BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
四番隊へ戻ってからも、治療区画から人が途切れることはなかった。
旅禍による負傷者だけではない。藍染隊長の死を境に、瀞霊廷の中では死神同士の衝突まで起こり始めている。
治療を続けながら、空いた時間で各隊から届いた報告を集めた。
更木に頼んだのは、この騒ぎをすぐに終わらせないためだ。
その間に、俺は俺で確かめなければならない。
まず調べたのは旅禍だった。
侵入してからの目撃場所。交戦した死神。負傷者が四番隊へ運び込まれた時刻。分かる範囲で拾い、瀞霊廷の地図へ書き込んでいく。
際立っているのは二人。
黒崎一護。
斑目一角、阿散井恋次を破り、ついには更木まで倒した。
もう一人は石田雨竜。
十二番隊隊長、涅マユリと交戦し、これを退けている。
二人とも、隊長格と正面から戦えるほどの力を持っている。
だが。
「…………」
地図へ落とした印を見比べる。
藍染の死とは、どうにも噛み合わない。
黒崎一護と更木剣八の戦いでは、離れた四番隊にいた俺にまで二人の霊圧が届いた。石田雨竜と涅マユリの戦いも、十二番隊周辺に明確な戦闘の痕跡を残している。
対して藍染は、誰にも戦闘を悟られないまま殺されていた。
仮にも護廷十三隊の隊長を務める者を殺す力量がありながら、周囲にそれを悟らせない。
報告にない別の侵入者がいる可能性はある。
戦うことより、暗殺を得意とする者。
けれど、旅禍はすでに何人かが捕らえられ、侵入後の目撃情報も増えている。その中で、藍染を殺せるほどの者に被る者がいないというのも不自然だった。
死亡したと考えられる時間帯と、旅禍の目撃情報を重ねる。
黒崎一護。
石田雨竜。
すでに捕らえられた者たち。
一つずつ追っても、際立った二人を藍染の殺害へ結びつけるには無理がある。
なら。
実際に殺された場所を見る必要がある。
◇
藍染の遺体が発見された場所には、まだ調査のための隊士が出入りしていた。
邪魔にならない位置で足を止め、建物と周囲を見渡す。
下手人は藍染を正面から磔にしていたという。
隊長格同士の戦いでは何かしらの痕跡が残る。
斬撃や破壊、霊圧の衝突。ここには、なんの痕跡もない。
更木と黒崎一護が残した戦場を見たからこそ、その差は大きく感じられた。
ここには、戦った跡がほとんどない。
「藍染隊長が発見される前、何か聞いた者は?」
近くにいた隊士へ尋ねる。
「今のところ、戦闘を見たという報告はありません。大きな霊圧を感じたという者も」
「そうですか」
藍染惣右介は、戦う暇もなく殺された。
そう考えれば説明はつく。
では、誰がそれをできる。
答えは出なかった。
◇
四番隊へ戻り、もう一度遺体を調べた。
白布を捲る。
横たわっているのは、間違いなく藍染惣右介だった。
顔も身体も、残っている霊圧もそう認識する。
今度は現場で見たものを頭に置いたまま、傷を確かめていく。
どの方向から刃が入ったのか。
抵抗した痕跡はあるか。
傷の周囲に、殺した者へ繋がる何かが残っていないか。
「どうですか?」
隣で確認していた勇音が尋ねる。
「……分かりません」
見れば見るほど、遺体そのものには不自然なところがない。
それなのに、殺されるまでの過程だけが見えなかった。
下手人は旅禍なのか。
瀞霊廷の者なのか。
それすら絞れない。
「今日はここまでにしましょう」
「はい」
白布を戻す。
少なくとも、旅禍が侵入したから藍染も旅禍に殺された、と単純に考えることはできなくなっていた。
◇
翌朝。
「卯ノ花隊長。中央四十六室からです」
勇音が持ってきた書面を受け取り、目を通す。
朽木ルキアの処刑日時が、また変更されていた。
明日、正午。
「…………」
「明日……ですか」
「ええ」
旅禍が朽木ルキアの奪還を目的としている以上、処刑を急ぐ理由そのものは理解できる。
だが、これで何度目だ。
「救護配置については?」
「記載がありません」
「双殛周辺の警備については?」
「何も」
処刑日時だけが変わっている。
予定が変われば、警備も人員配置も変わる。まして今は旅禍が瀞霊廷の中にいる。処刑を阻止しに来る可能性を考えれば、四番隊の救護配置も合わせて動かさなければならない。
「勇音。双殛周辺へ回せる班を二つ確保してください。明日の朝まで通常配置には入れず、休ませておいてください」
「分かりました」
「担架と止血剤も追加で」
「はい」
勇音が動き出す。
手元の書面へ、もう一度目を落とした。
旅禍の動きを調べても、藍染の殺害にはつながらなかった。
現場を見ても、遺体を見直しても同じだった。
そして、処刑だけがさらに前へ進む。
瀞霊廷で起きていることを旅禍だけで説明しようとするのは、やはり違う気がした。
これまでに届いた処刑に関する通達を並べる。
最初の予定。
一度目の変更。
その次の変更。
そして、明日正午。
処刑日時を変える命令だけは早い。
その一方で、こちらから出した救護体制の確認には、同じ速さで返答が来ていない。
「処刑の変更だけは早いですね」
勇音が言った。
「ええ」
中央四十六室が、こちらの知らない事情を把握している可能性はある。
なら、その事情は何だ。
なぜ、そこまで処刑を急ぐ。
書面からは分からない。
けれど、見るべきものは少しずつ絞れてきた。
旅禍だけではない。
藍染隊長を殺した者だけでもない。
この処刑を進めている側も含めて、瀞霊廷の中で何が動いているのかを確かめる必要がある。
更木には今日まで安静にするよう伝えてある。
明日からは、好きに動いて構わない。
そして処刑も明日の正午。
偶然とはいえ、時間はできた。
その日のうちに、捕らえられた旅禍と新たに入った目撃情報を確認した。地図へ足してみても、藍染を殺したと考えられる新しい人物は浮かばない。
もう一度遺体を調べても、おそらく同じだろう。
なら、明日は別のものを見る。
そう考えて動いていた折に、普段とは違う動きを見せている二人に気づいた。
京楽春水と浮竹十四郎。
何をしているのかまでは分からない。
だが、明日の処刑を前に、ただ隊舎で待っている者の動きではなかった。
「…………」
処刑予定が繰り返し早められたことに引っ掛かっているのは、俺だけではないのかもしれない。
二人が何をしようとしているのかは分からない。
止める理由はなかった。
「勇音」
「はい」
「明日は双殛周辺の救護を優先してください」
「卯ノ花隊長は?」
「私も行きます」
何度も予定を変えながら進められてきた処刑で、何かが起きる。
自分の目で見ておきたかった。
◇
翌日。
朝から瀞霊廷の空気は張り詰めていた。
朽木ルキアの処刑は正午。
四番隊でも、用意していた救護班を待機させている。
「卯ノ花隊長、待機の班は準備できています」
「そのまま負傷者が出るまでは動かさないでください」
「はい」
勇音が頷いた。
その時、遠くで霊圧がぶつかる。
「…………」
知っている霊圧だった。
更木だ。
昨日まで動かなかった霊圧が、今日ははっきりと動いている。その先にあるのは、狛村隊長と東仙隊長。
「卯ノ花隊長」
「ええ」
頼んだのは、旅禍がすぐに捕まらないように動いてほしいということだけだ。
誰と戦えとは言っていない。
更木は更木の好きに動いている。
それでいい。
遠くで三つの霊圧がぶつかる。
十一番隊、七番隊、九番隊。
本来なら旅禍を捕らえる側の隊長たちが、瀞霊廷の中で互いに刃を向けている。
もう少し。
もう少しだけ、見なければ。
この瀞霊廷で何が起きているのか。
◇
正午が近づき、双殛の丘へ向かった。
白い処刑衣を纏った朽木ルキアが刑架へ上げられ、隊長たちがその時を待っている。
昨日から気になっていた京楽と浮竹は来ていないが、わざわざ霊圧を隠している様子だ。
どこかで身を潜めているのだろう
やがて、双殛が解放される。
炎が空へ立ち上り、膨れ上がった霊圧とともに巨大な鳥の姿を取った。
燬鷇王。
離れていても熱が肌へ届く。
何度も予定を変え、藍染が死に、旅禍が侵入し、隊長同士まで斬り合っている。
それでも処刑だけは止まらず、ここまで来た。
燬鷇王が刑架へ向かう。
炎が朽木ルキアへ迫った、その瞬間。
何かが間へ入った。
「――!」
衝撃とともに、炎が止まる。
巨大な燬鷇王の嘴を、一振りの刀が受け止めていた。
橙色の髪。
黒い死覇装。
「…………」
初めて見る顔だった。
けれど、少しだけ懐古の念が浮かぶ。
斑目一角を倒した。
阿散井恋次を倒した。
更木剣八を倒した。
黒崎一護。
あれが、そうか。
双殛を受け止める少年を見つめる。
前世の記憶の奥で、また何かが揺れた。
やはり知っている。
前世の記憶のどこかに、この少年はいる。
けれど、その先が出てこない。
今、目の前にいる少年が何者なのか。
なぜ俺の記憶に残っているのか。
それまでは、まだ分からなかった。
直後、京楽と浮竹が動いた。
二人の手によって、双殛そのものが破壊される。
「…………」
昨日から感じていた二人の動きは、このためだったらしい。
処刑は止まった。
だが、それで騒ぎが収まることはなかった。
黒崎一護を中心に、双殛の丘で次々と人が動き始める。
その場だけではない。
瀞霊廷の各所で、隊長、副隊長、旅禍の霊圧が入り乱れていた。
命令に従う者。
処刑を止めようとする者。
旅禍を追う者。
味方だったはずの死神同士まで、それぞれの判断で動き始めている。
俺は、倒れた者たちの状態を確かめながら周囲へ意識を向けた。
二日間、旅禍の動きを調べた。
藍染の遺体を調べた。
殺された場所も見た。
処刑の通達も追った。
それでも答えには届かなかった。
ただ、処刑を止めようとしていた京楽と浮竹の意図だけは、今はっきりした。
なら。
次に見るべき場所も決まっている。
処刑予定を繰り返し早めた命令は、中央四十六室から出ていた。
「勇音」
「はい」
「ついておいでなさい」
「どちらへ?」
「一連の裏に潜む者を、確かめに行きます」
◇
中央四十六室の地下へ入り、勇音とともに奥へ進む。
清浄塔居林へ入ってから、人の気配はほとんど感じられなかった。
ここ数日、朽木ルキアの処刑日時は短期間のうちに何度も変更されている。
その命令を下した者たちがいる場所とは思えないほど、静かだった。
足音だけが響く。
やがて議事堂へ辿り着き、その理由を知った。
「……卯ノ花隊長……」
勇音の声が低くなる。
中央四十六室を構成する者たちは、すでに全員死んでいた。
「…………」
近くの遺体を見る。
今日殺されたものではない。
それどころか、ここ数日の命令を出せる状態ではなかったことは、一目で分かった。
最初の処刑日時の変更から、今日の正午への前倒しも。
彼らは出していない。
そもそも、朽木ルキアの処刑の裁定自体、彼らが出した決定なのか怪しかった。
誰かが、中央四十六室の名を使って瀞霊廷を動かしていた。
「行きましょう」
「はい」
さらに奥へ進む。
その途中で、覚えのある霊圧を感じた。
「…………」
ここにあるはずがない。
その霊圧の持ち主は、俺自身が遺体を調べた。
何度見ても、間違いなく本人だった。
それでも、感じる。
奥へ進む。
氷が広がっていた。
その中に日番谷隊長が倒れている。
さらに、その向こう。
一人の男が立っていた。
「…………」
眼鏡。
穏やかな顔。
見慣れた五番隊を冠する隊長羽織。
何度も検めた死体と、同じ顔。
「……藍染隊長」
口にしてから、その呼び方がもう相応しくないことに気づいた。
「いえ、もうそう呼ぶべきではないのでしょうね」
藍染は死んでいなかった。
それどころか、中央四十六室が全滅したこの場所に立っている。
「大逆の罪人、藍染惣右介」
「どうも、卯ノ花隊長」
死ぬ前と何一つ変わらない穏やかな顔で、藍染が答えた。
「来られるとすれば、そろそろだろうと思っていましたよ」
焦りも驚きもない。
俺がここへ来ることまで、最初から想定していたようだった。
「すぐに此処だとわかりましたか?」
「如何なる理由があろうとも、立ち入ることを許されない完全禁踏区域は、瀞霊廷内にはこの『清浄塔居林』ただ一箇所のみ」
藍染は黙ってこちらを見ている。
「貴方がどこまでも精巧な『死体の人形』を作ってまで身を隠そうとしたのなら、その行く先は瀞霊廷内で最も安全で、見つかりにくいここを置いて他にありません」
「惜しいな」
藍染が僅かに笑う。
「読みは良いが、間違いが二つある」
「…………」
「まず一つ目に――僕は身を隠す為にここへ来た訳じゃない」
藍染がこちらを見る。
「そしてもう一つ――これは『死体の人形』じゃあ無い」
次の瞬間。
藍染の手に、人の身体が現れた。
「……!」
思わず目を見開く。
藍染が掲げている。
俺が何度も検めたはずの、藍染惣右介の死体を。
「いつの間に……」
隣で勇音も息を呑む。
「今この瞬間まで、僕がそう見せようとしなかっただけのことだ」
藍染が掲げた死体へ視線を向ける。
「直ぐにわかるさ。そら、解くよ」
藍染の指が、死体へ触れた。
「砕けろ『鏡花水月』」
その瞬間。
死体の姿が消えた。
「…………」
そこに残ったものを見て、息を呑む。
一振りの斬魄刀。
鏡花水月。
「僕の斬魄刀『鏡花水月』の有する能力は――『完全催眠』だ」
隣で勇音が息を呑んだ。
俺たちが知らされていた鏡花水月の能力は、流水を用いて敵を撹乱するものだった。
しかも、その能力は隊長や副隊長たちを集め、実際に目の前で披露されている。
そこまで考えて、ようやく意図に気づく。
「それこそが……催眠の儀式という訳ですか」
藍染が肯定する。
完全催眠は五感のすべてを支配する。
対象の姿や形だけではない。
質量。
感触。
匂い。
先ほどまで死体に見えていた鏡花水月が、その説明を何よりも証明していた。
「そして、その発動条件は――敵に鏡花水月の解放の瞬間を見せること」
一度でもそれを目にした者は、その瞬間から完全催眠に堕ちる。
「一度でも……目に……」
勇音の呟きを聞いた瞬間、一つだけ繋がった。
目。
鏡花水月を見ることが条件なら。
「……目の見えぬ者は、術に堕ちることはないということは……つまり最初から――」
「東仙要は僕の部下だ」
「…………」
百年近く前から。
あの時からすでに。
知らないまま、俺たちは藍染の幻を見続けていた。
市丸が袖へ手を入れる。
取り出したのは、長い白布だった。
「千反白蛇」
白布が勢いよく広がり、藍染と市丸の周囲を幾重にも旋回していく。
渦巻く白布の隙間から、藍染がこちらを見た。
「最後に……誉めておこうか。卯ノ花隊長」
「…………」
藍染は、あの死体へ最も長く触れ、調べ続けた俺が、完全催眠の中にありながら僅かな違和感を拾ったことを口にした。
「さようなら。君達とはもう会う事もあるまい」
白布が二人を包んでいく。
俺は肉雫唼の柄へ手を掛けた。
見えているものが信用できない。
なら。
目の前にいる藍染を斬る必要はない。
足を踏み出す。
「卯ノ花隊長……?」
勇音の声を背に、藍染たちとは違う方向へ肉雫唼を振るった。
俺の立ち位置、姿勢からは最も斬りにくい場所へ。
何もいない空間へ刃が走る。
その直前。
「射殺せ『神鎗』」
何もなかったはずの場所から、刃が伸びた。
「――!」
肉雫唼と神鎗がぶつかる。
重い。
押し込まれる刃を受けたまま足を滑らせ、軌道を外へ流す。
同時に、目の前に見えていた藍染と市丸の姿が揺らいだ。
やはり、そこにはいない。
だが、神鎗が伸びてきた場所にはいる。
踏み込もうとした時には、千反白蛇が二人を完全に包み込んでいた。
白布が消え、気配も消えた。
「勇音」
「はい」
「追えますか?」
「はい」
勇音がその場に膝をつき、地面へ手を当てる。
「南の心臓、北の瞳、西の指先、東の踵。風持ちて集い雨払いて散れ」
霊力が地面を走る。
「縛道の五十八――『摑趾追雀』!」
勇音は目を閉じたまま、移動した二人の霊圧を追っていく。
「……31……64……83……97……」
僅かな沈黙。
勇音が目を開いた。
「転移先を捕捉しました! 東三百三十二、北千五百六十六!」
顔を上げる。
「双殛です……!」
双殛。
藍染と市丸は、あそこへ向かった。
「……解りました」
まだ終わっていない。
「ではすぐに、全ての隊長・副隊長の位置を捜索・捕捉して伝信して下さい」
勇音がこちらを見る。
「私達がここで知った藍染惣右介の全てと、その行き先を。そして同じ伝信を――あの旅禍達にもね」
「わかりました!」
「任せましたよ。私は日番谷隊長と雛森副隊長の救命措置に入ります」
倒れている二人へ向かう。
藍染を追う者は、これで増える。
俺が今ここを離れれば、目の前の二人は死ぬかもしれない。
なら、やることは決まっている。
肉雫唼を抜く。
刃が抜ける音が、静まり返った清浄塔居林に響いた。
背後では、勇音が伝信の準備に入っている。
俺は二人の傷を確かめ、治療を始めた。
やがて勇音の声が響く。
「――捕捉……成功……!」
次いで、その声が瀞霊廷各所へ一斉に届いた。
「これからお伝えすることは全て真実です」
◇
それから、瀞霊廷の騒ぎが収まるまでには時間が掛かった。
藍染惣右介。
市丸ギン。
東仙要。
三名は瀞霊廷を離反した。
朽木ルキアの処刑は中止され、旅禍一行の捕縛命令も解かれた。
中央四十六室から出されていた命令の数々も、すでに彼らが殺された後に出されたものだったことが明らかになった。
あれほど瀞霊廷中を振り回した騒動は、ようやく終わった。
もっとも、四番隊にとってはそこからの方が忙しい。
旅禍との戦いだけではなく、死神同士で斬り合った者までいる。
治療区画には次々と負傷者が運び込まれ、空いた寝台はすぐに埋まっていった。
「次の方を」
「はい!」
勇音の声が返る。
次の負傷者へ手を伸ばし、回道を流す。
結局、俺が追っていた違和感の正体は、ずっと瀞霊廷の中にいた。
藍染惣右介。
何度も検めた死体は、鏡花水月によって見せられていたものだった。
知らないうちに欺かれ、中央四十六室まで奪われ、瀞霊廷そのものを動かされていた。
そして。
以前の藍染の所作、一度だけ感じた、あの僅かな違和感。
あれも同じだったのだろう。
見えているものは完全に藍染だった。
それでも、長い間剣を振り続けた俺の中に、説明のできない何かだけが残った。
今になって、ようやく意味が分かった。
「卯ノ花隊長、次の負傷者です」
「ええ」
考えるのは後でいい。
今は、目の前の者を治す。
新たに運び込まれてきた負傷者の傷へ、手を翳した。
旅禍が現れてから続いていた騒動は終わった。
けれど、四番隊の一日は、まだ終わりそうになかった。