BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第四十七章 山本元柳斎重國

 

――卍解――

 

残火の太刀

 

 山本元柳斎重國の卍解が、今度はユーハバッハの手によって解放されようとしていた。

 

 ユーハバッハが、奪った残火の太刀を振り上げる。

 

 その刃を振り下ろそうとした瞬間――足元の地面から、赤い血が噴水のように噴き上がった。

 

「…………」

 

 ユーハバッハの腕が止まる。

 

 噴き上がった血が残火の太刀へ絡みつき、焼け焦げた刀身を赤く濡らしていく。

 

 そして、いつの間にか。

 

 山本とユーハバッハの周囲は、血の海へと変わっていた。

 

 砕けた石畳の窪みを満たし、瓦礫の隙間を流れ、赤い水面が二人の立つ戦場を覆っている。

 

 山本は驚かなかった。

 

 ――卍解――皆尽。

 

 卯ノ花烈の卍解。

 

 その能力は、血の海を生み出し、その血が及ぶ範囲において、理に反する能力や作用を相殺すること。

 

 ただし、何もかもを無条件に消し去る力ではない。

 過剰に助けることもなければ、過剰に攻撃することもない。どんな能力を封殺し、または、封殺しないかは皆尽の気まぐれだ。

 

 敵も味方も斬魄刀の異能だけに頼ることを許さず、己が磨き上げた斬拳走鬼をもって戦うことを強制する。

 

 血湧き肉躍る戦いを見せよ、まるでそう語るかのような。

 

 それこそが、皆尽という卍解だった。

 

 残火の太刀が生み出す灼熱は、長く解放を続ければ尸魂界そのものを滅ぼしかねない。それほどの力は、山本とその敵だけの戦いでは済まない。

 

 故に皆尽は、その過剰な作用を抑えていた。

 

 尸魂界全土に及ぶはずだった、残火の太刀の過剰な余波は、皆尽の範囲外には出ていない。

 

 瀞霊廷では、総隊長・山本元柳斎重國が残火の太刀を解放する際、四番隊隊長・卯ノ花烈も同時に皆尽を解放することが定められていた。

 

 今、この瞬間に発動したのではない。

 

 山本がロイドとの戦いで残火の太刀を解放した時から、皆尽もまた発動していた。

 

 それは、残火の太刀の余波から尸魂界を守るためだけのものではない。

 

 山本も卯ノ花も、開戦前から敵が卍解を奪うと知っていたわけではなかった。

 

 長次郎が残したのは、敵が卍解に対して何らかの手段を持っているという警告だけ。

 

 封じられるのか。

 

 使えなくされるのか。

 

 それすら分からなかった。

 

 だが、たとえ残火の太刀を使えなくされたとしても、皆尽がある。

 

 皆尽の血の中では、敵もまた強大な理に反する能力や作用に頼ることはできない。

 

 山本だけが力を奪われ、一方的に弱体化することにはならない。

 

 最後に残るのは、互いが己の身に磨き上げた斬拳走鬼。

 

 それならば、戦える。

 

 山本も卯ノ花も、そう見ていた。

 

 そして侵攻が始まり、初めて判明した。

 

 敵が行っていたのは、卍解の封印ではない。

 

 強奪。

 

 本来の持ち主から卍解を強制的に奪い、その力を自らのものとして使用する。

 

 ならば、それも皆尽が相殺する「理に反する能力」に含まれるのではないか。

 

 確証はなかった。

 

 だが、可能性は高いと見ていた。

 

 そして今。

 

 ユーハバッハが奪った残火の太刀を振るおうとしても、刀身に絡みついた血が脈打ち、赤い水面へ波紋を広げるだけだった。

 

 残火の太刀は応えない。

 

 山本はその様子を見据え、流刃若火を構え直した。

 

 卍解は奪われた。

 

 だが、この血の中にいる限り、ユーハバッハもまた奪った残火の太刀を自在には振るえない。

 

 ここから先は、互いが己の身に積み上げてきたものが物を言う。

 

 山本にとって、それで何の不足もなかった。

 

 だが、ユーハバッハは動かなかった。

 

 残火の太刀を妨げている皆尽の血を見下ろしている。

 

 山本の目が細くなった。

 

 皆尽が発動していることは、見れば分かる。

 

 その力によって残火の太刀が抑えられていることも、ユーハバッハ自身が今まさに知った。

 

 それにもかかわらず、メダリオンを使う素ぶりを見せない。ユーハバッハだけでなく、傍らに立つ側近である滅却師もだ。

 

 山本も卯ノ花も、その能力の特異性故に、皆尽は奪えないと見ているが、敵が試しもしない道理はない。

 

 残火の太刀を奪った時、ユーハバッハは山本をその目で捉えていた。

 

 今、皆尽はここにある。

 

 だが――卯ノ花烈はいない。

 

「……なるほどの」

 

 山本の口元が僅かに吊り上がった。

 

「卍解が見えておるだけでは足りぬか」

 

 ユーハバッハの視線が山本へ向く。

 

「奪うには、その主を己が眼で捉えねばならぬ」

 

 ユーハバッハは否定しなかった。

 

 けれど。

 

「私が知らぬとでも思っていたか、山本元柳斎」

 

 ユーハバッハの声が返る。

 

「卯ノ花八千流」

 

 不意にその名が出た。

 

 山本の眼光が鋭くなる。

 

「あの女もまた、我々が特記戦力に定めた一人だ」

 

「…………」

 

「未知数の――『剣術』」

 

 千年前の卯ノ花八千流についての記録は残っている。

 

 だが、その後の千年。

 

 その剣理がどこまで進んだのかを、見えざる帝国は把握できていない。

 

 時折、影からの監視はされていたが、滅却師たちは誰もが、その理を理解できないのだ。

 

「斬魄刀の異能ではない。卯ノ花八千流自身の剣術。その底が知れぬ」

 

 ユーハバッハが残火の太刀を下ろす。

 

「故に、皆尽への対処は容易い」

 

 その足元に影が広がった。

 

「届かぬ場所へ行けばいい」

 

「――!」

 

 次の瞬間、山本とユーハバッハの姿が消えた。

 

 血の海だけが、その場に残された。

 

     ◇

 

 四番隊舎の屋根の上で、卯ノ花が顔を上げる。

 

 山本の霊圧が、一瞬で遠ざかった。

 

 皆尽を通して残火の太刀へ及ぼしていた作用も、同時に途切れる。

 

「総隊長……」

 

 勇音の声が背後から聞こえた。

 

「ここをお願いします」

 

「卯ノ花隊長!?」

 

 返事を待たず、卯ノ花は屋根を蹴った。

 

 皆尽は解かない。

 

 血に濡れた刀を手にしたまま、山本の霊圧を追う。

 

     ◇

 

 流魂街最外縁。

 

 荒れ果てた大地へ、二つの影が現れた。

 

 そこに血の海はない。

 

 ユーハバッハの手にある残火の太刀から、絡みついていた赤い血が滑り落ちるように消えていく。

 

 皆尽の作用が届かない。

 

 ユーハバッハが残火の太刀を掲げた。

 

 今度は、それを阻むものがない。

 

 熱が膨れ上がった。

 

 炎は見えない。

 

 それでも大気は一瞬で乾き、地面から水分が奪われていく。

 

 山本は一歩も退かなかった。

 

 卍解は奪われた。

 

 しかも、その力を握っているのは千年前に討ち損じた敵。

 

 それでも、山本元柳斎重國から失われたのは残火の太刀だけだった。

 

 斬術。

 

 白打。

 

 瞬歩。

 

 鬼道。

 

 千年以上をかけて磨き上げてきた斬拳走鬼の全てが残っている。

 

 そして、残火の太刀を誰よりも知っているのも山本自身だった。

 

 ユーハバッハが刃を振り下ろすより早く、山本の姿が消える。

 

 瞬歩。

 

 次の瞬間には懐へ入り、流刃若火を横薙ぎに走らせていた。

 

 ユーハバッハが残火の太刀を引く。

 

 山本は刃を合わせない。

 

 触れれば流刃若火の方が消える。

 

 振り切る寸前で手首を返し、軌道を変える。喉へ向かった切っ先。その軌道上へ空中から霊子が集束し、一振りの刃を形作る。

 

 流刃若火を、その霊子の刃が受けた。

 

 金属音が響く。

 

 山本は押し込まず、刃を離すと同時に左拳を叩き込んだ。

 

 ユーハバッハの身体が後方へ飛ぶ。

 

 着地するより早く、山本が追う。

 

「破道の六十三――雷吼炮!」

 

 黄金の雷撃が荒野を走った。

 

 ユーハバッハが残火の太刀を振るえば、触れた雷光が掻き消える。

 

 だが、その先には既に山本がいた。

 

 振り抜かれた流刃若火をユーハバッハが躱し、残火の太刀を返す。山本は半歩だけ身体を外し、焼け焦げた刃を紙一重で通した。

 

 背後の大地が消えた。

 

「己の卍解を相手に、よく動く」

 

「誰の卍解だと思うておる」

 

 山本が再び踏み込む。

 

 斬撃を受け流されれば、そのまま拳へ繋ぐ。拳を防がれれば腕を掴み、体勢を崩す。ユーハバッハが残火の太刀を返せば瞬歩で死角へ抜け、鬼道を撃ち込む。

 

 卍解を奪われた山本は、残された技で戦っているのではない。

 

 己が磨き上げた全てを、惜しみなく使っていた。

 

     ◇

 

 瀞霊廷。

 

 黒崎一護が降り立った先に広がっていたのは、見慣れた尸魂界ではなかった。

 

 建物は崩れ、石畳は砕け、あちこちから煙が上がっている。

 

 死神たちの霊圧が少ない。

 

 少なすぎる。

 

 一護が拳を握り、走り出そうとした。

 

 その前へ、一人の男が降り立つ。

 

 金色の髪。

 

 静かな顔で剣を携え、一護の進路を塞いだ。

 

「……手前が親玉か」

 

 男――ユーグラム・ハッシュヴァルトは、一護を見つめた。

 

「そう見えるのなら、随分と都合の良い目をしている」

 

「何だと!?」

 

「お前が探している者は、ここにはいない」

 

 一護が天鎖斬月を握る。

 

「だったら、どこにいる」

 

「私を退けてから聞け」

 

 一護の霊圧が膨れ上がった。

 

 次の瞬間、黒い刃とハッシュヴァルトの剣が激突した。

 

     ◇

 

 流魂街で、大地の一角が消えた。

 

 残火の太刀が横へ走っただけだった。

 

 その軌道上にあったものが跡形もなく消し飛び、遅れて凄まじい熱が周囲を舐める。

 

 だが、山本は既にそこにはいない。

 

 ユーハバッハの背後へ回り、流刃若火を振り下ろす。

 

 その軌道上へ、空中から霊子が集束した。

 

 一振りの霊子の刃が瞬時に形を成し、流刃若火を受け止める。

 

 刃が噛み合った瞬間、山本は左手を柄から離した。

 

 拳がユーハバッハの顔面へ走る。

 

 ユーハバッハが身を捻って躱し、そのまま残火の太刀を横薙ぎに返す。山本は瞬歩で間合いを外した。

 

 残火の太刀が通過した先で、大地が跡形もなく消し飛ぶ。

 

 山本は知っていた。

 

 己が老いたことを。

 

 死神の肉体は、その心の在り様に大きく左右される。

 

 護廷十三隊の長として、威厳ある姿であらねばならぬ。

 

 そう考えるようになってから、山本の容姿は少しずつ老いていった。

 

 だが今にして思えば、その考えに至ることは、衰えた証左だったのだろう。

 

 土煙の中へ踏み込み、流刃若火を振るう。空中に生まれた霊子の刃がそれを受ける。山本は刃を返し、さらに一太刀。

 

 届かない。

 

 ユーハバッハの剣が返る。山本は刃を合わせず、半歩だけ身体をずらした。

 

 その攻防の中で、一人の女の姿が脳裏を過ぎる。

 

 己が剣術を極めることを至上と謳い、今なお剣の道を歩き続ける女。

 

 卯ノ花八千流。

 

 その容姿は、千年を経た今も妙齢な女のままだ。

 

 出会った頃の彼女は、今より幼い容姿をした少女だった。

 

 純粋無垢で、好奇心旺盛な人斬りの小娘。

 

 まるで矛盾するようであるけれど――その過程こそ褒められたものではないが――確かに彼女は直向きな求道者だった。

 

 残火の太刀が迫る。

 

 山本は身を沈めて灼熱の刃の下を抜け、そのまま懐へ潜り込む。左拳を叩き込み、受けた腕を掴んで引き寄せ、流刃若火を振るった。

 

 刃が交差する。

 

 

     ◇

 

 

『護廷十三隊は変わりました――けれど、それは弱くなったのだと――私は思いません』

 

 胸が震えた。

 

 剣に狂った愚かな娘。まさか彼女から、そのような言葉が出るとは思わなかった。

 

 もし明確に、己の老いや衰えに始まりがあるのだとしたら、山本にとってそれはあの時だ。

 

 ずっと己が先導に立たねばならないと考えていた。

 

 かつて己が集めた十二の怪物たちですら、一人、また一人と先に死んでいく。

 

 その中でただ一人、残り続けた女傑。

 

 その女が言ったのだ。

 

 護廷十三隊は、弱くなってなどいないと。

 

 ユーハバッハの霊剣が山本の肩を裂いた。

 

 血が飛ぶ。

 

 それでも膝はつかなかった。

 

 瀞霊廷では、今も賊軍が暴れているだろう。

 

 だが、卯ノ花がいる限り、全滅はない。

 

 ほんの少しでも息があるなら、彼女なら快癒させ得る。

 

 山本はそれを疑わない。

 

 他の隊長たちも、あれしきで倒されるほど弱くはないと信じている。

 

 たとえ一度負けたとしても、立ち上がる。

 

 自分が戻らねば護廷十三隊が終わるなどとは、もう思わなかった。

 

 二人の姿が再び消えた。

 

 斬撃が交差するたびに大地が裂け、残火の太刀が振るわれるたびに、その一部が消える。

 

 数刻。

 

 戦いの余波は、流魂街の広範囲を呑み込んでいった。

 

 後に判明することだが、東八十地区から東五十地区。

 

 実に三十もの区で、生きる魂魄が消滅した。

 

 他の隊長格ですら近づける戦場ではなかった。

 

     ◇

 

 卯ノ花は走り続けていた。

 

 皆尽の血が身体の周囲を流れている。

 

 遠くからでも分かる。

 

 残火の太刀が振るわれるたびに空気が変わり、大地が消え、その痕跡がこちらまで続いている。

 

 だが、皆尽の血に触れたところから、その過剰な作用は削がれていく。

 

 だから進める。

 

 他の者なら近づくことすらできない戦場へ、俺だけは進める。

 

 それでも距離がある。

 

「…………」

 

 山本の霊圧はまだある。

 

 弱くなっている。

 

 だが、消えてはいない。

 

 間に合え。

 

 瞬歩を重ねる。

 

     ◇

 

 天鎖斬月とハッシュヴァルトの剣がぶつかる。

 

 一護が押し込み、ハッシュヴァルトが受け流す。そのまま滑った刃を、一護が身を捻って躱した。

 

「月牙天衝!」

 

 黒い斬撃が放たれる。

 

 ハッシュヴァルトが横へ退き、月牙が崩れた建物を吹き飛ばした。

 

 一護はその煙の中へ飛び込む。

 

 天鎖斬月を上から振り下ろす。

 

 ハッシュヴァルトの剣が迎え撃った。

 

 激突。

 

 一護が目を見開く。

 

 刀身に罅が走っていた。

 

「――!?」

 

 ハッシュヴァルトの剣がもう一度走る。

 

 乾いた音が響いた。

 

 天鎖斬月が折れる。

 

 折れた刀身が宙を舞い、石畳へ突き刺さった。

 

 一護は、手元に残った斬月を見る。

 

「……嘘だろ」

 

 ハッシュヴァルトは剣を下ろさない。

 

「これで終わりだ」

 

     ◇

 

 山本の右肩が裂け、血が噴き出す。

 

 それでも流刃若火を振るう手は止まらない。

 

 下から斬り上げた流刃若火の前へ、空中から新たな霊子の刃が生まれる。ユーハバッハはそれで斬撃を受け止め、残火の太刀を突き出した。山本は身体を捻ったが、焼け焦げた切っ先が脇腹を掠めた。

 

 肉が消える。

 

「ぐ……!」

 

 山本の膝が沈む。

 

 千年前。

 

 目の前の男を殺しきれなかったが故に、今の惨状を招いた。

 

 盟友とも言える長次郎を失い、瀞霊廷を蹂躙され、多くの隊士が死んだ。

 

 山本は己が不明を恥じる。

 

 同じ過ちは、二度と許されない。

 

 三界の安寧のために。

 

 山本重國が、永き戦いの日々、研鑽の中で生み出した、残火の太刀。

 

 恐るべき卍解だ。

 

 皆尽が無ければ、まともに発動しようとすら思わない。

 

 その力が今、己に向けられている。

 

 ユーハバッハが残火の太刀を振り上げた。

 

 山本は立ち上がる。

 

 敗北は許されない。

 

 たとえ己が命が絶とうとも。

 

 両手両足もがれようと、己が歯で、奴の首を噛み斬ってみせよう。

 

 必ずや滅却師共の首魁を殺してみせよう。

 

 山本が地面を蹴った。

 

     ◇

 

 間に合わなかった。

 

 卯ノ花が辿り着いた時、戦場にはもう剣戟の音がなかった。

 

 焼けた大地。

 

 消し飛んだ丘。

 

 遠くまで続く破壊の跡。

 

 その中心に、山本元柳斎重國は倒れていた。

 

「…………」

 

 足が止まる。

 

 上半身と下半身が、離れている。

 

 皆尽の血が卯ノ花の周囲を流れ、残火の太刀が残した作用を相殺していく。

 

 だが、山本はもう動かない。

 

 その片手だけが、何かを固く握り締めていた。

 

 卯ノ花の目が細くなる。

 

 腕。

 

 ユーハバッハの腕だった。

 

 卍解を奪われ、自分自身(最強最古)の残火の太刀を向けられて、それでも最後まで戦い抜いた。

 

「……総隊長」

 

 声は、それ以上続かなかった。

 

 血の流れる刀を握り直し、顔を上げる。

 

 少し離れた場所に、ユーハバッハが立っていた。

 

 片腕を失いながらも、その手には残火の太刀がある。

 

 奪われた山本の卍解。

 

 それを持ったまま、ユーハバッハは卯ノ花を見た。

 

「ようやく姿を見せたな」

 

 初めて、視線が正面から交わる。

 

 皆尽は解かない。

 

 卯ノ花の足元から血が広がり、赤い水面が戦場を染めていく。

 

 残火の太刀が放つ作用も、その血に触れたところから削がれていった。

 

「卯ノ花八千流」

 

 ユーハバッハが残火の太刀を僅かに持ち上げる。

 

「千年を経て、どこまで剣を進めた」

 

 卯ノ花も刀を構えた。

 

「確かめてみますか」

 

 静かな声だった。

 

 足元の血が大きく波打つ。

 

 残火の太刀と皆尽。

 

 二つの卍解を挟み、互いが一歩を踏み出そうとした。

 

 その時。

 

 ユーハバッハの足元から影が伸びた。

 

「…………」

 

 ユーハバッハが僅かに空を見上げる。

 

 見えざる帝国が影の外で活動できる時間には限りがある。

 

 影が、その身体を呑み込み始めた。

 

「逃げるのですか」

 

「今日はな」

 

 ユーハバッハは残火の太刀を手にしたまま、影へ沈んでいく。

 

「お前の剣術は、我々にとって未知数の領域にある」

 

「…………」

 

「だが、如何に剣を極めようと、その剣が届かぬところでは何もできまい」

 

 この場に間に合わなかったことを揶揄するような口ぶりだった。

 

「次に会う時までに、精々剣を振っておくがいい」

 

「…………」

 

「その時こそ、底を見せてもらう」

 

 影が閉じ、ユーハバッハの霊圧が消えた。

 

 卯ノ花は刀を下ろさない。

 

 皆尽も解かなかった。

 

 しばらく、その場に立ち続ける。

 

 やがて視線を落とした先には、山本がいる。

 

 護廷十三隊総隊長。

 

 山本元柳斎重國。

 

 千年以上、護廷十三隊の頂点に立ち続けた男は、もう動かない。

 

 その手だけが、最後まで敵へ届いた証を握り締めていた。

 

 第一次侵攻は、終わった。

 

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