弟に代わってクリプタるのはいいんだけど   作:インフルかかったので投稿は来週

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 思ってた倍くらい伸びててもはや恐怖。
 ちょ、ちょっと次は時間かかるので許してクレメンス……


それでも、諦めたりはしないから

 

 誰にも見つけてもらえなかった。

 己の足で、地を踏みしめるようになってからというものの、父母はすっかり声をかけてくれなくなった。

 ただ一人、我が弟を除いて、誰も見ない。まるで、そこに何も無いかのように、気付かない。

 身体を触り、声を掛ければ気付いてくれる。話したり、遊んだり、学んだりできる。

 

 けれど、それまでだった。

 

 病魔に苦しめられれば、殆ど気付いてもらえない。どころか、声も掛けられないとなると、完全な孤独になる。

 物置のように静かな部屋で、ただ動けずに唸り苦しむ。どれだけ泣こうが喚こうが、人々はワタシを知らずに生活していた。

 

 まるで、世界に拒絶されるようだった。

 

 きっと、だからなんだろう。

 すっかり、自分を勘定に入れなくなったのは。

 この身の全てを、唯一受け入れてくれた弟に捧げるようになったのは。

 

 あの誓いを立ててから、ワタシは私(・)について考えた。

 私(・)は世界に拒絶されている。それは世界の外からの異邦者たるからだ。

 では、ワ(・)タ(・)シ(・)なら? カドック・ゼムルプスの姉として、この世界に生きるワタシはどうだろうか。

 この世界に属する者なら、きっと拒絶されることはない。そして、そうなればきっと、弟と代わることができる。

 

 ならば、と私は決めた。

 ワ(・)タ(・)シ(・)として、この世界で、カ(・)ド(・)ッ(・)ク(・)・(・)ゼ(・)ム(・)ル(・)プ(・)ス(・)の立ち位置で生きていけば良い。

 その立ち位置があるからこそ、未来が生まれるというのなら、ワ(・)タ(・)シ(・)が拒絶されることはない。

 私(・)はワ(・)タ(・)シ(・)、カドック・ゼムルプスの運命を奪う者。

 

 そうして、今のワ(・)タ(・)シ(・)がいる。

 全てを踏みにじった、人でなしが。

 

***

 

「おはよう、カリベラ。……嫌な夢でも、見たのかしら?」

 

 ぼやけた意識の中、何より美しい音が悲しげに聞こえた。

 そういえば昨日、あの後ワタシは寝落ちしたのか。

 みっともない姿を見せてしまったと後悔しつつ、あくびを噛み殺して答える。

 

「いいや。……むしろ、良かったよ。これからどうすればいいのか、思い返せた。ごめんね、みっともないの、見せちゃって」

「もう、謝らないで。そういうところよ、全く」

「あー、ごめ……。うーん、困ったな。善処するよ」

 

 日本人としての癖が中々取れないらしい。あはは、と苦笑いをしていると、ふと疑問に思う。

 そういえば、彼女はこうしてワタシが私(・)であっても、見つけてくれる。

 今までなかったことだけれど、と不思議に思っていると、呆れたように彼女が口を開いた。

 

「私を召喚したのはあなたよ。マスターを見つけられないサーヴァントがいるもんですか」

「確かに。……はは。やっぱり、きみで良かったよ」

 

 こんなワタシに付き合ってくれる、優しくてかわいいお姫様。

 細めた目で彼女を見ると、耳が赤く染まっているのが分かって、また笑ってしまった。

 日頃の仕返しになったのだろうか。彼女は視線を泳がせた後、話題をすり替えるように口を開いた。

 

「そういえば、だけど。あなた、魔術はどう覚えたの? カドック、だったかしら。両親はそちらに教えたと言っていたけど?」

「そうだよ。魔術を継いだのはカドックさ。家では私(・)だったからね。疲れるし、私(・)であってもカドックが見つけてくれるから。それに、ワタシ自体の魔術回路やら魔力やらはカドックよりも低かったから。自然とそうなったんだよ」

 

 ワタシが継ぐことも考えたけれど、それだとカドックが人理修復の時に困るかもしれないから。

 

「魔術を覚えたのは、まあ半分くらいズルして、かな。記憶のおかげで、ゴールは分かってるんだから、あとは虱潰しにとことん独学でやってたよ。カドックが大きくなった頃には、あの子に教えてもらってたね。それまでは見よう見まねだったし、散々だったよ、ほんと。あの子が教えるのが上手くて助かったなぁ。お陰でこうして、きみに出会えた」

「……っもう。でも、魔力量が不安だったのでしょう?」

「嫌なとこ、突いてくるなぁ。でもまぁ、キャスターだから大丈夫だよ。宝具やら工房やら、ぽんぽん使われるとまずいけどね」

「そこは私の可愛いヴィイが受け持つから、安心なさい」

 

 小さな子供が自慢の宝物を見せるように、彼女は誇らしげに笑う。

 今の彼女の、魔術師としてのアレコレを思い出して、なんともいえない顔をしていると、彼女はワタシの頬を掴んでもみくちゃにしてきた。

 

「もう。分かってるでしょうに。あなたのおかげよ、この力は。だから私は、殺せるの。知っていたでしょう? 感謝してるって。勝手に罪悪感なんて覚えないでちょうだい」

 

 まったく、とぷりぷり怒った彼女が立ち上がる。

 つんと黙って部屋を出ていったその後ろ姿を、ワタシは慌てて追いかけるのだった。

 

***

 

 あれからしばらくの日が経って。

 叛逆軍の倉庫は焼き払われ、ある音楽家は日々村を襲うようになった。

 カルデアとはまだ遭遇していないけれど、その日はそう遠くない。

 

 そして今日は、ある意味、乗り越えなくてはいけない山場だった。

 

「マスター? どうしたの、そんな思いつめた顔して」

「んー、約束の時間だから、ね。定期考査というか、なんというか。仲良くはあるんだけど、やっぱり仕事のできる人だから、油断ならない感じで」

 

 そう答えると、アナスタシアはなるほどと頷いて、うんと首を傾げた。

 

「ああ、彼ね。……ええと、キリ……キリシュタリア……」

「ヴォーダイムね」

「そうそう、ヴォーダイム。魔術師としての歴史は古いんだったわね、彼。能力もあるし、自信もある」

 

 はて、そんなに彼について知っていただろうか、と疑問に思った後、私(・)の記憶からかと一人納得する。

 

「古いってだけなら、掃いて捨てるほどいるのが魔術師だね。あの人ほどリーダーが似合う人はいないだろうよ。正直、あの人がこの戦争(レース)に勝つとしか思えない」

「もちろん、今のところは、よね」

「うん、今のところは、さ」

 

 結末を二人揃って知っているのもあって、そりゃそうだとうなずき合う。

 と、知(・)ら(・)な(・)い(・)け(・)ど(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)声が突然耳に飛び込んできた。

 

「──何だ、良かった。まだ闘志はあるって事か」

「!」

 

 振り返った先には、神代の英雄。巨大な槍と盾を持ち、音もなく背後に立っている。

 褐色の肌の美しいヒトが、そこで好戦的に笑っていた。

 

「いいじゃねェか。オレたちとまだ、やり合う気でいるってのはな!」

 

 本来ありえぬ来訪者に、殺戮猟兵(オプリチニキ)たちがぞくぞくと現れる。

 このまま戦闘されては困る、と止めようとすれば、その前にアナスタシアが声をあげた。

 

「……退がりなさい、殺戮猟兵(オプリチニキ)。そちらは私たちの客です。皇帝に害為す者ではありません」

「は。それはテメェら次第だ。ロクに使えねぇ三下なら、ここの王ごと潰して帰るつもりだからなァ!」

 

 どうしてこう、古代の英雄というのは血気盛んなのか。

 頭痛の種が増えてしまった、と溜息を吐きたくなるのを抑える。いつの間にかワタシの前に立っていたアナスタシアを宥めて、彼に近づいた。

 

 大丈夫だ。

 さぁ、仮面を被れ、カリベラ・ゼムルプス。

 ワ(・)タ(・)シ(・)はクリプター。自分よりもまだ才のある弟に歪な愛憎を抱いた、世界を憎む道化の女。

 

「あまり挑発しないでくれるかなぁ。わざわざ海と嵐を渡ってきてくれたんだろう。ちょっとは羽を休めようよ。無利益な争いとか、勿体ないだろう? それに、貴重な神霊たるきみを失くしてしまうのは、キリシュタリアに申し訳ないじゃないの」

 

 正直、彼のその性格はこういった場において、感心できるものじゃない。

 少しばかりは、礼節を持って欲しいなぁ。そう呑気に思っていると、彼は表情をすとんと落とした。それから一息吐いた後に、瞳をギラつかせる。

 

「──言うじゃねぇか。脳天気な軟弱者と思ったが、なかなかどうして。なあ皇女さん。アンタの前だから格好つけてんのか、コイツ。それとも、今まで牙を隠し持ってたってヤツか?」

 

 ずっと空気が重たく伸し掛かる。これが神霊。これがあのキリシュタリアのサーヴァント。微かに震える手に気付いて、内心笑い飛ばした。

 どうした、こんなもの、今までよりずっと怖くないじゃないか。

 そう考えると身体は落ち着いて、そして隣のアナスタシアが口を開く。

 

「言うまでもないでしょう。その両方よ、神霊カイニス」

 

 ちらと彼女を見ると、どこか嬉しそうにワタシを見ている。なんとなく、いつか見たヴィイを自慢した時のような顔に似ていた。

 それを見たカイニスは、再び好戦的な笑みを浮かべている。

 

「そうか。恐怖と蛮勇か。そいつはいい。まだ成長の余地がある」

「そりゃあどうも、光栄だね。で、なぁに。報告するようなことは特に無いけど。すべて順調、問題ないさ」

「あの有様でか? 根付いてないのはテメェのところだけだ。空想樹はまだ芽吹いてもいねぇ。そりゃあオレのマスターも気にするだろ」

 

 どこか馬鹿にしたような笑いに、それでいいのだと口角をあげて答える。

 それを見たうえで、カイニスは続けた。

 

「弱虫の、ブラコンのカリベラは大丈夫か。荷が勝ちすぎてはいなかったか、弟可愛さに諦めていないか、てな!」

「ふふ、大丈夫だとも。出遅れてはいるけど、元々ワタシは遅れてる。最後に勝てばいい。ワタシとキャスターが、ね。間違いなく、変わらないよ。そも、ワタシは諦めたりしないさ。とっくのとうに、覚悟は決めてるよ。何より、ワタシは汎人類史(アラヤ)が嫌いだからね」

 

 汎人類史が嫌いだ、と言うとカイニスは興味深そうに眉を吊り上げた。

 アラヤが嫌いなのは、ワタシだけでなく私(・)もだけれど。あちらが嫌うんだから、仕方ないだろう。

 

 にしても、ワタシがカドックを溺愛しているのはクリプター公認らしいことに、苦笑いする。

 確かに、一時期は奪ってしまったことばかり気にしていたけど、今は大丈夫だ。

 なんせ、ワ(・)タ(・)シ(・)の(・)は(・)じ(・)ま(・)り(・)を思い出せたのだから。

 

 ワタシたちは勝利の土台が違う。

 それを知らないカイニスは、面白そうにワタシを見ている。少し背が震えたような気がして、その上で無視して口を開いた。

 

「確かに空想樹はまだ根付いていない。皇帝(ツァーリ)がその必要性を認めていないからね。けど、彼もあれが必要だって認めるだろうよ。だから、それまでは仕掛けの時間ってわけ。逆転(リバーシ)するための下地は、作ってるからさ」

「は、ニコニコヘラヘラ、ペラッちいかと思えば、また険のある眼だな。王のご機嫌を窺いながら逆転を狙う、野心家の眼だ。

 ──ならいい。テメェがヴォーダイムの野郎に一泡吹かせるなら、そいつは最高の見世物だ! いいぜ、ロシアは問題なし。そうヴォーダイムには伝えてやるよ」

 

 くくっ、とさぞ楽しげに笑うカイニスに、ああよかったと内心一息つく。

 

「この異聞帯(ロストベルト)は土台は悪いが、国の真ん中にいる『王』は最上級の怪物だ。……ああ。チラッと見てきたが、ヒデェなりだ。うちの主神どもと殴り合っても勝てそうじゃねえか。うまく出し抜けよ、カリベラ・ゼムルプス」

 

 そんなワタシを彼は不敵に笑いながら見つめて、言う。

 

「女にいいとこ見せたいんだろ? いいじゃねえか、マスターとサーヴァントのカップルってのも! そうなったらいよいよオレの出番だ。オマエの前で、その皇女サマをオレの女にしてやるよ!」

「…………下品ね。教養のない男は願い下げよ。第一、私にはカリベラがいるもの」

「だそうだけど?」

 

 心底嫌そうに顔を顰めたアナスタシアに、ふっと笑いながら頭を撫でる。

 そのままカイニスに問いかけると、すっかり真顔になって淡々と答えられた。

 

「奇遇だな。オレも同意見だよ。漁の一つもしねえクセに、花よ姫よとちやほやされた女はな」

 

 だったら言うなよ、なんて呆れながらカイニスを見る。そういうヒトだ。仕方ない。

 とはいえ、アナスタシアを侮辱されるのは気に食わない。だから。

 

「カイニス。もしかして話し相手がいないのかな? お茶会がしたいのなら、席を用意するよ」

「ああ、皇女がいない時になら喜んで受けてやる。っていうかカリベラ、テメェ口が回るじゃねえか! あんな能天気じゃなくて、普段からこれくらい辛辣でいろよ、オイ!」

 

 随分気に入られたらしい。まぁ、原作でのカドックも同じようにされていたし、そりゃそうなるだろう。ワタシは彼の運命を奪ったのだから。

 

「ワタシだって人を選ぶって事さ。それで、他に言う事は?」

「ねえよ。ああ、そういや汎人類史の連中は居るのか? デイビットの言い分じゃロシアに現れるって話だったが?」

 

 どこかウキウキとしたように尋ねるカイニスに、そうだこいつはそういう奴だったと思い出す。

 どうせ、カルデアがいるなら自分にやらせろといったところだろう。それは、させない。

 

「ん、ああ。目下、対応中ってとこ。すぐ片が付くよ。ま、でなくても利用すればいい話よ」

「はあ? まだ殺していなかったのか。と、言いてえとこだが、ま、使うなら話は別だ。図に乗ったな人間。ああ、昔のテメェを見ている気分だ。その思い上がりに期待してやるよ、カリベラ。ああ、ロシアはテメェの勝負盤(ゲーム)だ。だから、何があっても諦めんなよ」

 

 一瞬不貞腐れた彼だったが、すぐにまた好戦的に笑う。そろそろ帰るつもりらしい。

 退屈そうにしていたアナスタシアの手を握って、もう少しだけ待ってて、と念話する。

 

「せいぜい一等賞を目指せ。足を掬われないように気をつけてな。うまくいったら、その時はお茶会? ってヤツに呼ばれてやるよ」

 

 そう言って、彼はこの場を立ち去っていった。

 するとすぐさまアナスタシアが面白くなさそうに頬を膨らませる。

 

「ふざけたサーヴァントね。あなたの制止がなかったら、私が殺していたわよ」

「ワタシも我慢してたんだ、許してよ。大体、神代の英雄ってのはクセが強いんだ。ま、舐められるのはどうしようもないさ」

「む、なら私も悪いってことね。ああもう、嫌だわ」

 

 さて、どうこのお姫様のご機嫌を直そうか。

 ぷっくりと膨らんだ、可愛らしい頬をちょんとつつきながら、ワタシはぺぺからもらった茶葉の位置を思い出すのだった。

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