弟に代わってクリプタるのはいいんだけど 作:クリプター活躍求む
好評ならいつか続くかもしれない?
まぁ、当然そうする他ないだろう、と思っていた。
どうして未来を知っていながら、何もしないということができるだろうか。愛すべき弟を見捨てられるだろうか。
もちろん、心の贅肉がたっぷたぷだった私からすれば、選択肢は一つしかない。正直、将来を思うと嫌だったし、怖かったけど。
けれど、あの時、あの瞬間に握りしめられた、ちいさくてあたたかな弟の手。
大きく強く、きっと勇ましく変わるだろうその手を、失わせるわけにはいかないから。
傍から眺めるばかりの私は、我が愛おしき弟のために、この世界に足をつけて、
***
初めに意識が動いたのは、確かまだ自分で寝返りも打てない頃。
漠然とした意識の中に、本能に歪まず曲がらず、まっすぐに生きる意識があった。
とはいえまだ未熟な生まれたての身体だったからか、それについて深く考えることはなかった。
そのうち、私は二度目の生であると自覚して、その上で親を見た。
視界というものを認識し、世界を見た。
世界は、私を
どうやら私は、異常に影が薄いらしい。性格がどうこうとか、そういう理由でなく、一種の体質として。
一人で歩けるようになった頃には、周囲の人間から声をかけられることはなくなっていた。私から声をかければ私と話してくれた。けれど、そうでなければ気付かれない。やはり人は私を認識しにくいらしかった。
とはいえ、父も母も、私が赤子のうちは世話をしてくれた。そこに、一般的な愛のようなものはあまり感じなかったけれど。
そのうち弟が産まれたこともあって、私は父母に相手されることはなくなった。
そのころには既に前世というものを明確に認識していたから、あまり寂しく思うことはなかった。むしろ、無理に親子関係を築く必要がないことに安堵していた気がする。
そして、それ以上に私は歓喜していた。
それは、弟の誕生だ。
私の生に、意味が生まれた瞬間。色彩が与えられた時。
ちいさくて、やわらかくて、あたたかい。そんな命がベッドに横たわっていた。
幼い私はそっと手を伸ばして、生まれ落ちたいのちを祝福するように撫でた。
ふと自分が認識されづらくなっていることを思い出して、自ら父母に問う。
「このこのなまえは、なんでしょうか」
そこで初めて、私は歓喜したのだ。
たった四文字の言葉と、この手に触れるちいさないのち。
それが築く未来を、私は知っている。何より、私は彼を推していたのだから。
かつての記憶、あるいはこれからの記録。
物語として見ていたそれが真であるのだと、この世界であるのだと、あまりの事実に脳が揺らされた。
私は舞台に立っている。愛すべき物語を傍観する者ではなく、その場に生きるものとして。
驚愕、歓喜、混乱。いくら二度目の人生とはいえ、想定外の事実を簡単に飲み込むことはできなかった。
だからだろう。
その時、指先に触れた柔らかな衝撃が、すべてを吹き飛ばした。
「……ああ、
そっと撫でる私の指を、紅葉のような手が握りしめた。まだまともに目も開いていない、弟の手だった。
この子は生きている。なんて、あたたかいのだろう。
生の実感、人の温もり。その優しいいのちが、私の頭の中を埋め尽くした。
生きよう、この子のために。私の知る未来を、変えてしまおう。
温もりから生まれた決意が、胸を巡っていく。記憶を頼りに、将来の設計図を見出していく。
私の知る未来は、あまりに弟に対して残酷だ。そればかりは、私が、
愛おしい、私の弟。
世界から拒絶される私を見つけてくれた、私のしるべ。
たとえ、それがあなたの運命を奪うのだとしても、私は……姉たる
世界を敵に回しても、未来を変えることになっても。
我が人生は、あなたがために。
***
微睡みから目を覚ます。
どうやら立ったまま寝るとかいう快挙を成し遂げたらしい。影が薄いおかげで、誰かにばれることはなかった。
昨日、あまり寝なかったのがまずかったんだろうな、と一つあくびをこぼす。
かすかに涙で滲んだ視界の中、オルガマリー所長がキビキビと何かを語っている。きっと、ファースト・オーダーについてだろう。
懐かしい夢を見た。
ついにこの時が来た。来てしまった。
準備は十分だ。覚悟もとうの昔にできている。少しばかり、自分の魔術師としての才能のなさに不安が残るが、大丈夫だ。
カドックもまた、ここにはいない。あの子には申し訳ないけど、細工を仕掛けて一時的な体調不良を起こさせた。今頃医務室にいるんだろう。
大丈夫だ。
上手く細工が作動してくれるかは賭けだけれど、大丈夫だ。
ふうと息を吐いていると、所長が話し終えたらしく、人々が動き始めた。
ワタシもまた、同じようにコフィンへと向かう。
大丈夫だ。
レフ教授も、原作通りにいた。だからきっと、ここは爆破される。
他の人には悪いけれど、それを伝えた所でどう未来が動くか分からない。そもそも信じてくれるかも分からない。
だったら、
大丈夫だ。
カシュ、と音を立てて開いたコフィンに乗り込む。
このコフィンが閉じたその時、ワタシは死ぬ。そして、クリプターとして生き返るだろう。
多くの人を、殺すかもしれない。カドックと、敵対しないといけない。
大丈夫だ。
ゆっくりと、コフィンの扉が迫ってくる。それに合わせてまた、目を閉じた。
これからワタシは、世界の敵として、彼らに立ち向かわなくてはいけない。
それでも、ワタシは奪おう。
大丈夫だ。
だって、
続くなら、アナスタシアは二話で出します。