魔女を見つけたのは、放課後になってからだった。
マミさんのソウルジェムが反応し、それに続くようにまどかの指輪も淡く光る。俺の胸元にある二連ソウルジェムも服越しに微かな熱を返していて、近くに魔女の結界があることを知らせていた。
「こっちね」
マミさんを先頭に、住宅街から少し外れた道を進んでいく。最初は弱かった反応も歩くほどにはっきりし、細い路地へ入って人の姿がほとんど見えなくなった頃には、俺でも魔力の気配を意識できるくらい濃くなっていた。
ほむらは俺たちの少し後ろを歩いている。昨日作った爆弾も、今日は盾の中に入っているはずだ。
これが初実戦になる。
「暁美さん。無理に前へ出なくていいからね」
「はい」
マミさんが念を押すと、ほむらは少し強張った表情のまま頷いた。その横から、まどかが柔らかい声を掛ける。
「大丈夫だよ、ほむらちゃん。今日はみんな一緒だから」
「……はい」
さっきまで少し上がっていた肩が、目に見えて下がった。
効くなあ、まどかの一言。
俺が同じことを言っても、たぶんこうはならない。それでいいんだけど。
ソウルジェムの反応は、路地の奥で最も強くなった。正面にあるのは何の変哲もない壁だったが、意識を向けてみると、その周囲だけ空気が薄く揺れている。
「ここね」
マミさんが足を止め、俺たちも続く。
「来るわよ」
その声を最後に、景色が歪んだ。
「――は?」
夕暮れの街が一瞬でなくなり、次に視界へ飛び込んできたのは、雲一つない真っ青な空だった。さっきまで夕方だったはずなのに、真昼みたいに明るい。
しかも、下にも空がある。
身体が浮いたと思った次の瞬間、上下の感覚を失ったまま落下していた。反射的に手足をばたつかせる俺の横を、何枚ものセーラー服がロープに吊られたまま通り過ぎていく。
意味が分からない。
結界に意味を求める方が間違っているのかもしれないけど、それでも言わせてほしい。
何だここ。
「落ち着いて!」
マミさんの声が飛ぶ。
そちらを見ると、もう細いロープの上に立っていた。さっきまで俺たちと一緒に落ちていたはずなのに、片足を軽く乗せただけで身体を安定させ、そこから別のロープへ迷いなく移っていく。
器用すぎる。
まどかも近くを通ったロープへどうにか手を伸ばし、身体を引き上げていた。かなり危なっかしいものの、魔法少女になった身体のおかげか、そのまま足を掛けて姿勢を整えている。
俺もやるしかない。
「っと……!」
目の前を流れたロープへ腕を伸ばし、どうにか両手で掴んだ。反動のまま身体を大きく振られながら片足を引っかけ、何とか落下だけは免れる。
「……っぶねえ」
ロープへ身体を預け、何とか呼吸を整える。
足元からずっと下まで何もない。その事実を確かめるのが怖くて、しばらく視線を上げたままにした。
それでも、何となく下を見た。
見なきゃよかった。
どこまで落ちても地面がない。青空がそのまま遥か下まで続き、無数のロープやセーラー服だけが宙へ浮かんでいる。距離感すらまともに掴めず、見ているだけで足の裏が妙に冷たくなった。
魔法少女じゃなかったら、たぶんこの時点で卒倒している。
今こうして意識を保てているのは、身体そのものが丈夫になったからなのか。それともソウルジェムになったことで、精神まで多少安定しているのか。
まあいい。
少なくとも今は、そこまで怖くない。
もう何も怖くない。
「…………」
言った瞬間、ものすごく嫌な感じがした。
今のなし。
それ、ここで口に出していい言葉じゃない。
「マギカちゃん?」
「何でもない」
まどかに怪しまれた。
マミさんは少し離れたロープの上から、もう周囲を確認している。ほむらも黄色いリボンに身体を支えられながら、どうにか近くの足場へ降りていた。
「全員、大丈夫?」
「はい!」
「だ、大丈夫です」
「俺も何とか」
返事をしながら、改めて結界を見る。
真昼みたいな晴天に、無数のロープ。そのところどころへ、セーラー服が洗濯物みたいに吊られている。
そして、遠くを滑るように横切ったものを見て、記憶が繋がった。
スカートと、その下から伸びる脚。
上半身がないのに、それは一人の少女みたいにロープの上を移動している。
「ああ……」
思い出した。
確か、委員長の魔女。
スカートと脚だけの、かなり奇妙な姿をした魔女だったはずだ。
……いや、魔女なんて大体どいつもこいつも奇妙な姿しかしてないけど。その中でも、こいつは特に分かりやすく変だ。
「マギカさん?」
マミさんの声で我に返る。
「何か分かった?」
「いや……かなり足場の悪い相手だなって」
それ以上は言わない。魔女の名前まで知っている理由なんて説明できないし、今それを話している余裕もなかった。
ロープが大きく揺れた。
「来るわよ!」
マミさんがマスケットを出す。
晴天の向こうから、何本もの脚が滑ってきた。スカートと脚だけの使い魔が、細いロープを蹴りながら一斉に距離を詰めてくる。
俺も鏡面の刀を抜いた。
敵そのものより、まず足元が厄介だった。普通の地面なら踏み込めるが、今立っているのは靴の幅より少し太い程度のロープ一本。しかも揺れるし、避ける方向まで限られる。一歩間違えれば、そのまま青空の底へ落ちる。
「っ……!」
最初の一体が飛び込んできた。
刀を横へ振ると、刃が脚へ当たり、軽い手応えと一緒に使い魔が吹き飛んだ。ただ、その反動で俺の身体まで横へ流れ、足がロープから外れかける。
「うおっ」
黄色いリボンが腰へ巻きつき、引かれた身体が元の位置へ戻った。
「足元を忘れないで!」
「助かりました!」
マミさんはもう次の使い魔へ銃口を向けていた。一歩動き、身体を捻り、撃つ。反動まで利用するように次のロープへ移り、その途中で別のリボンを伸ばして、まどかとほむらの足場まで補助している。
やっぱりこの人、器用すぎる。
「マギカちゃん、右!」
まどかの声に反応して身体を捻る。
俺の横を抜けるように桃色の矢が飛び、迫っていた使い魔を射抜いた。
「ありがとう!」
「ううん!」
それでも次が来る。一体を落とせば、その後ろから二体、三体。前だけ見ていると、背後から別のロープを伝ってくる。
真正面から戦うだけなら、そこまで強い使い魔じゃない。それでも足場が悪いだけで、一気に厄介になる。
「暁美さん、無理に攻撃しなくていいわ!」
マミさんの声が飛ぶ。
ほむらは盾へ手を添えながら、周囲を見ていた。まだ自分から前へは出ない。
「今は足場と、みんなの位置を見ていて。あなたの魔法は、使う場所を間違えないことの方が大事よ!」
「はい!」
ほむらが頷いた。
その直後、俺のいるロープがまた大きく揺れ、新しい使い魔が滑り込んでくる。刀を握り直しながら、視界の端で三人の位置を確かめる。
まだ本体すら出てきていないし、連携だって綺麗とは言い難い。
それでも前の世界とは違う。
マミさんが足場を作り、まどかが遠距離から穴を埋める。俺が前で使い魔を押さえ、その後ろでほむらが状況を見ている。
◇
使い魔を何体倒した頃だったか、遠くのロープが一斉に震え始めた。
一本。また一本。揺れが遠くからこちらへ伝わってくる。
最初は風でも吹いたのかと思った。でも、この結界にまともな風なんてない。
その先で、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
スカートから伸びる、異様に細い脚。
人間の上半身に当たる部分はなく、その代わりに歪んだ何かがロープの間へ引っかかるように浮かんでいる。
やっぱりこいつだ。
「本体よ!」
マミさんが叫ぶ。
魔女の脚が動いた次の瞬間、何本ものロープが一斉に引かれた。
結界全体が揺れる。
「うわっ……!」
身体を低くしてロープへしがみつく。まどかもバランスを崩し、慌てて近くのロープへ手を伸ばした。ほむらはマミさんのリボンに支えられて、どうにか踏みとどまっている。
直接殴ってくるというより、結界そのものを動かしてこちらの足を奪っているらしい。
「まず動きを止めるわ!」
何本もの黄色いリボンが飛び、魔女の脚へ絡みついた。そのまま周囲のロープへ縫い留めるように広がり、動きを強引に押さえ込む。
「鹿目さん!」
「はい!」
まどかの矢が続いた。
桃色の光が魔女へ突き刺さり、大きく身体を揺らす。効いてはいるが、別の脚がロープを蹴り、マミさんの拘束を一本ずつ引き千切っていく。
俺もロープを蹴った。
一つ先へ飛び移り、さらにもう一つ。揺れる足場に合わせて身体を沈め、その反動で魔女との距離を詰める。
前の世界でマミさんから習った踏み込み方が、こんな場所でも少しずつ使えるようになっていた。
「っ!」
刀を振り下ろす。
脚へ刃が入ったものの浅い。そのまま身体を引こうとした瞬間、別のロープが足首へ絡み、踏ん張る場所のない身体が一気に横へ引かれた。
「マギカちゃん!」
桃色の矢がロープを撃ち抜く。
拘束が緩んだ隙に、近くの足場へ飛び移った。
「助かった!」
息が上がっている。足場が違うだけで、いつもの倍は身体を使う。
その向こうで、ほむらが盾へ手を伸ばした。
「まだ!」
俺より先に、マミさんが止める。
「今止めても、近づけないわ。置く場所を作ってから」
「……はい!」
ほむらは伸ばした手を戻し、もう一度魔女と俺たちの位置を見る。
焦って使わない。
それだけでも昨日までとは違う。今は自分の能力を使うことより、使うべき瞬間を探している。
魔女が再びロープを揺らし、マミさんの拘束を一本切った。まどかの矢も外側の脚に弾かれ、このままではほむらが爆弾を置く場所まで近づけない。
一瞬だけでいい。
相手の意識を外せれば。
俺は刀を構え直し、魔力を薄く広げた。
魔女の脚が一瞬だけ止まり、こちらへ向いていた動きが僅かに横へ逸れる。
俺がいる場所そのものは変わっていない。ただ、「そこに俺がいる」という認識だけを少し横へずらす。
効果は一瞬だった。
でも十分だ。
「今!」
マミさんのリボンが一気に伸び、脚へ何重にも絡みついた。魔女の身体を横へ引き、崩れたところへまどかの矢が連続して飛び込む。
外側の守りが崩れた。
「効いた!」
まどかの声が上がる。
俺は別のロープへ着地し、息を整えた。
同じスペッキオ・ファントムでも、前に使った時とは意味が違う。俺自身が攻撃を避けるためじゃない。俺がずらした一瞬をマミさんが拾い、その隙へまどかが攻撃を重ねている。
「今のよかったわ、マギカさん!」
マミさんが魔女から目を離さないまま声を飛ばした。
「あなたが相手をずらして、私たちがその隙を使う。そっちの方が、その魔法を活かせそうね!」
「俺も今そう思った!」
能力そのものは変わっていない。
でも、一人で使うのと四人で使うのとでは、まるで意味が違う。
「マギカちゃん、前!」
まどかの声で我に返り、こちらへ伸びてきたロープを斬り払った。
考えるのはあとだ。
◇
外側を覆っていた脚が一時的に崩れ、マミさんの拘束とまどかの矢、それにスペッキオ・ファントムで乱した一瞬が重なって、今まで塞がれていた魔女の中心まで初めて真っ直ぐ見えた。
ただし、そこへ続く足場がない。
ロープは途中で切れ、その先には何もない青空が広がっている。距離自体はそれほど遠くないのに、踏み出せる場所がなければ意味がない。
「巴さん!」
ほむらの声が飛んだ。
「今なら……できます」
盾へ手を掛けたまま、魔女を見ている。
マミさんもすぐに意図を察したらしい。魔女との距離と俺たちの位置を一度に確認すると、手にしていたマスケットを消し、両腕を前へ伸ばした。
「だったら、道は私が作るわ」
黄色いリボンが一斉に飛び出した。
一本だけじゃない。何本もの帯が空中で交差し、互いに絡み合いながら魔女へ向かって伸びていく。少し前まで何もなかった青空の上へ、細いながらも人一人が走れるだけの黄色い道が形になった。
「すご……」
戦闘中に足場まで作るのか。
マミさん、本当にリボンで何でもやるな。
「鹿目さん、マギカさん! 暁美さんが動くまで押さえるわよ!」
「はい!」
「了解!」
当然、魔女も黙って待ってはいない。
残った脚が持ち上がり、周囲に張られていたロープまで一斉に動き始める。
まどかが先に弓を引いた。
桃色の矢が、ほむらへ向かおうとした脚を横から弾く。俺も黄色い道の脇へ飛び移り、別方向から伸びてきたロープを刀で斬り払った。
一つ処理すれば、すぐ別の一本が来る。
全部を倒す必要はない。
ほむらが走り抜けるだけの時間があればいい。
「今よ!」
マミさんの声と同時に、ほむらが盾へ触れた。
――ように見えた。
実際には、俺たちの側から何かを見る時間すらない。
ほむらの姿が消える。
そして次に瞬きをした時には、もう魔女のすぐ近くまで進んでいた。
途中だけが、丸ごと世界から抜け落ちている。
魔女の中心近くに、一つだけ何かが置かれていた。
昨日見せられた爆弾。
ほむらは、それを置くためだけに止まった世界を一気に走り抜けたらしい。
「離れてください!」
その声に、マミさんの反応が一番早かった。
「下がって!」
黄色いリボンが俺とまどかの腰へ巻きつき、一気に後ろへ引く。俺も逆らわず身体を預け、まどかは弓を抱えたまま姿勢を低くした。
ほむら自身も黄色い道を蹴り、少しでも距離を取ろうとしている。
間に合うか。
そう思った直後だった。
視界が白く潰れた。
「――っ!?」
光の次に、腹の底へ響く衝撃が来た。結界全体が大きく揺れ、熱を含んだ風が顔へ叩きつけられる。腕で庇っても頬が熱い。マミさんのリボンで引かれていなければ、俺までそのまま後ろへ吹き飛ばされていたと思う。
昨日、手のひらへ載る程度の大きさだった。
確かにそうだった。
それが今、目の前で魔女ごと景色を吹き飛ばしている。
「いやいやいや……」
思わず声が漏れた。
個人製作だぞ。
しかも中学生が一晩ネットで調べて作ったやつだぞ。
爆煙の中心で魔女の身体が大きく歪み、細い脚もスカートも輪郭を保てないまま、周囲へ張られていたロープごと一気に千切れていく。
次の瞬間には、もう原形がなかった。
魔女そのものが爆発四散している。
「…………」
これ、本当に昨日のやつ?
俺が若干引いている間にも、爆風は結界の中を走り続けていた。
「あっ――!」
まどかの声に振り向く。
黄色い道の一部が、爆発に耐えきれず千切れていた。その上にいたほむらの足元から支えが消え、一瞬だけ本人も何が起きたのか分からないような顔をする。
「きゃっ……!」
身体が傾き、そのまま青空の底へ落ちた。
「ほむらちゃん!」
まどかが身を乗り出す。
でも、それより速く黄色い線が走った。
マミさんのリボンだ。
落下するほむらの腰へ巻きつき、勢いを殺しながら大きくたわむ。その反動で身体が振り子みたいに弧を描き、ゆっくりこちらへ戻ってきた。
「暁美さん、大丈夫!?」
マミさんがリボンを引き寄せる。
「だ、大丈夫です……!」
返事はあるし、怪我もなさそうだ。ただ、ほむら本人も自分の爆弾の威力には驚いているらしい。
俺もだ。
いや、たぶん俺の方が引いてる。
「あの……暁美さん」
ほむらを近くまで戻したマミさんが、少しだけ困ったような顔をした。
「はい」
「次からは、もう少し離れて使いましょうか」
「……はい」
ほむらが素直に頷く。
その時、まどかが小さく息を呑んだ。
「……やった」
その声で、ようやく気づいた。
魔女の姿がない。残っていた使い魔も消え、真昼みたいだった青空そのものへ細い亀裂が走り始めている。
倒した。
ほむらが、自分の魔法で。
次の瞬間、結界が崩れた。
◇
足元へアスファルトの硬さが戻る。
夕方の空。住宅街の音。遠くを走る車の気配まで戻ってきて、さっきまで青空の中を落ちかけていたことの方が嘘みたいだった。
普通に地面へ立っているだけなのに、妙に安心する。
「……終わった?」
ほむらが盾を抱えるようにして、小さく聞いた。
マミさんがソウルジェムを確認し、それから微笑む。
「ええ。暁美さんの勝ちよ」
「……私の?」
ほむらが目を瞬いた。
その横から、まどかが勢いよく飛び込む。
「やったー! すごいよ、ほむらちゃん!」
「か、鹿目さん!?」
勢いのまま抱きつかれ、ほむらの身体が完全に固まった。
今度は時間停止じゃないし、爆弾でもない。ただ、まどかに抱きつかれて処理能力が止まっているだけだ。
「本当にすごかった! 一発で倒しちゃったよ!」
「で、でも、巴さんが道を作ってくれなかったら……鹿目さんとマギカさんも、ずっと押さえてくれて……」
「それでも、最後に倒したのはほむらちゃんだよ」
まどかにそう言われると、ほむらは何も返せなくなった。両腕を宙に浮かせたまま、顔だけがみるみる赤くなっていく。
「……あの爆弾、本当にどうやって作ったんだよ」
思わず漏れた。
「ネットです」
まだまどかに抱きつかれたまま、ほむらが答える。
「それは昨日聞いた」
やっぱりこの世界のネット、ちょっと怖い。
「でも、本当にすごかったよ!」
まどかはまだほむらを離さない。
「私、ほむらちゃんが消えたと思ったら、もうあそこにいて……それで、ドーンって!」
「か、鹿目さん、近いです……」
「え?」
言われて初めて気づいたらしい。
まどかが慌てて身体を離した。
「ご、ごめんね! 嬉しくて」
「い、いえ……」
離れられたほむらは、ほっとしたような、そうでもないような顔をしている。
そこは深く考えないでおこう。
「でも、暁美さん」
マミさんが二人へ近づいた。
「さっきのは、あなた一人の力だけじゃないわ。それは分かっている?」
「……はい」
ほむらはすぐに頷いた。
「巴さんが道を作ってくれなかったら、私、あそこまで近づけませんでした。それに、鹿目さんとマギカさんも……」
そこで一度言葉を切って、俺を見る。
「マギカさんが魔女の動きをずらしてくれたのも、助かりました」
「俺?」
「はい。あれがなかったら、隙もできなかったと思います」
思っていたより真正面から言われて、少し困る。
「俺だけじゃないだろ」
ほむらが目を瞬く。
「俺なんか途中で二回くらい落ちかけてるし、マミさんがいなきゃ足場すらまともに保てなかった。まどかにも何回助けられたか分からない」
そこまで言って、少しだけ間を置く。
「でも、最後に爆弾を置きに行ったのはお前だ」
「…………」
ほむらはしばらく俺を見ていたが、やがて小さく頷いた。
「……はい」
その横で、まどかが嬉しそうに笑っている。
マミさんも満足そうだった。
「帰りましょうか」
マミさんが言った。
「今日はうちで反省会ね」
「反省会?」
「ええ。暁美さんの戦い方も、もう少し考えてみたいでしょう? 特に爆弾は」
「……はい」
最後だけ少し声が小さくなった。
「ケーキありますか?」
まどかが聞く。
「もちろん」
「やった」
さっきまで魔女を爆発四散させていたとは思えない切り替えの早さだ。
俺も三人の後ろを歩き出す。
少し先をマミさんが進み、その隣をまどかとほむらが並ぶ。ほんの数分前まで命懸けで戦っていたのに、今は普通の放課後みたいだった。
一度目より、ずっといい。
知っていた未来を一つ変えた、なんて大げさな話じゃない。ただ、前にはなかった時間が少しずつ増えている。
マミさんがほむらへ戦い方を教える時間。まどかがほむらの初勝利を自分のことみたいに喜ぶ時間。四人で戦って、四人で帰る時間。
そういうものが、ちゃんと積み重なっている。
そう思いたくなるくらいには、俺たちは前へ進んでいた。