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その後の話をするとしよう。
病院に駆け込んだ俺達は緊張から解放されたあまり、脚の力が抜けてしまってその場にへたり込んでしまった。
顔半分が血だらけで笑みを浮かべている俺と肩で息をしながら笑っているセリカを見て、看護師さん達が慌てて寄ってきたのは言うまでもない。
緊張から解放されて笑うという現象は聞いたことがあるが、まさか自分がそうなるとは思ってもみなかった。
そんな体験することになるとも思いもしなかったがね。
そんなこんなで看護師さん達に運ばれた俺は救急治療室に運び込まれ、適切な治療を受けることと相成った。
治療自体は麻酔を打たれていたのでつつがなく進んだのだが、治療前に生理食塩水で傷口を洗われたときはあまりの痛みに死ぬかと思った。
医師による診断結果は『左耳介擦過創』と『左耳介軟骨欠損』。
命に別条はないが、俺の肉体はキヴォトスの人間と違って頑丈ではないので合併症や何かしらの異常が起こってもおかしくはないとのことで、大事を取って1、2週間入院してもらうと治療後に医師から告げられた。
この医師なんだけど、柴大将に勝るとも劣らず毛並みがもふもふ。
どっちかというとポメラニアンに似ている医師だった。
アニマルセラピーとかよく聞くし、頼んだら触らせてくれないだろうか?だめ?そっか⋯⋯
そういう訳で今、俺は病院のベッドのうえで退屈な日々を過ごしている。
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病室は暇なので見舞いに来てくれる人がいるのはちょっとありがたい。
と言っても、キヴォトスで見舞いに来てくれるのは1人2人くらいだろうと考えていた。なにしろ俺が怪我したのはキヴォトスに降り立って1日目だからね!
短期間に知り合ったのは黒服とセリカと柴大将だけだ。だから暇な日々が続くと思っていた。
なんて、ここまで言えばわかるね?
な ん か お も っ て た よ り 人 が 来 た。
まずセリカ。
面会時間開始と同時に病室に飛び込んできたセリカはゼリーを持って見舞いに来てくれた。
「べ、別にあんたが心配だから来たわけじゃないし⋯⋯昨日は助けられたし⋯⋯」
と目を逸らしてゼリーを手渡してくれた後に
「⋯⋯改めて、ありがと」と小声で呟いていた。可愛い。
それから、俺が治療受けている間に何があったのかを事細かに話してくれた。
ホシノらアビドス勢と先生が追いかけて来ていたヘルメット団を制圧したこと。
ヘルメット団を問い詰めたところ、カイザーに雇われたと吐いたこと。
そして、先生がヘルメット団を叱ったこと。
⋯⋯その場に居合わせなくてよかったと思った。
確かに誘拐未遂なうえ、俺に怪我を負わせて追い回したというのは叱られて然るべきなのだが、後から来た先生が叱ったという事実が俺の嫌悪感を増やしてしまいそうだからだ。
一通り話し終え、「また来る」と言い残して帰っていったセリカはその宣言通り毎日面会に来た。
話し相手になってくれる人がいるっていうのは良いものだね。
次に黒服。
コイツは面会時間中に来ることはなく、深夜の誰もが寝静まった夜に一度だけ病室を訪れた。
「クックック⋯⋯貴方も災難ですね、キヴォトスに来た初日に銃撃戦に巻き込まれるとは。」
「銃撃戦っていうか逃げてる時に後ろから撃たれただけだし、なんなら弾が掠っただけだし。」
そんな取り留めのない話をしていると、黒服が手渡してきたのは薄いビニールに包まれた黒い何か。
「もしかしてこれって」
「ええ。貴方の要望をカタチにした防弾チョッキです。軽くて丈夫かつ、上から服を着られるほど薄くするのは骨が折れましたよ。銃弾だけでなく、ミサイルの余波に巻き込まれても問題のないような物に仕上がりましたよ。」
クックック⋯と相も変わらず不気味な笑い声を響かせて黒服は去っていった。
手元に残された布のような手触りの防弾チョッキは備え付けの机のうえに置いておくことにした。
流石に今着るわけにはいかないのだよ。ここ病室だし。
そして、驚くべきことにカタカタヘルメット団のリーダーもお見舞いに来てくれていた。
扉が開いたかと思ったら目の前にいたのは金髪をおさげにして顔の左右に垂らした緑色の目の女の子。よく見たら、ゲーム内でよく見かけたヘルメット団の子が着ていた赤い上着を羽織っている。
「⋯⋯あの時怪我させて、その後ずっと追い回してごめんなさい」
「え、急にどうしたの?」
「アビドスの人と、先生に、話を聞いて⋯⋯」
「ん?ごめん、なんて⋯⋯?」
「えっと、その、うぅ⋯⋯ぐすっ」
「え。ちょ、えぇ!?」
聞き返しただけなのに、言葉に詰まったヘルメット団のリーダーが泣き出してしまった。
それを見てあわあわしながら宥める俺。俺別に悪いことしてないよね!?なんで泣きだしたのさ!?
なんとか落ち着かせて話を聞いてみると、どうやらセリカや先生辺りから話を聞いたらしく「下手したら死んでしまう可能性があった」という事実を突きつけられたことによって自分達のしたことの重大さを自覚したとのこと。
考えてみれば「理由があって学園を退学し、ヘルメット団に入った子達」は日々を生きるのが精一杯。
お金を稼ぐのにも一苦労。そんな中で見つけたカイザーからの仕事。失敗すればお金は貰えないから何としても仕事を成功させなければならない。
だから頭がまわらなかったのだろう。多分。
よくよく見てみれば、いつも被っているヘルメットを脱いでちゃんと素顔も晒してるし、これが彼女なりの謝罪ということなのだろう。
⋯⋯まあ、そもそも俺は彼女たちに怒ってないんだけどね。悪いのは裏にいるカイザーだし。
でも、参ったな。俺は泣いている人を見るのが苦手なんだ。それが自分よりも年下で、かつ、女の子であると尚更。
多分、この時の俺は正常な判断を下せていなかった。
泣いている子がいて冷静さを保てなかったと言うべきか、心配と焦りが先に来ちゃったと言うべきか。
気づけば、ヘルメット団のリーダーの頭を撫でていた。指の間をすり抜ける少し引っかかりのある髪の毛。掌に伝わる微かな温かさ。それが「彼女がここにいる証明」。
目の前の女の子が「ゲームに登場したキャラ」じゃなくて「実際にここにいる子供」だと認識し直せた気がする。
気づけば、目の前の彼女の目から涙は引っ込んでいた。
「なんで、そんな優しく⋯⋯」
「⋯⋯俺別に君達に怒ってないし。君が撃ったわけでもないのにちゃんと謝りに来たし。だから、君が罪悪感感じなくて良いんだよ。おーけー?」
俺が見る誰かの顔は泣いている顔より笑っている顔のほうが良い。
少しおどけた口調で聞いてみると、「⋯⋯うん」と目線を下げて頷いたリーダー。
泣き止んでくれたなら、まあいいか。
それはそれとして、誘拐はダメということとちゃんとセリカにも謝罪はすることと釘を刺しておく。
俺が許すことと彼女が許すことはまた別の問題だからね。
「あとさ、少し気になったんだけど⋯⋯もしかしてだけど生活キツイ?」
「⋯⋯うん。カイザーからの仕事は失敗したからお金もらえなかったし⋯⋯」
「じゃあ、これは俺からの提案だけど⋯⋯」
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「おう、伽藍堂くん。少しは良くなったかい?」
「ええ、おかげさまで。」
数日経ったある日の昼頃。病室に顔を出してくれたのは柴大将。相変わらず毛並みはもふもふだ。
あの後、セリカから話を聞いたらしい柴大将もセリカと同様に足繁く病室に通っていてくれた。
セリカちゃんを助けてくれてありがとうの言葉はこの病室で何度聞いたか分からない。
ただ一緒に逃げてただけですし、この傷は逃げる時に銃弾掠っただけなんですなんて口が裂けても言えなかった。
「本当にごめんなさい。雇用してもらった直後に怪我して休み続きで⋯⋯」
「いいや、気にしないでくれ。結果的にセリカちゃんは攫われずに済んだんだし、それに君のおかげで新しくアルバイトも増えたしな。」
そう言って柴大将がちらりと入口の方に目をやると、そこには恐る恐る病室を覗き込むヘルメット団の子たち。
手を振ってみると手を振り返してくれる。可愛い。
そう、あの日ヘルメット団のリーダーに提案したのは「柴関ラーメンでアルバイトしてみないか」ということ。
雇われて一日しか経っていない俺が提案していいものかとは思ったけど、柴大将は「人手が足りない」と言っていたし、ダメならダメで雇わないだろうから提案するくらいならいいかと思い直した。
「意外とあの子達も元気に働いてくれるし、人手が増えたおかげで店も賑やかになった気がするよ」
「黒見さんとはうまくやれてますか?」
「ああ。最初こそピリピリしていたけど、仕事してる内に仲良くなっていたよ。新しい単発のアルバイト教えてもらったってセリカちゃんよろこんでたしな。」
「それは良かった。」
この分なら、俺が復帰した時もピリピリした環境で働くことはなさそうだ。良かった、良かった。
⋯⋯そうだ、これだけは語っておかなきゃ。
初日、セリカの面会後にシャーレの『先生』が面会を申請してきていた。
セリカは病院に駆け込んだ時に一緒にいたのでフリーパスであったが、先生に関しては違う。
それ故に面会を断ってもいいと医師から伝えられた。
もちろん、丁重にお断りしてお帰りいただいたが。
失礼に当たるかもしれないが会うも会わぬも俺の自由。
怪我している状態で会いたくない人に会うというのは心も身体も疲れてしまうのだ。
NOと言える日本人、伽藍堂シュウです。
⋯⋯目ぇ、つけられてないといいなぁ。
Garandou's Memo
一匹の蝶の羽ばたきはいつかどこかで大きな竜巻を起こす。
たとえその羽ばたきが、到底優雅とは言えない泥臭いものであったとしても。