ファミリアの登録を終えたアメスは、ベルとコッコロの二人を自分たちの拠点である小さなテントへと案内した。
「ここが私たちの今の拠点よ。少し狭いけれど、我慢してちょうだいね。それじゃあさっそく、二人に神の恩恵(ファルナ)を授けるわ」
まずはベルが簡易ベッドにうつ伏せになり、服の背中をはだけた。アメスがその白い背中に指先を這わせ、神の血を一滴垂らす。すると、神聖文字(ヒエログリフ)のステイタスが浮かび上がり、それを羊皮紙に写し取っていたアメスの手がピタリと止まった。
「……あら? 嘘、何これ……!?」
「ア、アメス様……? どうかしたんですか……?」
「いえ、なんでもないわ。凄いものを持っているのね、あんた」
アメスが驚いたのも無理はなかった。そこには、まだ眷属になったばかりのベルが、本来なら発現させるはずのない固有アビリティ――固有のスキルがはっきりと刻まれていたのだ。
ベル・クラネルのステイタス
• Lv.1
• 力: I(0) / 耐久: I(0) / 器用: I(0) / 敏捷: I(0) / 魔力: I(0)
• 《スキル》
• 英雄憧憬(アルゴノゥト)
• 英雄たちを憧れ抱けば抱くほど、ステイタスが爆発的に上昇する。また、あらゆる行動の成否に対して、その強い憧れの想いが補正を与える。
「英雄憧憬(アルゴノゥト)……。英雄への強い想いが、あんたの成長を限界以上に加速させるみたい。ふふ、やっぱりあたしの目に狂いはなかったわね」
「へへ……。僕、おじいちゃんからずっと英雄のお話を聞かされて育ったから、その影響かな……」
ベルは背中をさすりながら、嬉しそうに目を輝かせた。そして、思い出したように言葉を続ける。
「僕が七歳の頃、英雄になりたいって叔父さんたちと伯母さんたちに言ったら、まずはモンスターの巣に放り込れて、川底の岩に体をくくりつけて死の感覚を教え込むとされました」
ベルは満面のニッコリとした笑顔でそう言いのけた。
「…………え?」
「…………っ」
その凄惨極まりない幼少期の思い出話をあまりにも屈託のない笑顔で語られ、アメスとコッコロは完全にドン引きした。 テントの中の空気が一瞬で凍りつき、二人の顔からサーッと血の気が引いていく。
「べ、ベル……? それ、本当にあんたの家族よね……? 暗殺者の育成機関か何かの間違いじゃなくて……?」
アメスが引きつった笑みを浮かべながら尋ねると、コッコロもガタガタと震えながら、ベルを酷く哀れむような目で見つめた。
「ベルさま……よくぞ、よくぞご無事で今日まで生き延びてくださいました……。不肖コッコロ、これからは主さまの心と体を、全力で、人道的に、お守りいたします……!」
「あはは、大丈夫ですよ! 結局その時はおじいちゃんが泣きながら止めてくれたので、別の修行になったんです!」
本人が全く悪びれずに無邪気に笑う姿を見て、アメスは引きつった笑みを浮かべつつ、ベルの歪んだ戦闘英才教育に本気で頭痛を覚え始めていた。
「僕は七歳のときは泣いてましたけど段々と慣れちゃって、10歳のときはもうモンスターを素手で倒したんですよ!」
ベルが満面のニッコリとした笑顔でさらりと衝撃の過去を告白した瞬間、アメスとコッコロは同時に頭を抱えた。
「じ、10歳でモンスターを素手で……!? ちょっと待って、普通の10歳は木登りしたり虫捕りしたりして遊ぶ時期よ!? あなたの叔父さんたち、本当に何者なのよ……」
「ベルさま……。あまりの過酷さに、不肖コッコロ、胸が締め付けられる思いです……。これまでよくぞ、狂わずに真っ直ぐ育ってくださいました……(泣)」
ベルの規格外すぎる幼少期の武勇伝に、二人は深い眩暈を覚えながらも、「よし、それじゃあ次はコッコロに恩恵いれるとするわね」とアメスは神の切り替えを見せ、ベッドに横たわったコッコロの背中へ指先を走らせた。
浮かび上がった神聖文字(ヒエログリフ)を羊皮紙に写し取ると、アメスはまたしても驚きの声を上げた。
「……ちょっと、嘘でしょう!? コッコロたんは二つのスキルを最初から持っているわ!」
------------------------------
## コッコロのステイタス
* Lv.1
* 力: I(0) / 耐久: I(0) / 器用: I(0) / 敏捷: I(0) / 魔力: I(0)
* 《スキル》
* エルフと精霊の由来
* 自然や精霊との親和性を極限まで高める。精霊の加護を受けやすくなり、魔法の威力や回復効果、精神力(マインド)の回復速度が大幅に上昇する。
* 精霊の導き手
* 自身が認めた「主(あるじ)」の成長を補助し、主の精神的な疲労や状態異常を常に緩和する。また、主と共闘する際に自身の全能力値に上昇補正がかかる。
------------------------------
「エルフと精霊の由来だけじゃなくて、精霊の導き手まで……! 二つとも、コッコロたん自身の純粋な本質と、誰かを支えようとする強い意志がそのまま形になった素晴らしい才能よ」
「アメス様、過分なお言葉、恐れ入ります。この力、すべては主さまとファミリアのために捧げます」
コッコロは服を整えると、すぐにベルの前に跪き、小さな手を胸に当てた。
「ベルさま、私も神の恵みを授かりました。これからダンジョンという未知の地へ赴くにあたり、この二つの力を以て、この身を賭して主さまの盾となり、矛となり、お守りいたします。……主さまの叔父さまたちの過酷なシゴキにも負けないよう、全力でお仕えいたしますね」
「あ、ありがとう、コッコロちゃん! でも、僕も男の子だから、コッコロちゃんを守れるように頑張るよ!」
ベルのどこかズレた過去に戦慄しつつも、二人の強い絆と規格外の才能を目の当たりにしたアメスは、これからの『アメス・ファミリア』の未来に大きな期待を寄せるのだった。
翌日、ダンジョンへの初出撃を前に、ベルとコッコロは翌日ギルドに向かい、カリンから初心者装備を整えることにした。
カリンは二人の体格や予算をじっくりと見定めながら、ギルドの倉庫や提携している防具店から最適な装備をテキパキと見繕ってくれた。
「いいですか、ベルさん。まずは安全第一です。しっかり身を守るものを身につけてくださいね」
「はい、よろしくお願いします!」
カリンのアドバイスと手配によって、ベルの武器が「剣」になり、防具はアーマー系で固めることになった。
それは決して華美なものではなかったが、胸元や肩、前腕といった急所を硬質な金属プレートでしっかりと覆う、頑丈なアーマー系の防具だった。そして、腰の鞘にしっかりと収められた武器は一本の剣。特別な魔力はない量産品の鉄剣だったが、アーマーをまとったベルがそれを握ると、一端の冒険者らしい引き締まった雰囲気が一気に漂い始める。
「わぁ……! すごいです、体にぴったりで、すごく守られている感じがします!」
ベルが自分の胸当てを叩いて目を輝かせると、コッコロも愛用の槍杖を構えながら、嬉しそうに何度も頷いた。
「よくお似合いですよ、主さま。その頑丈なアーマーと剣があれば、ダンジョンの怪物どもなど恐るるに足りません。10歳の頃に素手で倒されていた主さまなら、これだけの装備があれば鬼に金棒ですね」
「あはは、コッコロちゃん、それはもう過去のことだよぉ……」
「よし、これで装備のフィッティングは完了です!」
カリンは満足そうに微笑みながらも、真剣な表情で二人の顔を見つめた。
「でも、装備が新しくなったからって調子に乗ってはダメですよ。準備ができたら、まずはダンジョンの心構えについての講義を行いますからね」
装備を整えた後、ギルドの一室でカリンとギルド長エイナのダンジョンとモンスターに関する勉強が始まることになった。
[b:テキスト]黒板の前に立ったカリンが教鞭でトントンと机を叩き、真剣な表情でベルを見つめる。
「いいですか、ベルさん。ここからがいよいよ本番です。基本の確認として、ダンジョンで強いモンスターが現れたときはどうするべきか問題を出すわ。はい、答えて!」
ベルは少し緊張しながらも、これまでの常識を信じて大真面目な顔で手を挙げた。
「はい! ええと……不意打ちで倒す!!」
「「「んなわけないでしょーーーっ!!」」」
間髪入れずに、カリンとエイナとコッコロは、息の合った鋭いツッコミを室内に響かせた。
「ベルさん、バカなこと言わないで! 強いモンスターに不意打ちなんて通用しません! 奇襲が失敗したらその時点で即死ですよ!?」
「そうよ、ベル君! 格上の怪物を前にしたら『全力で撤退する』のが冒険者の絶対の基本! 無謀と勇敢を履き違えたらダメ!」
受付嬢二人が声を荒らげる中、隣に座っていたコッコロも、いつもの穏やかな表情のまま静かに首を横に振った。
「主さま。不肖コッコロ、主さまの果敢な姿勢には感服いたしますが……もしそのような暴挙に出られるのでしたら、私のスキルを全て使ってでも主さまの体を羽交い締めにして、全力で地上へお連れ戻しいたします」
「ええっ!? コッコロちゃんまで!?」
開始早々、あまりの無茶苦茶な常識に、カリンたち講師陣の頭痛が早くも始まろうとしていた。
今回いかがでした。感想と評価お願いします、次回もお楽しみに