BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第四十六章 第一次侵攻

 

 警報が鳴った。

 

 四番隊は、既に動ける状態にあった。

 

 敵が告げたのは五日後。だが、その言葉を信じて待つ理由などない。

 

 治療区画を空け、薬品と包帯を各所へ分け、救護班の配置まで組み直してある。いつ侵攻が始まっても対応できるように、勇音と何度も手順を確認していた。

 

 四番隊舎の空気が一瞬で変わる。

 

「卯ノ花隊長!」

 

 廊下を走ってきた勇音が、戸を開けるより早く声を上げた。

 

「瀞霊廷内に侵入者です! 一か所ではありません、各所に――」

 

 最後まで聞く必要はなかった。

 

 既に感じている。

 

 瀞霊廷のあちこちで、知らない霊圧が立ち上がっていた。その周囲では死神の霊圧が次々と乱れ、消えていく。

 

 五日後ではない。

 

 もう始まっている。

 

「全救護班を予定していた配置へ。治療区画を開放してください」

 

「はい!」

 

「歩ける者は自力で四番隊まで来させます。搬送要員は動けない者を優先。軽傷者に人手を取られないよう徹底してください」

 

「分かりました!」

 

 勇音が頷き、すぐに廊下へ飛び出していく。

 

 その声が四番隊舎を駆け巡り、待機していた隊士たちが一斉に動き始めた。

 

 治療区画には寝台が並び、回道を扱える隊士たちがそれぞれの持ち場につく。搬送されてくる負傷者を受け入れる準備は、すぐに整った。

 

 俺も治療区画へ向かう。

 

 各所で戦闘が始まっている。

 

 これだけの規模なら、間もなく負傷者が運び込まれてくるはずだった。

 

 だが、来ない。

 

 しばらく経っても、寝台は空いたままだった。

 

「…………」

 

 遠くから轟音が響く。

 

 戦闘が止まったわけではない。

 

 感じ取れる死神たちの霊圧は、今も各所で激しく揺れている。

 

 そして、一つ消えた。

 

 続いて、もう一つ。

 

 別の場所でも消える。

 

「卯ノ花隊長」

 

 戻ってきた勇音の表情が硬い。

 

「救護班から報告が入りました」

 

「どうしました?」

 

「……負傷者が、ほとんどいません」

 

 その言葉の意味は、すぐに分かった。

 

 傷を負っていないのではない。

 

 運び出せる状態で残っていない。

 

 戦闘が始まってから、消えていく霊圧の数に対して、四番隊へ運ばれてくる者があまりにも少なかった。

 

「……待機している隊士を減らします」

 

「え?」

 

「各治療区画には、運び込まれた負傷者を受け入れられる最低限の人数だけ残してください。残りは回収班へ回します」

 

 ここで待っていても、負傷者は来ない。

 

「動ける者は外へ。各隊の戦闘区域を回り、生存者を探してください。まだ息のある者を見つけ次第、四番隊へ搬送を」

 

「はい!」

 

「一人でも多く、ここまで運びます」

 

 勇音が頷き、再び走り出した。

 

 治療区画で待機していた隊士たちにも指示が伝わり、次々と外へ出ていく。

 

 空の寝台の前で待つ人数が減り、その分だけ、負傷者を連れ戻すための人員が瀞霊廷へ散っていった。

 

     ◇

 

 十番隊。

 

 日番谷冬獅郎は、対峙する敵を前に刀を構えていた。

 

 長次郎が最期に残した言葉。

 

『奴等は卍解を――』

 

 その先は分からない。

 

 敵が卍解に対して何かをする。

 

 分かっているのは、そこまでだった。

 

「卍解――」

 

 日番谷の霊圧が一気に膨れ上がる。

 

「大紅蓮氷輪丸」

 

 氷が広がり、その背に巨大な翼を形作った。

 

 その直後だった。

 

「――!?」

 

 大紅蓮氷輪丸が消えた。

 

 日番谷が目を見開く。

 

「奪われた……!?」

 

 何が起きたのかを確かめる暇もなく、日番谷は声を上げた。

 

「松本! この事を全隊長に伝えろ!」

 

「はい!」

 

     ◇

 

 四番隊。

 

 治療区画に、声が届いた。

 

 松本乱菊の天挺空羅による伝令だった。

 

 十番隊隊長、日番谷冬獅郎の卍解が奪われた。

 

「…………」

 

 奪われた。

 

 長次郎が最後まで伝えきれなかった言葉の意味が、ようやく分かった。

 

 周囲へ意識を向ける。

 

 戦闘によって入り乱れた霊圧の中から、隊長たちのものを探る。

 

「……伝令は十番隊からですが、霊圧を見る限り、二、六、七番隊も奪われた様ですね……」

 

「勇音」

 

「はい」

 

「私も出ます。ここをお願いします」

 

「分かりました」

 

 勇音に四番隊舎を任せ、外へ出る。

 

 瞬歩で屋根へ上がった。

 

 四番隊舎の屋根の上から、瀞霊廷を見渡す。

 

 あちこちから煙が上がり、建物が崩れている。戦闘の音は途切れることなく続き、その中で死神たちの霊圧が次々と消えていた。

 

 まだ生きている者はいる。

 

 だが、このままでは四番隊へ運び込まれる前に死ぬ者も多い。

 

 肉雫唼を抜く。

 

「肉雫唼」

 

 刀身が溶けるように形を失い、乳白色の粘体が溢れ出した。

 

 粘体は俺の前で膨れ上がっていく。

 

 屋根を覆い、それでも止まらない。形らしい形を持たないまま、巨大な塊となって四番隊舎の上空へ浮かび上がった。

 

 その巨体が、ゆっくりと波打つ。

 

「行ってください」

 

 表面の一部が膨らみ、千切れるように離れた。

 

 一つ。

 

 続いて二つ、三つ。

 

 分かれた粘体はそのまま空中に浮かび、さらに次々と巨体から分裂していく。

 

 十。

 

 二十。

 

 それでも止まらない。

 

 巨大だった不定形の粘体が少しずつその体積を減らしながら、無数の小さな分体となって四番隊舎の上空へ広がっていった。

 

 分かれた肉雫唼は、それぞれ瀞霊廷の各所へ飛んでいく。

 

 やがて、生き残っている隊士たちのもとへ辿り着いた分体が、その身体へ次々と張りついていった。

 

 本来なら、護廷十三隊の隊士一人一人に肉雫唼の分体をつけるなど到底できない。

 

 数が足りない。

 

 だが――皮肉なことに、それが可能になりつつあった。

 

 死者が、あまりにも速く増えている。

 

 生きている者の数が加速度的に減っているからこそ、残った者へ分体を行き渡らせることができる。

 

「…………」

 

 それでも、救えるとは限らない。

 

 腕や脚を失うほどの傷であっても、生きてさえいれば分体で治療し、命を繋ぐことはできる。

 

 だが、即死ではどうにもならない。

 

 そして敵の攻撃で、隊士もろとも分体まで消し飛ばされれば――やはり、どうすることもできなかった。

 

     ◇

 

 瀞霊廷内を、一人の隊士が駆けていた。

 

「瀞霊廷内、全隊長・副隊長並びに隊士各位!!」

 

 戦闘の続く瀞霊廷へ向け、声を張り上げる。

 

「お伝えします!!」

 

 その声に、各所で戦う死神たちが反応する。

 

「死神代行・黒崎一護が現在、尸魂界へ向かっています!」

 

 黒崎一護。

 

 その名が、瀞霊廷中へ伝えられていく。

 

 続けて、伝令の声が響いた。

 

「彼の卍解は滅却師には奪えません!! これは技術開発局が先程確認した確定情報です!」

 

 各所で、その報せを聞いた者たちが顔を上げる。

 

「……何と……!!」

 

 狛村左陣が目を見開く。

 

「一護か……」

 

 斑目一角が笑みを浮かべた。

 

「向かってやがるのか……!」

 

「一護……!」

 

 松本乱菊が空を見上げる。

 

 朽木ルキアも、阿散井恋次も、それぞれの戦場でその報せを聞いていた。

 

「一護くん……」

 

 浮竹十四郎が呟く。

 

 黒崎一護が、尸魂界へ向かっている。

 

 その報せが、戦いの続く瀞霊廷を駆け巡っていった。

 

     ◇

 

「十一番隊隊長・更木剣八、敵三名を撃破!!」

 

 新たな報せが響く。

 

 四番隊舎の屋根の上で、俺は更木の霊圧がある方向へ意識を向けた。

 

 そして間もなく、さらに声が走る。

 

「山本元柳斎重國総隊長、敵一名を撃破!!」

 

「…………」

 

 今度は山本の霊圧がある方向へ意識を向ける。

 

     ◇

 

「案ずるな」

 

 山本は、満身創痍の檜佐木修兵へ告げた。

 

「奴等賊軍、一人残らず」

 

 流刃若火を手にする。

 

「儂がこの手で叩ッ斬る」

 

 それだけを残し、山本の姿が消えた。

 

 次の瞬間。

 

 凄まじい衝撃が瀞霊廷を揺らした。

 

 山本が地を蹴り、一気に戦場を駆け抜けていく。

 

     ◇

 

「…………」

 

 四番隊舎の屋根の上で、その霊圧が急速に近づいてくるのを感じた。

 

 速い。

 

 顔を上げる。

 

 直後、炎を纏うような山本の霊圧が、四番隊舎のすぐ傍を通り過ぎた。

 

 ほんの一瞬。

 

 通り過ぎる山本と目が合った。

 

「…………」

 

 言葉はない。

 

 山本も足を止めない。

 

 そのまま俺の前を駆け抜け、凄まじい速度で遠ざかっていく。

 

 俺はその背を目で追った。

 

 千年以上、あの男を知っている。

 

 だからこそ分かる。

 

 山本は今、本気で敵を滅ぼしに向かっている。

 

 その身から溢れる霊圧は、遠ざかってなお瀞霊廷全体を震わせていた。

 

 そして、それを感じているのは俺だけではない。

 

 瀞霊廷の各所で戦っていた死神たちも、次々と顔を上げる。

 

 負傷しながら敵と向き合っていた者が。

 

 卍解を奪われ、それでも刀を握っていた隊長たちが。

 

 押され続けていた隊士たちが。

 

 同じ霊圧を感じ取っている。

 

 総隊長が戦っている。

 

 総隊長が、自ら敵を倒しに向かっている。

 

 それだけで、沈みかけていた死神たちの目に力が戻っていく。

 

 刀を握る手に、再び力が籠もる。

 

 崩れかけていた護廷十三隊の士気が、山本元柳斎重國ただ一人の霊圧によって、再び持ち上がっていった。

 

     ◇

 

 更木剣八の身体が、ユーハバッハの片手に吊り上げられていた。

 

「特記戦力の一、更木剣八」

 

 ユーハバッハが、更木を見上げる。

 

「それがこの様か」

 

「脆い」

 

「どうやら私は、お前達を買い被り過ぎていた様だ」

 

 その手に力が籠もる。

 

「眠れ。尸魂界は終わりだ」

 

 その時だった。

 

 凄まじい炎が、二人のいる場所へ迫る。

 

 炎を纏うようにして、山本元柳斎重國が飛び込んできた。

 

「……千年振りじゃな」

 

 ユーハバッハが、その姿を見る。

 

「ユーハバッハ」

 

 山本が、正面からユーハバッハを見据える。

 

「お主の息の根を止めに来た」

 

     ◇

 

 ユーハバッハを前に、山本の怒りは静かに燃えていた。

 

 長次郎を失い、瀞霊廷では今も多くの隊士たちが命を落としている。

 

 そして、その全てを率いているのが目の前の男だった。

 

 千年前に殺し損ねた、滅却師の王。

 

 あの時、確実に息の根を止めていれば、今日の惨劇はなかった。

 

 山本は流刃若火を握り締める。

 

 今度こそ、この男をここで終わらせる。

 

 その時、三人の滅却師が山本へ襲いかかった。

 

 だが、山本は一瞥もしない。

 

 流刃若火を一閃する。

 

 凄まじい炎が一気に噴き上がり、襲いかかった滅却師をまとめて呑み込んだ。そのまま巨大な火柱となって天へ突き上がり、三人の霊圧が炎の中で消える。

 

「愚か者共め」

 

 燃え盛る炎を背負い、流刃若火を手にした山本がユーハバッハを見据える。

 

 ユーハバッハもまた、その視線を正面から受け止めていた。

 

「変わらんな、ユーハバッハ。じゃが部下を軽んじるその悪辣もここで終わると知れ」

 

「お前は老いたな、山本重国。かつて護廷とは名ばかりの、殺し屋集団の長だった頃とは比べものにならぬ」

 

 否定するつもりはなかった。千年前と今とでは、護廷十三隊も、山本自身も変わっている。

 

 だが、それが何だというのか。

 

 目の前にいるのは、千年前に討ち損じた敵。その男が再び尸魂界を踏みにじっている。それだけで、山本が刃を振るう理由は十分だった。

 

 山本が流刃若火を静かに下ろす。

 

――卍解――

 

残火の太刀

 

 その瞬間――世界から、炎が消えた。

 

 轟々と燃え盛っていた火勢が嘘のように失せ、あとに残ったのは、焼け焦げた刀身を持つ一振りの刀だけ。

 

 静寂が落ちる。

 

 だが、消えたはずの熱は失われてなどいない。

 

 流刃若火が生み出す炎、その全てが――残火の太刀、その一振りへと収束していた。

 

──残火の太刀・〝東〟──

旭日刃

 

 切っ先が地面へ触れる。

 

 炎も爆発もなく、地面の一角が跡形もなく消し飛んだ。

 

「燃えはせぬ、爆炎も吐かぬ。ただ触れるもの全て……跡形も無く消し飛ばすのみ」

 

──残火の太刀・〝西〟──

残日獄衣

 

 山本の全身を、目には見えぬ灼熱が鎧のように覆う。

 

「剣も折れ、為す術もないのだ。足が動かぬのも無理はない」

 

「逃げても良いぞ──直ぐに捕らえて殺すがな」

 

 歯を剥き出しにして笑む――山本元柳斎重國。

 

──聖唱──

聖域礼賛

 

 

 ユーハバッハが剣を抜き、足元へ巨大な光の陣を展開する。

 

──残火の太刀・〝南〟──

火火十万億死大葬陣

 

 焼け焦げた大地が蠢き、無数の骸骨が地中から這い出してくる。

 

「しばし、戦の愉悦をくれてやる」

 

 骸の群れが、ユーハバッハへ殺到した。

 

「儂の卍解をすぐに奪わんかった事を悔いておるのか? 違うな、知っておるぞ。お主は奪わんかったのではない。奪う事などできんかったのじゃ」

 

 ――底の知れぬものは奪えぬ。

 

 単純な道理。

 

 山本は、骸の群れに呑まれるユーハバッハを見据える。

 

「お主が如何に涙しようと――お主が殺した死神たちの――憎さ苦しさに足りぬと知れ」

 

 残火の太刀を振り上げる。

 

──残火の太刀・〝北〟──

天地灰尽

 

 山本が残火の太刀を振り抜く。

 

 一閃。

 

 斬撃がユーハバッハを捉え、その胴を跡形もなく消し飛ばした。

 

 胴を消し飛ばされた男の身体が崩れ落ちる。

 

「……申し訳……ございません……陛下……」

 

「…………?」

 

 山本の眉が僅かに動いた。

 

 陛下。

 

 その言葉が耳に届いた直後――轟音が瀞霊廷を揺らした。

 

 離れた一番隊隊舎が、内側から吹き飛んだ。

 

 建物が崩れ、巨大な瓦礫と土煙が噴き上がる。その中心から、一つの霊圧が現れた。

 

 山本が振り返る。

 

 爆煙の向こうから姿を現した男を見て、その目が見開かれた。

 

「……ユーハバッハ……!」

 

 今しがた倒したはずの男と、同じ顔。

 

 本物のユーハバッハが、瓦礫の中から歩み出てくる。

 

「貴様、今迄何をしておった……」

 

「一番隊舎の下には何がある?」

 

「…………!」

 

「真央地下大監獄――」

 

 ユーハバッハが笑みを浮かべる。

 

「藍染惣右介に会って来た」

 

 山本の目が鋭くなる。

 

 自分が相手をしていた間、この男は瀞霊廷の地下へ潜っていた。

 

「特記戦力の一つとして我が麾下に入るよう言ったが、案の定断りおった」

 

 ユーハバッハの視線が、倒れた男へ向く。

 

「偽者との戦いで、力は使い果たしたか。山本重國?」

 

「ほざけ!」

 

 山本が残火の太刀を構え直す。

 

「卍解」

 

 その瞬間だった。

 

 ユーハバッハの手に、メダリオンが現れる。

 

 光が走った。

 

「――!」

 

 残火の太刀が、かき消える。

 

「お前の卍解が奪えぬ訳では無い」

 

 ユーハバッハが、奪い取った力を手に山本を見据えた。

 

「強大なお前の力は、私以外には御し切れない。故にロイドには私が戻るまで手を出すなと命じてあった」

 

「どうする」

 

 山本が目を見開く。

 

「お前の卍解の力を使って、お前の部下の亡骸を叩き起こす事もできるぞ...山本元柳斎よ」

 

「貴様!!!」

 

 ユーハバッハの手に、巨大な霊子の剣が形を成す。

 

 そして、その傍らに奪われた力が顕れる。

 

――卍解――

 

残火の太刀

 

 山本元柳斎重國の卍解が、今度はユーハバッハの手によって解放されようとしていた。

 

 

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