「あ、起きた?」
「……ここどこですか?」
「地下室。どこのとは言えないけど。で、俺が君をここに誘拐してきた犯人」
「……なるほど。女子高生が男に拉致監禁されて、何も起こらないはずがなくってことですね」
「はずがなくっていうかすでにバリバリ事件だけど。まぁそういうこと」
「あー、じゃあ乱暴される前に一個だけ質問いいですか?」
「なに?」
「なんで地下なのにサングラスかけてるんですか?」
「あぁこれ? これはね、一言で言うと「配慮」」
「配慮?」
「そう。なんか性被害者のエッセイで見たんだけど、犯行に及ぶ時の性犯罪者って、もう明らかに会話が通じない人の目をしてるんだって。でも俺は君と会話したかったから。だから目元を隠したら「こいつ一応会話は出来そうだな」って思ってくれるかな〜と思って、サングラスかけてみた。これを一言で言うと」
「配慮か。なるほどはいはい。……で、会話したいってことは、何か話したいことがあるんですか?」
「うん、ある。……物は相談なんだけどさ、えっと、ごめんキミ名前なんだっけ」
「佐藤です」
「佐藤ちゃんはさ、できれば無事にここから開放されたいでしょ?」
「そりゃまぁ」
「友達の女の子を紹介してくれたら開放するよって言ったら、どうする?」
「……え? 海老で鯛を釣ろうってことですか? いや誰が海老やねーん」
「え、なになに急に、どうしたの」
「いや海老扱いされた屈辱が全ての感情を追い越しちゃって」
「あ、そうだよねごめんね。いやでも大丈夫、佐藤ちゃん可愛いよ。海老だとしたら伊勢海老だよ間違いなく」
「そ、そうですか?」
「そうそう。だってもう一目惚れで攫ってきたから、名前も調べないうちに」
「じゃあなんで別の女の子紹介しろなんて言うんですか」
「え? いや、その子と佐藤ちゃんどっちも監禁したいなって」
「は? 私は開放されるんですよね?」
「え? するわけなくない? 警察にかけこまれたら終わりじゃん」
「ん、あれ? これ話が通用しないやつだな? サングラス貫通してるんだけど怖いんだけど」
「いや通用してるでしょ。本当に通用しない人は「美人の友達はもっと美人かと思って」とか適当なこと言うから」
「嘘の例がもっともらしいのがなおさら怖い」
「あ、ていうか佐藤ちゃん知ってる? オマール海老って名前が違うだけで、実はロブスターのことらしいよ」
「え? なんの話?」
「いや、だからオマール海老とロブスターは同じ生き物なんだって。パクチーとコリアンダーが同じ植物みたいな感じで」
「そ、そうなんだ。…………え? これ私がもう一個くらい同じ例を挙げたらゲームクリアでここから開放されたりします?」
「いやしないけど」
「じゃあマジで何の話なんだよ」
「いや、でもそっか、しょうがないな。じゃあ佐藤ちゃんが今のと同じような例をもう一つ挙げられたら、今後のセックスで避妊を徹底することを約束するよ」
「え、本当に? じゃあ、ルビーとサファイア」
「え?」
「あれってどっちもコランダムって鉱物で、色が違うだけなんですよ」
「あ、そうなの? いやびっくりした、どちらもポケモンでしょうとか言われたらサングラス外してやろうかと思った」
「会話する気なくなるってこと!? 怖いって!!」
「ハハハ。でもいい感じの答えだったからよかった。というわけで敬意を表して、サングラスを外すかわりにゴムを付けてあげよう」
「わ〜い会話が通じる相手でよかった」
「まぁ監禁中に妊娠なんかされてもこっちが困るから、元々付ける予定だったんだけど」
「あー、この人、言わなくていいこと全部言っちゃうタイプなんだ」
「そんなことないよ。ここがどこか聞かれても具体的には伏せたでしょ」
「た、たしかに」
「佐藤ちゃんこそ、適当に話合わせとけばいいとか思ってるんでしょ。監禁された女の子は避妊くらいでわ〜いなんて喜んだりしないよ普通」
「監禁された女の子は犯人に話を合わせるものでしょ普通」
「あ、そういうことか。……ところで海老で思い出したんだけどさ」
「海老だいぶ前ですけどね。パクチーと宝石挟まっちゃって」
「全然話合わせてくれないじゃん」
「え、ごめんなさい。海老がなんですか?」
「俺、海老に火を通して食べる時はさ、頭まで丸ごと食べる派なのよ。……あ、伊勢海老の時は違うよ?」
「でしょうね。それで?」
「で、頭ごと食べようとすると、なんかすっごい硬い部分が口の中に刺さるんだよね」
「あー、ありますね硬い部分。シャキーンってなってるツノみたいなやつ。普通に殻剥く時にも危ないやつ」
「そうそう。あれをさ、ナイフ代わりに使えないかと思って」
「はぁ?」
「あの、えげつないタイプのレイプ魔がさ、ナイフで女の子の体に正の字を刻み込むのを見たことあるんだけど。あ、漫画でね? それをさ、海老の頭で出来ないかなって」
「え、ちょっと待って、私いまから海老の頭で正の字を刻まれるの……?」
「いやそこは「できるかーい!」ってツッコんでくれないと」
「できるかーい!」
「遅い遅い」
「いや今の要望に対して言ったんだよ。誰がこの状況でそんな話にツッコめるんだよ」
「え〜? なんなりと出来るでしょ。チタンとキチンを同じ物だと思ってる!? コランダムみたいに!? とか」
「私そこまでお笑いに命捧げてないし、しかもそれ絶対滑るんで」
「いや俺だって捧げてないよ。そうだったとしてもでしょ。俺がおかしいみたいな話にしないでくれる?」
「なんでちょっとキレてるの怖い……」
「あ、ごめんね、キレてないキレてない。海老の頭で物を切れないのと同じで」
「…………」
「あ、今「なるほどお笑いに身を捧げてないだけあってクソつまんねぇな」って思ったでしょ」
「って思われたら余計怒られそうで嫌だなと思ったけど、どのみち緊張で笑えませんでした」
「リラックス、リラックス」
「監禁被害者にリラックスできる時なんて片時もないんですよ」
「じゃあそこは「できるかーい!」でしょ」
「いやいやいやいや、今それ言ったら絶対滑ってたから」
「そうだよ? 一緒に滑ろうぜ」
「最悪だこの人。道連れにしてくるタイプだ。そんな調子だとどうせ自分の人生が上手くいってないから犯罪に走ったんだ」
「人生上手くいってても犯罪に走る人はいるよ」
「知らねぇよぉ〜」
「いやマジレスするとさ、この地下室を用意して、妊娠されると困るくらいの長期間人間一人を飼う目処が立ってる男の人生って、どちらかというとまぁまぁ成功してる方でしょ金銭的に」
「言われてみたらそうかもだけど」
「でもそんな成功者にも失敗はあってさ。聞いてくれる?」
「聞くしかないので聞きます。なんですか」
「まさか海老の話になると思ってなかったから、今、海老の頭を持ち合わせてないんだよね」
「そりゃそうでしょ。普通、人は海老の頭を事前に用意しないから。出汁取る時以外」
「しかもさ、仮に海老の頭で正の字を書けるか試してみようと思ってもさ、俺、佐藤ちゃんのこと名前も知らなかったんだよ? 海老アレルギーかどうかも知らないから下手なことできないわけ」
「配慮!? できればその調子で監禁もやめてほしかった……!」
「ていうか海老アレルギーの人って、海老の切り傷でもアウトなのかな?」
「海老の切り傷って言葉聞いたの今日が初めてなんで分かんないですね」
「佐藤ちゃんがたまたま海老を持っててくれれば助かったんだけどなぁ」
「持ってるわけないでしょ下校中の女子高生が海老を」
「分かんないじゃん。芋掘り体験の日の小学生みたいに持ち帰ってるかもしれないじゃん」
「どんな海辺の学校でも無い」
「最近の学校ってビオトープとかあるのに?」
「あって海老がいたとして持ち帰っちゃダメだろ。ていうか人数分いるわけないでしょヤゴじゃないんだから。あとついでに、当然のように私の荷物を漁ってるねこの人!? 配慮はどうした!? なんで海老がないって知ってる!」
「いやGPS付きのスマホとかあったらやべぇと思って」
「急にガチ犯罪者の話に戻ってきちゃった……。え、そうじゃん、私のスマホどうなったんです?」
「ロック外せないし普通に電源切っといた」
「よかった海老のエサとかになってなくて」
「海老はスマホ食べないよ」
「分かっとるわい」
「あとどのみち今後、佐藤ちゃんがあのスマホに触れる機会はないよ」
「え? ……あ、私、最終的には殺される感じですか?」
「いや開放するとしても何年も先だから。さすがに新しい機種買おう?」
「何年も……。たぶんそれもう私無理ですね」
「あ、データ移行のために今の本体も必要か……」
「そこじゃなくて」
「やっぱり年単位はしんどい?」
「そりゃそうでしょ。ていうか一日も耐えれる自信ないです」
「友達紹介する気になった?」
「しても開放してくれないんでしょ」
「それはそうだけど、俺って結局は一人しかいないからさ。分身して二人一気に抱くとか無理だし、相方がいた方が佐藤ちゃんの負担も減るんじゃないかなって」
「…………じゃあ一人紹介する当てがあるんですけど」
「おお」
「海老名って子で、私より可愛いと思います」
「……佐藤ちゃん」
「なんですか」
「ハードル上げられる側の身にもなってあげなよ」
「どこに配慮してんだよずっと思ってたけど」
「あー、あと本当にその子紹介していいの?」
「は?」
「佐藤ちゃんが最初に「誰が海老やねーん」ってツッコんだの、話をそらすためでしょ? 友達を守ろうとしたんじゃないの?」
「…………」
「本当に、その子でいい?」
「…………私がお笑いに身を捧げたら、乱暴するのはやめてもらえたりしませんか?」
「いや、できるかーい」