BLEACHの世界に転生した俺は、初代剣八になるらしい 作:まいちー
俺は踏み込んだ。
宗玄の棒が動くのに合わせて身体を外し、そのまま俺の棒も走る。
――カンッ!
ぶつかった棒を返せば、宗玄もすぐに変わる。それを追うように俺も動いているうちに、右、左、横、斜めといった言葉は頭から消えていた。
もう、何をしているのか一つずつ考えてはいない。ただ宗玄がいて、俺がいて、その間に剣がある。
首へ走った棒を身体を沈めて外し、下から棒を返すと、宗玄が半歩退いた。追おうとした足を止めれば、宗玄もそこで止まる。
一瞬、向かい合った。
このまま入れば、宗玄は来る。どこへ来るのかまでは分からないが、それでも俺は一歩踏み込んだ。
宗玄の棒が動くのと同時に、俺の身体も動いた。
――カンッ!
今度は弾かれず、棒が残った。そのまま返すと宗玄が外れ、俺もさらに入る。
また宗玄が変わる。
速い。それでも、ほんの少しだけ追える。
「っ!」
――こつ。
宗玄の棒が肩に触れた。
「終わり」
「……はい」
負けた。
けれど、以前のように何もできないまま終わったわけではない。何度か剣を交わし、宗玄が変わるたびに、それを追うことができた。
「もう一度お願いします」
宗玄が少しだけ俺を見る。
「今日は終わりだ」
「…………」
かなり残念だったが、仕方がない。
「はい」
◇
少し離れたところでは、新太が地面に座っていた。
「何かさ」
「はい?」
「最近、俺いる意味ある?」
「…………」
意味。
「ありますよ」
「本当か?」
「はい」
「即答だな」
「新太と稽古をするのは、とても楽しいので」
新太が妙な顔をした。
「そういう意味じゃねえんだけど」
「?」
「いや、まあいい」
頭を掻く新太から視線を外し、棒を片づけている宗玄を見る。
「師匠」
「何だ」
「明日は――」
「来なくていい」
「…………」
俺は止まった。新太も宗玄を見る。
「親父?」
「何だ」
「今……」
「聞こえただろ」
聞こえてはいた。だからこそ、意味が分からない。
「師匠」
「何だ」
「明日は休みでしょうか」
「違う」
「では」
「もう来なくていい」
今度は、はっきり聞こえた。
◇
「理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「ああ」
宗玄が俺を見る。
「もう教えることがない」
「…………」
「嘘だろ」
新太が口を挟んだ。
「まだ親父に一本もまともに取れてねえじゃん」
「勝つまで教えるとは言ってない」
それはそうなのだが。
「ですが、師匠は私より遥かに強いです」
「ああ」
「なら、まだ教えていただけることが――」
「強い奴が全部教えられると思うな」
宗玄が棒を地面へ置いた。
「立て」
「はい」
「刀」
腰の刀を抜く。
「振れ」
「はい」
構えて斬る。
――ヒュンッ。
「もう一度」
――ヒュンッ。
「横」
振る。
――ヒュンッ。
「斜め」
――ヒュンッ。
「突き」
――シュッ。
宗玄がしばらく俺を見る。
「最初」
「あ……はい」
「全部駄目だった」
「はい」
よく覚えている。
「立てなかった。歩けなかった。握れなかった。振れなかった」
「……はい」
そこまで並べられると、少し悲しい。
「今はできる」
「はい」
「型も入った」
「はい」
「忘れ始めてる」
「はい」
「相手も見られる」
「はい」
宗玄は少し間を置いた。
「相手に合わせるだけじゃなく、自分の剣に相手を入れることも覚えた」
胸の奥が少し熱くなる。
「なら」
宗玄が俺を見る。
「ここから先は、俺の剣を覚えるな」
「…………?」
予想していなかった。
「師匠の剣を?」
「ああ」
「なぜでしょう」
「お前が俺になるからだ」
宗玄が自分の刀へ手を置く。
「俺の立ち方、間合い、斬り方。全部真似して、俺より少し上手くなったところで、それは俺の剣だ」
俺は黙った。
以前、宗玄に言われた。今のお前は、自分の剣を作ろうとしている、と。
あのときは、まだ早いと言われた。だが、今は。
「師匠」
「何だ」
「私の剣とは」
「知らん」
「…………」
やはり教えてはくれない。
「自分で探せ」
「……はい」
◇
少し寂しいと思った。
尸魂界へ来て刀を拾い、一人で振った。襲われ、何もできず、だから剣を習おうと思った。
宗玄を見つけ、断られても通い続けた。立つことから始まり、歩き、棒を振り、新太と向かい合った。打たれて、失敗して、それでも少しずつできることが増えていった。
明日から、ここへ来ない。
まだ実感が湧かなかった。
「師匠」
「何だ」
「一つだけ」
「ああ」
少し迷ったが、やはり聞いておきたかった。
「私はまだ、師匠から一本も取っておりません」
「だから?」
「…………」
そう言われると困る。
「できれば、一度くらい取ってから行きたいのですが」
宗玄が俺を見る。
「清子」
「はい」
「俺に勝つまでここにいるつもりか」
少し考える。
「できれば」
「帰れ」
即答だった。
新太が吹き出す。
「親父、それはひでえだろ」
「うるさい」
「はい」
俺も少し笑った。
◇
「清子」
「はい」
「外には、俺と違う剣を使う奴がいる」
胸が少し高鳴った。
「俺より速い奴。力のある奴。間合いの違う奴。刀の違う奴」
「はい」
「考え方の違う奴もいる」
「……はい」
聞くたびに、頭の中へ知らない剣士が増えていく。
「俺のところにいる限り、お前が見る剣は少ない」
それは嫌だと、すぐに思った。もっと見たい。知らない剣を、もっと知りたい。
宗玄が俺の顔を見る。
「分かったみたいだな」
「はい」
腰の刀を見る。
「見てみたいです。いろいろな剣を」
「ああ」
「習えるなら、習いたいです」
「ああ」
一瞬だけ考える。
「戦えるなら、戦ってみたいです」
「知ってる」
「…………」
最初から知られていたらしい。
◇
新太が立ち上がった。
「じゃあ、本当に行くのか?」
「はい」
「どこに?」
「…………」
考えたが、答えはない。
「分かりません」
「決めてねえのかよ」
「剣を使う方を探そうかと」
「最初と同じじゃん」
「…………」
確かに、最初もそうだった。
剣を習おうと決め、剣を使える人を探した。そして宗玄を見つけた。
「でも、今度は少し違います」
「何が?」
「上手い方かどうかくらいは、以前より分かると思いますので」
新太が笑った。
「そこだけかよ」
「大きな進歩です」
「まあな」
◇
帰る前、俺は宗玄の前に立った。
「師匠」
「何だ」
深く頭を下げる。
「ご指導、ありがとうございました」
「ああ」
それだけだった。宗玄らしい。
頭を上げ、その場を離れる。数歩進んだところで、後ろから声が飛んだ。
「清子」
「はい」
振り返ると、宗玄はこちらを見ていた。
「刀を捨てるな」
腰を見る。拾ったときからずっと使っている、錆びて刃こぼれした刀。
「もちろんです」
「ああ」
捨てるわけがない。これを拾ったから、すべてが始まった。
柄へ手を置き、もう一度頭を下げる。
「それでは、行って参ります」
「ああ」
◇
歩き出す。
今度は振り返らなかった。
少し寂しい。それでも、それ以上にこれからが楽しみだった。
宗玄とも新太とも違う剣。知らない流派に、知らない型、間合い、考え方。
天下には、どれほどの剣があるのだろう。
今の俺はまだ知らない。だからこそ知りたかった。
一つ覚えたなら次を見る。それも覚えたなら、また次へ行く。いくらでもあるのなら、いくらでも見て、習えばいい。
そしていつか、そのすべてを自分の身体へ残せばいい。
「……ふふ」
足が自然と少し速くなる。
それがどこへ繋がるのかなんて、まだ考えていなかった。ただ、次の剣を見たかった。