BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい   作:まいちー

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第七章 先へ

 

 俺は踏み込んだ。

 

 宗玄の棒が動くのに合わせて身体を外し、そのまま俺の棒も走る。

 

 ――カンッ!

 

 ぶつかった棒を返せば、宗玄もすぐに変わる。それを追うように俺も動いているうちに、右、左、横、斜めといった言葉は頭から消えていた。

 

 もう、何をしているのか一つずつ考えてはいない。ただ宗玄がいて、俺がいて、その間に剣がある。

 

 首へ走った棒を身体を沈めて外し、下から棒を返すと、宗玄が半歩退いた。追おうとした足を止めれば、宗玄もそこで止まる。

 

 一瞬、向かい合った。

 

 このまま入れば、宗玄は来る。どこへ来るのかまでは分からないが、それでも俺は一歩踏み込んだ。

 

 宗玄の棒が動くのと同時に、俺の身体も動いた。

 

 ――カンッ!

 

 今度は弾かれず、棒が残った。そのまま返すと宗玄が外れ、俺もさらに入る。

 

 また宗玄が変わる。

 

 速い。それでも、ほんの少しだけ追える。

 

「っ!」

 

 ――こつ。

 

 宗玄の棒が肩に触れた。

 

「終わり」

 

「……はい」

 

 負けた。

 

 けれど、以前のように何もできないまま終わったわけではない。何度か剣を交わし、宗玄が変わるたびに、それを追うことができた。

 

「もう一度お願いします」

 

 宗玄が少しだけ俺を見る。

 

「今日は終わりだ」

 

「…………」

 

 かなり残念だったが、仕方がない。

 

「はい」

 

     ◇

 

 少し離れたところでは、新太が地面に座っていた。

 

「何かさ」

 

「はい?」

 

「最近、俺いる意味ある?」

 

「…………」

 

 意味。

 

「ありますよ」

 

「本当か?」

 

「はい」

 

「即答だな」

 

「新太と稽古をするのは、とても楽しいので」

 

 新太が妙な顔をした。

 

「そういう意味じゃねえんだけど」

 

「?」

 

「いや、まあいい」

 

 頭を掻く新太から視線を外し、棒を片づけている宗玄を見る。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「明日は――」

 

「来なくていい」

 

「…………」

 

 俺は止まった。新太も宗玄を見る。

 

「親父?」

 

「何だ」

 

「今……」

 

「聞こえただろ」

 

 聞こえてはいた。だからこそ、意味が分からない。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「明日は休みでしょうか」

 

「違う」

 

「では」

 

「もう来なくていい」

 

 今度は、はっきり聞こえた。

 

     ◇

 

「理由を伺ってもよろしいでしょうか」

 

「ああ」

 

 宗玄が俺を見る。

 

「もう教えることがない」

 

「…………」

 

「嘘だろ」

 

 新太が口を挟んだ。

 

「まだ親父に一本もまともに取れてねえじゃん」

 

「勝つまで教えるとは言ってない」

 

 それはそうなのだが。

 

「ですが、師匠は私より遥かに強いです」

 

「ああ」

 

「なら、まだ教えていただけることが――」

 

「強い奴が全部教えられると思うな」

 

 宗玄が棒を地面へ置いた。

 

「立て」

 

「はい」

 

「刀」

 

 腰の刀を抜く。

 

「振れ」

 

「はい」

 

 構えて斬る。

 

 ――ヒュンッ。

 

「もう一度」

 

 ――ヒュンッ。

 

「横」

 

 振る。

 

 ――ヒュンッ。

 

「斜め」

 

 ――ヒュンッ。

 

「突き」

 

 ――シュッ。

 

 宗玄がしばらく俺を見る。

 

「最初」

 

「あ……はい」

 

「全部駄目だった」

 

「はい」

 

 よく覚えている。

 

「立てなかった。歩けなかった。握れなかった。振れなかった」

 

「……はい」

 

 そこまで並べられると、少し悲しい。

 

「今はできる」

 

「はい」

 

「型も入った」

 

「はい」

 

「忘れ始めてる」

 

「はい」

 

「相手も見られる」

 

「はい」

 

 宗玄は少し間を置いた。

 

「相手に合わせるだけじゃなく、自分の剣に相手を入れることも覚えた」

 

 胸の奥が少し熱くなる。

 

「なら」

 

 宗玄が俺を見る。

 

「ここから先は、俺の剣を覚えるな」

 

「…………?」

 

 予想していなかった。

 

「師匠の剣を?」

 

「ああ」

 

「なぜでしょう」

 

「お前が俺になるからだ」

 

 宗玄が自分の刀へ手を置く。

 

「俺の立ち方、間合い、斬り方。全部真似して、俺より少し上手くなったところで、それは俺の剣だ」

 

 俺は黙った。

 

 以前、宗玄に言われた。今のお前は、自分の剣を作ろうとしている、と。

 

 あのときは、まだ早いと言われた。だが、今は。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「私の剣とは」

 

「知らん」

 

「…………」

 

 やはり教えてはくれない。

 

「自分で探せ」

 

「……はい」

 

     ◇

 

 少し寂しいと思った。

 

 尸魂界へ来て刀を拾い、一人で振った。襲われ、何もできず、だから剣を習おうと思った。

 

 宗玄を見つけ、断られても通い続けた。立つことから始まり、歩き、棒を振り、新太と向かい合った。打たれて、失敗して、それでも少しずつできることが増えていった。

 

 明日から、ここへ来ない。

 

 まだ実感が湧かなかった。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

「一つだけ」

 

「ああ」

 

 少し迷ったが、やはり聞いておきたかった。

 

「私はまだ、師匠から一本も取っておりません」

 

「だから?」

 

「…………」

 

 そう言われると困る。

 

「できれば、一度くらい取ってから行きたいのですが」

 

 宗玄が俺を見る。

 

「清子」

 

「はい」

 

「俺に勝つまでここにいるつもりか」

 

 少し考える。

 

「できれば」

 

「帰れ」

 

 即答だった。

 

 新太が吹き出す。

 

「親父、それはひでえだろ」

 

「うるさい」

 

「はい」

 

 俺も少し笑った。

 

     ◇

 

「清子」

 

「はい」

 

「外には、俺と違う剣を使う奴がいる」

 

 胸が少し高鳴った。

 

「俺より速い奴。力のある奴。間合いの違う奴。刀の違う奴」

 

「はい」

 

「考え方の違う奴もいる」

 

「……はい」

 

 聞くたびに、頭の中へ知らない剣士が増えていく。

 

「俺のところにいる限り、お前が見る剣は少ない」

 

 それは嫌だと、すぐに思った。もっと見たい。知らない剣を、もっと知りたい。

 

 宗玄が俺の顔を見る。

 

「分かったみたいだな」

 

「はい」

 

 腰の刀を見る。

 

「見てみたいです。いろいろな剣を」

 

「ああ」

 

「習えるなら、習いたいです」

 

「ああ」

 

 一瞬だけ考える。

 

「戦えるなら、戦ってみたいです」

 

「知ってる」

 

「…………」

 

 最初から知られていたらしい。

 

     ◇

 

 新太が立ち上がった。

 

「じゃあ、本当に行くのか?」

 

「はい」

 

「どこに?」

 

「…………」

 

 考えたが、答えはない。

 

「分かりません」

 

「決めてねえのかよ」

 

「剣を使う方を探そうかと」

 

「最初と同じじゃん」

 

「…………」

 

 確かに、最初もそうだった。

 

 剣を習おうと決め、剣を使える人を探した。そして宗玄を見つけた。

 

「でも、今度は少し違います」

 

「何が?」

 

「上手い方かどうかくらいは、以前より分かると思いますので」

 

 新太が笑った。

 

「そこだけかよ」

 

「大きな進歩です」

 

「まあな」

 

     ◇

 

 帰る前、俺は宗玄の前に立った。

 

「師匠」

 

「何だ」

 

 深く頭を下げる。

 

「ご指導、ありがとうございました」

 

「ああ」

 

 それだけだった。宗玄らしい。

 

 頭を上げ、その場を離れる。数歩進んだところで、後ろから声が飛んだ。

 

「清子」

 

「はい」

 

 振り返ると、宗玄はこちらを見ていた。

 

「刀を捨てるな」

 

 腰を見る。拾ったときからずっと使っている、錆びて刃こぼれした刀。

 

「もちろんです」

 

「ああ」

 

 捨てるわけがない。これを拾ったから、すべてが始まった。

 

 柄へ手を置き、もう一度頭を下げる。

 

「それでは、行って参ります」

 

「ああ」

 

     ◇

 

 歩き出す。

 

 今度は振り返らなかった。

 

 少し寂しい。それでも、それ以上にこれからが楽しみだった。

 

 宗玄とも新太とも違う剣。知らない流派に、知らない型、間合い、考え方。

 

 天下には、どれほどの剣があるのだろう。

 

 今の俺はまだ知らない。だからこそ知りたかった。

 

 一つ覚えたなら次を見る。それも覚えたなら、また次へ行く。いくらでもあるのなら、いくらでも見て、習えばいい。

 

 そしていつか、そのすべてを自分の身体へ残せばいい。

 

「……ふふ」

 

 足が自然と少し速くなる。

 

 それがどこへ繋がるのかなんて、まだ考えていなかった。ただ、次の剣を見たかった。

 

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