BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
尸魂界・中央地下大監獄。
最下層――「無間」。
巨大な扉が、重い音を立てて開いていく。
その向こうには、果ての見えない闇が広がっていた。
更木が一人、その中へ足を踏み入れる。
足音が、何もない空間へ響いていく。
やがて、その先に一人の女が立っていた。
長い黒髪を下ろし、白い隊長羽織を纏った四番隊隊長。
卯ノ花烈。
◇
俺は無間の奥で、更木が来るのを待っていた。
こうして更木と二人きりで剣を交えるのは、あの日以来になる。随分と長い時間が経ち、互いに姿も立場も変わって、今では同じ護廷十三隊の隊長としてここにいる。
それでも、これからすることだけは昔と変わらない。
やがて暗闇の向こうから足音が聞こえ、顔を上げると、更木がこちらへ歩いてきた。
「……ハッ」
更木が辺りを見回した。
「随分大仰な舞台じゃねえか、おい」
刀を肩へ担ぎ、更木が続ける。
「よくこんな場所の使用許可が下りたモンだぜ」
「『無間』――貴方に自在に剣を振るわせられるのは、ここを於いて他に無しと結論されたのです」
更木は黙って聞いている。
「でなければ、罪人でも無き我々に、この地に立ち入る許しなど出よう筈もありません」
更木の口元が吊り上がった。
「罪人でも無えだと? どの口が言いやがる。俺もあんたも力が無けりゃ、只の罪人だろうが」
更木の言うとおりだ。だからこそ――今の更木には。
「今の貴方には力が無い。だからこそ此処が相応しいと、私が進言したのです」
「……あァ、そうだろうと思ったぜ。良いじゃァ無えか」
更木の視線が真っ直ぐ俺へ向いた。
「勝てば隊長、負ければ罪人。あんたと戦り合って、死ぬも殺すも無間地獄にゃ変わり無え」
「……今日は随分と喋るのですね」
俺は更木を見つめた。
「私は寡黙な貴方が好きですよ。貴方の声を聞く度に、私についた唯一つの傷が疼いて仕方が無いのですから」
「ぬかせ。傷が疼いて仕方無えのが、てめえだけだと思うかよ」
更木の手が刀へ掛かる。
俺も柄を握った。
ほとんど同時に、互いの刃が向かい合う。
更木の口元には、獰猛な笑みが浮かんでいた。
それを見て、俺の口元にも自然と笑みが浮かぶ。
何百年もの時を隔てて、もう一度、更木剣八との斬り合いが始まる。
◇
史上最強と言われる初代十三隊。
その中で、十一番隊隊長を務め、今の十一番隊の原形を作った。
山本元柳斎重國に力を買われ隊長となる前は、尸魂界史上空前絶後の大悪人。
天下無数に在るあらゆる流派、あらゆる刃の流れは我が手にありと、自ら名付けた名を八千流。
京楽は手元の書類へ目を落としていた。
「斬術の手ほどきなんて、狡い言い方して御免よ」
誰に聞かせるでもなく、静かに言葉を続ける。
「更木隊長とあんたが一度刃を交えれば、どちらか死ぬしか無いって事は」
組んだ両手の向こうで、京楽の目が細くなる。
「ボクも解ってた筈なのに」
◇
四番隊隊舎。
病室の窓辺に、虎徹勇音が一人立っていた。
しばらく外を見つめていた勇音は、握りしめた一通の手紙に目を落とす。
封には、卯ノ花の名があった。
勇音はあふれる涙を止められない。
「卯ノ花隊長……」
◇
十一番隊隊舎。
誰もいない広い部屋へ、草鹿やちるが一人で入ってくる。
奥に敷かれた座布団の上には、眼帯が一つ置かれていた。
やちるが歩み寄り、それを手に取る。
遠く離れた無間から、聞こえるはずのない、地を這うような轟音が響いた。
手の中の眼帯を見つめたまま、やちるが小さく呟く。
「剣ちゃん……」
◇
刃が噛み合った瞬間、無間の空気が震えた。
更木は押し潰すように刀へ力を込め、そのまま俺ごと斬り伏せようと前へ出る。受け止め続ける必要はない。刃を僅かに傾けて力を横へ逃がすと、更木の刀は勢いを残したまま俺の肩口を通り過ぎた。
その腕が伸び切るより先に懐へ入る。
胸元へ刀を走らせると、更木は上体を捻って逃れようとしたが、間に合わない。白い死覇装が裂け、その下から血が噴き出した。
でも更木は止まらない。振り抜いた勢いのまま身体を回し、横薙ぎに刀を返してくる。身を沈めて躱せば頭上を刃が通り過ぎ、その下を潜るように脇腹へ一太刀を入れる。更木は斬られた身体のまま柄頭を叩き込もうとしたが、それも半歩外して肩を斬った。
「ハッ!」
傷が増えるほど、更木の笑みが深くなる。そのまま大きく踏み込み、今度は真っ向から刀を振り下ろした。
受ける。
重い。
だが、覚えている。
あの日、まだ幼かった更木の刀は、こんなものではなかった。
刃を滑らせて軌道を逸らし、すれ違いざまに腹を斬る。
更木の身体に、また一つ傷が増えた。
「眼帯を最初から外して来た事は褒めて差し上げましょう」
更木が血に濡れた口元を吊り上げる。
「ですが、眼帯を外せば貴方の底はそれまで」
「……ハッ。言ってくれるじゃねえか」
再び刃がぶつかった。
そこからは、同じことの繰り返しだった。
更木は前へ出る。斬られても、血を流しても、構わず俺を斬ろうとする。上段から振り下ろし、返す刀で薙ぎ払い、間合いを潰せば柄まで使う。俺はその刃を受け、外し、時には届く前に間合いそのものをずらした。
そして、空いたところを斬る。
何度繰り返しても、それは変わらない。
更木の身体には傷が増えていく。
俺には、一つもない。
あの日とは違った。
まだ幼かった更木と初めて刀を交えた時、こんな余裕はなかった。力も速さも反応も俺より上で、一太刀を凌ぐたびに次を考えなければ死ぬ。積み上げてきた技と経験、その全てを使って、ようやく食らいつけた相手だった。
目の前にいる男からは、それが失われている。
「弱い」
更木の刀が止まった。
「……俺が」
低い声が落ちる。
「弱くなったって言いてえのか」
返事を待つように、更木は俺を見ていた。
「ええ」
更木の口元から笑みが消えた。
次の瞬間、床が鳴った。
今までで最も深い踏み込みから刀が振り下ろされる。受けた刃を引かず、そのまま更木の刀身を滑らせて鍔元へ寄せる。そこで手首を返すと、更木の刀が外へ弾かれた。
刀は回転しながら闇の向こうへ飛び、離れた床へ突き立つ。
更木は追わなかった。
俺も追撃しない。
一歩だけ近づき、守りの消えた首へ刃を突きつけた。
無間から、音が消えた。
つい先ほどまで幾度も響いていた剣戟も、床を踏み砕く音もない。
更木は首元の刃にも、飛ばされた刀にも目を向けず、俺だけを見ていた。
「…………俺ァ」
長い沈黙のあと、更木が口を開いた。
「あんたに憧れた」
俺は何も言わなかった。
「木も虫も人も、何を斬っても同じだった。暗闇で一人、剣を振るのと何も変わらなかった。つまらねえ」
更木の声だけが、無間に響く。
「あんたと戦って初めて恐怖した。初めて戦いを愉しいと感じた」
その目は、目の前の俺を見ている。
けれど、その言葉が向いている先は、何百年も前に刀を交えた八千流なのだろう。
「あんたのように戦いてえと思った」
あの日のことを、俺も忘れてはいない。
死体の山の上にいた子供。
初めから俺より強かった子供。
そして最後の一太刀だけ、ほんの僅かに鈍った刃。
「……そのあんたに……」
更木の声が途切れる。
首元には、まだ俺の刀がある。
逃げようとはしない。
刀を拾おうともしない。
「……あんたに勝てずに……」
更木の顔が歪んだ。
「俺はここで死ぬのかよ……!」
切っ先を更木の首へ突き込んだ。
刃が首を深く貫き、噴き出した血が俺の羽織へ飛ぶ。
巨体から力が抜け、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
◇
目を開いた更木の前へ、俺の刀が迫る。
更木は反射的に身を捻った。
刃が頬を裂く。
「……ッ!」
間髪入れずに刀を振り上げてきた刀を半歩退いて躱し、返す刀で腹を斬った。
更木が後ろへ下がる。
首には、先ほど付き込んだはずの傷がない。
けれど、更木はそこへ目を向けない。
ただ俺を見ている。
「どうしました?」
「……何でもねえ」
更木が刀を握り直す。
その目に浮かんだ違和感が、すぐに戦いへの熱へ呑まれた。
◇
またか。
また意識が飛んでやがった。
これで何度目だ。
何度も何度も、戦いの最中で意識が飛んでは、また戦いに立ち戻る。
刀が横から迫る。受け止めた瞬間、刃を押し込まれるより先に力の向きが変わり、刀ごと身体を持っていかれた。
足が床を離れる。
そのまま横へ吹き飛ばされ、肩から床へ叩きつけられた。勢いは止まらず、何度も転がってようやく止まる。
けど、身体が止まった時にはもう床を蹴っていた。
立ち上がる勢いのまま刀を構え、再び斬りかかる。
意識が飛ぼうが、身体は何度でも戦いへ戻っていく。
――懐かしい。
戦いは愉しいが、その最中に我を忘れたり、意識が飛んだりしたことなんざ無え。
そんなことは、ただ一度。
まだ名も持たず、何を、誰を斬ろうと満たされない日々の頃。
何を斬ってもつまらなかった。
誰を斬っても足りなかった。
そんな俺の前に、初めて現れた。
斬っても斬っても終わらねえ奴が。
初めて、もっと斬りてえと思った。
初めて、終わってほしくねえと思った。
あの日だけだ。
◇
更木は嬉しそうに笑い、弾かれた刀をそのまま振り上げて頭上から叩きつけてくる。半歩外へ出て躱し、空いた脇腹を斬る。それでも更木は止まらず、斬られた勢いごと身体を回して横薙ぎに刀を返してきた。
身を引く。
切っ先が胸元を通り過ぎた。
戻ってきている。
最初は、俺の刀を受けることすらできなかった。
それが今は違う。
更木が再び踏み込んだ。
真正面から振り下ろされた刀を受け、重なる直前に刃を滑らせる。横へ逸れた刀の内側へ入り込み、そのまま胸を斬るつもりだった。
更木が一歩退いた。
切っ先が浅く胸を裂く。
追って刀を返すと、今度は下から上がってきた刃に止められた。触れた刀を横へ流しながら肩を狙うが、更木は上体を沈め、俺の刃の下へ潜り込んでくる。
更木の刀が胸元へ迫る。
身体を引いた。
切っ先が隊長羽織を裂いて抜けていく。
初めて、届いた。
何度も死線を越えるたび、更木の剣が戻っている。
受けることもできなかった。
避けることもできなかった。
それが今は、俺へ刃を届かせた。
あの日、最後に失われたものが。
少しずつ、戻ってきている。
更木が笑う。
そして、また刀が来た。
今度の刃は、先ほどより速い。
振り下ろされた刀を正面から受けると、重なった刃が軋んだ。押し込もうとする更木の力をまともに受けず、身体を開きながら刀を外へ流す。そのまま横へ抜けようとしたところへ、更木が踏み込んでくる。
近い。
流された刀を戻すより先に、更木が肩からぶつかってくる。
俺は後ろへ退かず、ぶつかる寸前に身体を半歩ずらした。肩が脇を抜けるのに合わせて刀を返し、更木の背へ斬り込む。
血が散る。
更木は振り返りざまに刀を振るった。身を沈めてその下へ潜り、懐へ入る。腹を横に斬り裂き、さらに首へ向けて刃を返すが、その途中で更木の刀が割り込んだ。
刃同士がぶつかる。
さっきよりも、早い。
「ハッ!」
鍔迫り合いのまま更木が笑った。
力任せに押し切ろうとする刀を横へ外し、空いた胸へ踏み込む。更木も同時に刀を引き戻し、互いの刃が至近距離で交差した。
俺の刀が先に届く。
胸から肩へ深く斬り上げると血が噴き出し、それでもすぐ後ろを更木の刀が追ってきた。上体を反らせた鼻先を刃が通り過ぎる。
近づいている。
ほんの少し前までなら、俺が斬った時点でそこで攻防は終わっていた。
今は違う。
斬られても、その先がある。
更木は自分でも気づかないまま、俺の剣についてきている。
あの日とは逆だ。
まだ幼かった子供と斬り合った時、俺は最初から追う側だった。力も速さも、反応も、何一つ敵わない。それでも技と経験だけで食らいつき、一度見た剣を次には返しながら、どうにか離されないよう追い続けた。
そして最後に、あの子の刃が僅かに鈍った。
あの日、最後に閉じたものを。
今は俺が、一つずつ開いている。
更木が来る。
刀を受けて流し、返した刃で肩を斬る。更木は身体を捻って傷を浅くし、そのまま横から刀を振り込んできた。後ろへ外れて躱した俺を追ってさらに一歩踏み込み、返す刀を今度は下から斬り上げる。
二度続けて躱したところで、今度は俺から入った。
踏み込みと同時に胸へ突き出した切っ先を、更木が刀の腹で外へ弾く。その勢いに逆らわず身体を回し、そのまま首へ刃を返すと、更木は上体を仰け反らせた。
切っ先が首の皮を浅く裂く。
次の瞬間、更木の足が床を踏み抜いた。
追ってきた刀を受ける。これまでより強い衝撃が腕へ伝わり、刃を滑らせて外へ逃がしても、更木はその動きについてきた。流された先から強引に刀を返し、もう一度、肩口へ振り下ろしてくる。
横へ出る。
刃が羽織を掠めた。
更木はそのまま床を蹴り、さらに追ってくる。
楽しい。
思わず、口元が緩んだ。
これを待っていた。
何百年も前から、ずっと。
更木の刀が迫る。
今度は流さず、正面から受けた。
重い。
けれど、まだ足りない。
あの日の子供は、もっと強かった。
もっと速かった。
もっと――俺の剣を追い詰めた。
重なった刃を押し返すと、更木の身体が僅かに開いた。その隙へ踏み込み、胸を深く斬り裂く。
血が俺の頬まで飛んだ。
それでも更木は刀を振り上げようとする。
真横に斬り裂き、血が空に飛び散る。
刀を握った手から力が抜けた。
更木の身体が傾いていく。
今度は、どこまで戻るだろう。
倒れていく更木を見ながら、俺は刀を下ろした。
◇
更木の目が開く。
起き上がるより先に刀が動いた。
床へ倒れたまま横から振るわれた刃を退いて躱すと、更木はその勢いで身体を起こし、踏み込んでくる。振り下ろされた刀を受けて外へ流し、返す刃で胸を狙った。
更木の刀が間に入る。
止められた。
そのまま刃を押しつけてくる力も、先ほどより重い。
俺は押し合わずに刀を傾け、力を逃がしながら横へ回る。更木も離れずについてきた。肩を狙って返した刃を受け、弾き、そのまま俺の首へ刀を走らせる。
身を沈めると、頭上を刃が通り過ぎた。
近い。
もう、最初の頃とは比べものにならない。
更木の腹へ斬り込む。刃が肉へ食い込んだところで、更木は後ろへ逃げず、逆に一歩踏み込んできた。
間合いが潰れる。
すぐ目の前に、更木の笑った顔があった。
「ハッ!」
振り下ろされた刀を咄嗟に受ける。
重い。
足元の床が砕けた。
刃を横へ滑らせ、その力を逃がしながら更木の外側へ回る。脇腹へ返した刀は浅く肉を裂いたが、更木も身体を回し、ほとんど同時に刀を振り抜いてきた。
避けきれない。
切っ先が肩を裂いた。
熱が走る。
傷口から血が流れ、白い死覇装を赤く染めていく。
俺は傷へ一度だけ目を向けた。
届いた。
さっきは羽織だけだった。
今度は、俺を斬った。
胸の奥が熱くなる。
ずっと待っていたものが、目の前まで来ている。
更木が再び踏み込む。
俺も前へ出た。
正面から重なった刀を滑らせ、そのまま互いに身体を入れ替える。振り向きざまに首を狙った刃を更木が受け、返された刀を俺も受ける。弾いて斬る。躱される。追って返した刃も止められ、その直後には更木の刀が俺の胸元へ迫っていた。
身体を捻る。
刃が脇腹を裂いた。
血が散る。
それでも、笑みが消えない。
あの日の子供が近づいてくる。
力も。
速さも。
俺の刀へ食らいついてくる、その感覚も。
更木が大きく踏み込んだ。
振り下ろされた刀を受けた瞬間、腕が沈む。流そうと刃を傾けたが、更木はその動きより先に踏み込みを深くし、逃がすはずだった力ごと俺へ押し込んできた。
なら、流さない。
正面から押し返す。
二つの刀が軋み、更木の笑みがさらに深くなった。
次の瞬間、互いに刃を外した。
俺は首へ。
更木も刀を振るう。
同時に踏み込む。
俺の切っ先が更木の頬を裂いた。
その直後、首筋に刃が食い込んだ。
肩口まで深く斬り裂かれ、血が噴き出す。
深い。
それでも、俺は更木から目を逸らさなかった。
戻った。
あの日の子供が、ようやくここまで。
◇
入った。
刃が首筋へ食い込み、そのまま肩口まで深く斬り裂いた。
血が噴き出す。
確かな手応えがあった。
今のは浅くねえ。
殺った。
そう思った。
「死んだと思いましたね?」
「…………」
傷口へ自ら指を突き込み、そのまま回道を流し込んでいる。
裂けた肉が塞がっていく。
「私が何の為に回道を修めたか、貴方が知らぬ筈は無いでしょうに」
思わず笑みが溢れた。
死なねえ。
あんたは、まだ死なねえ。
だったら――まだ斬れる。
傷が塞がるのを待つ必要もなかった。
踏み込んで刀を振り下ろすと、回道を使ったまま俺の刃を受けた。重なった刀を力任せに押し込むが、刃を滑らされ、身体ごと横へ抜けられる。
すぐに追う。
振り向きざまに薙いだ刀を躱され、そのまま返ってきた刃を受け止める。弾いて踏み込み、今度は首へ振るう。刀がぶつかり、甲高い音が無間に響いた。
近い。
顔を上げれば、すぐ目の前にあんたがいる。
斬っても死なねえ。
殺しても終わらねえ。
まだ斬れる。
まだ戦える。
腹の底から、何かが込み上げてきた。
「ハハッ……!」
抑えられねえ。
「ハハハハハハハハッ!!」
刀を握る手に、さらに力が籠もる。
愉しい。
こんなに愉しい戦いが、まだ終わらねえ。
◇
笑い声が無間に響く。
更木が踏み込み、刀を振り下ろした。
受けた瞬間、腕へ伝わる重みがそれまでとは違う。刃を傾けて横へ流そうとすると、更木は逃げる力の向きに合わせて踏み込み、刀を押しつけたまま身体ごと追ってきた。
俺は足を引かず、刀を滑らせながら半身になる。肩口を抜けた刃の脇へ入り、そのまま胴へ刀を返した。
更木が受ける。
ぶつかった刃を押し返され、その勢いから更木の刀が跳ね上がった。首を狙った一撃を身を反らして躱し、空いた胸へ踏み込もうとする。
その前に、更木も前へ出た。
間合いが潰れ、横から刀が迫る。
受けて外へ流す。
重い。
それでも、まだ押し返せる。
刃を弾き、更木の外側へ回りながら首を狙った。更木はそれを受け、今度は俺の刀を外へ弾く。そのまま踏み込み、返された刃が頬を掠めた。
血が一筋、頬を伝う。
「ハハハハハッ!!」
更木が笑っている。
俺も笑っていた。
戻った。
さっき首筋へ受けた一太刀だけではない。
今、目の前で振るわれている剣そのものが、俺の知っているものへ戻っている。
更木が床を蹴った。
俺も同時に踏み込む。
真正面から刀がぶつかり、衝撃で足元の床が砕ける。押し込まれる力を受けながら刃を滑らせ、更木の刀を外へ流した。そのまま首へ返した刀を受けられ、すぐに弾き返される。
更木は止まらない。
弾かれた刀をそのまま返し、斜め下から胴を狙ってくる。半歩退いて躱すと、その分だけ踏み込んで間合いを詰めてきた。
速い。
あの日の子供が振るっていた剣だ。
けれど、あの頃とは違う。
俺が違う。
あの頃は、この剣に追いつくだけで精一杯だった。
一度見た剣を次には返し、持っている技と経験のすべてを使って、それでも離されないよう食らいついた。
それから何百年も経った。
俺はその間も、剣を振り続けてきた。
更木の刀が迫る。
振り下ろされる刃へこちらから刀を合わせ、触れた瞬間に力を横へ逃がす。更木の身体が僅かに開いたところへ踏み込み、胸を狙って刀を走らせた。
刃が間に入る。
止められた。
なら、その先へ。
触れた刃を押さえながら身体を入れ替え、刀を滑らせて首へ返す。更木は頭を傾けて躱し、切っ先が頬を浅く裂いた。
直後、更木の刀が腹へ迫る。
身体を捻ると、刃が死覇装を裂いて抜けた。
互いに振り向く。
更木はもう来ている。
振り下ろされた刀を受け、横へ流したところへ次の一撃が返ってくる。今度は流さず押し返し、空いた肩へ刀を振るうが、それも更木の刃に止められた。
斬る。
受けられる。
返される。
躱して、また斬る。
今まで俺だけが繋いでいた攻防が、途切れない。
更木がついてくる。
胸の奥が熱くなった。
ようやく戻ってきた。
何百年も前。
俺が超えると決めた、あの子の剣が。
あの日は、最後まで届かなかった。
だから剣を振った。
もっと強くなるために。
そして今、もう一度この剣が目の前にある。
今度こそ。
俺の剣で――超える。