毎度のことながら、励みになってます。
よければコメントください、自己肯定感上がるので
追記。誤字報告ありがとうございます!修整致しました!
「あなたに、決して断れないであろう提案をひとつ。アビドス高校を退学し、私共の企業に所属する⋯⋯その条件を呑んでいただければ、今アビドスが背負っている借金の半分近くをこちらで負担しましょう。」
ブラインドが半分ほど上げられて光が差し込む窓を背に、黒い男はそう嘯いた。
異様な男であった。
黒いスーツに黒い両手。おまけに顔まで黒い男。目に当たる部分からは白い光が漏れ、ひび割れのように顔全体に線が走っている。
白い口元はにぃっ、と形容する他ない形に開かれていた。
男の名は黒服。
キヴォトスに流れ着いたシュウと一番最初に交流した人物であり、彼とギブ・アンド・テイクの関係を築いている男である。
対するはピンク色の長い髪を腰まで垂らした少女であった。暗い室内からでもわかる、アイスブルーとオレンジのオッドアイが特徴的で、『ホルスの目』と呼ばれるマークがヘイローに刻まれている。
少女の名は小鳥遊ホシノ。
アビドス高校唯一の3年生で、アビドス最強の女子高生。そして、アビドス生徒会最後のメンバーである。
細かい文字が並ぶ書類を挟んで両者は向かい合っていた。少し間があいて、「時間は十分くれてやった」と言わんばかりに両手を組み直した黒服が口を開く。
「ククッ、ククククッ⋯⋯さあ、答えを聞きましょう。もしイエスならば、こちらにサインを。」
「⋯⋯何度も言ったはずだよ、断るって。」
「⋯⋯ククッ」
「何がおかしいッ!」
明確な拒絶。冷たくドスの効いた低い声を突きつけられても、それを子どもの強がりだと一笑に付すかの如く彼は嗤った。
「──いえ。それでは、また時間をおいてお聞きするとしましょう。どうぞ、お帰りください。」
黒服がホシノの背後にある扉を手で示し、ホシノも黒服から視線を逸らす───その刹那。
『スイスイスーダラダッタ スラスラスイスイスイ〜♪』
「はい、もしもし。」
(お前の着信音かよ!)
緊迫していた空気を一気に霧散させる音楽が室内に鳴り響き、何食わぬ顔で黒服が電話を取る。
中途半端な体勢で固まってしまったホシノは心の中で悪態をついた。
「お元気でしたか?──はい、はい。ええ、私はアビドスにおりますよ?なに?『お前の着信音どうなってんだ』ですか?」
(なんで向こうに着信音バレてるのさ。)
黒服がスピーカーモードにしていないからか、黒服に電話を掛けてきた相手の声はホシノには聞こえない。
(まあ、でも。黒服に電話をかけてくるような相手だからロクデナシに違いないかな。)
「ククッ、ククククッ⋯⋯貴方は随分とトラブルに愛されているようですね。⋯⋯なに、褒めているんですよ?」
(褒めてないだろ。)
ホシノと同じような事を思ったのか、通話相手も黒服にそれを突っ込んだようだ。黒服が独特な笑い声とともに一言謝っている。
「それで御要件は⋯⋯貴方がこちらに?それはまた急ですね。というより、貴方ならホシノさんの携帯に直接電話を⋯⋯はあ、そもそも電話番号知らないし、知っていたのは私だけだった、と。」
『お前が俺のスマホにいつの間にか連絡先を追加してたんだろーが!それもご丁寧に名前を『ブラックスーツ』で登録して!』
会話相手が怒鳴ったのだろうか、携帯から漏れ出る小さな声がホシノの耳にも届いた。
勝手にスマホに連絡先を追加されていた人にはご愁傷さまだが、どことなく会話にコントみを感じるのは気のせいじゃないはずだ。
(というか、会話相手は私のことを知ってる?それに柴関ラーメンの前って⋯⋯)
「仕方ないですね、そう伝えますよ⋯⋯え?私の携帯をですか?ククククッ、確かに貴方から直接伝えたほうが私から伝えるよりかは聞いてもらいやすいでしょうね。」
ホシノの思考を遮るように、黒服が開いた携帯をこちらに向けてくる。画面には『伽藍堂』と記載されていた。
(伽藍堂⋯⋯どっかで聞いたような)
さあ、と言わんばかりに携帯を突き出した黒服の手からひったくるように携帯を奪い、耳に押し当てる。
聞こえてきたのはどこか落ち着いた、まだ青年にはなりきれていない男性の声。
『もしもし、小鳥遊ホシノさんで合っていますか?』
「⋯⋯うん、私が小鳥遊ホシノだよ。」
(敬語⋯⋯黒服と話してたときは砕けた口調だったのに。)
話す人によって口調を変えている。何の意図があるのかは分からないが、黒服と話している時よりかは嫌悪感はない。
『状況が状況なので手早く。今、アビドスにゲヘナの風紀委員会が侵入してきて、アビドスの子達が交戦中です。』
「⋯⋯っ、場所は?」
『柴関ラーメン付近の市街地。今、そっちに向かっているので合流したいんですが、可能ですか?』
(手は選んでられない、か。)
「⋯⋯分かったよ。すぐに外に出るから。」
『それではまた、後ほど。』
ぷつりと切れた携帯を黒服に突き返し、焦燥感から足早に扉へと向かう。
「次会うときは良い返事を期待していますよ」なんて言う黒服の言葉は無視することにした。
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ビルから出てきた私を迎えたのはバイクに跨った、ヘルメットを被った人物だった。私の姿を認めたその人はヘルメットを取ってバイクから降りてくる。
「お前は⋯⋯」
「⋯⋯その節はどうも。」
セリカちゃんを助けたという大人だった。
先生と同じ黒い髪に、垂れ目がちな先生とは対象的な鷹の目のように鋭い瞳。黒曜石のような瞳はしっかり私を映している。腰のベルトとズボンのあいだに杖を指しており、まるでかつて存在したと言われる侍のようだ。
身長も彼のほうが高いから威圧感があってちょっと怖い⋯⋯じゃなくて!
「黒服と繋がっていたの。」
「⋯⋯ああ。」
「まさかだけど、黒服が私に近づいたように、セリカちゃんにもそのつもりで近づいたんじゃ「それは違う」⋯⋯え」
私が詰め寄ると、彼はきっぱりと私の言葉を否定した。驚いて顔を見上げてみると彼の瞳は更に鋭く細められ、口元は忌々しげに食いしばられていた。
「黒服と繋がりがあるって時点で俺のことは信用できないんだろ?⋯⋯それで良いよ。でも、黒見さんを助けたのはそんな理由じゃない。」
「じゃあ、なんでなのさ。」
「後悔すると思ったから。」
「⋯⋯」
「目の前に助けられる人がいて助けられるチャンスもあるのに、それを無視して助けなかったら俺は後で間違いなく後悔する。それが嫌だったから黒見さんを助けた。それだけ。⋯⋯要するに自己満足だよ、自己満足。」
信じられない。
大人は嘘つきだから。
優しい言葉で簡単に人を騙すから。だけどこの人の言葉には、瞳には、嘘をついている様子は見られない。本当のことを言っているか、大嘘つきかのどちらかだ。
「じゃあ、なんで黒服と繋がりがあるのさ!」
「俺が生きていく上でアイツの力を借りなきゃいけない時があったから。アイツの力を借りて、俺はアイツに対価を払う。⋯⋯そういう関係だよ。」
そう返答する彼の声には嘘をついている人の揺らぎはなくて。だから、「セリカちゃんを傷つけたら、許さないから。」と返すのが精一杯だった。
彼は驚いたように目を丸くし、再び鷹の目のように鋭く細める。そして一言。
「当たり前だ」
そう呟いて彼は私にもう一つのヘルメットを手渡す。
「行くぞ。状況は向かいながら話すから。」
いつの間にか、彼の口調からは敬語が消えていた。
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やっぱキヴォトスの人間って力強いね。バイクの後部に乗りながら、片手で服の裾を掴むだけで身体固定できちゃってるんだもん。
「それで、何があったのさ」
おおう、冷え切った声色。
アニメで聞いたときみたいなドスが効いていないだけまだマシと考えるべきか。まあ、小鳥遊ホシノが人一倍警戒心が強い子だって言うのもあるんだろうけどさ。
考えてみれば、「黒服と連絡を取っている」「外から来た怪しい大人」というだけで俺は警戒されるべき立場なのだ。
こういう時、『先生』と違って立場がない俺は不便だよな。羨ましいとは思わないけど。
「便利屋が柴関ラーメンを爆発させて便利屋を捕まえに来た風紀委員会がアビドスに侵攻してきた。」
「⋯⋯柴大将は、無事なの?」
「既に保護して俺の仲間と共に避難している。⋯⋯大丈夫だ。」
「⋯⋯そっか。」
「続けるぞ。ゲヘナの風紀委員長が火種になりかねない事をするはずがないから、風紀委員会の誰かの独断だっていうのが便利屋の考察。それに加えて、便利屋を捕まえるためだけにあんな大量の兵力を動員できるはずがない。だから、便利屋を隠れ蓑に、本当はシャーレの『先生』を狙ってるんじゃないかってのも言及してた。」
「⋯⋯そう。」
気まずい。非常に気まずい。
ヘルメット越しな上に対面じゃないからどういう表情しているのかも感情も読み取れない。
⋯⋯割り切ろう。今の俺がやるべきことはホシノをあの場に送り届けることであって、この気まずい雰囲気を解消することでもない。
やるべきことを見失うな。
これで良いんだ。
「⋯⋯それでオジサンを迎えに来たってこと?」
「⋯⋯嗚呼。この騒動を収められるのはゲヘナの風紀委員長か、アビドス最強の小鳥遊さんだけだろう?」
「⋯⋯それもそっか。」
「⋯⋯速度上げるぞ。口閉じてしっかり掴まってろ。」
渋々ではあるが納得してくれたらしい。右手のグリップを捻ってアクセルを回す。Gが掛かってバイクが加速する。
身体を押し付ける風を切って進むのは気分が爽快だ。
こういう時、免許取っておいて良かったと思う。大学1年生の時必死でバイトして貯めたお金で車の免許と共に取った免許だったけど、あっちじゃバイク乗る機会無かったしなぁ⋯⋯
そういえば俺のいたところはどうなってるんだろ。
行方不明扱い?それとも俺がいなくなった時から時間が止まってるとか?⋯⋯そんな希望的観測は捨てたほうがいいな。帰ろうにもどうすればいいのかわからんし。
結局のところ、人生とは割り切る事が全てなのだ。
嫌なことも割り切らなくちゃやっていけない。
⋯⋯かく言う俺にも割り切れないことは沢山あるけど。
そんなこんなで前方に見えてきた沢山の生徒達。衝突する前にブレーキをかけるとしよう。
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「バイクありがとね」
「お役に立てたなら何より。」
「にしても兄貴もバイクに乗れたんスね」
ホシノを送り届けてそっと場を後にし、マヤとサラと合流して帰路に着く。ホシノが合流してからのことは彼女達に任せるべきこと。
少し離れたところでホシノを降ろしたので既にヒナが到着していたのかどうかは分からないが、交戦していた様子はないし多分大丈夫だろう。
それにしても今日はいろんな事がありすぎた。俺の退院に加えて柴関ラーメンの爆破、風紀委員会の侵攻。さらにはホシノを迎えにバイクを走らせた。ホントにいろんな事がありすぎて俺が退院したてだってことを忘れてしまいそうだ。
「そういえば柴大将は?」
「ネムが病院に連れてった。⋯⋯腕折れてたみたいで、爆発に巻き込まれたのもあって入院中」
「巻き込まれた子達も無事だった?」
「皆掠り傷だけで大怪我した人はいなかったっスよ!」
「そりゃ良かった。⋯⋯なら、今度みんなで柴大将のお見舞い行くか。」
「賛成っス!」
「賛成」
それでも、この子たちが無事で良かったと。
そう思ってしまうのは多分交流が多かったからだけじゃないんだろう。