「子どもの頃さ、将来の夢を書かされる授業とかなかった?」
「なに急に」
「いや、今高校で進路の話しててさ。そろそろ真剣に考えなきゃなーって思ったら、なんか思い出して」
「あー、俺の学校でもやってるわそういうの。時期だもんなぁ。…………で?」
「お前、将来の夢になんて書いた?」
「そっちかよ、進路じゃなくて」
「進路も大事だけどさ。なんか気になって。たとえば、将来の夢と今から決める進路が、他の人はどのくらい一致してるものなんだろうな〜……とか」
「あー、なるほど。……俺は特に将来の夢とかなかったかなぁ。でもそれだと授業的にまずいから、何かしらでっち上げて書いたんだっけか。なんだっけなぁ、料理人になりたいとかだったかなぁ」
「あ、オレと同じだ。でっち上げて書いたんだよ、しかも料理系」
「へぇ。じゃあお互い、進路に反映のしようがないな。でっち上げだから」
「そうだけど。……なぁお前その夢、料理人になるって夢を、どうやって思いついたかとか覚えてる?」
「どうやって? そりゃあ、美味いもん作れるようになったら、美味いもん食えるようにもなるかな〜……みたいな、そんな適当な感じだよ」
「それも同じだ! オレさ、本当は最初、ゲーセンの店員になりたかったんだ」
「……は? なにが?」
「将来の夢の作文だよ。結局はでっち上げて「パン屋」って書いたんだけどさ、その前に本当はゲーセンの店員になりたいって、それは心の底から思ってたんだ」
「なんでまたゲーセンの店員なんかに」
「店員になれば、好きなだけゲームで遊べると思ったんだよ」
「……いや無理だろ」
「分かってるよ、小学生の時の話だろ。で、当時の俺もすぐに「いやそれは無理だ」って気づいて、それでゲーセンの店員になるって夢は捨てた。そのあとにパン屋になる夢をでっち上げたわけ」
「はぁ、まぁ子どもらしいっちゃらしいか……。……ちなみになんで次はパン屋だったんだ?」
「生地をこねるのが楽しそうだったから」
「お、なんか夢っぽいじゃん」
「夢っぽい?」
「ゲームやり放題とか、美味いもの食うとか、そういうのは結局そっちが夢で、そのための店員とか料理人っていうのは手段だろ? でもパン生地こねたくてパン屋になるっていうのは、だいぶ夢っぽい」
「あーなるほど。……まぁパン屋の朝はサラリーマンよりもっと早いと知ってから、その夢も語らなくなったんだけどな。オレ朝苦手だし」
「でっち上げた夢なんてその程度か〜」
「ハハ、その程度だったよ」
「……そういえば俺も似たような話を持ってるな」
「おお?」
「お前さ、子どもの頃考えたことない? ドラえもんの道具が一つだけ手に入るなら何がいいか?って」
「四次元ポケット」
「お、いいのかそれで? 「一つ」だぞ? ポケットの中身は空っぽでも?」
「む、そう来るか。じゃあそうだな……。……もしもボックスかな」
「同じだ! 俺も昔そう考えた!」
「叶えられることの幅がダンチだもんな」
「そうなんだよ。……でも今は答えを変えてる」
「へぇ、そうなの? なんで?」
「よく考えてみるとさ、もしもボックスってクソ目立つんだよ」
「ほう……?」
「あれが「もしも〜〜かつ○○な世界だったら」みたいな感じで、複合的な願いを叶えられる物だったら別にいいんだけどな。もしも万が一そうじゃなかったとしたら、あの仰々しい電話ボックスが人目について、なんだこれはって騒ぎになっちまうわけだろ。一人暮らし始めてからならまだしも、現状だとさ」
「あぁたしかに。「他人がもしもボックスの存在を気にもとめない世界」を作れないとそうなるのか」
「って考えると、万が一ガラクタになることを思えばもしもボックスは選べないんだよ。他のひみつ道具の力もなしに、俺がもしもボックスを自分だけの物として死守できるとは思えないからな」
「なるほど。……じゃあそれに代わる道具チョイスは何になったんだ?」
「どくさいスイッチ」
「えっ……。またやけに物騒な。何に使うんだよそんな物」
「俺と好きな子の二人だけを残して、他の全人類を消す。「無人島に好きな女子と二人きりになったら」を地球規模で作るんだ」
「……それオレも消えるってこと?」
「悪いな」
「はぁ〜? マジかよ、よかったわまだひみつ道具がない時代に生まれて」
「ハハハ。……まぁでも、この答えも最近どうかなって思い始めたんだけどな」
「どうかなって?」
「だってさ、もし世界に俺と好きな子で二人きりになったら、俺、眠れないんだぜ」
「……なにが? 下ネタ?」
「ちげぇよ。考えてもみろ、相手からしたら、自分と二人きりになるために全人類を消した男だぜ? 仲良くなろうと思えるか?」
「そこは隠すしかないんじゃないの? どくさいスイッチのことを」
「無理だな。俺にそんな演技はできない。全人類が消滅したのに落ち着きすぎだ、あの男は何かおかしい……って思われるに決まってる」
「なんで決まってるんだよ」
「そのくらいのことには勘づけるくらい賢い子が好きだから」
「高望みか、演技下手なのに」
「ハハハ。まぁそれでさ、そう考えると、その子は俺が黒幕なんじゃないかってことに気づくわけだろ。で、気づいたらどうすると思う?」
「逃げるとか?」
「かもなぁ、大規模な鬼ごっこを一生するならそうなる。……でも普通に考えて嫌じゃないか? やばい男にいつ見つかるとも知れない……なんて考えながらする潜伏生活は」
「そりゃな」
「ってことは、その子が取り得る「確実かつ楽になれる方法」っていうのは限られてくるんだよ。……俺を殺すことか、自殺することに」
「……物騒な」
「そう、物騒なことになっちまうんだよな、思ってる以上に。だからどくさいスイッチはダメだ」
「なるほど。賢明だ」
「……で? お前はひみつ道具を一つ選ぶなら何にする?」
「え? もしもボックス以外は思いつかないよ。そこまで深く考えたことなかったし」
「やっぱそうか。……なんか俺たち似てるよな」
「何がどうなってその結論に……?」
「何がって、お前は子どもの頃から将来の夢について深く考えて、考えた結果あれでもないこれでもないって却下が続いて、結局最後には「思いつかない」になったんだろ? 俺は夢のことなんてちょっと考えたらそこで終わりにしてたのにさ」
「あぁ、それがひみつ道具の話になると逆転するってことか」
「そう。俺はあれこれ考えた末に「思いつかない」になって、お前は深く考えずにパッと決めてた。似てるだろ?」
「……いや、うん、まぁ……。…………いややっぱり一緒にされるのは心外だな」
「なんでだよっ」
「オレはどくさいスイッチを候補に入れたりしないからだよ! こえーんだよ!」