氷菓くん短編集   作:氷菓くん

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2024 10/25 ファッキン・マーガリン先輩

■ファッキン・トースト

「お姉ちゃんおはよう〜。今日の朝ごはんは?」

「おはよう弟。今日はトーストにしようかなって。ちょうど今焼けたところ」

「お、いいね〜。いただきまーす。……うん! やっぱりトーストにはバターとジャムだよね」

「それマーガリンだけどね」

「え?」

『ファッキン・マーガリンッッ!!!!』

「うわぁ! ファッキン・マーガリン先輩!?」

(説明しよう! ファッキン・マーガリン先輩とは、バターとマーガリンの区別がつかない人たちの負の感情が集まって生まれた、区別・判別・紛らわしさに関わるあらゆる憎悪を司る神出鬼没の怪異である)

『ファッキン!!』

「ち、違うんだ先輩! 僕はそんなに怒ってないから、その、しっ……鎮まりたまえ〜」

「あ、弟、ちょっとそれ取って」

「え、どれ? このマーマレード?」

「そうそれ。オレンジジャムね」

『ファッキン!!!!』

「うわぁ〜! お姉ちゃ〜ん!!」

(彼の姉は死んだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ファッキン・回転寿司

「ほら弟、せっかく回転寿司に来たんだからどんどん取りな」

「え〜どれにしようかなぁ。……あ、ところでお姉ちゃんは、ブリとハマチの見分けってつく?」

「え? そりゃ商品名として書いてるし、ブリの成長前がハマチでしょう? 出世魚ってやつ。それくらい私も知ってる」

「いや、そうなんだけど。それぞれの刺身だけをポンと出されたら、どっちがどっちか見た目じゃ分からなくない?」

「……たしかにそうかも」

『ファッキン!!』

「うわぁ! ファッキン・マーガリン先輩!?」

『ファッキン・ブリハマチ寒ブリカンパチ!』

「えっ!? え、なに……? カンパチ……?」

「あれ弟、もしかして知らない? 寒ブリは冬場の脂が乗ったおいしいブリのことで、ブリも寒ブリもハマチも種族的には全部同じだけど、カンパチは全然別の魚なんだよ」

「え、そうなの!? 寒ブリとカンパチって音が似てるし、ハマチとカンパチも音が似てるから、その種族の亜種的なものなのかと思ってた。お寿司としての見た目も似てない……?」

「分かるけど。じゃあブリ部分はともかくパチ部分って何なのって話になるでしょ」

「た、たしかに……」

『ファッキン!!』

「ちょ、先輩は何に怒ってるの!? ……え? 寒ブリという言葉もある通りブリの旬は言うまでもなく冬だけど、カンパチの旬は…………夏なの!?」

『ファッキン!!!!』

「あ、ねぇ弟。今ググってみたんだけどさ、カンパチの名前の由来は、その魚の目と目の間に八の字の模様があることで、間八でカンパチだから、寒の字は関係ないんだって」

「えぇ! それなのにカンブリとハマチとカンパチなんてややこしい名前になってるの!? 旬の時期まで真逆なのに!?」

『ファッキン!!!!』

「なるほど先輩はそれで怒ってるのか……。……でもまぁ一度聞いたら忘れないし、刺身だけ見ても見分けがつかない問題はあるけど、商品名を見ずにお寿司を食べることなんてそうそうないから、少なくともこうやって回転寿司を食べている間はややこしさとも無縁で安心だよね」

「あ、それからね弟。ブリとハマチの違いは大きさで決まるんだけど、それとは別に養殖ブリのことを一律でハマチと呼ぶ文化も一部にはあるんだって。…………特に回転寿司とかにある文化だって」

『ファッキン・ブリハマチ寒ブリカンパチ回転寿司ッッッッ!!!!!!!!』

「うわぁ〜! お姉ちゃ〜ん!」

(その日からその店は焼肉屋になった。彼の姉は死んだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ファッキン・適当人間

「母さん、俺のPASMOを知らないか」

「お父さん、目の前にあるでしょう」

「いやこれはSuicaだろう。俺が探してるのはPASMOだ」

「えぇ? だってお父さん、いつもSuicaのことをPASMOって呼んでるじゃないですか」

『ファッキン!!』

「ぐあああああ!?!?」

(彼の父は死んだ)

 

「ちょっと悪いんだけど、そこの棚からコップを出してくれる?」

「コップコップ……って、たくさんあるけどどれのことだ? 母さん、ガラスのやつとプラスチックのやつどっち?」

『ファッキン!!』

「うわぁ! ファッキン・マーガリン先輩!? もしかして、コップとグラスのややこしさに怒って……?」

「あぁ、ちがうちがう。どっちでもなくて、ティーカップを取ってほしいの」

「え、じゃあ最初からそう言ってくれれば」

『ファッキン!!!!』

「うわぁ〜! 母さ〜ん!」

(彼の母は死んだ)

 

「おい! お前今どこで何してる!」

「え? 普通に家にいるけど。なに?」

「今日十二時に駅で待ち合わせって言っただろ! なんで来ないんだよ!」

「は……? いや、確かに遊ぶ約束はしたけど、来週の日曜って話だったじゃないか」

「だからそれが今日だろ」

「そんなわけない。だって約束してからまだ二日しか経ってないのに…………って、まさかキミは、一週間の始まりをカレンダーの配置的に日曜からだと考えて、金曜日から見た「来週の日曜」は二日後だって言ってるのか……!?」

「それ以外に何があるんだよ」

「何がって、キミは月曜の学校でしょっちゅう「また一週間が始まったわ〜」とかボヤいてるくせに、それはないだろ……!」

「はぁ? そんなこといちいち覚えてな……『ファッキン!!』えっ、うわっなんだこいつ!? ぎゃあああああ!!」

(彼の友人は死んだ)

 

「元旦・元日……ソーセージ・ウインナー……パンケーキ・ホットケーキ……自首・出頭……」

『ファッキン!!!!』

「やっぱり現れたな……? このクソ野郎、もういい加減にしろよ!! 何がファッキン・マーガリンだ! 自分はバターとマーガリンの区別もつけられないくせに、ちょっと誤解を生む言い回しをしたからって、僕の大切な人たちを簡単に殺しやがって……!! 父さん、母さん、二人の姉さんに友達まで……。僕はお前を絶対に許さないッ!!」

『ファ……ファッキ……ガッ……グギギ……』

「な、なんだ? ファッキン・マーガリン先輩が苦しんでる……? ……はっ、まさか、「死んだ」というのはギャグの表現であって本当に死んでいるわけではないという説と、僕には姉が二人いて全員本当に死んでいるという説の二つが衝突して、その描写の「ややこしさ」による自家中毒を起こしてるのか……!?」

『ファッキ……ン……マーガ……マー……ガッ…………グァァァァァッッ!!!!』

「や、やった! ファッキン・マーガリン先輩を倒したぞ! 仇を取ったんだ!」

「お、どうした息子? そんなにはしゃいで」

「何かいいことでもあったのかしら?」

「どうせくだらないことでしょ」

「そんなことよりお腹減ったんだけど〜」

「なぁ、さっきは俺が悪かったよ。また改めて、ちゃんと遊ぶ予定立てようぜ」

「父さん、母さん、姉さんたち、友達も! ファッキン・マーガリン先輩が消滅したことで、先輩に奪われた命が戻ってきたんだ! やった、よかった……。そうだよね姉さん、僕もお腹が空いたよ。母さん、今日の夕ご飯はなに?」

「今晩はね、この前スーパーで見かけて珍しかったから買ってみた、タコスに挑戦しようと思うの」

「え? ママが買ったのってトルティーヤじゃなかった?」

「いやチャパティでしょ」

「全部よく知らんぞ。何がどう違うんだ?」

「あ、あぁ……。ダメだよみんな、そんな話をしたらまた…………」

『ファッキ〜〜〜〜ン・マ〜〜〜〜ガリ〜〜〜〜ンッッッッ!!!!』

(ファッキン・マーガリン先輩は死なない)

 

 

 

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