BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第五章 選び選ばせる

 

 新太と向かい合った。

 

 昨日までは隣に立ち、同じ方向を向いて棒を振っていた相手だ。

 

 今日は違う。

 

「…………」

 

 新太が構えると、見慣れているはずなのに、正面からは妙に大きく見えた。

 

「そんな緊張すんなよ」

 

「しているように見えますか?」

 

「見える」

 

「…………」

 

 自分でも、棒を握る手に力が入っているのが分かる。

 

「握り過ぎだ」

 

 宗玄の声に力を抜く。

 

「肩」

 

 肩を落とす。

 

「足」

 

 足を直し、いつも通りの構えに戻る。

 

 それでも、新太が目の前にいるだけで身体が少し固い。

 

「始めろ」

 

 新太が踏み込んだ。

 

 棒が来る。

 

 右。

 

 そう思って身体を引いた次の瞬間、左の肩を叩かれた。

 

「…………」

 

 痛い。

 

「もう一度お願いします」

 

「待て」

 

 宗玄の声が飛ぶ。

 

「どこを見る」

 

「…………棒を」

 

「お前は棒に斬られるのか?」

 

「…………」

 

 違う。

 

 新太だ。

 

 もう一度、正面の新太を見る。

 

 今度は棒だけを追わない。

 

 足が沈み、腰が動き、肩が続く。その先から棒が来る。

 

 身体をずらすと、棒が頬の前を抜けた。

 

「…………」

 

 避けられた。

 

 けれど、次も同じように肩の動きを見て外れようとすると、今度は頭を打たれた。

 

「…………」

 

 同じではない。

 

「一回避けられたから、変えた」

 

「そうですか」

 

 思わず笑った。

 

「何で笑うんだよ」

 

「いえ」

 

 一度分かったと思ったものが、もう通じない。

 

 なら、また見ればいい。

 

         ◇

 

 翌朝。

 

 ――ヒュンッ。

 

「もう一度」

 

 昨日までと同じ素振り。

 

「…………」

 

 違う。

 

 今までは目の前に何もなかった。ただ教わった形の通りに振っていた。

 

 でも今日は、新太が頭に浮かぶ。

 

 ここに新太がいたら。

 

 この振り方で当たる?

 

 もう一度振る。

 

 今のは届かない。

 

 足をほんの少し変えようとして。

 

「勝手に変えるな」

 

「…………」

 

 ばれた。

 

「申し訳ありません」

 

「今は形を覚えろ」

 

「はい」

 

 元へ戻す。

 

 それでも頭の中では考えていた。

 

 この形は何のためにある?

 

 どこを斬る?

 

 相手が避けたら、次は?

 

 同じ形をもう一度振る。

 

 昨日まで何度も繰り返したものなのに、その向こうに新太がいるだけで、考えることが増えていた。

 

         ◇

 

 新太が打ち、俺が避ける。

 

 それを繰り返した。

 

 最初は棒が来てから動いていた。

 

 少し経つと、新太が動くところから見られるようになった。

 

 さらに続けると、当たらないためにどこへ動けばいいのかも分かってきた。

 

 大きく下がっても、横へ離れても、新太の棒は届かない。

 

 やがて、新太の棒はほとんど当たらなくなった。

 

 また大きく下がって棒を避けたところで、宗玄が呼んだ。

 

「清子」

 

「はい」

 

「斬らないのか?」

 

「…………」

 

 新太との間が空いている。

 

 これでは、俺の棒も届かない。

 

 宗玄が棒を取り、新太の前に立つ。

 

「新太、打て」

 

 新太が横から振ると、宗玄は僅かに身体をずらしてその軌道を通し、ほとんど同時に棒を新太の首筋で止めた。

 

「もう一度」

 

 今度は上から振り下ろされる。

 

 宗玄は大きく退かない。棒が身体の脇を通るだけの幅をずらし、返した棒を新太の脇腹へ触れさせた。

 

「…………」

 

 近い。

 

 新太の棒は当たっていない。

 

 でも、宗玄の棒は届いている。

 

「今のは、避けたのでしょうか」

 

「違う」

 

 宗玄が棒を下ろす。

 

「避けてから斬れば二つだ。外れながら斬れば一つだ」

 

「…………」

 

 別々だったものが一つに繋がる。

 

 避けてから斬るのではない。

 

 斬るために外れる。

 

 だから宗玄は近くに残り、相手の棒だけを通して、自分の棒を届かせられる。

 

 同じ一歩なのに、俺がやっていたこととはまるで違う。

 

「外れろ」

 

「…………」

 

 宗玄は、それだけ言って、棒を置いた。

 

         ◇

 

 外れる。

 

 言葉は簡単だった。

 

 やってみると、まるでできなかった。

 

 大きく動けば新太から離れ、近くに残れば打たれる。

 

 肩。

 

 頭。

 

 腕。

 

 何度も棒が当たった。

 

 それでも、少しずつ動く幅を小さくしていった。

 

 新太の棒が通る場所からだけ、自分を外す。

 

 それ以上は動かない。

 

 できたと思えば、次は当たる。

 

 同じように動いたつもりでも、新太の振り方が違えば同じ場所にはいられない。

 

 晴れた日も、雨のあとも、何度も向かい合った。

 

 そのうち、避けるだけだった稽古に受けることが加わった。

 

 新太の棒を自分の棒で受ける。

 

 最初は衝撃に押され、次は止めようとして力み、宗玄に肩を叩かれた。

 

 避ける時とは、また違う。

 

 それにも慣れ始めた頃、今度は俺が打つ側になった。

 

 初めて新太へ向けて棒を振る。

 

 当たらない。

 

 もう一度。

 

 また外される。

 

 素振りなら振った場所を刀が通るが、人を相手にすると、その場所から相手がいなくなる。

 

「…………」

 

 面白い。

 

         ◇

 

 何度振っても外されるうちに、新太が大きく横へ動くことに気づいた。

 

 正面へ振る。

 

 新太が外れる。

 

 そこへ次の一撃を置く。

 

「っ」

 

 棒が新太の腕に触れた。

 

「…………」

 

 当たった。

 

 新太が自分の腕を見る。

 

「今の、狙った?」

 

「はい」

 

 新太が構え直す。

 

「今度は当たらねえぞ」

 

「…………では、別の方法を考えます」

 

 新太の顔が引きつった。

 

         ◇

 

 新太の棒が横から来た。

 

 大きく下がらない。

 

 棒が通る場所から、ほんの少しだけ身体を外す。

 

 目の前に新太が残る。

 

 そのまま棒を返した。

 

 こつ。

 

「…………」

 

 俺の棒が新太の胸元に触れ、その横では新太の棒が俺の肩を通り過ぎていた。

 

 初めて、宗玄が見せたものに少しだけ近づいた。

 

「当たったな」

 

「はい」

 

「でも次は無理だぞ」

 

「はい」

 

 新太が笑う。

 

 俺も構え直した。

 

 違う動きをする新太を、早く見たかった。

 

         ◇

 

 ある日、宗玄が棒を取った。

 

「今日は俺とやれ」

 

「…………師匠と?」

 

「ああ」

 

 向かい合う。

 

 今まで何度も、新太を相手にする宗玄を見てきた。ほとんど大きく動かず、相手の攻撃を外し、自分の棒だけを届かせる。

 

 今度は、それを自分で受ける。

 

「来い」

 

「はい」

 

 踏み込んで斬り下ろす。

 

 宗玄が僅かに外れ、棒が首筋へ触れた。

 

「…………」

 

 もう一度。

 

 横へ振っても、突いても届かない。俺が仕掛けるたびに宗玄は後から動くのに、当たるのは宗玄の棒だけだった。

 

 何度か繰り返して、ようやく気づく。

 

「師匠は、私が動いてから動いていますね」

 

「ああ」

 

「それなのに、師匠の方が先に当たる」

 

「ああ」

 

 今度はすぐに仕掛けず、宗玄を見る。

 

 動かない。

 

 なら、動くまで待つ。

 

 それでも宗玄は動かなかった。

 

「合わせるだけなら、後手だ」

 

「…………」

 

 相手を見て、相手が変われば自分も変える。

 

 それだけでは、相手が先になる。

 

「では、先に動けばよいのでしょうか」

 

「違う」

 

 どうすればいいのだろう。

 

         ◇

 

 新太と向かい合う。

 

 今度は打ち合わず、新太が動くところだけを見る。

 

 俺の棒の位置が変われば、新太の構えも僅かに変わる。半歩近づけば、打ちやすい場所も変わった。

 

「…………」

 

 俺が変われば、新太も変わる。

 

 なら。

 

「相手がどう動くかも、こちらから変えられる?」

 

 宗玄は答えなかった。

 

「今度は、新太に選ばせろ」

 

「…………」

 

 選ばせる。

 

 試しに右を空けると、新太の目が動いた。

 

 来ると思ったが、棒は左から来た。

 

「…………」

 

「分かりやすいぞ」

 

「そうですか」

 

 なら、別のやり方を探す。

 

 今度はただ隙を作るのではなく、普通に打ち合う中で少しだけ右を空けた。

 

 新太の視線が動く。

 

 右。

 

 外れて返すと、棒が肩へ触れた。

 

「…………」

 

 今度は当たった。

 

「誘うなら、相手が選びたくなる方を作れ」

 

 宗玄の声が飛ぶ。

 

 空いているだけではない。

 

 打ちやすい方。動きやすい方。その先へ続けやすい方。

 

 そう考え始めると、見るものがまた増えた。

 

         ◇

 

 だが、宗玄には通じなかった。

 

 右を空けても動かない。距離を変えても、構えを変えても反応しない。

 

「お前、俺に選ばせようとしてるな」

 

「…………はい」

 

「相手を動かそうとするな」

 

「動いた相手を見ろ。何度も見ろ。覚えろ」

 

 それだけ言って、宗玄は下がった。

 

 もう一度、新太と向かい合う。

 

 今度は何も作らず、普通に斬る。新太は受け、追えば下がり、離れれば入ってくる。

 

「…………」

 

 誘わなくても、新太は選んでいる。

 

 何度も繰り返すうちに、その選び方にも偏りが見えてきた。遠いところから突けば右へ外れることが多く、斜めを受けた後は下がることが多い。

 

 なら。

 

 斜めを受けさせて横へ振ると、新太が下がった。その場所へ、もう棒を出していた。

 

 こつ。

 

「痛っ」

 

 新太が目を見開く。

 

「俺が下がる前に出してなかった?」

 

「はい」

 

 下がるのを見てからではない。何度も見たから、そこへ来ると思った。

 

「今のは後手か」

 

「…………いいえ」

 

「何でだ」

 

「新太が下がるのを見てから突いたわけではありません」

 

「先に動くのが先手じゃない」

 

「…………」

 

「先に決めた方が先手だ」

 

「…………」

 

 相手がそこへ来るなら、そこへ斬る。

 

 もう一度同じように突くと、今度の新太は下がらず横へ外れた。

 

「決めつけるな」

 

 宗玄の声が飛ぶ。

 

「相手は変わる」

 

「…………ふふ」

 

「また笑ってるぞ」

 

「難しいので」

 

「意味分かんねえ」

 

 新太が呆れながら構え直し、俺もそれに応じた。

 

         ◇

 

 宗玄は、二人の稽古を縁側から見ていた。

 

 清子が振る。

 

 新太が外れ、返す。

 

 清子も外れようとして、肩を打たれた。

 

「もう一度お願いします」

 

「ちょっと待て。休ませろ」

 

「…………」

 

 清子は棒を下ろした。

 

 新太がその場に座り込む。

 

 清子は休んでいる間も、さっき自分が立っていた場所と、新太の足元を交互に見ていた。

 

 刀を振るのが好きなのだと言っていた。

 

 それだけではないらしい。

 

 相手がいて、読めず、思い通りにならない

 

 だから考え、変える。届けば、相手も変わる。

 

 その繰り返しを、清子は一人で棒を振っているときより明らかに楽しんでいた。

 

「………人を相手にするのが好きか」

 

 今はまだ、新太の方が強い。

 

 積み重ねた年月も、経験も、技も違う。

 

 だが。

 

 あの女が新太を追い越したあと、何を見るのか、今は分からない。

 

 一つだけ分かる。

 

 あれは、剣を振れるだけでは満足しない。

 

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