心が読めるスキルを持って貞操逆転世界に転生したので、エッチな妄想が可愛い聖女様を徹底的に堕として曇らせようと思う 作:ひきさん
「今夜は、三人で寝ますよ」
「えっ……?」
ぼくの口から、間の抜けた声が漏れた。
ぼくがラブコメの遥か外にある高次元から、公爵家の応接間の床に帰還したとき、ソファの上の二人は、ぼく抜きで、なにかを決め終えていた。
「だからぁ、今夜は、三人で寝ますよ~♡」
ナツミちゃんは、モモの膝の上から、にこりと笑って、もう一度、言った。
「……三人で?」
「はい♡ ワンちゃんも、お泊まりですよ?」
……ぼくの明晰なラブコメ脳をもってしても、その言葉の意味を理解するのには少々時間がかかった。
「順番も、決めました。わたし、ワンちゃん、モモちゃん。ワンちゃんが、真ん中です」
「な、なんでぼくが真ん中……」
「やっぱり、男の子が真ん中にいるのが一番じゃないですか♡」
一番、とは。
「監視は、手を繋いで、朝まで。それが、神の手順」
モモが、聖女のクーデレ話法で、謎の、あまりにも謎すぎる補足を加える。
それはあの夜、ぼくがモモにしたことであった。
「わたしも、ワンちゃんと手を繋いで、一晩中監視してあげますね♡」
手を繋いで、朝まで、悶々とさせる。
ぼくとしては適当にエッチっぽいことをちょこちょこして遊んでいただけの、あの夜の思いつきが、いま、聖女の口から神の手順として読み上げられ、公爵家当主によって寝る順番にまで反映されている。
そして、あろうことか、ナツミちゃんまでもが、我が神までもが、このぼくを一晩中監視するだとぉおおおおおおおおおおおお!?
「そうそう、モモちゃん。モモちゃんの神の手順には、たしか、続きがありましたよね?♡」
「……続き?」
「さんざん煽って、我慢させるってやつですよ♡」
モモの顔が、ぱぁっと神の光を見つけたように明るくなる。
「うん。煽って、我慢させて、監視する。それが、正式な手順」
「では、今夜は、ワンちゃんに、たっぷりモモちゃんを煽ってもらいましょう。あの夜と同じように」
モモの顔がだらしなくニマニマとし、手が触れていなくても何を考えているのか一撃で理解できてしまう。悲しきかな童貞、悲しきかな童貞神モモ。
だが、その童貞神の膝の上で、ナツミちゃんは、ぼくを見て――微笑んだ。
「そしてワンちゃんは、寂しがるといけないので、わたしがたっぷり、本気で、容赦なく、煽ってあげますね♡」
……えっ?
「ワンちゃんも、我慢するんですよ? 朝までずっと、モモちゃんと一緒に♡」
にこっ。
天使のような、小悪魔のような、可憐すぎる微笑み。
その微笑で、ぼくの背筋に、雷のような戦慄が走る。
だがそれは、昨日までの雷とは、少し違っていた
昨日までは、ただ、気持ちよかった。
今日はそこに、とある未知の、かつてない体験の予感が、確かに混じっている。
前世から今世まで、一度も忘れたことのない、あの天国と地獄が、同時に、どうしようもなく全力でやってくる、そんな予感が――
「……おかあしゃま。いいですね?」
「……うん」
モモは、頷いた。
頷いたぁあああああああ!?
聖女! この国でただ一人の聖女が、自らの神が一晩中誘惑され続けることに、頷いていいのか!?
いや、待て。
ぼくはいま、なにか勘違いをしているかもしれない。
前提として、ぼくには、心を読む力がある。
なにを考えているのか、確かめる方が早い。
ぼくは床から手を伸ばし、ソファから垂れているナツミちゃんの指先に、思い切って自分の指を触れさせた。
(あれれ? ワンちゃん、気になって心を読みに来ましたね? いいですよ。最高のネタバレを教えてあげます)
最高の、ネタバレ?
(今夜、ワンちゃんには、モモちゃんのことを、大大大好きになってもらいます♡)
……は?
(そうしたら、当然モモちゃんは、おかあしゃまは、わたしのことを、もっともっと大大大好きになります。ふふっ、これでみんな、幸せ、最高のハッピーエンドですね?)
……無理がありすぎるだろ!
断言できる。
ぼくはこの四日間で、モモのことを、この愛すべき童貞神のことを、おそらく400回は「きもっ」と思った。
この聖女の心の声を、その百分の一でも聞けば、人類の誰であってもそう思うだろう。
結果として、この聖女のことを恋愛的に好きになる余地など、ラブコメ的ラブが生じる余地など、宇宙のどこにも存在しない、そのはずだ。
(ふふっ♡ 楽しみですねっ♡)
そこでナツミちゃんは、指を引っ込めた。
そうして、モモの膝の上から、ぼくを見下げて、不敵に、微笑んだ。
「今夜は、寝かせませんよ♡」
ナツミちゃんの美しい指先が、自らの太ももの上を這って、スカートをちらりとめくり、神秘の桃色の布が垣間見える。
――ぼくは、勃起した。
*****
夜になった。
公爵家当主の寝室。大きなベッドの、真ん中に、ぼく。
左に、白い寝間着のナツミちゃん。右に、ぼくが持ってきた寝間着に着替えたモモ。
念のために言っておくが、三人とも、寝間着は着ている。断じて、これはR18的展開ではない……いまのところは。
ぼくの左手は、ナツミちゃんの右手と、恋人繋ぎされている。ぼくの右手は、モモの左手と、がっちゃんこされている。
よって今、両側から、心の声が、聞こえてくる状態だ。
(神様の手! 神様の手を握って、神様の隣で、朝まで! あの夜と同じ! いや、あの夜より近い! あの夜、神様はわたしの横に寝転んでおられた! いまは同じ布団の中! 同じ布団の中! ふぉおおおおおおおおおおお!!)
(ふふ。モモちゃんは早くも興奮しているようですね? 始めましょうか、ワンちゃん♡)
ランプが消えた。
「では、ワンちゃん。右を向いて、モモちゃんに、あの夜かけた言葉を、言ってあげてください」
あの夜の言葉。
……あれを、言うのか?
ぼくの意思ではなく、ナツミちゃんの命令で、モモに?
「早くしてください、ワンちゃん♡」
女神の神託に、ぼくはすみやかに右を向いた。
暗闇の中、すぐ目の前に、モモの顔があった。水色の瞳が、暗闇の中でも、ぎらぎらしていた。
「……聖女様の考えてること、わかりますよ」
言った。
言わされた。
(ひゅいおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 神様の、言葉ぁああああああああああ! あの夜の、あの言葉、きたぁああああああああああああああっっ!)
「もっと、いけないことを、してほしいんですよね?」
(ひゅいっ! ひゅいいいいい! なぜバレているぅうううう! いや、バレていい! バレたい! 神様に、全部、バレたいっっ!)
――その時。
ぼくの左耳を、ナツミちゃんが、ぺろりと舐めた。
「ひゅいっ」
ぼくの口から、変な声が出た。
(ふふ。ワンちゃん? いま、モモちゃんを煽りながらわたしに耳を舐められて、モモちゃんみたいな声で鳴きましたね?)
――なんだ……?
何が、起こっている……?
(神様の声が、裏返った! 神様が! わたしに囁きながら! わたしと同じ声で鳴いておられる! なにこれ! なにこの状況! 天国! いや、地獄! いや、ずるい! わたしが、さきに、鳴きたかったのにぃいいいい!)
右から、モモのあまりにも理解困難な絶叫が流れ込む。
(……ふふっ♡ まだまだ夜は長いですよ、ワンちゃん♡)
左から、ナツミちゃんの笑い声が流れ込む。ナツミちゃんは、ぼくと恋人繋ぎされているその手を、さりげなく自分の豊かな胸元に寄せている。や、やわらかすぎるっ……! なんだ、この危険すぎるけしからん兵器は……! こんなもの、世界的に条約で禁止されていてしかるべきっ……! そうでなくては、ならないっ……!! そのはずだっ……!!!
「まだ、ここから次のセリフがありましたよね?」
(……『今日はここまでにしておきましょうか』)
ぼくの混乱も知らず、いや知っているのに、ナツミちゃんが、ぼくの耳元で、えっち過ぎる囁き声でASMRしながら、心の声であの夜を再演する台本を読み上げてくる。
あの夜、ぼくが魔が差して口走った、一言一句を。ナツミちゃんは、聖女の記憶から、台本として、抜き出していた。
「ほら。早くしてください♡」
ぼくに抵抗する術は、なかった。
「……今日は、ここまでにしておきましょうか」
(へ?)
モモの瞳から、光が消えた。あの夜と、同じ消え方だった。
(……『勘違いしないでくださいね。聖女様は、このどうしようもない状態で、これから一晩を、なにもせず、ただ悶々と過ごすんです』)
「……勘違いしないでくださいね。聖女様は、このどうしようもない状態で、これから一晩を、なにもせず、ただ悶々と過ごすんです」
(ぎゅああああああああああああ! あの夜そのもの! あの夜、そのものだ! しかも、今回は、神様が、言わされている! 神様が、我が敵の犬として、わたしを、壊しに来ている! なんという二重の罰! なんという、圧倒的苦痛! だが――それゆえに……それゆえに、気持ちいい……気持ちよすぎる……ああ、ヤりたい……ヤりたい……ヤりたいヤりたいヤりたいヤりたいヤりたい……)
「タカフミくん」
ナツミちゃんの声が、少しだけ、低くなった。
「わたしのこと、好きですか?♡」
「……す、好きでしゅ……」
「ナツミも、タカフミくんのこと、大好きですよっ♡」
――ひぐっ!
(あれれ? はたしてこれは、嘘だったでしょうか?)
――ひぐぐぐぐっ!
知っている! ぼくは、これを、知っている! ぼくはこの手口によって、この悪魔的手法によって、あの時なすすべなく降伏し、無条件での絶対的な敗北を喫し、そして――偉大なる女神の足元に跪いたのだ――いま、それと同じ手口が、同じ相手から、同じ声で、今度は同じ布団の中で、繰り出されているっ! 落ち着け。素数を数えろ。1、3、5、7――
(くすくす、それは奇数ですよ)
(11、13、15,17――)
(本当に面白いワンちゃんですね♡)
褒められたのが、嬉しい。
馬鹿にされているはずなのに、いや、だからこそ、無性に、嬉しい。
ぼくの左半身は、いま、女神に溶かされていた。溶かされきっていた。
一方、ぼくの右半身は、聖女の熱で焼かれていた。聖女は、熱かった。あるいは、暑苦しかった。
そして、真ん中に残ったぼくの理性は、あの日モモの部屋で見た、あの、地獄には果てがないという言葉の意味を、いま、完膚なきまでに実物提示教育されていた。
(神様が……我が敵に……好きといった……好きといった……)
右手からの、声が、変わった。
(神様が、我が敵に、好きと言った。我が敵も、神様に、好きと言った。……わたしの目の前で、わたしの知らない顔で……)
いま、モモは……
(ずるい。ずるい、ずるい、ずるい。わたしが、さきに、好きだったのに。わたしが、さきに、舐められたかったのに。わたしが、さきに、壊されたかったのに)
……紛れもなく、モモはいま、曇っていたっ……!
ぼくが、ずっと夢見てきた、自分に曇らされる女の子、というラブコメ的理想。
それが具現化している……
そのはずなのに……
人生至高の夢が、叶ったはずなのに……
(あれれ、タカフミくんは、モモちゃんがせっかく思い通りになっても、嬉しくないんですねぇ?♡)
そうなのだ。
ぼくはいま、なぜか、このモモのことを、報われてほしい、と、そう思わされていた。
これがなぜなのかを、あまりにも認めたくないある事実によって、ぼくの明晰なる頭脳が正解として導き出してしまう。
……ぼくは、この自分と同じ童貞神――魂の童貞である哀れなモモに、前世のぼくみたいに、不幸になってほしくないのだ。
モモは、残念ながら、極めて遺憾なことに、全く認めたくないが――ぼくと同じ、童貞のイデアなのだっ!!
であるなら、モモという存在は、もはやぼくにとって
――ぼくみたいな人間を、本気で好きになって、愛する人間なんて、いるはずがない。
ぼくはいつだったか、そんなことを思ったことがあった。
いや、ずっとずっと、そう思っていた。
前世の負け犬が、この世界に持ち込んだ、たった一つの呪い。
考えてみれば、ぼくがずっと曇らせを愛していたのも、その呪いのせいだったといえるかもしれない。
ぼくは、愛の証拠が欲しかった。
曇るところが見たかった。
曇らせにおいては、主人公は、ヒロインが曇るほど、愛されている。
だが、証拠は、いくら集めても、証拠でしかなかった。
それは、嘘かもしれない。
それは、演技かもしれない。
だから、ぼくのような人間に向けられるものが、本物であるはずがない――
(わたしが一番、タカフミしゃまの、好き好き大好き超超ウルトラスーパーミラクル大好きなのにぃいいいいいいいいいいいいいいい! タカフミしゃまあああああああああああああああああああああああああああ!)
では、ぼくの右手の中のこれは、なんだ……?
この少女は、ぼくにこの言葉が聞こえていることを、知らない。
これは、このモモという聖女の、誰にも見せるつもりのない、ただの、祈りだ。
演技などしようがない。嘘などつきようがない。
この聖女は、自分の祈りを、神が聞いているとは、知らないのだ。
知らないまま、ずっと、ずっとずっと、ぼくの手の中で、祈りつづけていた。
――いたのだ。
ぼくみたいな人間を、全力で愛してくれる、どうしようもない人間が。
ここに、いたのだ。
本当は、ずっと、いた。
ぼくは、それを、無限に近しい回数「きもっ」と思っていた。
……ぼくのラブコメ脳が、ゆっくりと、右手の熱で、解け落ちた。
前世で見てきた、負けヒロインも、曇らせも、王道展開も、修羅場も、その他の細かい細かい様々なマイナージャンルたちも、全部、全部全部全部――
左耳から流し込まれた女神の声が、右手から流れ込んだ聖女の祈りが、ぼくの頭の中にずっとずっと積み上げられていたものを、根こそぎ、焼き尽くしていく。
あとに残ったのは、声だけだった。
いつかの朝、ぼくの太ももの上で、この少女が考えていたことが、いま、ようやく、分かった。
恋とは――もっと自然で、超自然的で、神秘的で、愛で、宇宙だった。
……神って、いたんだな――
そう思ったのは、これが最初ではない。
一回目は、冗談だった。
二回目は、ナツミちゃんだった。
だが、三回目は――
まさか、三度目の正直が、いまこの右手で繋がっている、モモだっただなんて――
「……モモ」
ぼくは、声に出して、言った。
自分の声が、満ち足りているのが、分かった。
「……はい」
「ぼくは、いま、幸せだ」
(……はい。知ってます。神様が幸せなら、わたしは幸せです――)
「モモが、ぼくを好きといってくれた、そのおかげで」
……右手が、止まった。
(……いま)
(いま、神様は、なんと?)
(たしかに、わたしは祈った。声には出していない。誰にも言っていない。それなのに、神様は、いま、わたしの祈りに、返事を――?)
(神は……わたしの祈りを、聞いておられた……?)
(……聞いて、おられた)
(これまで、ずっと。ベッドの上で、お茶会で、玄関で、聖典の前で、わたしがひとりで、神様にたいして、祈っていた言葉たちは……一度も、独り言では、なかったということか……!?)
「ひっ……」
右手の少女が、しゃくり上げた。
「うぐっ……ひっ……か、かみしゃま……かみしゃまぁあああああああああああああああっ……!!」
右手が、ぼくの手を、両手で、胸に抱え込んだ。
泣いていた。
あの夜、地獄の果てで泣いた声とも、あの朝、ご褒美を乞うて泣いた声とも、違う声だった。
ただ、嬉しい、どうしようもなく、嬉しい、という、そんな泣き声だった。
(ふふっ♡)
左手から、女神の声がした。
(……上手く、いきましたね)
……そうだった。
この女神は、いや、この小悪魔は、最初から、これを企んでいたのだ。
ぼくの呪いも、モモの祈りも、この少女は、全部読んでいた。全部、分かっていた。
ぼくの左耳を舐めるたびに、右手の祈りが大きくなることを、知っていた。
ぼくが限界を感じる場所に、自分の手でそっと運んで、余裕を奪った。
そして、まさしく深遠なる神に導かれるように――
ぼくは、真なる神――真なる愛――真なる恋に、出会ったのだ――!
「……ナツミちゃん」
右手の少女が、そう言って、顔を上げた。
ぼくの右手を、そっと、離した。
「……ナツミちゃんの、おかげ」
声が、震えていた。
「神様が、わたしを、愛してくれた。ナツミちゃんが、導いた……あなたは、神様を、このわたしと、この聖女モモ・セイントと、結び付けてくれた……」
(……あれ?)
左手から、初めて聞く種類の声がした。
(……あれれ?)
そして、モモは、動いた。
ぼくの上を、よじ登った。
聖女が、神の上を、通過した。
ぼくの右手は離れ、ぼくの上に膝と手のひらが乗り、白い髪がぼくの顔を撫で、そして、ぼくの左側で、モモは、ナツミちゃんの耳元に、唇を寄せた。
「……あなたは真の聖女に相応しいです、ナツミちゃん♡」
――ぺろり。
「ひゃっ……!?」
鳴いた。
ナツミちゃんが、鳴いた。
前世と今世を通じて、初めて、この女神が、ぼくの目の前で、鳴いた。
(え……え……? この子……いま……わたしを……なに? なにが起きた? いったい今、なにが起きているんだ……!?!?!!?)
左手の中で、女神の思考が、白く飛んでいた。あの、怪物的頭脳の持ち主が、なにも、なにひとつ、読めていない。
「わたしは、嘘のつき方が、分からない。あなたに教わった技も、全部、下手だった。でも、だから、これは、本物」
(……本物)
ナツミちゃんの左手が、モモの頬に、触れた。
読んだのだろう。
ずっとこの少女が探して、ずっと見つけられなかったものを――
(……ない)
(……やっぱり、ない。あるのは……)
(好き、好き、好き、ナツミちゃんが好き、神様の次に――いや、同じくらい――いや、比べられない――大好き、ナツミちゃんぅううううううう!)
(――ふ、ふふっ……)
(……上手に、できすぎましたね……これは、計画に、なかったんですけど)
ナツミちゃんは、笑った。
子供みたいで、無防備で、涙のにじんだ笑い方だった。
そして、その笑い声のまま、言った。
「……おかあしゃま」
「うん」
「……だいしゅきでしゅ」
言った。
あの、ナツミちゃんが。
前世から今世まで、ぼくをはじめとした全人類に「好き」と言わせつづけ、自分は一度も本気で言わなかった、あの小悪魔系美少女が。
だいしゅき、と言った。
大好き、ではなかった。
だいしゅき、だった。
この国の聖女によれば、本当に真剣なとき、人の語尾はしゃいになるらしいが、ナツミちゃんの場合は、このように崩れる、ものらしい。
「うん。知ってる」
モモは、真の母の顔で、そう頷いた。
「……知ってたん、でしゅか?」
「わたしは、聖女だから」
……なにも、知らなかったはずである。
だが、この聖女は、なにも知らないまま、そう答えていた。
――神って、いるんだな。
色々な意味で、あまりにも色々な意味でそう思ったぼくは――
敬虔なる信者として、衝動的に、超自然的に、愛の形を表現するように、モモに、そっとキスをした。
「……ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
――愛すべき聖女にして童貞神、モモに……
あるいは、ぼくの新しい彼女、モモに……
――乾杯っ!
――完――