「あのさあのさ。人の話聞いてると時々、それどんな顔して聞いたらええねんって思う時ない?」
「あー、あるかなぁ。パッと出てこないけど、たとえばどんな時?」
「そやなーたとえば、これ、俺が不登校になる前の記憶だから、もう20年以上前の話になるんやけど」
「えっ、ちょっちょい、ちょっと待って?」
「なに?」
「お前不登校だったの?」
「そうよ? 小学校4年生から不登校だったり保健室登校だったり、みんなが授業受けてる間に図書室の怪談レストラン制覇したりしてたよ?」
「……あっ、これもう「どんな顔して聞いたらいいか分からない話」始まってる!?」
「いや始まっとらんわ」
「えぇっ」
「いや普通に、あー不登校だったんやーって普通に聞いとったらええやん」
「え、そうなの? それが正解?」
「だってお前、たとえば、これ俺が鳥取に住んでた頃の話なんやけど〜って話始めたら、へー鳥取住んでたんやーって普通に聞くやろ? えっ、スタバ一軒ごときに一喜一憂する地域に住んでたん!? 何それどんな顔して聞いたらいいの……ってなるか? 失礼やろ普通に」
「そ、そうか、そういうことか……? いやでもそっか、そうだなごめん、変にツッコむところじゃなかったわ」
「おうよ。で、20年以上前の話なんやけど、婆ちゃんの実家が海辺にあってな。夏休みに親戚一同でそこに帰省した時に、叔父さんがアワビ見つけた言うて獲ってきたんよ。それが人生で初めて食うたアワビやったんけど、めっちゃ美味くて感動したんよなぁ」
「は〜、なるほど。いいね、ひと夏の思い出って感じで」
「いや、「いいね」やないねん」
「は? なんでよ、いい話だったよ」
「いやお前普通に考えてみぃよ。アワビやで? この日本にな、漁業権に引っかからへんアワビなんか存在せんのよ。バリバリ密猟しとるやんけ」
「あっこれ密猟の話なの!? えっ、あっ、そっか、えっ叔父さんやばいな!?」
「せやろ? でもお前な、俺はまだそれ知ってて、時効になるようにたっぷり20年寝かせてから話したから、まだ聞く方もノリを合わせやすいやろ? これがお前、たとえばお前んとこの叔父さんがな、なぁ聞いてくれよ〜今年の夏なぁ〜言うて、ひと夏の思い出としてアワビ獲った話してきたらどうすんねん。どんな顔して聞く?」
「いやごめん、俺今日の話がなかったら普通に密猟のこと気づかず笑って聞いてたわ絶対」
「あ、そう? じゃあ、はい今! 今客席見て! 客席にもね、お前と同じ「あ、それ密猟なんだ」って思っとった人とね、最初から俺と同じ「それ密猟じゃね?」って思っとった人、たぶんどっちもおるよ? さて今皆さんはどんな顔して俺たちの話を聞いてるでしょうか!」
「うわ怖い! ちょっと客席見れないかも! そう言われたら怖い!」
「俺も怖いよ? 不登校の話した時からもう〜客席見られへんよ?」
「いやそこは自信もってくれよ! 不登校は腫れ物じゃないってお前いいこと言ってくれたんだから」
「いや、客席の中に鳥取出身の人おったら、絶っっっ対微妙な顔して聞いとるから」
「そっちか!」
「そりゃそうやろ。不登校への風当たりなんか実際きついし、それと同列に故郷を語られる身にもなったれよ」
「うわそれは確かに考えてなかった。すいません……ってなんで俺が謝ってんだ。全部お前の言い出したことだろ」
「え、こっちは「不登校と鳥取を一緒にすな!」ってツッコミ待っとったよ?」
「出来るかあのタイミングで! やばいだろあそこでそんなツッコミする奴いたら。あとお前っ、ああいうディスり方するならせめて自分の地元を自虐でディスれよ! よく知りもしない地域のこと好き勝手言うの良くないぞ本当に」
「いや、鳥取行ったことあるから、知りもせんってわけやないけど」
「あっ、行ったことあんの?」
「行って紅ズワイガニ食うて砂丘見たわ。水木しげるロードも見てな、名探偵コナン通りっちゅーとこも見た。ベンチに座った眠りの小五郎を見たオカンが「なにあのバス待ってるおじさんの像?」とか言うてたわ。あと鳥取ってらっきょうも有名らしくて、土産屋で見てへぇ〜初めて知った〜とか思ったりな」
「めちゃめちゃ観光してる!」
「そりゃ観光くらいするわい。した上で世間のイメージの話をしとんのよこっちは」
「あ、もしかしてさっき言ってた婆ちゃんの実家って鳥取?」
「いや愛媛」
「あ、そう」
「……さぁお前これどうする? 親の実家が有りでもしなきゃ鳥取なんてまず行かんやろって前提で話してたよな今な?」
「違う違う違う! 違いますからね皆さん!?」
「どんどん増えていくよそうやって! どんな顔して聞いたらええのか分からんくなる人増えていくよ! 鳥取にゆかりのある人はもちろん、ぶっちゃけ、鳥取のことうっすらバカにしとるやつなんかこの国に腐るほどおるからなぁ! ワシも同じ穴のムジナじゃ! ごめんなぁ! 観光楽しかったけど、ニュースで鳥取とスタバの件見てどうしてもイメージついてもうてなぁ! 恨むならメディアのことも恨んでくれや!」
「やめてやめてやめて! このままだと誰も純粋に笑えなくなる!」
「いや、あのな、笑ったらええんよそういう時は。どんな話題でも、誰がどこで微妙な顔してるか分かったもんやないんやから。微妙と思った時は全部笑ったらええのよそんなのは」
「そんなことある……? 無茶言ってない? コンプラもクソもなくない?」
「いや逆に、なんで全部笑った方がええと思う?」
「え、なんで? 分かんない」
「それはな、笑わんかったところで誤魔化せることなんかなーんもないからや! 笑わなくても、鳥取をバカにする心は消えない! 鳥取をバカにされて悔しい気持ちは、眉間にシワ寄せて報われるもんでもない! じゃあ笑わな損やろうって! どーせ笑わんくても心の奥は変わらんからな。……そうですよね皆さん!?」
「怖い怖い巻き込まないで! 目がギンギンすぎるから! あとなんでか、今は絶対こいつの言葉に流されちゃいけない気がする……! 教祖の匂いがする!」
「いやそう言わず考えてみぃって。たまたまどっかでドラマの撮影現場に出くわして、福山雅治とか、新垣結衣とかに会えたとするやん。そんで向こうからもし、肩組んで写真撮ろう言われたらどうする?」
「いやないよそんなもしもは」
「あったらよ! 万が一あったらどうする? お前断るか?」
「……いやまぁ撮るけど」
「ガッキーと撮る?」
「撮りますね」
「でもその写真を見た星野源はどう思うでしょうか?」
「いやそれはっ…………うーん……」
「お前が星野源だったら? モヤッとせん?」
「するだろうなぁ」
「俺らが女だったら福山雅治の奥さんでもそうよ? そういう相手のこと考えたらさ、やっぱりこっちとしてもうーんって思うやんか。でも結局撮るやろ? それか撮らんかったら撮らんかったで、帰ってからジッッッットリ後悔せん?」
「後悔しそうだね……」
「じゃあ撮ったらええやんってこと。それと一緒なんよお笑いも。もうお笑いが向こうから肩組みに来たら組んだ方がええのよ、笑わせに来たら笑った方がええのよ。そんでそのままホテル行ったらええねんガッキー山雅治と」
「いやダメダメダメダメ!! なんだ最後の!? どさくさに紛れられてもないし、ていうかガッキー山雅治ってなに??」
「まぁでも俺が言いたいことは大体伝わったやろ」
「ま、まぁな……。変に考えすぎるなってことでしょ?」
「そうそう。で、それが伝わったところでもう一つ話したいことがあるんやけど」
「なに?」
「いつかこのネタをもう一回やること考えたらしんどない?」
「……俺はそれをどういう顔で聞けばいいんだよー!」
「笑って笑って」
「ん〜〜〜〜〜〜無理かも!!」