※ サキュバスとは、不死身で性に寛容な異種族である。見た目が人間女性にそっくりだし社会性もあるから、普通に地球で人間社会に参加して暮らしてる。
これは女子高生のAさんと、彼女のクラスメイトであるサキュバスのSさんの話。
Aさんは幼い頃から毎年、夏にはホラーコンテンツの鑑賞を風物詩としているようだが……。
「夏だしさ、なんか怖い話とかない? それかおすすめのホラー映画とか」
「あぁ、いい話があるよ。これは忘れもしない、私が小学三年生だった頃……。お父さんの運転する車に乗って家族で出かけてた時、窓から顔を出した私がヘレディタっちゃったんだけどね」
「んっ? なんて?」
「え? あぁ、車の窓から顔を出したらヘレディタっちゃって」
「ごめんちょっと最後の方が知らない言葉かもしれない」
「えっ、ヘレディタリーってホラー映画知らない? Aってよくホラー映画見てるのに」
「見てるけど、それは見てないかも。で、なに? ヘレディタったって」
「映画「ヘレディタリー/継承」のネタバレになるけどいい?」
「いいよ。その映画おすすめするより今Sが話してることの方が面白いってことでしょ?」
「まぁそうだという自負はあるけど」
「じゃあいいから、なんなのヘレディタるって?」
「あのー、その映画にね? 女の子が爆走する車の窓から顔を出してたら、スレスレのところに建ってた電柱に顔面ガンッ!!ってなって、首が取れちゃうシーンがあるのよ」
「え、こわ」
「ねっ。……で、家族で出かけてた時に私がヘレディタっちゃったんだけど」
「……は? え待って待って。それはつまり、Sが電柱にガンッして首取れたってこと?」
「そう」
「事件だろ」
「事件なんだよ。ググッたら出るよ当時のニュース記事」
「マジ? (確認) ……マジじゃん」
「私嘘つかないし。で、ヘレディタっちゃったんだけど、ここでクイズね。サキュバスがヘレディタっちゃった場合、その後の状況ってどうなると思う?」
「は? えっ、ん? ごめんこれ今あれ、怖い話は続いてるの?」
「続いてるよ?」
「だとしたらクイズねじゃないが。えっしかもあれか、首取れたことはサラッと流す感じか」
「え、だって首取れるのがサビだったら映画の方見たらって感じだし」
「あそっか。……そっかなのか?」
「はいはい、いいから考えてよ。サキュバスがヘレディタるとどうなる?」
「えー……? ……あー、不死身だからまず復活するわけでしょ?」
「どっちから復活すると思う?」
「どっち? あ、頭からと体からどっちってことか」
「そう」
「そりゃ頭じゃない? だってサキュバスも脳みそで物考えてるってことは、脳みそ=魂みたいなもんじゃん。魂から復活するんじゃね?」
「ぴんぽーん。ってことでその時の私も、車の外に転げ落ちた頭の方から復活したんだけど、そうなるとどうなる?」
「どうなるって?」
「自分事として考えてみてよ。Aの首ポーン、窓の外にゴロゴロ〜、復活! ……はい、それからどうする?」
「えー、ダッシュで車追いかける? 運転してるパパもさすがに気づいて止まってるだろうし」
「そのダッシュする足に靴は履いてますか?」
「靴? …………あっ、そっか! 体が復活しても裸なんじゃん!」
「そゆことっ。つまり小学三年生の私がヘレディタった時点で、道路には「体はあるけど服がない女児」が、車内には「服はあるけど頭がない女児」が同時に存在してたわけね」
「やべぇじゃん。通りすがりに道路の方見たら事件だよ」
「車内の方見ても事件だよ」
「いやそれはそう。……え、それで? どうしたのそっから」
「いや、子ども心にやべぇ〜と思ってさ。ダッシュで車追いかけたいけど誰かに見られたら事件だぞって思ったら、足が動かなくて。そしたらさ、お父さんがすぐ助けに来てくれたんだよね」
「おお、車Uターン?」
「いや道幅なくて無理だったから、服持ってダッシュで来てくれた」
「その状況でちゃんと服持ってきたパパの判断力えぐいな」
「いやそれが当時の私は許せなくてさ」
「なにが?」
「だって服持ってきたっていうのはさ、しまむらに寄ってきたってわけじゃないんだよさすがに、緊急事態だから。ってことはさ、その服って車内の私が着てたやつを脱がせてきたってことじゃん? ことじゃんっていうかどう見てもそうだったんだけど」
「あ〜ね。抜け殻みたいなもんとはいえ脱がされたのが嫌だったんだ?」
「だってパンツまで持ってきてたんだよ? 絶対まんこ見えてたでしょ脱がす時。事件だよ」
「いや知らんけど緊急事態だし。サキュバスもそこは気にするんだ」
「するよ、だって父親だよ? まぁまぁキツいって、娘の体から剥ぎ取った衣服を持って駆け寄ってくる絵面がさ」
「でもそれで助かったわけでしょ?」
「まぁね? いや、だから今では反省してるんだよ、あの時露骨に不機嫌になって悪かったなって。もう一回同じことがあったらちゃんとありがとうって言おうって」
「あってもらっちゃ困るんだけどね同じこと。…………え、それで? 怖い話は?」
「ん? あぁ、まぁそれで、道路上には服も体もある女児が爆誕して、車内には服も頭もない女児が取り残されてたわけでしょ? …………お父さんと車に戻ったら、車内側の体がなくなってたんだよね。忽然と」
「えっ……」
「たぶん誰かが持っていったんだと思う」
「いや事件だろ」
「そう、今でも未解決のまま」
「こっっっわ。…………けど一個言っていい?」
「なに?」
「あんたホラー話すのあんま上手くないね」