を倒したと聞いてから、ずっと」

 

 思わず納得した。

 

 あの男ならそうする。

 

 強い相手が瀞霊廷へ入ってきた。それを知って、じっとしていられるはずがない。

 

 昔、俺が話したことを思い出す。

 

 護廷十三隊にいれば、強い相手と出会うこともある。

 

 どうやら、本当に気に入っているらしい。

 

「負傷した場合はこちらへ運んでください」

 

「はい」

 

 それで十分だ。

 

 一角を倒し、恋次を倒し、更木が自分から探す相手。

 

 どんな剣を使うのだろう。

 

 少しだけ気になった。

 

     ◇

 

 それから間もなく、離れた場所で大きな霊圧が立ち上がった。

 

「…………」

 

 治療中だった手は止めず、顔だけを上げる。

 

 更木の霊圧が揺れていた。

 

「更木隊長が、旅禍と接敵したのでしょうか」

 

 勇音も気づいたらしい。

 

「ええ、おそらくは」

 

 もう一つの霊圧がある。

 

 更木ほどではない。

 

 少なくとも、最初はそう感じた。それなのに、戦いは終わらない。

 

 更木の霊圧が荒々しく膨らみ、もう一つの霊圧も消えることなく食らいついている。

 

 見たい。

 

 少しだけ、そう思った。

 

 更木が自分から探し回った相手だ。しかも、斬り合いはまだ続いている。

 

 けれど、目の前には負傷者がいる。

 

「卯ノ花隊長」

 

「はい」

 

 傷へ手を翳し、回道を流す。

 

 ここを離れるつもりはない。今の俺は四番隊隊長だ。

 

 斬り合いを見に行くために、治療を放り出すわけにはいかなかった。

 

 それでも、遠くの霊圧は嫌でも伝わってくる。

 

 更木の霊圧が一段大きくなった。

 

 眼帯を外したらしい。

 

 それに呼応するように、もう一方の霊圧まで膨れ上がる。

 

「……黒崎一護」

 

 思わず名前が漏れた。

 

 一角を倒し、恋次を倒した実力。

 

 二人は強いが、その程度では更木を追い詰めるには足りない。

 

 次の瞬間、二つの霊圧が正面からぶつかった。

 

 四番隊舎にいてさえ、空気が震えたように感じる。

 

 そして。

 

 静かになった。

 

 更木の霊圧が急激に落ちる。

 

 黒崎一護の霊圧も、ほとんど感じない。

 

「今のは……」

 

「まだ分かりません」

 

 勇音へそう返し、目の前の傷へ意識を戻した。

 

 結果を決めつけるには早い。

 

 報告が届いたのは、それからしばらく後だった。

 

「卯ノ花隊長!」

 

 裏廷隊の隊士が駆け込んでくる。

 

「草鹿副隊長付の伝令!更木隊長が、黒崎一護との戦闘で倒れ卯ノ花隊長の派遣要請です!」

 

「容体は?」

 

「意識はなく、重篤です。」

 

「場所は?」

 

 告げられた場所を聞き、立ち上がる。

 

「勇音。ここをお願いします」

 

「はい!」

 

     ◇

 

 辿り着いた先には、戦いの跡が残っていた。

 

 石畳は大きく砕け、周囲の建物も崩れている。

 

 その中に、更木が倒れていた。

 

 傍らにいるのは、草鹿やちるだけだった。

 

「剣ちゃん……」

 

 草鹿やちるが血で汚れるのも厭わず、更木の胸元へ顔を寄せている。

 

 俺が近づくと、すぐに顔を上げた。

 

「剣ちゃん、治る?」

 

 更木の傍らへ膝をつく。

 

「ええ。治します」

 

 隊長羽織は血に染まり、身体にはいくつもの傷がある。

 

 呼吸を確かめ、息があることを確認する。

 

 傷の状態を把握し、胸元へ手を翳した。

 

 回道を流し始める。

 

 更木が意識を失っている姿を見るのは、あの雨の日以来だった。

 

 黒崎一護。

 

 斑目を倒し、阿散井を倒し、そして更木まで倒した。

 

 一体、どれほどの実力者なのか。

 

 裂けた組織を内側から繋ぎ、霊圧の状態を探りながら適宜治療していく。

 

「…………」

 

 そして気づく。

 

 僅かだ。

 

 大きな変化ではない。

 

 今の更木しか知らない者なら、まず気づかないだろう。

 

 けれど、あの雨の日に掛かった枷が、ほんの僅かだが外れている。

 

 黒崎一護との死闘で、更木は負けた。

 

 それでも、その敗北によって以前より強くなっていた。

 

 そう考えていると、更木の指が僅かに動いた。

 

 続いて瞼が開き、焦点の定まらなかった目がゆっくりとこちらへ向く。

 

「……あんたか」

 

「治療中です。まだ動かないでください、更木隊長」

 

 更木は何かを確かめるように一度息を吐き、そのまま空を見上げた。

 

「負けたな」

 

「そのようですね」

 

「面白え奴だった」

 

 敗れた直後だというのに、口元には笑みがある。

 

 俺は回道を止めず、その顔を見た。

 

 更木が怪訝そうにしたが、何も聞いてこなかった。

 

 このまま死闘を重ねれば、更木は少しずつ戻っていくのかもしれない。

 

 俺が超えると決めた、あの頃の強さへ。

 

「更木隊長」

 

「何だ」

 

「今日と明日は、動いてはいけませんよ」

 

「あ?」

 

「傷は塞ぎますが、体組織が元通りになったわけではありません。二日は安静に」

 

 不満そうにこちらを見るが、四番隊を預かる者として譲れない一線だった。

 

「ですが、その後にはお願いがあります」

 

「何だ?」

 

 藍染惣右介の遺体を調べた時に残った違和感。

 

 短期間に繰り返された処刑予定の変更。

 

 旅禍が入ってきたこととは別に、何かが動いている。

 

 まだ、それが何なのかは分からない。

 

「旅禍一行が捕まらないように動いていただけませんか」

 

「一護を?」

 

「一連の非常事態の裏で、何かが動いているような気がするのです。おそらく、旅禍一行の動きを隠れ蓑にして…」

 

 更木が訝しげにこちらを見る。

 

「旅禍の少年とは、また戦いたいのでしょう?」

 

「ああ」

 

「なら、その方が更木隊長にも都合がいいかと」

 

「…………」

 

 更木の口元が上がった。

 

「なるほどな」

 

「明後日からは、好きに動いていただいて構いません。旅禍一行が捕まらなければ、それで」

 

「いいぜ」

 

「ありがとうございます」

 

「礼はいらねえよ」

 

 更木が笑う。

 

「俺もその方が面白え」

 

 それで話は終わった。

 

 何が動いているのかは、まだ分からない。

 

 藍染惣右介の死も、処刑予定の変更も、旅禍の侵入も、今の俺にはまだ一つには繋がらない。

 

 だから、確かめる時間が欲しい。

 

 俺が調べる間だけ、この騒ぎには終わらないでいてもらう。

 

 更木の傷へ、回道を流し続ける。

 

 傍らでは、やちるが目を覚ました更木の顔を何度も覗き込んでいた。

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