久しぶりにアニメなど見返しながら、設定など見切り発進ですが頑張ってみます…タグも安定しなくてすみませんm(_ _)m
劇場のネタバレはなるべくない様にします…
目を覚まして最初に見えたのは、知らない空だった。
青い空に、やけに綺麗な雲。その間を切り取るように、高い建物の壁が左右へ伸びている。
「…………」
しばらく見上げたまま動けなかった。少なくとも自分の部屋ではないし、というか屋内ですらない。
「……どこだ、ここ」
身体を起こしながら呟いて、そのまま固まった。
声が高い。
寝起きで裏返ったとか、喉の調子がおかしいとか、そういう高さではない。どう聞いても女の声で、それも成人女性というより、まだ中学生くらいの少女の声に近かった。
「…………は?」
もう一度、試す。
「は?」
やっぱり高い。
嫌な予感がして、自分の手を見る。
小さい。
指は細く、手の甲も白い。昨日まで見慣れていた男の手とは、どう考えても別物だった。
「いや、待て」
腕も細い。それに頬の横へ何かがかかっていると思ったら髪だった。しかも結構長い。
そして何より、身体全体の感覚がおかしい。
立ち上がろうとして、少しふらついた。
「うおっ……」
慌てて近くの壁へ手をつく。身体が軽い。視線も低い。腕も脚も細くて、何より重心が昨日までとは違う。
そこでようやく、自分の服装にも気づいた。
「…………スカート」
白いブラウスにリボン。どう見ても学校の制服だった。その下には、普通にスカート。
「なんで俺がスカート履いてんだよ……」
裾をつまんでみる。
ひらひらする。
いや、スカートなんだから当たり前だ。
そうじゃない。
昨日まで俺は男だったはずだ。少なくとも自分の記憶ではそうだった。現代日本で普通に暮らして、普通に寝た。トラックに轢かれた覚えもなければ、神様らしい何かと話した覚えもない。
それなのに目を覚ましたら、知らない路地裏で制服姿の少女になっている。
だいぶ説明を省かれていた。
「夢……ではないよな」
頬をつねる。
「痛っ」
普通に痛い。
夢判定は失敗した。
こうなると、確認するしかない。
恐る恐る胸元へ視線を落とす。
「…………」
ある。
別に大きくはない。
でも、ある。
そのまま下まで確認しかけて、やめた。路地裏とはいえ外だ。そこまで冷静さを失うのはまずい。
というか、確認しなくてももう十分だった。声、手、身体、髪、制服、それに胸。
どうやら俺は、女になっている。
「……TS転生?」
口に出した瞬間、一気に馬鹿っぽくなった。でも、それ以外に適当な言葉も思いつかない。
身体だけ誰かと入れ替わったのか。本当に転生したのか。そもそも昨日までの俺が死んだのかすら分からない。
情報が足りなさすぎる。
「せめて説明役くらい置いとけよ……」
当然、返事はなかった。
辺りを見回す。
狭い路地の向こうには大きな道路が見える。その先にはガラス張りの建物が並び、さらに奥には妙に近未来的な高層ビルまで伸びていた。
「……都会だな」
見覚えがあるような、ないような。少なくとも、自分が昨日まで暮らしていた場所ではない。
それより先に、今の自分をちゃんと確認したかった。
近くの建物の窓ガラスが鏡代わりになりそうだった。周囲に人がいないことを確認してから、恐る恐るそこへ近づく。
ガラスの向こうに、一人の少女が映った。
「…………」
肩にかかる銀色の髪。まだ幼さの残る顔立ちに、小柄な身体。寝起きだからか銀髪は少し乱れていて、それが肩から胸元へ流れている。
鏡代わりのガラスの中で、少女が目を見開いた。当然、こちらも同じように目を見開く。
「…………誰だよ」
ガラスの向こうから、同じ少女の声が返ってきた。
俺だった。
認めたくないが、俺らしい。銀髪で、女で、たぶん中学生くらい。
「マジで女になってるじゃん……」
さっき胸元を確認した時点で分かってはいた。でも、こうして全身を見ると現実味が違う。
試しに銀髪を一房つまんでみる。さらさらしている。
俺の髪だ。
「うわあ……」
何とも言えない声が出た。
男だった頃なら、銀髪の美少女なんて二次元で見れば普通に好きだった。
自分がなる話ではない。
状況だけ書けば完全にラノベだった。
問題は、何の作品なのか分からないことである。
「……いや、待て」
改めて制服を見る。白を基調にしたデザイン。胸元のリボン。
どこかで見覚えがある。
さっきから街並みにも妙な既視感があった。
「まさかな……」
嫌な予感がした。でも、さすがに考えすぎだ。
まずは場所を確認しよう。
制服のポケットを探ると、スマートフォンが入っていた。さらに財布と、生徒手帳らしきものまである。
「準備いいな……」
誰が準備したのかは知らないけど。
スマートフォンは顔認証で普通に開いた。
「おお」
つまり、この顔は持ち主として登録されている。どこかの少女の身体へ入ったというより、少なくとも社会的にはこの少女そのものとして存在しているらしい。
余計に意味が分からなくなった。
まずは現在地。
地図を開く。
「…………」
表示された地名を見て、指が止まった。
「……見滝原?」
聞き覚えがある。
というより、ありすぎる。
嫌なものが一気に頭をよぎった。
「いやいや」
すぐに打ち消す。
見滝原。
日本のどこかに似たような地名があってもおかしくはない。フィクションの舞台と同じ名前だったからといって、即座に同じ世界だと決めつける方がおかしい。
そう思いながら地図を拡大していく。
広い道路。大きな建物。整然とした街並み。
そのまま路地を出て、改めて周囲を見る。
ガラスを多用した建物に、妙に整いすぎた道路。現実の日本としては少し未来的で、アニメの背景として見るなら見覚えがありすぎる。
「…………」
嫌な一致が一つ増えた。
「いや、でも……まだ」
地名と街並みが似ているだけだ。
そうだ。
まだ偶然で押し通せる。
押し通したい。
次は、この身体の身元を確認する。
生徒手帳を開いた。
「…………」
名前。
田中。
そして、その下。
学校名。
見滝原中学校。
「…………」
一度閉じる。
もう一度開く。
見滝原中学校。
「いやいやいや」
地名だけならまだ偶然で押し通せた。
でも、学校まで同じなのはさすがに苦しい。
しかも制服にも見覚えがある。街並みも似ている。
嫌な一致が、もう一つどころではなくなってきた。
それ以前に。
「……田中?」
もう一度、生徒手帳の名前欄を見る。
田中。
以上。
下の名前らしいものは、どこにもない。
「……田中は田中ってこと?」
意味が分からない。
住所もある。学校もある。スマートフォンだって使える。生活に必要なものは妙にきっちり揃っているのに、名前だけ名字しかない。
どういう設定なんだ、俺。
……俺、か。
この姿で学校へ行くなら、さすがに人前では「私」にした方がいいんだろうか。
「…………私」
小さく口にしてみる。
「…………」
違和感がすごい。
昨日まで普通に「俺」で生きていたんだから当然だった。
でも、銀髪の女子中学生が教室で「俺は田中です」と名乗ったら、それはそれで目立つ気がする。
「まあ……学校では私でいいか」
言える気があまりしないけど。
生徒手帳を閉じる。
見滝原。
見滝原中学校。
見覚えのある制服。
未来的すぎる街並み。
「…………」
だいぶ苦しくなってきた。
それでも、まだ確定じゃない。
鹿目まどかを見たわけでもない。暁美ほむらもいない。巴マミも、美樹さやかも、佐倉杏子もいない。
白い謎生物だって、まだ見ていない。
なら、偶然という可能性は残っている。
残っていてほしい。
俺は『魔法少女まどか☆マギカ』を知っている。テレビアニメだけじゃない。劇場版も見たし、『叛逆の物語』まで一通り知っている。
だからこそ、あの世界にだけは入りたくなかった。
外から見ている分には面白い。
中に住むとなると、話が違う。
魔法少女になれば最後は魔女になる。ならなくても街には魔女が出るし、最終的にはワルプルギスの夜までやってくる。
治安が悪いなんてもんじゃない。
「……大丈夫。まだ決まってない」
自分に言い聞かせる。
見滝原という地名。見滝原中学校。似すぎている街並み。見覚えのある制服。
……説得力はほとんどなくなってきたけど。
それでも、まだ確定じゃない。
でも。
もし、本当にあの世界だったら。
「…………」
嫌でも、その先まで考えてしまう。
鹿目まどかがどうなるのか。暁美ほむらが何を繰り返すのか。マミが、さやかが、杏子が。そして、そのずっと先で、まどかとほむらがどうなるのかまで。
俺は知っている。
まどかが人ではなくなった、その後まで。ほむらがそれでも諦められず、最後にはその結末さえひっくり返してしまうことも。
「……いや」
やっぱり、あれは駄目だろ。
画面の向こうなら物語として見ていられた。どれだけ重い展開でも、最後には画面を閉じればいい。
でも、本当にこの世界にあいつらがいるなら話は別だ。
できることなら、普通に笑っていてほしい。
まどかが神様にならなくていい。ほむらが何度も同じ時間を繰り返さなくていい。
そんな世界が一つくらいあってもいいだろ。
というか。
「……普通にくっついてくれ」
思わず口から出た。
誰もいない路地裏で言ってから、ちょっと恥ずかしくなる。
「いや、だってさ……」
こっちは『叛逆』まで見てるんだぞ。あそこまでやったなら、もう普通に二人で幸せになってくれ。学校に通って、くだらないことで笑って、たまに喧嘩して、そのまま普通にくっつけばいい。
それでいいだろ。
他の連中だって同じだ。マミにはちゃんと後輩とお茶でも飲んでいてほしいし、さやかにはもう少し自分を大事にしてほしい。杏子だって、食べ物を盗まなくても腹いっぱい食えるくらいには幸せでいてほしい。
知ってしまっているからこそ、考えてしまう。
もし本当にここがあの世界なら。
俺には、この先に起きることが分かる。
だったら。
「……何かできるのかな、俺にも」
自分の手を見る。
細い、少女の手。
魔法なんて使える気配はない。特別な能力があるのかも分からないし、そもそもどうしてここにいるのかすら分からない。
ただ、何も知らずに巻き込まれるよりは少なくともマシだ。この先を知っている。それだけは、今の俺が持っている唯一の手札だった。
「……まあ」
まだ全部、俺の考えすぎかもしれない。
本当にまどマギの世界なら、の話だ。
そう思って、もう一度生徒手帳を見る。
田中。
見滝原中学校。
どういう仕組みなのかは分からないが、少なくともこの世界では、俺は「田中」という女子中学生として学校へ通える状態になっているらしい。住所らしきものもあるし、学校へ行くために必要な情報も揃っている。
昨日まで男だった俺が、今日からは銀髪の女子中学生として田中をやる。
しかも人前では、できれば「私」。
「…………」
考えれば考えるほど変な話だった。
誰がこの身体を用意したのか。何のためなのか。そもそも、どうして俺なのか。
それだけは何一つ分からない。
でも、行き先は決まっている。
見滝原中学校。
「…………マジかよ」
制服姿の自分を見下ろす。
朝の風が吹き抜けて、スカートの裾が小さく揺れた。
反射的に手で押さえる。
「…………」
昨日までなら、絶対にしなかった動作だった。
「いや、これ慣れるの大変そうだな……」
スカートも、この身体も、「私」って言うのも。
今のところ、どれも全然しっくりこない。
さっきまでの深刻な気分が少しだけ吹き飛ぶ。
とりあえず、まずは学校へ行こう。
この身体で田中として生活できるのか。
そして何より。
ここが、本当にあの見滝原なのか確かめるために。