男女一組、他に乗客の見当たらない終電車両にて。
「で、バンジョーくんが「奥さんが熱出した」とか言って、ドタキャンされて。そりゃ仕方ないとは思うよ? 思うけど、クソ暇じゃんキャンセルされた側って」
「ですね〜。結局その日はどうしたんです?」
「映画見に行ったよ、待ち合わせ場所の近くに映画館あったから。たまたま時間合っただけの見る予定ない映画だったけど、結構面白かった」
「おお、結果オーライですね」
「っていうとなんかそっちの方がよかったみたいでモヤるんだよね〜」
「あー、それも分かります」
「
「ありますよ」
「女の子?」
「そうです」
「エッチする予定だった?」
「そうです」
「え〜かわいそう〜。どんな感じでされたの?」
「ネットで知り合った人だったんですけど。オフパコ料をPayPayで払ったら連絡が途絶えて」
「いやそれただの詐欺だよ。ひっかかる人いるんだ」
「そうかな〜とは思ったんですよね、条件良すぎたし」
「どんなだったの?」
「即尺付き生中5000円」
「しかるべき悪が成敗されてるだけじゃん。志藤くんダメだよそれは、罰金だよその5000円は」
「いや仰る通りで」
「ふ〜ん。でも志藤くんも裏でそういうことやってるんだねぇ」
「まぁ男ですからね。あと最近……といってももう2年経つのかな。株を始めたんですけど、結構上手くいってて」
「え、マジか。いくら儲かってる?」
「秘密です」
「え〜。そこは隠すんだ」
「でも結構儲かってますよ」
「じゃあちゃんとお金払って風俗行きなよ」
「ハハハ」
「ハハハて」
「…………」
「…………」
「…………話題なくなったから聞くんですけど」
「1万」
「え?」
「志藤くんなら、1万でいいよ」
「え? あ、いやそうじゃなくて」
「えっ、あ、違うの? 嫌らしい視線を感じた気がしたんだけど」
「まぁ一応、時間どれくらいなのかは聞いときますけど」
「時間?」
「1万でどのくらいしてくれるのか。「1回」ってアバウトじゃないですか」
「あーね。まぁそうだなぁ、2時間かな」
「えっ、それこそ破格すぎません? 30分くらいかと」
「仲良し割引だよ☆」
「友情を薪のように使い捨てるというあの?」
「どのだよ。いや大丈夫だから、ちゃんとシャワー浴びてゴム付けてくれたら」
「ハハハ」
「いやハハハじゃなくて」
「……で、まぁ僕が聞きたかったのはそれじゃなくて」
「あぁうん」
「バンジョーさんって、なんでバンジョーさんなんですか?」
「え? なんでって?」
「名前。本名はたしか、
「そうだね」
「そういう名前のアニメキャラとかに似てるのかなと思ってググってみたけど、そういう感じじゃなさそうだったし。なんでなのかなって」
「知りたい?」
「まぁそりゃ、気にはなります」
「へぇ〜、じゃあ教えてあげる。バンジョーくんの由来はね、万象(ばんしょう)だよ。呪術廻戦に出てくるあの、影絵の象」
「あぁ、伏黒の」
「そうそう」
「…………いやなんで? 象っぽくもないですよねバンジョーさん」
「それは服を着てるからだよ」
「は?」
「バンジョーくんはね、巨根だけどEDなの。だから脱ぐといつも股間にゾウの鼻があるんだ、ぶらーんって。それでバンジョー」
「……だとしたらそのネーミングはいじめなのでは?」
「そうだよ?」
「そうだよって」
「私さ〜、志藤くんにだから話すけど、いじめに憧れがあるんだよね」
「えぇ……」
「自分がいじめられたことはないし、人がいじめられるのを見たこともない。今までラッキーっで平和に生きてきたけど、でも全国のそこかしこで必ずそれは起きてるわけでしょ? ねぇ」
「まぁ」
「そしたらさ。もしある朝急に、カーストトップのいじめ主犯と私の魂が入れ替わったりしたら。私はその人がやってたいじめをバトンタッチしたいなって思うんだよね」
「……嗜虐心ってやつですか?」
「そう。志藤くんも思ったことない?」
「ないです」
「え〜、男の子ならあるんじゃないの? いじめられてる女の子を輪姦するのに参加してみてぇ〜とか」
「ないですよ」
「ヤリサーに入って薬盛った女の子をレイプしてぇ〜とかも?」
「ないですね」
「え〜そっかぁ。まぁ私もそこまでひどいことしたいとは思わないけどさ。でもなんていうのかな、ドラマとかでたまにいじめのシーンを見ると、ぞくぞくするんだよね」
「なるほど?」
「ね、だからそういうこと。バンジョーくんはあだ名の由来を知らないの。ただ私の友達の中には志藤くん以外にも、その由来を知ってる人が何人もいる。私はそういうので満足して、誰も不幸にならない範囲で細々と、夢を叶えに向かってるんだよ」
「なるほど。でもそういう悪事っていずれバレませんか?」
「大丈夫だよ、みんな口が堅いから。志藤くんも、ね?」
「僕は……どうですかね。小学生の頃はチクリ魔呼ばわりされてましたけど」
「うそぉ。昔すぎるけど意外かも」
「まぁそこで懲りて、自分に得のない密告はやめようって心に誓ったんで」
「あははっ。なら安心だ」
「そうですかね?」
「そうだよ」
「でも僕、バンジョーさんの奥さんとは知り合いなんですよ」
「え、そうなの?」
「知らなかったでしょ」
「まぁね。……あー、じゃあそっか、今後会う時気まずくなっちゃったりする? ごめんね?」
「ごめんと言われてましても……」
「え〜ダメ? よしじゃあ分かった、5000でいいよ。気まずくさせちゃった手当で特別に5000円、即尺生中2時間! どう?」
「……ところでバンジョーさんの奥さんは、このこと知ってるんですか?」
「え?」
「そのあだ名を付けられるってことは、したんでしょ? 2時間1万円かは知らないですけど」
「……やだなぁ、バンジョーくんからはお金取ってないよ。彼、ムードを作るのが上手くて、流れで一回だけね」
「へぇ」
「でも聞いてよ、EDなのに性欲はあるって大変みたいでさ。ちんちん使わないプレイをあの手この手でさせられてね。いくらいいムードでホテルに入っても、初回からいきなりアナル舐めさせるのはちょっとねぇ?」
「そういう話をチクるのよくないですよ」
「チクるって、奥さんに話してるわけじゃあるまいし」
「それはそうでしょう。既婚者に手を出すと、慰謝料とかエゲツないらしいですし」
「それな〜」
「…………」
「…………」
「……ちなみに相場は最大200万くらいらしいですよ」
「……えっ? ちょっと、まさかだけど、もしかして私いま脅されてる?」
「ですねー」
「ちょいちょい、さっき言ってたじゃん。密告はしないって誓ったんでしょ」
「何の得にもならない密告はしない、ですよ」
「私がバンジョーくんの奥さんから訴えられて、君に何の得があるのよ」
「慰謝料の支払いに困って、僕に金を無心する可能性がなくはないんじゃないかって」
「…………そんなに儲かったの?」
「秘密です」
「……あっそ、いいけど。それで? お金に困った私は、2時間いくらで君に買われるんだろう?」
「そりゃ1万でしょう。慰謝料200万なら、時間にして最大400時間ですね。さすがに全額それで賄いはしないでしょうけど」
「えっぐぅ。そうなるくらいなら口止め料払えって?」
「そうなりますね」
「いくら? 口止め料は」
「半額でいいですよ。200時間で」
「ちょっと、全額の工面はないって言ってたのに、半額の前提がおかしいな?」
「嫌なら交渉決裂でもいいですからね」
「…………マジで言ってる?」
「大マジです。またとないチャンスじゃないですか」
「君さ〜。本当はレイプにも興味あるでしょ」
「ありますね」
「あれっ、支離滅裂」
「いや、さっきの話は、いじめとかヤリサーとか、多勢に無勢って感じだったじゃないですか。一対一じゃないと嫌なんですよ僕」
「……あーね、そういうこと」
「で、どうします?」
「…………第三の選択肢、ここで君を消す」
「なるほど」
「……まぁ現実的じゃないか。分かった、払うよ。体でお支払いします。それでいい?」
「願ったり叶ったりです」
「……はぁ〜。志藤くんのことは良い友達だと思ってたんだけどなぁ」
「一緒です」
「友情を灰にできるタイプとは知らなかった」
「僕も、友達にこんな悪い一面があるとは知らなかった」
「悪い女なら気兼ねなく犯せるって?」
「そうじゃない相手よりは、そうでしょう」
「怒ってる?」
「いや全然。思ってたのと別の「同類」だったんだと思っただけですよ」
「…………ねぇ今さ、思いついたこと言っていい?」
「どうぞ」
「脱出兎じゃなくて、脱ぐ人って書いて、
「ハハハ」
「ハハハじゃないよ」