不完全な大人と未完成な青い春   作:AMENOTE

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風紀委員会、参戦!

「社長!ムツキ!ハルカ!早く離れよう!やつらが来た!」

 

「やつらって?」

 

「うちの風紀の連中だよ!ここまで追ってくるなんて!それもこのタイミングで⋯⋯いや、こんなタイミングだからこそ!?」

 

カヨコの緊迫した叫び声とムツキの要領を得ない戸惑った声にかぶさるようにして、再び迫撃砲の発射音が響く。

 

見上げてみると先程と同じ大きさの弾が同じように飛んでくるのが見えたので、『グリダヴォル』をブーメランのように投げて空中で炸裂させる。

 

二度目ともなると、どのタイミングでどういう風に投げればいいか分かってきた。手首のスナップを利かせて上半身を思い切り捻るのがコツだ。

 

確か作中では風紀委員会が突入してきたのは便利屋が迫撃砲で行動不能になってからだったはず。その迫撃砲による攻撃が二度も防がれたんだ。取ってくる行動は二つにひとつ。

 

一つは風紀委員会が様子見をして突入が遅れること。理想論ではあるがこれが一番ありがたい。俺らの勝利条件は『便利屋を引き渡さないこと』と『この場に風紀委員長である空崎ヒナが到着すること』。

 

天雨アコの独断で行われたアビドス侵攻を止められるのはヒナだけ。故に、彼女の到着まで侵攻を引き延ばすことができれば俺達は無益な戦いをしなくても済む。

逃げるタイミングを逃したのでこのまま行けば間違いなく銃撃戦に巻き込まれるしね。

 

そしてもう一つは──

 

「ま、また迫撃砲!?」

 

地を揺らし、腹に響く重低音が再び鳴り響く。

 

──やっぱそう来たか!

 

二つにひとつの『もう一つ』は『対象が行動不能になるまで迫撃砲を打ち込み続ければ良いじゃんね☆』という脳筋戦法だ。

 

相手が黙らないのなら言葉が途切れるまで銃弾を叩き込み、気に食わない相手が地に倒れ伏すまで引き金を引き続ける。それがキヴォトスだ。

 

正直こっちの方が起こる確率としては高いと考えていたけど、まさかこれほどとは!

まあ、言葉による話し合いが通じる世界なら生徒全員が銃を持ってドンパチしているなんてことは起こっていないのだから当然といえば当然なのだが。

 

相手がその戦法を取るのなら、俺はそれを何度でも空中で炸裂させるまで──!

 

 

 

 

 

 

キィンっ⋯⋯ズゴゴゴゴゴっ

 

 

 

 

 

 

「──ぁ」

 

気づけば、ぐいっと後ろに引っ張られるような感覚とともに投げようとしていた杖が手から弾かれて。

気づけば、俺はその場に崩れ落ちていた。

 

「っ、げほっ、ごほっ、ぁ⋯⋯」

 

「ちょ、大丈夫ッスか兄貴!?」

 

「あんた、大丈夫!?まさかまた怪我した訳じゃ⋯⋯っ!」

 

少女たちの慌てる声が降ってくる。

腹に思い切り拳を振り抜かれた時のように痛い。

考えなくてもわかる。俺が炸裂させられなかった擲弾が着弾し、その破片が俺の腹に着弾したんだろう。

 

投げようとした杖はなんで手から離れた?

そもそも着弾する前に聞こえた金属同士がぶつかるような音は何だ?

というか、便利屋は無事なのか?

俺はまた怪我をしたのか?

 

痛みで思考がまとまらない。

息が荒くなっているのがわかる。

せめて状況確認を

 

「シュウっ、落ち着いて!」

 

背中を支える手と共に脳を揺らすはっきりとした声が俺の意識を覚醒させる。顔を上げると、セリカが必死の形相でこちらをのぞき込んでいた。

 

「大丈夫よ、息をゆっくり吸って吐いて!」

 

息を吸う。

 

吐く。

 

吸う。

 

吐く。

 

その繰り返し。肋骨が軋み、口から掠れた吐息が漏れ出す。

 

──大丈夫、痛みは和らいだ。

 

「ありがとう、黒見さん。新島も。大丈夫、何ともない。」

 

「⋯⋯怪我は、無いッスか?」

 

黒いシャツをめくり上げると、そこには黒服から送られた薄型軽量防弾チョッキ。これが直撃した破片からのダメージを最小限に抑えてくれたのだろう。

 

多分、これがなければ今頃俺の体内はぐっちゃぐちゃだ。そっと手を当ててみると鈍い痛み。

絶対青痣になってるんだろうな⋯⋯

 

防弾チョッキを確認したのか、2人も胸をなで下ろす。

 

「便利屋は?」

 

言いながら視線をやると、カヨコだけでなくムツキやハルカ、アルまでもが倒れている。これは、マズいな⋯⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

「ターゲット、沈黙しました。」

 

スコープをのぞき込んでいた風紀委員会の少女が背後に立った少女にそう報告した。

 

「よし。歩兵、第二小隊まで突入。」

 

「⋯⋯イオリ、あの方たちはどうします?」

 

「ん?ああ、向こう側の生徒?なんだっけ⋯⋯アビドス?そんなの当然、公務の執行を妨害する輩は全員敵だ。」

 

背後に立っていた、銀髪をツインテールにした褐色の肌の少女──銀鏡イオリ。突入の指示を出す彼女に言葉を投げかけたのは同じく風紀委員会所属の火宮チナツ。

 

遠くに見える便利屋68とアビドス、それにヘルメットを被った少女とよくわからない男性2名を視界に捉えながら胸を張ってイオリは答えた。

 

「ならば、おとなしくしてもらいたいものですね⋯⋯しかしこちらの事情を説明するのが先かと⋯⋯」

 

「説明?必要か、それ?うちの厄介者どもを取っ捕まえるための労力が惜しい。もし邪魔するなら、部外者とはいえ問答無用で叩きのめす。」

 

そう言い切るイオリの目には、崩れ落ちた黒いシャツの青年の姿は映っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

「つまり、風紀委員会が便利屋を捕まえに来たってことよね!?」

 

「まだわかりません⋯⋯しかし私たちに友好的とは判断しかねます。」

 

「確かに。砲撃範囲内には私たちもいた、あからさまにこっちを狙ったわけじゃないけど。」

 

「そんな⋯⋯」

 

アヤネちゃんの戸惑いの声もシロコ先輩の冷静な声も今の私のお腹の奥から溢れ出してくる思いを冷ますことはできない。

 

私を誘拐の危機から救ってくれた人がまた怪我をするところだった。しかも彼は柴関ラーメンを爆破した便利屋68を迫撃砲の砲撃から救おうとしていた。

 

シュウさんが投げようとしていた杖が吹き飛ばされたのは、多分狙撃。手元じゃなくて、杖の先端の方を狙って撃ったんだと思う。投げる人を撃つよりも投げようとしている物体を撃つほうが迫撃砲の邪魔をされなくて済むって考えたのかしら?

 

どっちにしろ、私を助けてくれた人が危険に晒されたのは事実。

 

絶対に、許さないんだから⋯⋯

 

「冗談じゃないっての!便利屋は私たちの獲物なんだから!なんなの一体!」

 

腹の奥底から湧き上がってくる激情に任せて言葉を吐き捨てる。私達の土地に勝手に踏み込んで、挙句便利屋を横取り?何様のつもりなのよ!

 

「でもゲヘナの風紀委員会は、他校の公認武装集団や便利屋のような部活とは性質が異なります!一歩間違えれば、政治的な紛争の火種になるかもしれません⋯⋯。アヤネちゃん、ホシノ先輩とはまだ連絡がつきませんか?」

 

「⋯⋯はい。普段なら、ここまで連絡取れないことはないはずなのに。」

 

そうよ、ホシノ先輩!こんな非常時に一体どこで何やってるのよ!まさかお昼寝してるんじゃないわよね!?

 

「この状況⋯⋯私たちはどうすればいいのでしょうか?」

 

どうしたらいいのか、なんて⋯⋯分かんない。戦ったら政治的な紛争の火種、戦わなかったら便利屋を横から掻っ攫われちゃう。どちらにしろ板挟みじゃない⋯⋯!

 

“じゃあ便利屋をこのまま風紀委員会に引き渡しちゃう?”

 

静観していた『先生』が落ち着いた声で私達にそう問いかける。シュウさんの背中がぴくっ、と動いたのが添えていた左手越しに伝わってきた。

 

「それは、で、ですが⋯⋯それにしても彼女たちと戦うわけには⋯⋯」

 

「じゃあどうしろっていうの?」

 

「他に選択肢はない、風紀委員会を阻止する。」

 

「シロコちゃん⋯⋯!?」

 

シロコ先輩の断言にノノミ先輩が声を上げる。

 

「⋯⋯はい、その通りです。風紀委員会が私達の自治区ですでに戦術的行動をしたということは、政治的紛争が生じるということ⋯⋯きっと、便利屋の皆さんが問題を起こしたのは事実です⋯⋯」

 

そこで言葉を切ったアヤネちゃんが息を思い切り吸う。

 

「しかし、だからといって、他の学園の風紀委員会が私達の許可もなく、こんな暴挙を敢行してもいいという意味ではありません。」

 

「その通りだわ!よくもこんな事を!これは私たちの学校の権利を無視するような真似よ!便利屋を罰するのは私たち!柴関ラーメンを壊した代償を払ってもらわないと!」

 

他の学園の風紀委員会に、好き勝手させるもんか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

「アビドスの生徒達、臨戦態勢に突入しました。」

 

「はあ、面倒だな。たかが4人で、こっちは一個中隊級の兵力なのに。だけど、売られた喧嘩を買わないなんてことは風紀委員会としてできない。総員、戦闘準備!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください、イオリ。」

 

「ん?」

 

「アビドス側に民間人が映りました。確認中ですので、お待ちください。⋯⋯え!?」

 

血気盛んかつ猪突猛進気味なイオリを押し留め、画面を見つめたチナツの顔が引きつる。映ったのは見覚えのある成人男性だったのだから!

 

「あ、あの方はまさかシャーレの先生!?」

 

「ん?シャーレ?なんだそれ?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。シャーレの先生があっちにいるとしたら⋯⋯この戦闘、行ってはいけません!」

 

「とういうことだ?」

 

「アビドス、こっちに接近中。発砲します!」

 

通信を通して伝えられる戦闘開始の合図と発砲音。苛立ったようにイオリは通信を切り、己の銃を取る。

 

「ちっ、仕方ない。行くぞ!」

 

「あっ⋯⋯」

 

すでに放たれた弾丸はもとには戻らない。

もう後戻りはできないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

サラが持ってきてくれた『グリダヴォル』を杖として使ってゆっくり立ち上がる。思えば杖として使ったのはこれが初めてだ。銃としての機能は使ってないし、使ったとしてもブーメラン代わり。

 

⋯⋯ちょっと『グリダヴォル』が気の毒に思えてきた。

 

アビドス勢は『先生』を伴って風紀委員会とドンパチしに行った。ここまでは本編とほぼ同じ。

セリカには「ここか後方で大人しくしていなさいよね!」と釘を差されてしまったし、俺もまだ死にたくはないからこれ以上の積極的な介入をしたいとは思わない。

 

去り際に『先生』がこちらを見ていたのは気になるが⋯⋯願わくばこのままあちらからアクションを仕掛けてこないことを望むばかりだ。

 

それはそれとして、このまま「はいサヨナラ」するのもいかがなものか⋯⋯

 

考え込んだ俺の隣でがたっ、と音がする。

目を向けると、瓦礫の下に埋まっていた例の大きいバッグを引っ張り出しているムツキと戦闘準備をしだす便利屋の面々がいた。

どうやらダメージから回復したようだ。

 

アルの後ろで「許さない許さない許さない」と壊れたラジオのように言葉を吐き続けるハルカはちょっと怖いが⋯⋯他三人が気にしてないので便利屋の通常運転なのかもしれない。どんな組織だ。

 

「行くんスか?」

 

「ええ、行くわ。こんな扱いを受けて背中を向けて逃げるなんて、一流のアウトローじゃないもの。」

 

「あ、アウトロー?確かにここで逃げたら三流っぽいッスけど⋯⋯」

 

「それに、風紀委員会のあの兵力。私たちを捕まえるにしては多すぎるし、何か他の目的がある気がする。」

 

「それなんだが。」

 

サラとアルの問答に口を挟んだカヨコの横から俺が口を挟む。一斉に視線が向けられて思わずたじろいだ。

 

タクサンノヒトノシセン、コワイ

 

あくまで原作知識だがここで情報を提供しても流れは変わらないはずだし、伝えたからと言ってどうなるという話でもない。まあ、賢いカヨコならとっくに思いついていることかもしれないが。

 

「風紀委員会の委員長が独断でこんな暴挙に出るとは思えない。彼女は聡明な人物だと聞いている。そんな人物がこんな事をしたらどうなるか分からないわけがない。だからこれは「委員長のヒナ以外⋯⋯例えば天雨アコの指示とか?」⋯⋯多分。」

 

原作輸入の知識をあたかも俺が考えたかのように、嘘と真実を織り交ぜて話す。悪い大人の典型例みたいな事をしているが、今は勘弁してほしい。

 

俺の言葉の後を引き継いで言葉を紡ぐのはやはりカヨコ。うん、やっぱこの子賢いわ。

 

「アビドス勢を殲滅させる理由はないし、私たちを捕まえるにしては人手が多すぎる。ということは狙いはまた別⋯⋯もしかして、『先生』?」

 

「恐らくは。」

 

何が恐らくだ、確定事項じゃろがい。

 

それでも、間違ってもここで「正解!」とか「そうだよ」なんて言ってはいけない。だってそんなん言った途端に「なんでお前がそんな事知ってるんだよ」って話になって余計拗れるから、誤魔化すのは是非もないよネ。

 

「連邦生徒会長が遺した超法規的機関シャーレ。その代表である外から来た大人の『先生』。何も知らない人が聞いたら怪しいことこの上ない。それに、トリニティの生徒とも繋がりがあるときた。ゲヘナ側からしたら不確定要素極まりない。」

 

「だから保護という名目で監禁、もしくは拉致するのが狙い?」

 

「⋯⋯そこまでは。が、行くなら行くで早くしたほうが良いのは事実だろうな」

 

「⋯⋯分かったわ。シャーレの先生にはお世話になったもの、ここで見捨てるのはアウトローじゃないし私達をダシに使ったお礼参りをしてやるわ!」

 

「⋯⋯そうか。」

 

嗚呼、そうだろうよ。君なら、そう言うだろうさ。

今の俺にはないその情熱が、情景への眼差しが、どれだけ眩しいのか彼女は知らないんだろう。

 

「気をつけてな。」

 

「ええ、ありがとう⋯⋯って、貴方達は行かないのかしら?」

 

「ヘルメット団の子達(この子達)ならともかく、俺が行っても足手まといにしかならないからな。俺は俺なりに、できることをやるさ」

 

「⋯⋯そう。じゃあ、便利屋68行くわよ!」

 

「おー!」

 

「は、はい!アル様!」

 

アルの号令に元気よく飛び跳ねながらムツキが追随し、ハルカが控えめに返事をしてついていく。

 

「⋯⋯あの時、助けてくれてありがとう」

 

その後ろを無言で歩いていたカヨコが振り向きざまにポツリと一言。

 

「なんのことだ?俺は俺が怪我をしないようにしていただけだけど。」

 

「⋯⋯そういう事にしとく。」

 

呆れたようにため息一つ。カヨコはそれだけを残して小走りでアルの元へ駆けていった。

 

「で、どうするんスか?『俺は俺なりに、できることをやるさ』って行ってたッスけど。」

 

サラの問いには答えず、まっすぐ後ろを指さす。指さした方からはカタカタヘルメット団のリーダー・九マヤと真宮ネムが2人乗りするかたちでバイクで駆けてきていた。

 

そのバイクは元々持っていたやつ?とか2人乗りっていいんだっけ?とかの疑問は置いておいて。

 

ポケットから取り出したスマホをひらひらと振りながらアルアプリを立ち上げる。見覚えの文字列のなかに、1つだけ見覚えのないモノがあったのでそれをタップ。

 

「今からアビドス最強の生徒をここに呼び出す。それが今の俺にできることだよ。」

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