住めば都とはよく言ったもので、病院生活に慣れ始めた頃。
医者から明日には退院して良いと告げられた。後遺症も見られないし、体調の悪化も見られないので帰ってオッケーとのこと。
そういえば病院出てから住むところどうしよう。全ッ然決めてなかった。
⋯⋯仕方ないので黒服と連絡取ってみることにしよう。
多少は対価を求められるだろうが俺の許容範囲内なら問題はないし、大人の世界はギブアンドテイクが当たり前。アビドスを彷徨いていれば出会えるだろう。多分。
あれからも柴大将やセリカ、ヘルメット団の子たちがちょくちょくお見舞いに来てくれて、近況も耳に入ってきている。
特にセリカからは便利屋68絡みの情報が飛び出してきていた。曰く、「ラーメン大盛りにしてあげたのに、その次の日くらいにはアビドスの校舎に攻めてきたのよ!信じられる!?」とのこと。
俺が覚えているストーリーの大まかな流れからは変わっていないらしい。
それだけが懸念点だったから、変わっていないようでよかった。
あらためて確認しておこう。俺がブルアカを離れる前に進めたのはデカグラマトンを除いたアビドス編第3章のラストまで。イベントはアイドルイベント⋯⋯だったと思う。正直なところ、正確に思い出せていない。
が、多分アビドス編第3章までのストーリーの流れは分かるのでそこまでは大丈夫だろう。
問題はそこに至るまでの道程とその後の展開。
俺の介入によって悪影響が出るのは避けたいが、助けられる人がいるなら助けたいというのも心境的にはある。
例えばアリウス。サオリが先生を撃つところ。
その後に涙ながらにサオリが先生に謝ってアツコを助けることを求めるシーンは確かに心打ったが、そもそも彼女にその引き金を引かせたくない。
子供にそんな後々まで続く後悔を背負って生きて欲しくないし、できることならその後悔の芽を摘んでしまいたい。
例えばリオ。確かに彼女はアリスを手に掛けようとした。だが、「キヴォトスの滅亡を避けるために自分が後ろ指をさされることになってでもその元凶を始末する」考え自体はそこまで間違っていなかったはずだ。
なに?相談しなかったのが悪いって?
それ言い出したら先生はリオたちに相談もなしに書類偽造した挙句アリスを不正入学させたやろがい。
せめて、リオの考えの軌道を修整できたなら。彼女が自分を責めてしまうような結末にならないようにできたら。
それは、どれだけ幸せなことだろう。⋯⋯まあ、それをどうやって実現するのかについてはまったく考えついていないから追々考えなければいけないが。
今はまだ俺自身が心配だから大まかな流れを変えずにいるだけで、最終的にはキヴォトスが滅亡しなければいいのだ──と、自信満々に言い切れればよかったのだが。
地雷原の上でタップダンスしているような状態なのがキヴォトスなのだ。
いつどのタイミングで起爆スイッチを押してしまうかは俺にも分からない。今は慎重に動くのが吉だろう。
だが、それでも。俺の方針は変わらない。
できるだけ先生には関わらない!これだけは俺にとって譲れないのだ。異論は認めない。
──────────
そういうわけで迎えた翌日。
病院着を脱ぎ、黒服お手製の薄型防弾チョッキを着た上から黒いスーツと赤いネクタイを身につける。
1日着ただけだけど、妙なジャストフィット感。黒服は意外にもいい仕事をするやつのようだ。
腰をひねってみるとポキポキっと音が鳴った後にじわーっと血が流れるような温かさが溢れ出す。
これがまた気持ちいいんだ。
そんなこんなで病院着を畳み、壁に立て掛けていた杖型の銃『グリダヴォル』を手に取っていざ病室を出ようと引き戸に手を掛けて引くと────
「失礼しまーす!」
「あ、兄貴っ!おひさですっ!」
「ど、どうも⋯⋯」
「迎えに来たわよ!」
目の前に立っていたのはヘルメット団のリーダーちゃんと団員2名、それにセリカ。
ヘルメット団の子達にはあれから何かと話す機会があり、その内に懐かれてしまったようだ。会う度に「兄貴」「シュウさん」「ガランドー」と呼ばれるのでちょっと照れくさい。
学生時代は苗字呼びだけだったから色んな呼び方されるのに慣れてないのだ。
それはそれとして「ガランドー」呼びは辞めてもらうことにした。俺は筋肉ムキムキマッチョマンの変態ではないのだよ、君ィ?
今日来てくれた2人のヘルメット団員の子はセリカと一緒にヘルメットを取った時に俺が「美人さん」と褒めた子と、最後の最後で俺に銃口を向けてきた子だ。
美人さんと褒めた子の名前は真宮ネム。茶髪をおさげにした緑に近い目の色の女の子。
恥ずかしがり屋でヘルメットを被っていないとまともに話もできない子だったが、最近ではちゃんとヘルメットを取って話をしてくれることが増えた。嬉しい。
最後の最後で銃口を向けてきた子の名前は新島サラ。金髪をポニーテールにした活発な子。
俺のことを兄貴と呼んでいるのはヘルメット団の中でこの娘だけだ。俺にこんな可愛い妹はいないし、そもそも俺は一人っ子だということを忘れないでほしい。
そしてヘルメット団のリーダーの名前は
この子は茶髪をお団子にして頭の後ろで2つにまとめるというヘルメット団といえばこの子!みたいな髪型をしている。
病室で頭を撫でて以来、たまに二人きりになると頭を撫でてほしいと言われるようになった。
⋯⋯リーダーとしての重圧とか凄いんだろうなぁと思いつついつも撫でているが。
「迎えに来てくれてありがとね」
「ふ、ふんっ。別にお礼なんて要らないし⋯⋯」
そう言いながらも黒い耳をピコピコさせているのはセリカ。アビドス高校の制服に身を包んだ彼女の本音は意外にも耳に表れることが交流する内に分かってきた。
ゲームの知識だけじゃなくて実際に交流することの大切さがよくわかる。
「もう耳は大丈夫なの?」
「ん。完治したから大丈夫だよ。キヴォトスの医療って凄いねぇ」
まさか抉れてた耳の見た目が元通りになるとは思わなかった。耳の機能は損なわれてないみたいだし、ほんとにキヴォトスって凄いね。
セリカの隣でシオシオになりかけている3人をフォローするようにおどけた口調で話してみると、顔色がぱあっと明るくなった。
良かった。子供に暗い顔なんて似合わないもんね。変に責任感じなくて良いんだよ。
看護婦さんたちにお礼を言って病院を出る。治療費を黒服が払っていてくれたらしく、そのまま退院することができた。今度会ったら素直にお礼を言うことにしよう。
そのまま4人と他愛ない話をしつつ、柴関ラーメンが見えるところまで歩いていくと─────
ドオオオン、と腹の底に響く音が鳴った。
力強い爆風が数十メートルは離れている俺たちの元にまで届き、思わず顔の前で腕をクロス。腰を少し落として足に力を込め、吹き飛ばされないように必死で耐える。
ようやく爆風が収まり、前を向いてみると⋯⋯
「──え?」
「は?」
「うそ⋯⋯」
隣からも口々に聞こえる唖然とした声。
それもそのはず。
今まで見えていた柴関ラーメンが跡形もなく消え去っていたからだ。先ほどの轟音と爆風。それと合算して考えるに、この状況は⋯⋯
(便利屋68の柴関ラーメン爆破、それに加えてゲヘナ風紀委員会のアビドス侵攻⋯⋯いつかは来ると思っていたけれど、今日だとは思わないじゃんか⋯⋯)
俺が外を出歩く日には必ず何か起こらなくちゃいけないのだろうか⋯⋯勘弁してほしい。