心が読めるスキルを持って貞操逆転世界に転生したので、エッチな妄想が可愛い聖女様を徹底的に堕として曇らせようと思う 作:ひきさん
わたしの名前はモモ・セイント。セイントというのは聖女や聖人に与えられる苗字で、家を捨てて神のみに奉仕してる証。
わたしはスラム街の貧しい家庭の出身で、しかもお父さんはたくさんの女の人と子供を作っていたから、幼い頃は食うものにも困るありさまで、いつもお腹がペコペコだったことを覚えている。
それは、実際に味わってみるととんでもない地獄のような生活で、だから、お腹が満たされないということの辛さをわたしはよく知っている。今でも一種のトラウマのようになっているかもしれない。
だから、わたしに聖女候補としての才能があったことは幸運だった。
教会秘蔵の魔道具で発見されたわたしの才能は光り輝くものだったらしく、その日からわたしは教会に保護されて、食べるものには困らない生活を手に入れたのだ。
でも、それは新たな地獄の始まりでもあった。
教会での聖女候補としての生活は、毎日厳しい勉強や礼儀作法の授業、儀式の実行、魔法の訓練など、息を付く間も無いもので……
貧しい家の出身であるわたしは、ほかの聖女候補からも浮いていて、いっぱい心無いことを言われたし、ぶたれたり、物を隠されたり、たくさんのひどいことをされた。
今なら、他の聖女候補たちも、厳しい生活にストレスを溜めていたのだろうとは想像がつく。
その都合のいいはけ口がわたしだったのだろう。
だけど、当時まだ9歳かそこらだったわたしにとって、その地獄はあまりに耐え難いもので……
ばらばらになりそうな心をなんとか繋ぎ止めるため、次第にわたしは聖女として毎日長時間読まされていた、聖典の教えそのものに依存するようになっていった。
もしかすると、それこそが、聖女候補の生活があまりに厳しすぎるものだった目的だったのかもしれない。
聖典の物語は、耳に心地良いものばかりでもなかったが、どれも教訓と驚きに満ちていて、読んでいる間はなんだか自分の魂がすうっと透き通っていくような心地よさがあって、何度も自分の境遇を全肯定されているような気持ちになれた。
「神は人に試練を与える。それは弱き人には耐え難い試練であるが、その苦しみこそ、人の魂を神に近づけるための祝福なのだ」
「すべての生き物を愛せよ。汝をぶつ者、汝を虐める者だとしても、愛せよ。彼ら、彼女らは汝の魂を強く鍛造するための、汝に優しさの価値を教えるための、神の与えた生ける教本である」
「人はみな、神に奉仕するために生きることを許された。神に奉仕しない罪人は神が罰するから、汝が思い悩む必要などなにもない」
そんな教えの数々がどんどんスポンジのように脳に染み込んでいって、幼いわたしは果てしなく信仰心というものを高めていった。
自由時間も聖典の全文を暗記するに至るまでかじりつくように読みふけり、わたしをいじめていた少女たちにも、すれ違ったらにこりと微笑みかけた。だって、彼女たちは必ず神が罰するのだから、わたしが思い悩む必要などないのだ!
少女たちはそんなわたしを気味悪がって、不思議といじめはだんだん収まっていった。
それを見た私は思った。
「神様は、天使様は、わたしを見ている……!」
際限無く高まる信仰への依存の結果、誰よりも上手に儀式を行えるようになり、誰よりも聖典を理解するようになり、誰よりも人に優しくするようになった。
そしてとうとう、わたしは12歳にして、この国にたった一人の選ばれた存在、聖女の称号を拝命することとなった。
わたしの名前は、モモ・セイント。
だれよりも清らかで、誰よりも信仰深く、誰よりも神に愛された少女。
だが、わたしにとって不幸だったのは――
この世界にいる女ならば誰もが思春期に経験する、狂おしいほどの激情を、わたしは体験しないまま聖女になってしまったことだった。
13歳になって本格的に性に目覚めたわたしは、教会に奉仕する素敵な美少年を見ては心をときめかせるようになり――
まったく未知の、お腹の奥が茹で上がるような、頭がぼうっと桃色の霧に包まれるような、耐え難いほど強い、ある感情を感じるようになった。
それは――性欲というものであることを、わたしはのちに信徒の少女たちから没収した、エッチな本を盗み見て知ることになる。
その強烈さは筆舌に尽くしがたく、抗いがたいもので、わたしは何度も何度も美少年を襲ってしまいたいという強烈な欲望を脳内で暴れさせていた。
教会で少年たちの着替える声が聞こえてきた時は、乱入したすぎて狂いそうになった。
そんなわたしを繋ぎ止めたのは、幼い頃から育んできた強烈な信仰心だった。
わたしは紛れもなく神に救われて、神にすべて依存していると自覚しており、わたしにとって神とはすべてだった。
その神が言うのだ。
「
「欲望に負け、他人の男、神に身を捧げた男を犯した女は、地獄に落ちる」
「身を清め、心を清め、いつも赤子のような純粋さを保て」
わたしにとって、それらの教えはどんなものより優先されるべき啓示であり、神の愛そのものであり、わたしというアイデンティティを根本から固めるものだった。
だが――
日々、悶々とした性欲を、自ら慰めることもできない環境でひたすらに溜め込んで――
日々、燃え上がるような性欲を、教会に奉仕する美少年や神父達の艶めかしいうなじや指先、身体をみるたびに煮え滾らせて――
耐えて耐えて耐えて――
我慢して我慢して我慢して――
16歳になったある日、ついに、わたしの中で、なにかが壊れてしまった。
……ごめんなさい神様。
わたしは恋というものがしてみたい。
もっというと、その先にあるエッチな触れ合いというものをすることなく死ぬなんて――
どんなにあなたが大切だとしても、耐えられそうにありません。
もう限界です。
限界なんです。
わたしがこんなに性欲に苦しんでも、どんなに死にたいくらいの苦しみに耐えていたとしても、助けてくれなかったのは、あなたじゃないですか。
――わたしはこの欲望を満たすため、自らの持てる全ての手段を取ろう。
そもそも、この世界において、男性というのは貴重な存在。
普通の女子は、どんなに男が欲しくても、どんなに身を焦がすような恋をして、どんなに性欲を煮え滾らせたとしても、その欲望を満たすことも、恋を叶えることもできません。
いわゆる弱者女性と言われる存在は、この世界の女子の9割を占めているのです。男性が、女性の10分の1しかいないのですから、当然の結末です。一部の男性は複数の女性と関係を持ちますから、実際にはこの数字はマシになるのかもしれませんが……それが幸福なのかということも含めて、わたしにとっては過酷な現実です。
ですが、幸いなことに――わたしは国に一人の聖女です。
名誉と権力をほしいままにし、男女問わず、国中のものがわたしを尊敬し、ひざまづくような存在です。
そんなわたしが、たった一人、貧しき美少年を拾い、自分好みに育成して、イケないことをしたとして、誰がそれを咎め立てできるでしょうか?
それくらいしてもいいのではないでしょうか?
幼い頃から、満たされない食欲の時代、つらいイジメの時代、性欲に悶える時代と、辛い辛い時代をずっとずっとずっとずっと過ごしてきたんです。
それくらい、神様も赦してくれますよね……?
そうしてわたしは街を出歩き――
……一人の美少年が倒れているのを発見しました。
見るからに貧しそうな孤児。
年の頃は15歳くらいでしょうか?
わたしにとってはあまりに理想的な出会い。
これこそ神がわたしを応援してくれている証拠だと思いました。
わたしは、すぐさま、近くの屋台で、美味しそうなガーリックパンを買いました。
わたしは飢えることの辛さをよくよく知っています。
おそらく、このいい匂いのするパンは、少年にとって神そのものでしょう。
となれば、それを与えたわたしを盲目的に信仰するようになるのは必然。
わたしはニヤニヤとしてしまいそうになる口元を懸命に抑えながら、少年の目の前に、ガーリックパンを差し出します。
――それがわたしがこの世における真の地獄の釜を開けてしまった、始まりの時だったなんて、このときのわたしは気づいてもいませんでした。
その地獄の名は――恋の地獄、恋獄。
恋とは時に、身を焼かれるより辛いものであることを、わたしはまだ知りませんでした――