BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第四十四章 日常

 

 藍染惣右介との戦いが終わってから、しばらくの間、四番隊に暇というものはなかった。

 

 負傷者の治療が一段落し、病床を埋めていた者たちがそれぞれの隊へ戻っていく。

 

 そうして、ようやく以前と変わらない日々が戻り始めた頃だった。

 

     ◇

 

「卯ノ花隊長」

 

 書類へ目を通していると、勇音が部屋へ入ってきた。

 

「京楽隊長がお見えです」

 

「怪我ですか?」

 

「いえ、それが……」

 

「いやあ、卯ノ花隊長。ちょっとお願いがありましてね」

 

 勇音の後ろから、京楽が顔を出した。

 

 歩き方にも霊圧にも異常はない。

 

「どうされました?」

 

「二日酔いに効く薬、ありません?」

 

「…………」

 

「昨日ちょっと飲み過ぎちゃいましてねえ」

 

「薬はありますよ」

 

「おっ。さすが四番隊」

 

「ですが、飲み過ぎをなかったことにはできません。次からは控えてくださいね」

 

「それができれば、ここには来てないんですけどねえ」

 

 京楽が困ったように笑う。

 

 横で勇音が口を開いた。

 

「京楽隊長。でしたら、禁酒を助ける薬もありますが」

 

「……二日酔いの薬だけいただけます?」

 

「そうですか」

 

「はい。それだけでお願いします」

 

 勇音が立ち上がる。

 

 京楽が小さく息を吐いた。

 

「四番隊って、もう少し患者に優しいところじゃありませんでした?」

 

「十分優しくしていますよ」

 

「そうですかねえ」

 

「次に同じ理由でいらした時は、もう少し詳しくお話ししましょうか」

 

「……気を付けます」

 

 今度は少しだけ真面目な返事だった。

 

     ◇

 

 十一番隊から、弓親と一角が治療に来た。

 

 傷を治し終えると、弓親が鏡を覗き込む。

 

「卯ノ花隊長」

 

「はい」

 

「これ、跡は残らないですよね?」

 

「残りませんよ」

 

「本当に?」

 

「はい」

 

 弓親がもう一度鏡を見る。

 

「絶対に?」

 

「…………」

 

「残りません」

 

「なら良かった」

 

「うるせえな。傷くらいどうでもいいだろ」

 

「君と一緒にしないでくれる?」

 

「何だと?」

 

 治療は終わったはずなのに、また怪我をしそうだった。

 

     ◇

 

 十二番隊から、ネムが薬品を届けに来た。

 

「卯ノ花隊長。涅隊長より、こちらを」

 

「ありがとうございます」

 

 箱を受け取り、中身を確認する。

 

「以前と色が違いますね」

 

「はい。涅隊長が改良されました」

 

「効果は?」

 

「以前の三倍です」

 

「副作用は?」

 

「5倍です」

 

「…………」

 

 箱を閉じる。

 

「元のものはありますか?」

 

「あります」

 

「そちらをお願いします」

 

「はい」

 

 ネムは迷わず、別の箱を差し出した。

 

     ◇

 

 二番隊の近くを通った時だった。

 

 物陰から、大前田副隊長が顔を出した。

 

 辺りを確認して、また引っ込む。

 

「…………」

 

 何をしているのだろう。

 

 少しすると、砕蜂が歩いてきた。

 

 大前田は気付いていない。

 

「大前田」

 

「うおっ!?」

 

 飛び上がった。

 

「た、隊長!」

 

「こんなところで何をしている」

 

「いや、これは、その……」

 

「貴様、また仕事から逃げていたな」

 

「違います! ちょっと休憩を――」

 

「来い」

 

「隊長! 待ってください!」

 

 首根っこを掴まれ、そのまま連れていかれた。

 

 何をしていたのかは、よく分かった。

 

     ◇

 

 病室の一室へ顔を出しに行くと、浮竹の前に二人の隊士が立っていた。

 

「浮竹隊長、こちらを!」

 

「隊長! 俺の方を先に!」

 

 清音と小椿第三席が、それぞれ包みを差し出している。

 

「私が選んできたんです!」

 

「俺だって隊長のために選んだんだ!」

 

「まあまあ、二人とも」

 

 浮竹隊長が両方の包みを受け取った。

 

「ありがとう。どちらも嬉しいよ」

 

 二人が黙る。

 

「……隊長、どちらから開けますか?」

 

「当然、私のですよね?」

 

「俺のだろ!」

 

「何ですって!?」

 

「何だよ!」

 

 浮竹隊長は困ったように笑っていた。

 

     ◇

 

 女性死神協会の会合に参加していた。

 

「次の会報なんだけど」

 

 松本副隊長が一冊の会報を持ち上げる。

 

「そろそろ表紙、変えない?」

 

「具体的には?」

 

 七緒副隊長が尋ねる。

 

「やっぱり華が必要だと思うのよ」

 

「なるほど」

 

「というわけで、私なんてどう?」

 

「却下します」

 

「早くない?」

 

 松本が不満そうに七緒を見る。

 

「では、誰にするのですか?」

 

「夜一様」

 

 砕蜂が即答した。

 

「所属してないでしょ」

 

「何か問題があるのか」

 

「あるわよ」

 

「じゃあ剣ちゃん!」

 

 やちるが手を挙げる。

 

「女性死神協会です」

 

「じゃあ卯ノ花さん!」

 

「…………」

 

 一斉に視線が集まった。

 

「いいじゃない!」

 

 松本が俺を見る。

 

「卯ノ花隊長なら華もあるし」

 

「賛成ー!」

 

「異議はありません」

 

「待ってください」

 

 話が進んでいる。

 

「私が表紙になるのですか?」

 

「はい」

 

 七緒が手元の予定表を確認する。

 

「では撮影日ですが――」

 

「もう決まったのですか?」

 

「卯ノ花さん、笑ってね!」

 

「…………」

 

 どうやら、決まったらしい。

 

     ◇

 

 後日。

 

 十一番隊の隊舎で、一角が机の上に置かれた会報を見つけた。

 

 何気なく手に取る。

 

 表紙には、卯ノ花隊長が写っていた。

 

「……隊長、これ何で持ってるんスか?」

 

「あ?」

 

 更木が会報を見る。

 

「やちるだろ」

 

「…………」

 

 一角も会報を見る。

 

 確かに、それで説明はつく。

 

「そうっスか」

 

 一角は会報を元の場所へ戻した。

 

     ◇

 

 隊首会が終わり、隊長たちが一番隊を出ていく。

 

 その途中で、平子が足を止めた。

 

 視線の先には涅マユリがいる。

 

「何だネ」

 

「いや」

 

「先程から何を見ている」

 

「ちょっと気になってな」

 

「言いたいことがあるなら言いたまえ」

 

 平子が涅の頭を見る。

 

「毎朝それ、何分かかんねん?」

 

「…………」

 

 涅はそのまま歩き出した。

 

「そこは教えてくれへんの?」

 

 返事はなかった。

 

     ◇

 

 九番隊の前を通ると、檜佐木副隊長が何かを磨いていた。

 

 現世の乗り物だったはずだ。

 

 何人かの隊士が、その周りに集まっている。

 

「檜佐木副隊長、それ動くんですか?」

 

「当たり前だ」

 

「瀞霊廷で乗るんですか?」

 

「…………」

 

「怒られませんか?」

 

「…………」

 

 檜佐木は黙って手入れを再開した。

 

 隊士たちも、それ以上は聞かなかった。

 

     ◇

 

 日番谷隊長の診察を終え、薬を渡した。

 

「食後に飲んでください」

 

「さっき食べたところです」

 

「では、今飲んでしまいましょうか」

 

「はい」

 

 日番谷隊長が薬を口に入れ、水で流し込む。

 

「…………」

 

 ほんの僅かに眉が寄った。

 

「苦いですか?」

 

「……別に、平気です」

 

「そうですか」

 

 机の上にあった菓子を一つ差し出す。

 

「どうぞ」

 

「……何で菓子なんですか」

 

「甘いですよ」

 

「それは分かりますけど」

 

「どうぞ」

 

「…………」

 

 日番谷隊長はしばらく菓子を見たあと、受け取った。

 

「別に、苦かったからじゃないですからね」

 

「はい」

 

「…………」

 

 日番谷隊長は何も言わず、菓子を口に入れた。

 

     ◇

 

 茶屋で、朽木白夜と狛村が茶を飲んでいた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 会話はない。

 

 二人とも黙って茶を飲んでいる。

 

 しばらくして、朽木白夜が茶碗を置いた。

 

「では」

 

「うむ」

 

 朽木白夜が立ち去る。

 

 近くにいた隊士が、その背中を見送った。

 

「……仲いいのか?」

 

 誰も答えられなかった。

 

     ◇

 

 砕蜂隊長と大前田副隊長が四番隊を訪れていた。

 

 負傷した隠密機動の隊士について話を終えたところで、砕蜂が続ける。

 

「もう一つ頼みがある」

 

「何でしょう?」

 

「眠気を抑える薬を用意してもらいたい」

 

「どの程度必要ですか?」

 

「長時間の監視任務がある。ある程度まとまった数が欲しい」

 

「分かりました」

 

 横で聞いていた大前田が口を挟んだ。

 

「俺も一つもらっていいですか?」

 

「何に使う」

 

「昼飯の後、眠くなるんスよ」

 

「貴様は必要ない」

 

「一個くらいいいじゃないスか!」

 

「大前田副隊長」

 

「はい?」

 

「それでしたら、よく眠れる薬もありますよ」

 

「…………え?」

 

 大前田の顔が引きつった。

 

「そ、それ……ちゃんと起きますよね?」

 

「…………」

 

「卯ノ花隊長!?」

 

     ◇

 

 ある日、四番隊の隊士に呼び止められた。

 

「隊長、少しご相談があるのですが」

 

「何でしょう」

 

「その……好きな人がいるんです」

 

「…………」

 

 予想していなかった。

 

「どうすれば、振り向いてもらえるでしょうか」

 

「…………」

 

 刀の扱いなら分かる。

 

 傷の治し方も分かる。

 

 だが、これは分からない。

 

「気持ちを伝えてみてはいかがでしょう」

 

「いきなりですか!?」

 

「駄目なのですか?」

 

「もう少しこう……仲良くなってからとか……」

 

「…………」

 

 勇音を見る。

 

「勇音」

 

「私に振らないでください!」

 

     ◇

 

 十一番隊の隊舎を歩いていると、奥から声が聞こえた。

 

「だから三席は俺だ!」

 

「知ってるよ」

 

「じゃあ何でお前が仕切ってんだ!」

 

「君より僕の方が説明が上手いから」

 

「関係ねえだろ!」

 

 見ると、弓親が隊士たちに指示を出している。

 

 一角も隣にいるが、誰もそちらを見ていない。

 

「お前ら! 三席は俺だぞ!」

 

「分かってます!」

 

「だったら俺の話も聞け!」

 

 返事だけは良かった。

 

 隊士たちはそのまま弓親の指示で動いていった。

 

     ◇

 

 瀞霊廷を歩いていると、少し先にローズと拳西がいた。

 

「拳西、少しいいかい?」

 

「何だ」

 

「新しい曲ができたんだ。感想を聞かせてほしい」

 

「今か?」

 

「今だ」

 

「…………」

 

 しばらくして、演奏が終わった。

 

「どうだい?」

 

「長ぇ」

 

「感想を聞いているんだ」

 

「だから長ぇ」

 

「そういうことを聞いているんじゃない」

 

「じゃあ俺に聞くな」

 

 拳西はそのまま行ってしまった。

 

 ローズだけが残された。

 

     ◇

 

 一番隊へ行くと、やちるが山本の前に立っていた。

 

「…………」

 

 山本の髭をじっと見ている。

 

「何じゃ」

 

「おじいちゃん、お髭邪魔じゃない?」

 

「邪魔ではない」

 

「ごはん食べるときは?」

 

「邪魔ではない」

 

「寝るときは?」

 

「邪魔ではない」

 

 やちるが少し考える。

 

「ほんとに?」

 

「本当じゃ」

 

「ふーん」

 

 納得したのかと思った。

 

 やちるは反対側へ回り、今度は山本の眉毛を見始めた。

 

「…………」

 

「何じゃ」

 

「それも邪魔じゃない?」

 

「邪魔ではない」

 

     ◇

 

 瀞霊廷を歩いていると、休憩所から声が聞こえた。

 

 吉良副隊長と檜佐木副隊長が座っている。

 

「最近、酒を飲んでもあまり酔えないんですよ」

 

「分かる。考え事してると余計にな」

 

「酔うために飲んでいるのに、酔えないと何のために飲んでいるのか分からなくなりませんか?」

 

「……分かる」

 

「それで余計に飲むんです」

 

「ああ」

 

 そこへ松本副隊長が通りかかった。

 

 二人の話を少し聞いて、足を止める。

 

「何この席、暗っ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「ほら! そういうところ!」

 

 松本はそのまま行ってしまった。

 

 二人はしばらく黙っていた。

 

「……飲むか」

 

「そうですね」

 

 まだ昼だった。

 

     ◇

 

 ある日、負傷した隊士を運ぶため、肉雫唼を出した。

 

 患者を乗せ終えたところで、背に小さな霊圧が一つ増えた。

 

「卯ノ花さーん!」

 

 振り返ると、やちるが肉雫唼の背に座っている。

 

「草鹿副隊長。何をしているのですか?」

 

「乗ってる!」

 

「患者を運ぶために出したのですよ。降りてください」

 

「やだ!」

 

「駄目です」

 

「ちょっとだけ!」

 

「駄目です」

 

 結局、抱えて降ろした。

 

「卯ノ花さんのけち!」

 

「けちで結構ですよ」

 

 肉雫唼が浮かび上がる。

 

 やちるは地上から手を振っていた。

 

     ◇

 

 ある日、京楽が四番隊を訪ねてきた。

 

「卯ノ花隊長、この前のお礼です」

 

 差し出されたものを見る。

 

 酒だった。

 

「…………」

 

「どうしました?」

 

「二日酔いのお薬のお礼が、お酒なのですか?」

 

「…………」

 

 京楽隊長が手元の酒を見る。

 

「駄目ですかね?」

 

 横にいた勇音が口を開く。

 

「京楽隊長。禁酒を助ける薬もありますが」

 

「帰ります」

 

 京楽は酒を置いて帰っていった。

 

     ◇

 

 一番隊へ報告に行った時だった。

 

 部屋の隅で、長次郎が茶の支度をしている。

 

 その横には、見慣れない菓子が置かれていた。

 

「また西洋の菓子か」

 

「はい」

 

「儂は要らぬぞ」

 

「左様でございますか」

 

 長次郎は何も言わず、山本の前に茶と菓子を置いた。

 

 俺が報告を終え、もう一度そちらを見る。

 

 皿の菓子が一つ減っていた。

 

「…………」

 

 長次郎は何も言わない。

 

 山本も何も言わなかった。

 

     ◇

 

 勇音が、更木の治療をしていた。

 

 まだ傷は残っている。

 

 だが、ある程度動けるようになったところで、更木が立ち上がった。

 

「もういい」

 

「え? 更木隊長、まだ治療は終わっていません」

 

「十分だ」

 

「ですが――」

 

 勇音が止めるのも聞かず、更木はそのまま出ていこうとする。

 

「更木隊長」

 

「あ?」

 

「座ってください」

 

「…………」

 

 更木は何も言わず、元の場所へ戻って座った。

 

「…………」

 

 勇音が何とも言えない顔で、更木と俺を交互に見る。

 

「勇音?」

 

「……いえ、何でもありません」

 

 勇音は治療を再開した。

 

     ◇

 

 一年に一度、新太の墓を訪れている。

 

 山道を登り、かつて暮らしていた場所へ向かう。

 

 墓の周りには、今年も草が伸びていた。

 

「…………」

 

 持ってきた鎌で草を刈り、落ち葉を集める。

 

 墓石についた土を落とし、水で洗った。

 

『剣神様 新玄 ここに眠る』

 

 刻まれた文字は、昔と変わらない。

 

「お久しぶりです、新太」

 

 返事はない。

 

 当然だ。

 

 墓の掃除を終えると、今度は新太の家へ向かう。

 

 誰も住まなくなった家は、一年も放っておけばどこかしら傷んでいる。

 

 今年は屋根の一部が崩れていた。

 

「…………」

 

 持ってきた道具を置き、屋根へ上がる。

 

 板を外し、新しいものへ替える。

 

「……少しは上達しましたかね」

 

 誰に聞かせるでもなく呟く。

 

 屋根を直し終え、今度は家の中へ入った。

 

 埃を払い、傷んだところがないか一通り見て回る。

 

 住む者はいない。

 

 これから先も、たぶんいない。

 

 それでも壊れたままにしておく気にはならなかった。

 

 掃除を終え、外へ出る。

 

 新太の墓の前に腰を下ろした。

 

「今年は、騒がしい一年でした」

 

 それからしばらく、一年の間にあったことを話した。

 

 返事はない。

 

 話し終える頃には、陽が傾き始めていた。

 

 立ち上がり、墓についた小さな葉を一枚払う。

 

「では、また来年」

 

 山を下りる。

 

 振り返らなかった。

 

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